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顧客事例

VoC (Voice of Customer) 分析を Google Cloud で加速!パナソニックが実施する AI 活用

2025年2月7日
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Google Cloud Japan Team

編集部注: この投稿は、パナソニック株式会社 コンシューマーマーケティングジャパン本部 PXドリブンセンター若松氏 へのインタビューをもとに、 Google Cloud Japan: 製造チームが執筆したものです。


今回は、パナソニック株式会社 コンシューマーマーケティングジャパン本部 若松 伸一郎氏からのお話を伺い、その取り組みと成果について詳しくご紹介いたします。

利用している Google Cloud サービス : Vertex AI、Cloud Storage、AlloyDB、BigQuery、Cloud Run
利用しているソリューション: Gemini を活用した VoC 分析 

Google Cloud 導入前の課題

前提となる経営課題
パナソニック株式会社 コンシューマーマーケティング ジャパン本部は、従来の家電販売における「売り切り型モデル」から脱却するために、家電と全国を網羅するアフターサービス体制を組み合わせた顧客体験を提供することで、購入後のお客様満足度の向上、そしてブランドロイヤリティの向上を図り、顧客との長期的な関係を構築していく戦略を「新・商売の基準」として打ち出しています。

従来の売り切り型モデルでは、製品を販売した時点で顧客との接点が途絶えてしまい、その後の使用状況や満足度を把握することが難しいという課題があります。例えば、販売後もお客様とのタッチポイントとなっているコールセンターでは、経営効率が考えられる時代と共にいかに早く処理するかが重要な指標となっているため、じっくり耳を傾けることができてこなかったという現状もありました。そのため、我々は CS の進化に着手しています。購入後のお客様満足度向上、そしてブランドロイヤリティの向上を図り、お客様との長期的な関係構築を目指していければと思います。

お客様のくらしを解像度高く理解するための従来課題
パナソニック株式会社では従来からお役立ち領域を広げるため、より深いお客様理解を推進する一環として頂いたご意見を VoC(Voice of Customer)という形でデータ化しています。従来の VoC 分析はテキストマイニングや感情分析といった手法を用いて行われてきました。しかし、顧客との長期的な関係構築を目指す上で、大きく 2 つの課題が顕在化してきました。

1.全件読み込みによる分析の課題
アンケート、レビュー、SNS など多様な形式で寄せられる声を一つ一つ丁寧に読み込むことで、確かに深い洞察を得ることはできます。一方でコールセンターには週に十数万件を超える膨大な量の問い合わせデータが蓄積されており、これらを人手で分析して有意義な知見を抽出することは極めて困難でした。

2.従来型の自動分析ツールの課題
一方、テキストマイニングや感情分析ツールを使用して効率化を図ると、事前に設定したキーワードの抽出しかできず、文脈を含む豊かな情報が失われてしまうという限界がありました。特に、顧客との会話に含まれる感情や真意を正確に理解し、複数の問い合わせに潜む関連性やパターンを見出すことは極めて困難でした。

この課題に対し、生成AIの活用により、大量の VoC データを効率的に分析しながら、文脈を踏まえた深い理解から顧客の潜在ニーズや特性を抽出することができ、重要な気づきを得ることが可能になりました。

Google Cloud の選定理由

今回、我々が Google Cloud を選定した理由は以下になります。

  • 生成 AI の技術力 : Google は、生成 AI の分野で世界トップレベルの技術力を持つ企業です。 Vertex AI やGenerative AI Studio など、高性能な生成 AI サービスを提供しており、パナソニックの求める高度な VoC 分析を実現するために必要な技術基盤を提供しています。また、今回は分析のコンテキストを深く入れるには大量のトークン数が必要であったこともあり Google の生成 AI を選択しました。
  • 日本語対応力 : Google Cloud の生成 AI サービスは、日本語への対応が進んでいます。日本語の VoC データを精度高く分析できることは、パナソニックにとって重要な選定基準でした。
  • 費用対効果 : Google Cloud は、従量課金制を採用しており、利用した分だけ費用が発生します。初期費用を抑え、スモールスタートで始められる点は、パナソニックにとって魅力的でした。また、生成 AI による業務効率化による収益増加も見込めるため、費用対効果が高いと判断しました。
  • Google Cloud の包括的なサービス : Google Cloud は、生成 AI だけでなく、データ分析、ストレージ、アプリケーション実行環境など、様々なサービスを提供しています。これらのサービスを組み合わせることで、VoC 分析システム全体を効率的に構築できると考えました。
  • 将来的な拡張性 : Google Cloud は、常に新しいサービスや機能が追加されています。将来的なシステム拡張や機能追加を容易に行える点も評価しました。

これらの要素を総合的に判断し、 VoC 分析に最適なプラットフォームとして判断しました。

Google Cloud アーキテクチャ

構築したシステムのアーキテクチャ概要は以下のとおりです。

①音声データをテキスト化し、個人情報をマスキングしたテキストデータを Cloud Storage に保存

② Cloud Run 上で稼働する要約処理アプリケーションがテキストデータを要約

③要約データと生のテキストデータを AlloyDB に格納

④ Vertex AI の生成 AI が AlloyDB のデータから、要約や顧客理解視点での分析を実施

⑤分析結果は AlloyDB に格納され、AI同士の会話シミュレーションに利用

⑥マーケターや企画担当者は Cloud Run 上で稼働するフロントエンドアプリケーションを通て、AI にインタビューを設定

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アーキテクチャ

導入効果とメリット

冒頭に述べたようなお客様のくらしをより解像度高く理解するうえで、今までできなかった下記 2 点ができるようになりました。

  • 従来のテキストマイニングでは抜け落ちてしまっていた情報である、 Who(どんな人)、 Why(なぜ)といった情報の抽出
  • ユーザーの特性(例:30 代共働き夫婦、戸建て住宅、子供が 2 人)やお問い合わせの背景(例:電気代節約、省エネ性能重視、子供のアレルギー対策)の把握

上記のように VoC データから顧客理解を深めることにより下記 3 点のメリットを得ることが期待されます。

  • 生成 AI が VoC データの要約や分析を支援することで、オペレーターの業務負担を増やさずに、VoC データの活用を可能としました。
  • 新商品・サービス開発への活用: 顧客理解を深めることで、顧客ニーズを捉えた新商品やサービスの開発に繋げる可能性があります。
  • 顧客セグメントの精緻化、ターゲティング広告の最適化など、マーケティング戦略をより効果的に展開できる可能性があります。

今後の展望と Google Cloud への期待

今回、パナソニック株式会社が取り組む、 VoC データ分析のための基盤を Google Cloud の生成 AI を使って検証するお話をしてまいりました。

今後より多くのお客様のお困りごとの解決を目標に、以下の 3 点に注力していく予定です。

1.多角的なデータ分析とデータ連携
現在、VoC データ分析基盤では、お客様の声を収集・分析し、製品開発やサービス改善に役立てています。今後は、この基盤に IoT データ、顧客属性データなどの VoC 以外のデータを統合することで、より多角的な視点から顧客を理解し、これまで以上に深いインサイト獲得に繋がるか検証を行います。

例えば、ある製品に対する不満の声が多いという分析結果に加え、IoT データを組み合わせることで、特定の顧客層に絞った家電の利用実態に合わせた改善策を検討できるようになります。

これにより、より的確な顧客理解に基づいた、効果的な商品企画やマーケティング施策の実施が可能となり、顧客満足度向上に繋がるものと期待されます。

2.パーソナライズ化
データ連携の強化と AI エージェントの進化により得られた顧客理解を基盤に、顧客一人ひとりのニーズに合わせたパーソナライズ化された商品やサービスの提供を目指します。

これは、家電製品のカスタマイズや、ライフスタイルに合わせた家電製品の提案、個別のニーズに合わせたサポート体制の構築など、多岐にわたる分野で実現される可能性を秘めています。

これらの社内外のデータを我々が現在開発しているAIにインプットし、顧客の深層心理を深掘りする画期的な手法でお客様理解を深めていこうと考えています。今後は、 Google Cloud の生成 AI の進化に合わせて、 AI エージェントの精度向上と機能拡充を進めていきます。


パナソニック株式会社 コンシューマーマーケティング ジャパン本部は、日本国内における家電製品のマーケティング部門です。ものづくりを担う事業部と、販売を担う販売会社、販売店をつなぎ、商品の販売戦略・プロモーション戦略の策定、 DX 推進を通して、お客様に継続的な価値を提供するための仕組みづくりを担っています。

インタビュイー
パナソニック株式会社 コンシューマーマーケティング ジャパン本部
若松氏

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