大東建託株式会社の導入事例:機械学習と Google Cloud Platform で作業工数を 70 %削減
Google Cloud Japan Team
業界ナンバーワンの物件数を誇る大東建託の物件検索サイト「いい部屋ネット」は、物件数が多いことから、特に物件画像の掲載に時間と工数がかかっていました。この課題を、機械学習を活用した物件写真自動掲載システムで解決。システム開発について、大東建託リーシングの社長、大東建託のマーケティング担当者 2 名、および開発をサポートした株式会社ブレインパッド(以下、ブレインパッド)の担当者 2 名に話を伺いました。
利用している Google Cloud Platform サービス
Google App Engine、Google Compute Engine、Google Cloud Storage、Cloud SQL、
写真右から
大東建託株式会社 不動産事業企画部 事業開発課 課長 柿原 康之 氏
大東建託株式会社 不動産事業企画部 部長 近藤 正祐 氏
大東建託リーシング株式会社 代表取締役社長 守 義浩 氏
株式会社ブレインパッド ビジネス統括本部 アナリティクスインテグレーション営業部 シニアアカウントマネジャー 早川 遼 氏
株式会社ブレインパッド データエンジニアリング本部 アナリティクス開発部 リードエンジニア 塚原 朋也 氏
「限りある大地の最有効利用を広範囲に創造し、実践して社会に貢献する」という企業理念に基づいて、アパート、マンション、貸店舗、貸工場、貸倉庫、および貸事務所などの建設業務、入居者斡旋などの不動産仲介業務、および建物管理、賃貸借契約管理などの不動産管理業務を事業として推進。業界ナンバーワンの実績を誇る「賃貸経営受託システム」を展開しています。また、新たなコア事業として、介護・保育、エネルギー、国内外不動産投資の分野のより一層の成長拡大に取り組んでいます。
(Google Cloud Platform パートナー)
機械学習を活用した物件写真自動掲載システムに Google Cloud Platform を採用
大東建託グループでは、「賃貸経営受託システム」をビジネスの中核に、建設事業と不動産事業などを展開し、オーナーには建物賃貸事業の安定経営を、入居者には安心・安全な住まいと便利な暮らしの提供を目指しています。現在、大東建託グループで管理している物件数は 110 万戸で、賃貸仲介件数は約 21 万件。ともに、業界ナンバーワンの実績を誇っています。また、テレビ CM でもおなじみの、これまでの賃貸住宅の常識にとらわれない、快適で豊かな新しい住まいを創造する賃貸住宅の総合ブランド「DK SELECT」や、賃貸物件の情報を 日本語を含む 7 か国語で提供する物件検索サイト「いい部屋ネット」も展開しています。
いい部屋ネットは、以前は自社が管理している物件の情報のみを掲載していました。しかし現在は、他社の物件も含め、日本中の提供可能なあらゆる物件の情報を掲載しています。その数は、110 万件以上。近藤さんは、「お客様からの問い合わせの 7 割弱がインターネットからの問い合わせです。そこで、いい部屋ネットの物件情報の充実が必要であり、物件の写真掲載は不可欠です」と話します。
日本全国 238 店舗の 800 名以上の営業担当者が、いい部屋ネットに掲載するための物件の写真を撮りに現地に行き、1 物件につき 30〜40 枚の写真を撮影し、オフィスにもどって手作業でいい部屋ネットに掲載していたため、物件の情報のメンテナンスに膨大な時間がかかっていました。また、手作業のため、たとえばリビングに台所の写真を掲載してしまうといったミスも発生していました。守さんは、「今はお客様の方が情報に通じている時代、いかに手に取ってもらうかは、情報の質の勝負になっていると感じています。写真の枚数の確保も必要だが、物件数も増加していて、すでに手作業では対応しきれない情報量だったので、手作業によるミスの低減も含めて、いい部屋ネットのメンテナンス作業の効率化が必要だと考えていました」と当時を振り返ります。
この課題を解決するために、機械学習を活用した物件写真自動掲載システムを Google Cloud Platform(GCP)上に構築。2018 年 6 月より、まずは 19 営業所において、自社管理物件での試験運用を開始し、7 月より全店舗での運用を開始しています。また 2019 年 1 月より、自社管理物件だけでなく、他社の物件も含めた物件写真自動掲載システムの運用を開始しています。年間約 30 万件の登録作業に、物件写真自動掲載システムを利用することで、1 物件あたり 5~10 分かかっていた登録作業の作業工数が約 70 %削減され、1 か月あたり約 3,000 時間の作業時間短縮が可能になっています。
画像の自動分類は機械学習用ソフトウェアライブラリ TensorFlow で実装
今回、開発された物件写真自動掲載システムは、ユーザーアプリケーションの開発、および実行環境として Google App Engine を採用し、バッチ処理と分析用のサーバーとして Google Compute Engine を利用しています。また、物件画像を格納するオンラインストレージとして Google Cloud Storage を使い、物件画像の属性情報を Cloud SQL で管理しています。この GCP 環境を、Google Stackdriver により統合管理しています。物件写真自動掲載システムでは、物件の写真を、キッチン、リビング、お風呂、玄関など、21 種類のカテゴリに自動分類し、いい部屋ネットの物件情報に画像を掲載するまでの作業を自動化しています。この画像の自動分類は、TensorFlow で実装。誤った分類の修正ログを蓄積し、ブレインパッドのデータ サイエンティストを介して機械学習をすることで、高い適合率を実現しています。
柿原さんは、「以前は、物件の写真を撮ってきて、SD カードから PC に取り込み、画像を 1 枚ずつ分類しながらアップロードしていました。1 物件あたり 20 枚の画像があれば、アップロード作業を 20 回繰り返すことになります。さらに、同様の作業を数十物件分繰り返し登録することもありました。現在は、物件ごとにまとめた画像を、物件写真自動掲載システムにドラッグ&ドロップするだけで、分類から掲載までの作業が自動化されます」と話します。
開発の最大のポイントは、機械学習を使ったことがない営業担当者に、いかに簡単な操作性を提供できるかでした。また、間違った情報で学習をすると、高い適合率が期待できなくなるので、学習元の情報の品質を向上しておくことも重要なポイントでした。店舗ごとに適合率は違うものの、手作業で 3 割程度のミスが発生していた店舗が、物件写真自動掲載システムの導入で、9 割を超える適合率を実現しています。
近藤さんは、次のように話します。「営業担当者が写真の掲載作業に時間を取られると、接客のための時間が短くなってしまいます。物件の掲載作業を自動化、効率化したことで、接客時間を増やすことができるという効果もあります。これにより、顧客サービスの向上にも期待できます。」
また守さんは、「時間をかけて働く時代ではないので、いかに物件の契約件数を増やすための作業を効率化するかが重要です。人員を増やすのは簡単ですが、それではコストが増えてしまい利益につながりません。人員を増やすことなく、最大の効果を発揮する働き方改革が経営課題の 1 つであり、機械学習による物件写真自動掲載システムは、作業の自動化、効率化に非常に効果を発揮したと思っています」と話しています。
Google Cloud Platform パートナーのサポート
今回、物件写真自動掲載システムの開発をサポートしたのは、ブレインパッドでした。ブレインパッドを選定した理由を柿原さんは、次のように話します。「物件写真自動掲載システムを開発してもらえる会社を探していたところ、Google Cloud の担当者からブレインパッドを紹介されました。80 名を超えるデータ サイエンティストが、人工知能(AI)によるビジネス課題の解決を支援してきた実績を評価して選定しました。これだけの実績がある会社は、ほかにはないと思いました。」
また、開発で工夫したポイントを塚原さんは、「今回、画像分類モデルとして、CNN(畳み込みニューラル ネットワーク)と呼ばれる手法を利用しています。CNN の中でも、VGG16 と呼ばれるアルゴリズムを使い、転移学習という手法により、ほかのデータで学習した内容を、さらに追加データで再学習させています。比較的、学習が早く進むアルゴリズムで、2017 年 9 月より、2,000~4,000 件のデータを使って、数週間程度でどれくらいの精度を出せるのか検証作業を実施しました。さらに、2018 年 1 月より、10 万件以上のデータを使って、1 か月半という短期間で対象の画像種別を再定義して、モデル構築、および検証を実施できました」と話します。
今後の取り組みについて早川さんは、「AI や機械学習は、トライアルや PoC(概念実証)のレベルは多いのですが、ここまで業務でしっかり活用し、約 1 年運用して効果を上げている案件は多くありません。ビジネス インパクトのある、非常によい事例だと思っています。今後は、AI と Google Cloud Vision API を使って物件画像に移り込んだ車のナンバーを自動的にぼかしたり、Google Maps API を使って物件の周辺情報を分析したりなど、まだ残っている手作業の自動化を支援していきたいと思っています」と話しています。
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