リファレンス アーキテクチャ: Google Cloud Platform 上の SAP Business Suite on SAP HANA

概要

このドキュメントは、SAP HANA に SAP Business Suite をデプロイするためのプラットフォームとして Google Cloud Platform(GCP)を検討している方、特に、次のような職務を担う方を対象としています。

  • SAP テクニカル アーキテクト
  • クラウド アーキテクト
  • SAP Basis 管理者
  • エンタープライズ アーキテクト

このドキュメントでは、導入前に考慮する問題や、デプロイの参考になる SAP Notes などの他のドキュメントのリンクを示しています。

SAP Business Suite on SAP HANA は、SAP HANA データベース上で動作する、SAP ECC を含む SAP システムの Suite です。ECC(Enterprise Core Component)は、財務、物流、倉庫管理、販売、流通などの主要なビジネス機能を含むアプリケーション Suite です。ECC は、Sybase ASE、MS SQL Server、Oracle などのさまざまなデータベース上で動作するように設計され、ここに新たに SAP HANA が加わりました。このドキュメントでは、SAP HANA データベースのみでの SAP Business Suite のアーキテクチャとデプロイについて説明します。

Google Cloud Platform は、SAP Business Suite on SAP HANA の実行に適した SAP 認定のインフラストラクチャを提供します。費用対効果と信頼性が高く、安全で高性能なプラットフォームを提供します。GCP でサポートされている SAP ソリューションの完全なリストについては、Google Cloud での SAP をご覧ください。

ライセンス

SAP を利用している場合は、既存の SAP HANA およびその他の SAP アプリケーションのライセンスを使用して、お客様独自のライセンス(BYOL)モデルで GCP に SAP Business Suite をデプロイできます。GCP は、本番環境と非本番環境の両方のユースケースで BYOL モデルをサポートします。オペレーティング システムのライセンスは、Compute Engine の料金に含まれています。独自の OS イメージやライセンスも使用できます。

サイジング

実装タイプに基づいて、いくつかのサイジング オプションが利用可能です。新しい環境に実装する場合、SAP Quick Sizer ツールの使用をおすすめします。詳細については、SAP の Sizing ページをご覧ください。SAP では、現在のオンプレミス ソリューションを GCP に移行するための特定のソリューションとツールを用意しています。これらのツールやソリューション用に T シャツガイドも提供しています。たとえば、Find Certified IaaS Platforms および SAP Note 2456432 - SAP Applications on Google Cloud Platform: Supported Products and Google VM types をご覧ください。SAP と GCP では、IOPS(1 秒あたりの入出力オペレーション)を測定するために使用する単位が異なっています。SAP サイジング要件を GCP コンポーネントに変換するには、SI(システム インテグレータ)パートナーにご相談ください。

サポートされているマシンタイプ

GCP には、SAP HANA をデプロイするときにサイジング要件を満たすことが SAP によって認定されている Compute Engine インスタンス タイプが用意されています。GCP のサイジングとサポートされているマシンタイプの詳細については、以下のページをご覧ください。

GCP 上の SAP HANA のカスタム マシンタイプも SAP によって認定されています。6.5 以上の vCPU / メモリの比率を維持している限り、vCPU が 64 未満の SAP HANA インスタンスを実行できます。選択した CPU アーキテクチャによって提供される SAPS を確認するには、SAP SD Standard Application Benchmark Results, Two-Tier Internet Configuration をご覧ください。

SAP のウェブサイトでは、SAP HANA の GCP 構成の認定リストも提供されています。詳細については、SAP HANA Hardware DirectoryFind Certified IaaS Platforms ページをご覧ください。

SAP Business Suite on SAP HANA のディスクとファイル システム

Google Cloud Platform には次のストレージ タイプがあります。

  • 標準(HDD)永続ディスク。大型デバイス用の低コストのブロック ストレージ。
  • SSD 永続ディスク。高速で信頼性の高いブロック ストレージ。高い IOPS と低いレイテンシを実現するように設計されています。
  • ローカル SSD。高性能のローカル ブロック ストレージ。
  • Cloud Storage バケット。手頃な料金のオブジェクト ストレージ。

詳しくは、ストレージ オプションをご覧ください。

GCP 永続ディスクは、高い耐久性を実現するように設計されています。データの整合性を確保するために、データを冗長的に保存します。1 つの永続ディスクには最大で 64 TB まで保存できるため、ディスクアレイを管理しなくても、大きい論理ボリュームを作成できます。データを保護するために、永続ディスクは自動的に暗号化されます。

デフォルトでは、Compute Engine インスタンスが作成されたとき、オペレーティング システムを含む 1 つのルート永続ディスクが割り当てられます。必要に応じて、インスタンスにストレージ オプションを追加できます。SAP を実装する場合は、永続ディスクを使用することをおすすめします。これは、永続ディスクは高い耐久性を実現するように設計され、Compute Engine インスタンスはローカルマシン上の物理ディスクのように永続ディスクにアクセスできるためです。

次の表に、典型的な SAP のデプロイでの Linux ディレクトリ構造を示します。

一般的な SAP ABAP インスタンスの典型的な Linux ディレクトリ構造

SAP アプリケーションのディレクトリ構造 ストレージ タイプ
/sapmnt 標準永続ディスク(HDD)
/usr/sap 標準永続ディスク(HDD)

注: 分散デプロイでは、Cloud Filestore などの NFS ソリューションを使用して、ネットワーク ファイル システムとして /sapmnt をマウントすることもできます。

SAP HANA の典型的な Linux ディレクトリ構造

SAP HANA ディレクトリ構造 ストレージ タイプ
/usr/sap SSD 永続ディスク
/hana/data SSD 永続ディスク
/hana/log SSD 永続ディスク
/hana/shared SSD 永続ディスク
/hanabackup 標準永続ディスク(HDD)

注: 分散デプロイでは、Cloud Filestore などの NFS ソリューションを使用して、ネットワーク ファイル システムとして /hana/shared/hanabackup をマウントすることもできます。

GCP デプロイガイドに記載されているプロセスに従って、SAP HANA インスタンスと SAP Business Suite インスタンスのためのすべてのディレクトリを作成します。サポートされ、認定されているインスタンスをデプロイするには、Deployment Manager テンプレートを使用することをおすすめします。SAP NetWeaver デプロイガイドについては、すべての SAP NetWeaver ガイドをご覧ください。SAP HANA のデプロイについては、SAP HANA デプロイガイドをご覧ください。

デプロイ

SAP Business Suite on SAP HANA は、以下の技術コンポーネントから構成されています。

アプリケーション レイヤ。

  • ASCS - ABAP SAP セントラル サービス。以下のコンポーネントが含まれています。
    • メッセージ サーバー(MS)。アプリケーション サーバー間の通信チャネルとして機能します。負荷分散も処理します。
    • エンキュー サーバー(ES)。ロック メカニズムを制御します。
  • PAS - プライマリ アプリケーション サーバー。
    • SAP システムの最初または唯一のアプリケーション サーバー。
  • AAS - 追加のアプリケーション サーバー。
    • 通常、アプリケーション レベルでの負荷分散のためにデプロイします。アプリケーション レイヤの観点での高可用性も実現するために、複数の AAS をインストールできます。いずれかのアプリケーション サーバーが停止した場合、そのアプリケーション サーバーに接続しているユーザー セッションはすべて終了しますが、ユーザーは環境内の他の関連する AAS に再度ログインできます。
  • WD - ウェブ ディスパッチャ(オプション)。
    • アプリケーション タイプに基づいて、HTTP / HTTPS リクエストを PAS または AAS に分散するインテリジェントなソフトウェア ロードバランサ。

データベース レイヤ。

  • SAP HANA

デプロイモデル

SAP Business Suite on SAP HANA は、集中デプロイと分散デプロイのいずれかのモデルで GCP にデプロイできます。

集中デプロイ

集中デプロイでは、SAP Business Suite とデータベースを同じ Compute Engine インスタンスにインストールできます。サンドボックス環境や開発環境など、本番環境以外の環境では、この方法をおすすめします。

次の図は、集中デプロイモデルで SAP HANA にデプロイされた SAP Business Suite のリファレンス アーキテクチャを示しています。SAP ASCS、PAS、HANA はすべて同じインスタンスにインストールされています。

SAP ASCS、PAS、HANA は単一の VM にインストールされます

分散デプロイ

分散デプロイでは、SAP Business Suite アプリケーションと SAP HANA データベースを別々の Compute Engine インスタンスにインストールできます。本番環境や、トランザクション処理の負荷が高く、多くのコンピューティング能力を必要とする環境では、この方法をおすすめします。前に(「デプロイ」で)説明した SAP アプリケーション レイヤの各コンポーネントを、異なるインスタンスに独立してインストールできます。

また、ビジネス要件に合わせて、1 つ以上の追加のアプリケーション サーバー(AAS)をインストールすることもできます。

次の図は、分散デプロイモデルで SAP HANA にデプロイされた SAP Business Suite のリファレンス アーキテクチャを示しています。

SAP Business Suite、PAS、ASCS は、1 つの VM にインストールされ、SAP HANA は別の VM にインストールされます

SAP Business Suite と SAP HANA データベースは、別々の Compute Engine インスタンスにインストールされています。データベースは、GCP によって認定されたデプロイ方法を使用してインストールする必要があります。SAP HANA スケールアップ用または SAP HANA スケールアウト用の SAP HANA データベースのインストールの詳細については、SAP HANA デプロイガイドをご覧ください。現在、SAP Business Suite on SAP HANA はスケールアップ モデルでのみサポートされています。

高可用性と障害復旧

高可用性(HA)と障害復旧(DR)は、障害が発生した場合のビジネス継続性を実現するための技術、エンジニアリング手法、設計原則から構成されます。このアプローチでは、単一障害点を排除して、システムまたはコンポーネントの停止後に運用を迅速に再開し、ビジネスの中断を最小化します。障害復旧は、障害が発生したコンポーネントが原因で停止した後、オペレーションを復元し、再開することを意味します。

たとえば、次のような HA や DR のツールがあります。

高可用性

SAP Business Suite on SAP HANA の高可用性を確保するには、次のコンポーネントを検討します。

  • SAP HANA データベース(HDB)
  • ABAP セントラル サービス(ASCS)
  • プライマリ アプリケーション サーバー(PAS)

SAP HANA データベース。データベースの高可用性を実現するために、SAP HANA システム レプリケーション(HSR)ソリューションをおすすめします。このシナリオでは、システム レプリケーションはプライマリ ノードとセカンダリ ノードの間で構成され、データはプライマリからセカンダリの永続ディスクにレプリケートされます。詳細については、Configuring SAP HANA System Replication をご覧ください。

SAP HANA システム レプリケーション シナリオでは、フェイルオーバーはデフォルトでは自動化されません。コンポーネント障害を管理するように設計されているオペレーティング システムレベルのクラスタリングを使用して、フェイルオーバーを実装できます。クラスタリングでは、複数のサーバー、ストレージ デバイス、相互接続を使用して単一の高可用性システムを形成します。SAP HANA の HA の構成の詳細については、SAP HANA 高可用性と障害復旧計画ガイドをご覧ください。

ABAP セントラル サービス。ASCS は、メッセージ サーバー(MS)とエンキュー サーバー(ES)で構成されています。メッセージ サーバーは、アプリケーション サーバー間の通信チャネルとして機能し、負荷分散を処理します。エンキュー サーバーは、ロック メカニズムを制御します。ASCS で高可用性を実現するには、クラスタリング ソリューションを使用することをおすすめします。HA を実装するには、プライマリ ノードとセカンダリ ノードに ABAP セントラル サービス(ASCS)とエンキュー レプリケーション サービス(ERS)をインストールします。プライマリ ノードが停止すると、メッセージ サービスとエンキュー サービス(MS / ES)は自動的にセカンダリ ノードにフェイルオーバーします。プライマリ ノードが再び使用可能になると、自動的にまたは手動で元のプライマリ ノードにフェイルオーバーできます。詳細については、SAP ASCS 高可用性クラスタの SUSE 設定ガイドをご覧ください。

次の図は、ASCS の HA を実装するためのアーキテクチャを示しています。

1 つの VM がアクティブな ASCS と非アクティブな ERS をホストしています。別の VM が非アクティブな ASCS とアクティブな ERS をホストしています。VM ペアと ERS ペアにはそれぞれ独自の VIP があります

プライマリ アプリケーション サーバー。追加のアプリケーション サーバー(AAS)をインストールすることで、プライマリ アプリケーション サーバーの高可用性を実現できます。高可用性を実現するために複数の AAS をインストールできます。いずれかのアプリケーション サーバーが停止した場合、そのアプリケーション サーバーに接続しているユーザー セッションはすべて終了しますが、ユーザーは他のアプリケーション サーバーにログインできます。Google Cloud Platform には、PAS の HA を実現するために使用できるライブ マイグレーション機能が用意されています。詳細については、ライブ マイグレーションをご覧ください。

障害復旧

SAP Business Suite on SAP HANA システムを障害から復旧するには、次の方法を使用します。

  • SAP HANA システム レプリケーション
  • SAP HANA バックアップ

SAP HANA システム レプリケーション

DR シナリオでは、スタンバイ システムをプライマリシステムとは異なるリージョンに配置し、非同期レプリケーションを使用することをおすすめします。

目標復旧時点(RPO)に対するビジネス要件に最も一致し、コストとメリットのバランスが最も好ましい SAP HANA システム レプリケーション オプションを選択します。

次の図は、レプリケーションのフローを示しています。特に、以下の点に注意してください。

  1. 仮想 IP(VIP)は、アクティブ(読み取り / 書き込み)ノードのみを指すように構成されています。
  2. このシナリオでは、ノード 1 がプライマリの役割を果たします。フェイルオーバーがトリガーされると、ノード 2 が引き継いでプライマリ ノードとして機能し、仮想 IP がノード 2 に移動します。

SAP HANA HA クラスタは 1 つの GCP リージョンにあります。非同期レプリケーションでは、別のリージョンにある単一の HANA システムが最新の状態に保持されます

バックアップと復元

システム クラッシュ、データ破損などの問題が発生した場合に復旧できるように、アプリケーション サーバーとデータベースのバックアップを定期的に作成する必要があります。

バックアップ

GCP 上での SAP HANA データのバックアップには、次のようなオプションがあります。

  • SAP 認定の Cloud Storage Backint agent for SAP HANA(Backint エージェント)を使用して Cloud Storage に直接バックアップします。
  • 永続ディスクにバックアップしてから、そのバックアップを Cloud Storage にアップロードします。
  • Compute Engine スナップショット機能を使用して、/hanabackup ディレクトリを含むディスク全体のスナップショットを作成します。

Cloud Storage Backint agent for SAP HANA

Cloud Storage Backint agent for SAP HANA(Backint エージェント)をインストールすると、バックアップ ストレージが簡素化されます。Backint エージェントは、SAP HANA ネイティブのバックアップと復元機能と統合されているため、Cloud Storage に直接バックアップすることや、Cloud Storage から直接復元することができ、バックアップ用の永続ディスク ストレージは必要ありません。詳細については、SAP HANA オペレーション ガイドをご覧ください。

Cloud Storage Backint agent for SAP HANA の SAP 認定については、SAP Note 2031547 をご覧ください。次の図は、Backint エージェントを使用した場合のバックアップのフローを示しています。

図は、Backint エージェントが Cloud Storage に直接バックアップする SAP HANA を示しています

永続ディスクへのバックアップ

SAP HANA ネイティブのバックアップと復元機能を使用して、Compute Engine の永続ディスクにバックアップを保存できます。バックアップの長期保存に Cloud Storage バケットを使用できます。

通常のオペレーションでは、SAP HANA は定期的にメモリからディスクにデータを自動保存します。さらに、すべてのデータ変更は REDO ログエントリに取得されます。コミットされた各データベース トランザクションの後に、REDO ログエントリがディスクに書き込まれます。REDO ログは長期保存のストレージに定期的にバックアップできます。

SAP HANA 2.0 以降では、SAP HANA をバックアップするために SAP HANA コックピットを使用する必要があります。

次の図は、SAP HANA のバックアップ機能のフローを示しています。

バックアップは永続ディスク上に作成されてから Cloud Storage に保存されます

スナップショットを使用した永続ディスクのバックアップ

バックアップ戦略に追加できるもう 1 つのオプションとして、Compute Engine の永続ディスク スナップショット機能を使用してディスク全体のスナップショットを作成できます。たとえば、障害復旧シナリオで使用するバックアップ ディレクトリ ディスクのスケジュールされたスナップショットを作成できます。アプリケーションの整合性を保つために、ターゲット ボリュームに変更が加えられていないときにスナップショットを作成します。スナップショットはブロックレベルで発生します。

最初のスナップショットの後の各スナップショットは増分スナップショットとなり、次の図に示すように、増分ブロック変更のみが保存されます。

SAP HANA データとアプリケーション データの完全なスナップショットが作成されます。後続のスナップショットは増分です。

復元

SAP HANA の復元ツールは、最新の時点または特定の時点まで復元でき、これらのツールを使用して新しいシステムに復元するか、データベースのコピーを作成できます。バックアップはデータベースの稼働中に実行できることと異なり、復元ツールはデータベースが停止している間のみ使用できます。復元オプションは次のとおりです。状況に応じて適切なものを選択してください。

  • 次のいずれかのリソースを使用して、最新の状態に復元します。
    • 完全バックアップまたはスナップショット。
    • まだ使用可能な REDO ログエントリ。
  • 過去のある時点に復元します。
  • 指定した完全バックアップに復元します。

デプロイ前に確認が必要な SAP Note

SAP システムを GCP にデプロイする前に、計画している構成に関連する SAP Notes を次のリストから探してご確認ください。SAP プロダクトの実装を始める前に、SAP Marketplace で最新のプロダクト インストール ガイドとリリースノートを必ずご確認ください。

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