すかいらーく: 年間 3.5 億人の来店客ニーズを BigQuery でキャッチ、現場クルー 9 万人の高接客を Google Workspace で底上げ
Google Cloud Japan Team
「ガスト」や「バーミヤン」「しゃぶ葉」など 20 以上のブランド、計約 3,000 店舗を運営展開、年間約 3.5 億人の来訪客を迎える日本を代表する外食チェーンのすかいらーくグループ。その運営母体である株式会社すかいらーくホールディングス(以下、すかいらーく)は「ひとりでも多くのお客様に 安くておいしい料理を 気持ちのよいサービスで 快適な空間で味わっていただく」というミッションの下、早くから DX 推進に舵を切ってきました。2019 年から導入している Google Cloud、Google Workspace を店舗でも広く活用・浸透させている同社の取り組みについて、その推進の中心的役割を担ったマーケティング本部の 2 名に話を伺いました。
利用しているサービス:
BigQuery, Looker Studio, Cloud Run, Firestore, App Engine, Google Kubernetes Engine(GKE), Cloud Storage, Cloud CDN
Google Workspace
BigQuery で顧客ニーズを一元管理、Looker Studio で「見える化」
外食がまだ一般的でなかった 1970 年、自家用車の普及を見通して郊外のロードサイドにファミリー レストラン「すかいらーく」が開業してから半世紀。人々のライフスタイルや食の趣向、経済情勢などが大きく変化する中、同社は常に柔軟な対応でその事業を拡大し続けてきました。特に 2020 年以降のコロナ禍では、家食、持ち帰り、宅配など、人々の食にかかわる過ごし方の多様化と細分化がさらに加速し、各店舗がターゲットとしていた顧客層にも変化が生じました。このような状況下で、すかいらーくは顧客ニーズを的確に把握し、迅速に対応するため、Google Cloud の導入を決定しました。
マーケティング本部 IT統括 カスタマーDXグループ、WEB・アプリディレクションチーム リーダーの福田 誠氏は、クラウド推進のきっかけを次のように振り返ります。
「ビジネスのスピードに遅れを取らない体制が必要でした。大規模な事業を支えるバックヤードとして従来からのオンプレミス環境には信頼をおいていましたが、変化の速いビジネスシーンにあって、新たなニーズをとらえたお客様向けのサービスをクイックにリリースしていくためには、より柔軟なシステム構築が可能なクラウドを採用することが必要だと感じていました。」
まずは、分析基盤としての活用です。同社では顧客ニーズを直接リサーチするためにアプリや店舗のテーブル端末で、料理や接客、清掃に関する「お客様アンケート」を実施していますが、この分析を行うのが BigQuery です。「お客様が今何を望んでいるか、要望がどう変化しているかを即時に店舗と共有するために、BigQuery は非常に適したツールでした」と福田氏は話します。
「ニーズ把握の精度をより高めるには、お客様の意見だけでなく、アプリのログ、旧来からの POS ともマッチさせなければならず、全国から集まるこれらのデータは日々大量です。集計や分析は複数のデータベースを横断する必要があり、これまではその都度、CPU やストレージのリソース調整も行わなければなりませんでした。必用なデータを BigQuery で一元管理をすることでこれらの工数を大幅に削減でき、本来の分析に注力することができるようになりました。」
集計・分析された情報は、Looker Studio を利用して店舗に即時にフィードバックされます。マーケティング本部 メニューシステムデザインチーム リーダーの藤本 祥恵氏は、そのスピード感を高く評価します。
「以前は、本部でまとめた集計結果をエリア マネジャーを通じて店舗に展開していたため、その頻度は月単位でした。Looker Studio を利用することで、業務の担当者は煩雑なクエリを実行することなく、また、専門のエンジニアを介することもなく、情報を店舗に共有することができるようになりました。今ではキャンペーンの進捗状況や売上の達成度、また、日々のアンケート結果についても、ほぼリアルタイムで確認できます。さらにBigQueryなどのデータ基盤と連携することで、スナップショットだけでなく過去からの推移が一覧できるようになりました。アンケートに含まれるお客様からの感謝のコメントは、現場の最前線に立つクルーの励みとなりますし、必要な問題解決にすぐに着手できるというスピード感そのものが、社員やクルーのモチベーションを大いに向上させます。」
(フィードバック画面の例)
Google Cloud のプロダクトでアプリ開発に弾み、省力化にも貢献
同社における Google Cloud の活用のもう 1 つの側面が、API 基盤としての活用です。例えば、テーブル決済やクーポン等のアプリケーションのバックエンドには、Cloud Run や Firestore、Cloud SQL などが、また、すかいらーくアプリのクーポン API には、GKE、Cloud Storage、Cloud CDN などが採用されています。
アプリには店舗情報や会員情報、最新メニューやキャンペーンなどの販促・告知機能、クーポンや他事業者とも連携するポイント、さらにオーダーや決済機能など、さまざまな情報と機能が紐づいています。これらが複雑に連携し合うアプリケーション群を効率よく安全に、かつ迅速に開発・運用していく上で重要視されるのが API 基盤だと福田氏は説明します。
「Google Cloud のプロダクトを活用することで効率良く安全に API 基盤を構築できることに価値を感じています。開発期間も大幅に短縮され、以前であれば 1 年以上かかったと想定される開発は平均 4 か月程度に、軽いものでは 1 か月程度で完成できた例もありました。テストを繰り返しながら短期間で新しいサービスをリリースできることは大きな強みとなります。」
アプリはお客様とのコミュニケーションを活性化させるツールであることに加え、課題の 1 つである店舗でのオペレーションの効率化や省力化にも有効です。App Engine と Google マップを連携して構築された配達員アプリでは、依頼する店舗側のオペレーションを軽減させることができました。セルフレジやデジタル メニューブックによるテーブル決済、また配膳ロボットの導入や片付けるべきテーブルの現況把握など、変化するニーズにアプリ開発の側面からも迅速に対応しやすくなっています。」
Google Workspace 導入でフレッシュな情報を双方向かつ迅速に共有、接客・サービスにも好影響
並行して、すかいらーくが本部での共同作業、また多業態にわたる店舗スタッフとの情報共有を向上させるために、有効な統合オフィスウェアとして選んだのが Google Workspace です。藤本氏は Google Workspace の導入によって社内コラボレーションが活性化されたと実感しています。
「きっかけは Google スプレッドシートの共同編集の快適さです。これまでも表計算ツールでさまざまなデータを扱ってきましたが、メール添付時のファイル容量の大きさや共有方法、共同編集などに課題を感じていました。Google Workspace 導入後はまず、これまでの作業をスプレッドシートに置き換えることを進めました。定形のデータ取り込みや更新作業、メール発信などは Google Apps Script(GAS)を利用して自動化し、共同作業者にシェアして作業が楽になることを実感してもらうことで、社内の利用者を増やしていきました。一方で、従前のしくみからの利用環境の変化に戸惑う利用者を考慮し、Google Workspace の環境に早く慣れてもらうための勉強会が何度も開催されました。少し高度な利用者に関しては、テーマに沿った応用例のセミナーを実施し、便利さを実感する利用者が増えることで、自発的な利用も増え、グループウェア周りの生産性が格段にアップしたと感じています。」
本部と全国の 3,000 店舗、また店舗クルーを含め 9 万人にのぼる従業員間の情報伝達は高頻度かつ双方向で発生します。Google Workspace の機能群はこのニーズにマッチしたと藤本氏は続けます。
「散逸しがちな社内ナレッジの共有には Google サイトを活用しています。ウェブ リテラシーが高くなくても、ポータルサイトを作成・更新することができ、営業部の社員から店舗のクルーに向けた研修素材や、店舗への更新情報の伝達にも活用されています。従来の文書やメールでの方法と比べて、サイトで情報を共有することで情報到達までの時間も短縮できます。作成したサイトの PV は 10,000 / 日に達しており、社内で最も積極的に活用されているツールの 1 つに成長しています。また、広く店舗やクルーにヒアリングやアンケートを実施する機会も多くありますが、その都度発生していた電話やメールでの連絡とその後の集約作業は、Google フォームを利用することで整理され、大幅に省力化されました。
Google Meet は、単なるオンライン会議ツールということに留まらず、本部が直接、店舗の担当者やクルーを召集し、接客やサービス向上のノウハウをサポートするという、これまでは物理的な距離などの問題で実現していなかった新たな繋がりを生みました。」
福田氏はさらに、接客やサービスの質に直結する店舗の労務管理にも Google Workspace が役立っていると付け加えます。
「これまで、店舗において、お客様が増える週末に向けての増員シフトの調整やリソース配分に時間を要していましたが、Google フォームや Google Chat の活用で効率化が進みました。また、これらを組み合わせて構築した、就労時間が一定時間を超過すると管理者に向けてアラートが自動発信される仕組は、適切な労務管理を行う上で重宝されています。」
データの分析、アプリ開発、それらをとりまく情報の共有連携をうまく噛み合せながら、迅速にニーズをとらえ変化に対応し続けるすかいらーく。福田氏は、生成 AI への期待を交え、今後の展望を次のように語ってくれました。
「店舗のデジタル メニューブックに生成 AI を活用し、お客様と会話しながらの注文体験をデザインできるようにしたいと考えています。コンシェルジュのような機能を持たせることで、お客様のその日の気分や体調、またお誕生日や友人同士の会合など、個別のイベントに合ったメニューをお勧めできます。原点にたちもどり、お客様への新たな体験価値の提供が私たちの目指すところ。生成 AI を含めた Google Cloud、Google Workspace のさらなる進化を大いに期待しています。」
株式会社すかいらーくホールディングス
1970 年、国内で初めてファミリーレストラン チェーンを展開。国民の食スタイルの変化、経済の低成長期などを乗り越え、現在は 20 ブランド以上、約 3,000 店舗を運営、台湾、マレーシア、アメリカにも出店を拡大している。「食の未来を創造し 豊かな生活と社会の発展に貢献する」ことをパーパスに、食材の購買・商品製造・品質管理・物流・店舗の垂直統合されたインフラを確立し、食の安全と安心を確保するほか、地域に根ざした店舗作り、さらにサステナビリティにも積極的に取り組んでいる。
インタビュイー(写真左から)
・マーケティング本部 メニューシステムデザインチーム
リーダー 藤本 祥恵 氏
・マーケティング本部 IT統括 カスタマーDXグループ WEB・アプリディレクション
チーム リーダー 福田 誠氏
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