FinOps の導入と実装

Last reviewed 2023-06-13 UTC

Google Cloud アーキテクチャ フレームワークのこのドキュメントは、Google Cloud でリソースをプロビジョニングして管理する際のアクションと決定事項が費用に与える影響を考慮するうえで役立つ戦略の概要を説明しています。このドキュメントで説明される FinOps とは、組織の規模、クラウド成熟度に関係なく、人、プロセス、テクノロジーを組み合わせて、組織の財務説明責任を促し、費用最適化の取り組みを推進する実践です。

このセクションのガイダンスは、CTO、CIO、組織のクラウド費用を管理する経営幹部を対象としています。このガイダンスは、個々のクラウド運用者が FinOps を理解し、導入するうえでも役立ちます。

組織内のすべての従業員は、ロール(アナリスト、アーキテクト、開発者、管理者)に関係なく、Google Cloud リソースの費用の削減に貢献できます。これまでインフラストラクチャ費用の追跡が不要だったチームの場合、集団的責任の必要性を従業員に教育する必要が生じることがあります。

一般的なモデルでは、中核となる FinOps チームまたは Cloud Center of Excellence(CCoE)が、すべてのクラウド ワークロードの費用を最適化するプロセスを標準化します。このモデルは、中核チームに効率向上のための価値の高い機会を特定するうえで必要な知識と専門知識が備わっていることが前提です。

一元化された費用管理は、使用量が少ないクラウド導入の初期段階にはうまく機能する可能性がありますが、クラウドがさらに導入され使用量が増えたときに適切にスケーリングできません。中核チームはスケーリングに悪戦苦闘する可能性があり、プロジェクト チームはチーム外の人の意思決定を受け入れない可能性があります。

リソース最適化の意思決定については、中核チームがプロジェクト チームに委任することをおすすめします。中核チームは、組織全体で FinOps の導入を促進するより幅広い取り組みを推し進めることができます。中核チームは、個々のプロジェクト チームが FinOps を実践できるように、費用最適化のプロセス、報告方法、ツールを標準化する必要があります。中核チームは FinOps の実践に慣れてないチームに緊密に協力して、その意思決定プロセスにおける費用の検討を支援する必要があります。中核チームは、財務チームと個々のプロジェクト チームを仲介する役割も果たす必要があります。

次のセクションでは、中核チームが取り組む設計原則の推奨事項について説明します。

個人としての説明責任を促進する

クラウド リソースを作成して使用するあらゆる従業員が、それらのリソースの使用状況と費用に影響を及ぼします。組織が FinOps の実装を成功させるには、中核チームの働きかけにより、従業員の意識が費用は誰か他の人の責任であるという見かたから自分自身の責任であるという受け入れに移行する必要があります。この移行により、従業員は、ワークロード、チーム、組織に適した費用意思決定を自ら下すことになります。このオーナーシップは、データドリブンな費用最適化アクションの実施に至ります。

費用の説明責任を促進するために、中核チームは次のアクションを実施できます。

  • 費用最適化の機会と手法をユーザーに教育します。
  • 費用を最適化した従業員に報酬を与え、成功を称えます。
  • 費用を組織全体で可視化します。

費用を可視化する

従業員がクラウドのリソースのプロビジョニングと管理を行う際に費用を考慮するには、関連データの可能な限りリアルタイムに近い完全な可視化が必要です。レポートとダッシュボードのデータとして、チームメンバーの決定が費用とビジネスに及ぼす影響を、関連する影響の発生時に示す必要があります。他のチームの使用状況データと費用データは、効率的なデプロイ パターンを特定するためのベースラインとして使用できます。このデータは、クラウド サービスの最適な使用方法についての共通の理解を促すのに役立ちます。

組織が費用データの共有を奨励、促進しないと、従業員がデータの共有に消極的になる可能性があります。ビジネス上の理由から、組織が費用の元データの共有を許可しない場合もあります。このような場合でも、費用情報へのアクセスを制限するデフォルト ポリシーは避けることをおすすめします。

組織全体で費用を可視化するために、中核チームは次のアクションを実施できます。

  • クラウド リソースの費用をもれなく計算するため、明確に定義された単一の方法を使用します。たとえば、この方法で、購入時の割引と共有費用(共有データベースの費用など)を基に調整した総クラウド費用を考慮できます。
  • 従業員がクラウド費用を準リアルタイムで確認できるようにダッシュボードを設定します。
  • チームメンバーに各自が自分自身の費用を抱えているという意識を植え付けるため、チームの垣根を超えてクラウド支出を幅広く可視化します。

コラボレーション行動を可能にする

クラウド リソースの費用を効果的に管理するには、複数のチームが協力して技術プロセスや運用プロセスを改善する必要があります。コラボレーション文化により、複数のチームが一貫したビジネス目標と要素に基づいて費用対効果の高いデプロイ パターンを設計できます。

コラボレーション行動を可能にするために、中核チームは次のアクションを実施できます。

  • 他のエンジニアが提案したアーキテクチャのピアレビューを通じて、設計段階での高い費用対効果の保証に役立つワークロード オンボーディング プロセスを作成します。
  • 費用対効果の高いアーキテクチャ パターンを生み出すためにチーム横断的なナレッジベースを作成します。

過失を責めない文化を確立する

安心してリスクをとり、必要に応じて修正し、イノベーションを起こせるようにする学習と成長の文化を奨励します。ビジネスの他のあらゆるパートと同様に、IT 設計とデプロイのライフサイクルのどの段階でも、時に高額の費用を伴って、間違いを起こす可能性があることを認めます。

過剰な支出や浪費を行った人を非難するのではなく、費用超過や計算違いの原因を突き止めるうえで役立つ、過失を責めない文化を奨励します。このような環境では、チームメンバーが意見や経験を共有する可能性が高まります。間違いは匿名化され、再発防止のために会社全体で共有されます。

過失を責めない文化と説明責任の欠如を混同しないようにしてください。従業員は引き続き、自分が下した決定と支出に説明責任を負います。しかし、間違いを起こした場合は、ミスの再発を防止するための学習機会に重点が置かれます。

過失を責めない文化を確立するために、中核チームは次のアクションを実施できます。

  • 重大な費用の問題に対して、人を責めない事後分析を行い、関係者よりも問題につながった構造的な根本原因に焦点を合わせます。
  • 費用超過に対処するチームメンバーや、自分が学んだ教訓を他者と共有するチームメンバーを称賛します。チームの他のメンバーに、間違い、講じた対応、学んだ教訓を共有するよう促します。

ビジネス価値を重視する

FinOps の実践では費用の削減に重点が置かれることが多いですが、中核チームは、プロジェクト チームがクラウド リソースのビジネス価値を最大化する意思決定を行えるようにすることに重点を置く必要があります。サービスの最低水準が満たされる地点まで費用を削減する決定をしたいと思うかもしれません。しかし、このような決定により費用が他のリソースにシフトすることが多く、メンテナンス費用の増加につながる可能性や、総所有コストが増加する可能性があります。たとえば、費用削減のために、マネージド サービスではなく仮想マシン(VM)を使用する決定を行うことがあります。しかし、VM ベースのソリューションは、マネージド サービスに比べてメンテナンスにより多くの労力が必要になるため、正味のビジネス価値はマネージド サービスの方が高くなる可能性があります。

FinOps の実践により、プロジェクト チームは、クラウド リソースのビジネス価値を最大化するようにアーキテクチャや運用に関する決定を行ううえで必要な可視性と分析情報が得られます。

従業員がビジネス価値に注力できるように、中核チームは次のアクションを実施できます。

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