このドキュメントでは、オープンソースの OpenTelemetry フレームワークを使用してトレースと指標データを収集するように Go アプリを変更する方法と、構造化 JSON ログを標準出力に出力する方法について説明します。このドキュメントでは、インストールして実行できるサンプルアプリについても説明します。このアプリは、指標、トレース、ログを生成するように構成されています。
計測の詳細については、次のドキュメントをご覧ください。
コンテキストについて
OpenTelemetry のコンテキストは、プロセス内の API 間で実行スコープの値を伝達するメカニズムです。コンテキストの重要な用途は、現在アクティブなスパンを保持し、新しいスパンの作成時にその親として変更または参照できるようにすることです。まとめ
コンテキストとは、プロセス内の API 間で実行スコープの値(現在のアクティブなスパンなど)を伝播するメカニズムを指します。
スパン コンテキストは、トレース ID、スパン ID、トレースのフラグと状態を含む、すべてのスパンの不変オブジェクトです。
伝播とは、サービスとプロセスの間でコンテキストを移動するメカニズムです。
Go 標準ライブラリの context.Context
も API の境界を越えてスコープ値を保持します。通常、サーバーのハンドラ関数は受信 Context
を受け取り、呼び出しチェーンを介して、送信リクエストを行うすべてのクライアントに渡します。
Go 標準ライブラリ context.Context
は、Go での OpenTelemetry コンテキストの実装として使用されます。
始める前に
Enable the Cloud Logging, Cloud Monitoring, and Cloud Trace APIs.
アプリを計測してトレース、指標、ログを収集する
アプリを計測して、トレースと指標データを収集し、構造化 JSON を標準出力に出力するには、このドキュメントの以降のセクションで説明する手順を実施します。
- main 関数を構成する
- OpenTelemetry を構成する
- 構造化ロギングを構成する
- HTTP サーバーに計測を追加する
- トレーススパンをログおよび指標にリンクする
- HTTP クライアントに計測を追加する
- 構造化ログを書き込む
main 関数を構成する
構造化ログを書き込むようにアプリを構成し、OpenTelemetry を使用して指標とトレースデータを収集するには、main
関数を更新して Go 構造化ロギング パッケージ slog
と OpenTelemetry を構成します。
次のコードサンプルは、setupLogging()
と setupOpenTelemetry()
の 2 つのヘルパー関数を呼び出す main
関数を示しています。これらのヘルパー関数は、ロギング パッケージと OpenTelemetry を構成します。
サンプル全体を表示するには、more_vert(その他)をクリックして、[GitHub で表示] を選択します。
ロギング パッケージを構成した後、ログをトレースデータにリンクするには、Go Context
をロガーに渡す必要があります。詳細については、このドキュメントの構造化ログを書き込むをご覧ください。
OpenTelemetry を構成する
OTLP プロトコルを使用してトレースと指標を収集し、エクスポートするには、グローバル TracerProvider
インスタンスと MeterProvider
インスタンスを構成します。次のコードサンプルは、main
関数から呼び出される setupOpenTelemetry
関数を示しています。
上記のコードサンプルでは、トレース コンテキストの伝播に W3C トレース コンテキスト形式を使用するようグローバル TextMapPropagator
を構成しています。この構成により、トレース内でスパンが正しい親子関係を持つことが保証されます。
保留中のすべてのテレメトリーがフラッシュされ、接続を正常に終了するため、setupOpenTelemetry
関数は、これらのアクションを実行する shutdown
という名前の関数を返します。
構造化ロギングを構成する
標準出力に書き込まれる JSON 形式のログにトレース情報を含めるには、Go 構造化ロギング パッケージ slog
を構成します。次のコードサンプルは、main
関数から呼び出される setupLogging
関数を示しています。
上記のコードは handlerWithSpanContext
関数を呼び出します。この関数は Context
インスタンスから情報を抽出し、その情報を属性としてログに追加します。これらの属性を使用して、ログをトレースに関連付けることができます。
logging.googleapis.com/trace
: ログエントリに関連付けられているトレースのリソース名。logging.googleapis.com/spanId
: ログエントリに関連付けられているトレースのスパン ID。logging.googleapis.com/trace_sampled
: このフィールドの値はtrue
またはfalse
にする必要があります。
これらのフィールドの詳細については、LogEntry
構造体をご覧ください。
HTTP サーバーに計測を追加する
HTTP サーバーによって処理されるリクエストにトレースと指標の計測を追加するには、OpenTelemetry を使用します。次のサンプルでは、otelhttp
ハンドラを使用してコンテキストを伝播し、トレースと指標の計測を行います。
上記のコードでは、otelhttp
ハンドラが TracerProvider
、MeterProvider
、TextMapPropagator
の各グローバル インスタンスを使用しています。これらのインスタンスは、setupOpenTelemetry
関数によって構成されます。
トレーススパンをログおよび指標にリンクする
サーバーとクライアントのスパンをリンクし、指標とログを関連付けるには、Go Context
インスタンスを HTTP リクエストに渡します。また、ログを書き込むときにも、そのインスタンスを渡します。次の例は、Go Context
インスタンスを抽出し、そのインスタンスをロガーと callSingle
関数に渡すルートハンドラを示しています。この関数は送信 HTTP リクエストを行います。
上記のコードでは、関数呼び出し r.Context()
によって HTTP リクエストから Go Context
が取得されます。
HTTP クライアントに計測を追加する
トレース コンテキストを送信 HTTP リクエストに挿入し、トレースと指標の計測を追加するには、otelhttp.Get
関数を呼び出します。次の例では、callSingle
関数がこのアクションを実行します。
上記のコードでは、otelhttp
ハンドラが TracerProvider
、MeterProvider
、TextMapPropagator
の各グローバル インスタンスを使用しています。これらのインスタンスは、setupOpenTelemetry
関数によって構成されます。
構造化ログを書き込む
トレースにリンクする構造化ログを書き込むには、Go の構造化ロギング パッケージ slog
を使用して、Go の Context
インスタンスをロガーに渡します。ログをスパンにリンクするには、Go Context
インスタンスが必要です。たとえば、次のステートメントは、slog
の InfoContext
メソッドを呼び出す方法と、subRequests
フィールドを JSON インスタンスに追加する方法を示しています。
slog.InfoContext(r.Context(), "handle /multi request", slog.Int("subRequests", subRequests))
テレメトリーを収集するように構成されたサンプルアプリを実行する
サンプルアプリでは、ログに JSON、指標とトレースに OTLP を使用するなど、ベンダーに依存しない形式を使用しています。テレメトリーを Google Cloud にルーティングするため、このサンプルでは Google エクスポータで構成された OpenTelemetry Collector
を使用します。アプリの負荷生成ツールがアプリのルートにリクエストを発行します。
アプリをダウンロードしてデプロイする
サンプルを実行するには、次の操作を行います。
-
In the Google Cloud console, activate Cloud Shell.
At the bottom of the Google Cloud console, a Cloud Shell session starts and displays a command-line prompt. Cloud Shell is a shell environment with the Google Cloud CLI already installed and with values already set for your current project. It can take a few seconds for the session to initialize.
リポジトリのクローンを作成します。
git clone https://github.com/GoogleCloudPlatform/golang-samples
OpenTelemetry ディレクトリに移動します。
cd golang-samples/opentelemetry/instrumentation
サンプルをビルドして実行します。
docker compose up --abort-on-container-exit
Cloud Shell で実行していない場合は、認証情報ファイルを指す
GOOGLE_APPLICATION_CREDENTIALS
環境変数を使用してアプリケーションを実行します。アプリケーションのデフォルト認証情報は、$HOME/.config/gcloud/application_default_credentials.json
にある認証情報ファイルを提供します。# Set environment variables export GOOGLE_CLOUD_PROJECT="PROJECT_ID" export GOOGLE_APPLICATION_CREDENTIALS="$HOME/.config/gcloud/application_default_credentials.json" export USERID="$(id -u)" # Run docker compose -f docker-compose.yaml -f docker-compose.creds.yaml up --abort-on-container-exit
指標を表示する
サンプルアプリの OpenTelemetry 計測は、Metrics Explorer で表示可能な Prometheus 指標を生成します。
Prometheus/http_server_duration/histogram
は、サーバー リクエストの所要時間を記録し、結果をヒストグラムに保存します。Prometheus/http_server_request_content_length_total/counter
は、/multi
と/single
の HTTP ルートのリクエスト コンテンツの長さを記録します。この指標の測定値は累積値です。つまり、各値は値の収集が開始してからの合計を表します。Prometheus/http_server_response_content_length_total/counter
は、/multi
と/single
の HTTP ルートのレスポンス コンテンツの長さを記録します。この指標の測定値は累積値です。
-
Google Cloud コンソールで、[leaderboardMetrics explorer] ページに移動します。
検索バーを使用してこのページを検索する場合は、小見出しが [Monitoring] の結果を選択します。
- [指標] 要素の [指標を選択] メニューを開いてフィルタバーに「
http_server
」と入力し、サブメニューを使用して特定のリソースタイプと指標を選択します。- [有効なリソース] メニューで、[Prometheus Target] を選択します。
- [有効な指標カテゴリ] メニューで、[Http] を選択します。
- [ACTIVE METRICS] メニューで指標を選択します。
- [適用] をクリックします。
- データの表示方法を構成します。
指標の測定値が累積の場合、Metrics Explorer はアライメント期間ごとに測定データを自動的に正規化し、グラフに率を表示します。詳細については、種類、タイプ、変換をご覧ください。
2 つの
counter
指標など、integer 値または double 値が測定されると、Metrics Explorer はすべての時系列を自動的に合計します。HTTP ルート/multi
と/single
のデータを表示するには、[集計] エントリの最初のメニューを [なし] に設定します。グラフの構成の詳細については、Metrics Explorer 使用時の指標の選択をご覧ください。
トレースを表示する
トレースデータを表示するには、次の操作を行います。
-
Google Cloud コンソールで、[Trace エクスプローラ] ページに移動します。
このページは、検索バーを使用して見つけることもできます。
- 散布図で、URI が
/multi
のトレースを選択します。 [トレースの詳細] パネルのガントチャートで、
/multi
というラベルのスパンを選択します。パネルが開き、HTTP リクエストに関する情報が表示されます。詳細には、メソッド、ステータス コード、バイト数、呼び出し元のユーザー エージェントが含まれます。
このトレースに関連付けられているログを表示するには、[ログとイベント] タブを選択します。
このタブには、個々のログが表示されます。ログエントリの詳細を表示するには、ログエントリを開きます。[ログを表示] をクリックし、ログ エクスプローラを使用してログを表示することもできます。
Cloud Trace エクスプローラの使用方法について詳しくは、トレースを検索して調査するをご覧ください。
ログを表示する
ログ エクスプローラではログを調査できます。また、関連するトレース(存在する場合)を確認することもできます。
-
Google Cloud コンソールで、[ログ エクスプローラ] ページに移動します。
検索バーを使用してこのページを検索する場合は、小見出しが「Logging」の結果を選択します。
handle /multi request
の説明を含むログを見つけます。ログの詳細を表示するには、ログエントリを開きます。
jsonPayload
フィールドに、subRequests
というラベルの付いたエントリがあります。このエントリは、handleMulti
関数のステートメントによって追加されました。「handle /multi request」メッセージを含むログエントリの [ トレース] をクリックし、[トレースの詳細表示] を選択します。
[トレースの詳細] パネルが開き、選択したトレースが表示されます。
ログ エクスプローラの使用方法については、ログ エクスプローラを使用してログを表示するをご覧ください。