資生堂: BigQuery を用いたデータ分析基盤でコスト 8 割減、処理時間 9 割減を達成、AI / MLを含めたデータ活用を活性化
資生堂ジャパン株式会社 について
資生堂グループの日本地域本社として、国内マーケティングおよび販売を統括。デパートや化粧品専門店、ドラッグストアや量販店、EC など多様なチャネルを通じてスキンケア、メイクアップ、フレグランスなど、幅広い領域のブランドを展開している。従業員数は 11,667 名(2023 年 1 月 1 日時点)。
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(Google Cloud パートナー)
2004 年の創業以来、データの利活用領域にフォーカスし、データ活用の専門人材によるプロフェッショナル サービスと、SaaS プロダクトによるプロダクト サービスの 2 つの事業を展開。200 名を超えるデータサイエンティスト集団を有する。2021 年に Google Cloud プレミア パートナーに認定。従業員数は 590 名(連結、2023 年 6 月 30 日現在)。
資生堂は、組織横断で利用できるデータ分析基盤の構築に BigQuery を採用。Google Cloud にサーバーを一本化したことで、ストレージの軽量化と処理の効率化が実現し、コストが 8 割減、処理時間が 9 割減に。AI / ML 活用などさらなる高機能化に着手しています。
Google Cloud 導入の効果
- BigQuery を中心としたデータ分析基盤に切り換えることで、コスト 8 割減、処理時間 9 割減を達成
- 外部委託せざるを得ず、ブラックボックス化していた業務についても着実に内製化が進行中
- アプリケーションとインフラのレイヤーを分離することで、運用しやすさと将来の拡張性も担保
データ分析基盤構築でコスト・処理時間を大幅減
スキンケア、メイクアップ分野で圧倒的な支持を集め、国内トップシェアの化粧品メーカーとして長らく業界をけん引し続けてきた資生堂ジャパン株式会社(以下、資生堂)が、同社 DX の一環として Google Cloud 上にデータ分析基盤を構築。その背景と狙いについて、同社データ アナリティクス領域をリードする永盛達也氏と、そのパートナーとしてデータ分析基盤構築に携わった株式会社ブレインパッド(以下、ブレインパッド)の西尾陽子氏に伺いました。
非効率な既存データ分析環境から BigQuery を用いたデータ分析基盤にシフト
化粧品業界は 2020 年初頭から本格化したコロナ禍の影響を強く受けた業界の一つです。資生堂も例外ではなく、新型コロナによる環境変化や生活者の行動変化を踏まえた戦略の転換を余儀なくされました。そこで同社は、目先の売上を伸ばすよりも、顧客一人ひとりに焦点を当て、中長期的に利益を積み上げられるビジネスモデルへのシフトを決断します。永盛氏の所属するカスタマーストラテジー&プランニング部は、そのための戦略構築から事業計画の立案、流通や販売現場への展開までを担う部門。そして、その「起点」となるのがさらなるデータの活用でした。
「当時の資生堂にはデータを扱える専門の人材が存在しませんでした。そのため、データの加工や分析処理を外部に委託せざるを得なかったのですが、こうした業務は発注する側にも一定以上の知識がないとうまく回りません。また、必要となるたびに開発を依頼していたこともあり、プロジェクトごとにサイロ化され、データも処理も重複していました。結果として、複雑かつ非効率的な DB サーバーが 20〜30 台並列して存在するような状況になっていたのです。そのため分析処理にかかる時間も膨大となり、コストも青天井に膨れ上がっていました。」(永盛氏)
そうした中、2022 年春にデータ アナリティクスの専門家として永盛氏がカスタマーストラテジー&プランニング部に参画。この状況を改善すべく、組織横断で利用できるデータ分析基盤の構築に取り組み始めました。
「新しいデータ分析基盤では、処理の高速化、コストの削減、そして運用やカスタマイズを内製化しやすい構造の 3 点を目標に設定し、大手クラウド プラットフォーム全てで PoC(概念実証)を実施し比較を行いました。結果、特に BigQuery の処理性能とコスト削減効果のインパクトが大きく、Google Cloud の採用を決定しました。また、データの活用という観点で AI 周りの機能が充実していたことも魅力的でした。」(永盛氏)
「新しいデータ分析基盤では、処理の高速化、コストの削減、そして運用やカスタマイズを内製化しやすい構造の 3 点を目標に設定し、大手クラウド プラットフォーム全てで PoC(概念実証)を実施し比較を行いました。結果、特に BigQuery の処理性能とコスト削減効果のインパクトが大きく、Google Cloud の採用を決定しました。また、データの活用という観点で AI 周りの機能が充実していたことも魅力的でした。」
—資生堂ジャパン株式会社 プレミアムブランド事業本部 カスタマーストラテジー&プランニング部 ストラテジー プランニング室 データ アナリティクスグループ グループマネージャー 永盛 達也 氏運用しやすさと将来の拡張性も視野に入れたシステム構成
上図は、Google Cloud 上に構築された資生堂の新しいデータ分析基盤のシステム構成図です。資生堂ならではのポイントについて、開発を担当したブレインパッド データエンジニアリングユニット プラットフォーム開発 マネジャーの西尾氏は、次のように説明します。
「大きな特徴としてアプリケーション レイヤーとインフラ レイヤーをあえて分離し、両者を共有 VPC でアクセス可能とする構成を採用しています。これは将来的に前者を事業部門で、後者を資生堂グループ全体の情報システムを担当されている資生堂インタラクティブビューティー株式会社で独立して運用保守できるようにするため。資生堂グループではシステム構築時に高いセキュリティ規定をクリアする必要があります。インフラ部分を分離させることで、将来的に新しい目的で Google Cloud を利用することになった場合もプロジェクト内のネットワークを共有 VPC 経由でインフラ レイヤーと共有するだけで、簡易に必要なセキュリティ レベルを実現できます。また、アプリケーション レイヤーは事業部門での管理となるため、できるだけ管理が簡易なマネージド サービスを積極的に使うようにしています。」
なお、その開発に際してはローンチまでのスケジュールを優先し、データの加工領域は既存処理をベースに移植。西尾氏は、そこが今回の開発で最も苦労した部分だったと当時を振り返ります。
「既存 SQL Server で動いていたストアド プロシージャは、大規模なもので 1 モジュールが 3,000 行ほどもある動的 SQL であり、かなり複雑な作りになっていました。今回は作り替えるのではなくローンチまでのスケジュールを優先し、全体約 130 本のうち加工領域の約 80 本は、既存をベースに BigQuery に移植する計画にしました。既存処理を移植するストアド プロシージャはまず Google Cloud が提供するマイグレーション ツールを利用して BigQuery 用に変換しましたが、複雑な作りが影響し、一部は自動変換ができず、手動で対処せざるを得ませんでした。また、既存環境ではデータの半角・全角を区別しない緩い照合順序が採用されていたため、厳密にデータが区別される BigQuery で同等の結果になるように元データ側での対処も必要になりました。最後にデータ移行においても、既存環境ではデータのサイロ化が起きていたため、BigQuery に集約する際のテーブル整理・選定に苦労しました。一方で、移行対象として合計 100TB 規模以上のデータがありましたが、移行自体は容易でした。 移行には Cloud SQL と Dataflow を用いましたが、SQL Server と Cloud SQL の互換性が高く、取り込みエラーや元と異なる値になるといった現象も発生せず、安定して移行することができました。」
マルチクラウド対応や、AI / ML 活用などさらなる高機能化に着手
2022 年 7 月からの PoC を経て、11 月に要件定義、12 月から開発がスタートしたという資生堂のデータ分析基盤は、2023 年 6 月末に本格運用がスタート。その成果は想像以上に大きかったそうです。
「乱立していたサーバーを Google Cloud に一本化したことで、ストレージの軽量化と処理の効率化が実現でき、コストが 8 割減、処理時間が 9 割減という大きな成果を上げることができました。」
—資生堂ジャパン株式会社 プレミアムブランド事業本部 カスタマーストラテジー&プランニング部 ストラテジー プランニング室 データ アナリティクスグループ グループマネージャー 永盛 達也 氏「乱立していたサーバーを Google Cloud に一本化したことで、ストレージの軽量化と処理の効率化が実現でき、コストが 8 割減、処理時間が 9 割減という大きな成果を上げることができました。また、これまで外部委託先に依存し、ブラックボックス化していた業務についても着実に内製化が進んでいます。もちろん今後はさらに活用の幅を拡げていく計画です。具体的には、STEP 2 として既存環境を移行したデータ加工領域を最適化することにより、さらなるパフォーマンスの向上、外部データベース連携の追加やバリデーション チェックの自動化による提供サイクルの早期化、Looker を用いたデータ分析の民主化、Vertex AI を用いた各種 AI / ML 施策による分析の高度化に取り組み始めています。さらにその後の STEP 3 では Google Cloud で蓄積したデータと資生堂 IT 部門が所有する他クラウド上のデータを統合するマルチクラウド化を計画中。他クラウドで保有されているデータを横断的に利用できる BigQuery Omni には、かなり期待しています。もちろん話題の生成 AI にも注目しており、例えば顧客分類によってテキストおよび画像を自動生成するクーポン配信コンテンツの仕組み作りにも着手しています。」(永盛氏)
そのうえで永盛氏は、この 1 年にわたる開発の中でのサポートとのやりとりも印象に残っていると言います。
「Google Cloud のチームには、我々の実現したいことが既存サービスで実現できない場合に機能追加の可能性を示していただいたほか、基盤以外の分析サポートなど手厚く対応していただけました。今後、より一層 Google Cloud を活用していくことで、データ アナリティクス全体を総合的にステージアップできるのではないでしょうか。そして、今後は『資生堂』のイメージを変えていくことにも挑戦したいです。私はこれからの『資生堂』は単に店頭で化粧品を売るだけではなく、お客さまの人生に寄り添い続けるような存在になっていければいいなと考えています。例えば、朝、顔を洗うために洗面台の前に立った時に鏡に映った様子などを通してお客さまと資生堂のコミュニケーションが始まり、その日に最適な化粧水が専用の装置から提供されるといった未来が実現できると面白そうですよね。夢物語のようですが、こういったバックキャスティングな思考も取り込んでいかなければ、資生堂が長期的に成長し続けることは叶いません。一日でも早く新しい価値もお客さまに届けていかなければならないと真剣に考えています。」
インタビュイー
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事例制作:2023
利用しているソリューション:
インフラストラクチャのモダナイゼーション, Analytics Lakehouse, マルチクラウド向けの設計, AI と ML のソリューション
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資生堂グループの日本地域本社として、国内マーケティングおよび販売を統括。デパートや化粧品専門店、ドラッグストアや量販店、EC など多様なチャネルを通じてスキンケア、メイクアップ、フレグランスなど、幅広い領域のブランドを展開している。従業員数は 11,667 名(2023 年 1 月 1 日時点)。
株式会社ブレインパッド について
(Google Cloud パートナー)
2004 年の創業以来、データの利活用領域にフォーカスし、データ活用の専門人材によるプロフェッショナル サービスと、SaaS プロダクトによるプロダクト サービスの 2 つの事業を展開。200 名を超えるデータサイエンティスト集団を有する。2021 年に Google Cloud プレミア パートナーに認定。従業員数は 590 名(連結、2023 年 6 月 30 日現在)。