mov: Vertex AI を採用した口コミ分析で「店舗の "できていない" をなくす」というミッション達成を推進
Google Cloud Japan Team
「業界最大級のインバウンドビジネスメディア 訪日ラボ」の運営からビジネスをスタートした株式会社mov(以下、mov)。同社は訪日外国人の集客を中心とした BtoB のマーケティングやコンサルティングで培った経験に基づき、口コミの可能性に注目。生成 AI を活用して分析し、店舗支援に生かす SaaS「口コミコム」を 2020 年 に正式リリースしました。最近では生成 AI をさらに活用するために、フルマネージド統合 AI 開発プラットフォームとして Vertex AI を採用しています。このプロジェクトについて関係者に話を伺いました。
利用しているサービス:
Vertex AI, BigQuery, BigQuery ML, Batch, Compute Engine, Datastore, Cloud Logging, Cloud Storage, Cloud Natural Language
利用しているソリューション:
Generative AI
企業向けに安全性を重視する開発思想に共感して Vertex AI を採用
mov が運営する口コミコムは、Google マップをはじめとする地図アプリやグルメサイト、口コミサイトなど、国内外の 19 サイトと連携。お客様の声を可視化、分析できる店舗向け SaaS です。生成 AI を活用した口コミ分析や口コミ返信サポートにより、店舗運営の改善や Google マップからの集客数の増加などが期待できるのが特徴です。また、インバウンド需要向けのサイトと連携することにより、多言語での店舗情報の整理、口コミ分析など、インバウンドにおける MEO(Map Engine Optimization)対策も可能になっています。
執行役員 CTO の大薮 永氏は、口コミコムに生成 AI を採用した理由を次のように説明します。
「店舗の経営者は本業が忙しく、ウェブサイトの口コミを見ている時間はありません。そこで有効になるのが、店舗情報の更新や追加作業のミスを防ぎ、工数も低減できる生成 AI を使った口コミ分析です。最初は人手を介してレポーティングする方法も考えたのですが、生成 AI が注目されてきていましたし、導入の必要性も感じていたので 2022 年から検討を開始しました。当時は本格的な AI 製品がなかったので、Google Cloud の AutoML などの機械学習ソリューションを使って検証を行っていました。しかし 2023 年に Google Cloud から Vertex AI がリリースされたので、フルマネージド統合 AI 開発プラットフォームとして採用し、口コミコムを再構築することを決めました。」
執行役員の赤司 誠氏は、Vertex AI の採用を決めた理由を開発の観点から振り返ります。
「Vertex AI の導入は、『Google for Startups クラウド プログラム』に参加したときに、詳しい説明を受けたこともきっかけになりました。mov は企業向けにサービスを提供しているため、情報が漏えいしてしまうとお客様のビジネスに大きな影響を及ぼします。Vertex AI は、安全性を重視しているという話を Google Cloud の担当者から聞きました。これはお客様に安心・安全なサービスを提供したいという mov の開発思想にマッチしていたので、Vertex AI を導入する最大のポイントになりました。」
データ分析には BigQuery を、自然言語処理などの前処理には Vertex AI を活用
Vertex AI の導入プロジェクトでは、2023 年春から検証を含めたシステムの開発が始まり、夏ごろから機能ごとに順次リリースを実施。2024 年 2 月末にメジャー バージョンがリリースされました。その後も QCA(質的比較分析)の拡張や言語判定、検索ワード、文書投稿など、生成 AI 関連機能の追加や改善が続けられています。大薮氏によれば、今回のプロジェクトでは、分析のための口コミデータを BigQuery に収集する仕組みも構築されています。
「BigQuery や Datastore などは 2022 年以前から利用していたので、すでに主要なサービスの大規模データが Google Cloud 上にありました。特に BigQuery は、主に社内向けの BI ツールとして行動ログや口コミから傾向を分析するような業務に使っていました。SQL で LLM(大規模言語モデル)を利用できる BigQuery ML は、専門知識を持たないマーケティングやカスタマー サポートのメンバーでもデータ分析ができるので便利です。」
以前、口コミコムでは、さまざまなデータにどのようなコンテキストが含まれているかを可視化する機能を他社のクラウド基盤上で開発していましたが、思ったような成果は出ていませんでした。しかし Vertex AI は、学習済みのモデルをベースとした機械学習機能が充実しており、口コミのセンチメントを判定する「ネガポジ分析」のプロトタイプなどを、スモール スタートで簡単に開発できます。運用面では、開発の際に利用する Vertex AI Studio や Google Cloud コンソールはインターフェースが直感的で使いやすく、検証も手軽にできるというメリットがありました。
プロダクト開発部 AI エンジニアの海馬沢 大氏は、Vertex AI の強みを、データ処理の観点から語っています。
「口コミコムでは日本語データを取り扱っています。Vertex AI は、自然言語処理のための分かち書きやベクトル化などの前処理から解放されるという大きなアドバンテージをもたらしてくれました。 私たちは億単位という大量の LLM データを蓄積してきましたが、すべてのデータを処理すると時間がかかりすぎるので、実際の開発では並列処理を行う工夫もしています。この点、Vertex AI は大量データの高速処理に適しているという印象を改めて受けました。また、LLM の学習に使用するデータのコントロールなど、セキュリティの面でも安心感がありました。」
口コミの返信や投稿文の作成などで店舗スタッフの作業負荷が大幅に軽減
今回のプロジェクトは大きな効果をもたらしました。現在、口コミコムを利用している企業の店舗担当者の間では、「口コミを見るのが楽になった」「口コミの返信や投稿文の作成など、店舗スタッフの作業負荷が大幅に軽減した」など、Vertex AI を活用した新たな機能が高く評価されています。店舗によっては、QSCA(Quality、Service、Cleanliness、Atmosphere)に対して、それぞれネガティブ・ポジティブの 8 パターンの分析を実施。その結果をお客様に共有し、店舗運営に生かすことで顧客体験の価値向上などの成果を上げている事例もあります。
今後の展望について赤司氏は、新たな目標を見据えていました。
「生成 AI に関しては、口コミという店舗にとってお宝となる情報を分析し、何をすべきかを提案する仕組みの実現に取り組んでいきます。mov はインバウンド向けのサービス分野に強い会社なので、言語判定での機能強化や言語別の可視化などの機能改善を継続していきます。最終的には、口コミコムの提案を受け入れてくださるだけで最適な店舗管理ができる世界観を作り上げ、店舗側がどう対処すべきかまでをアウトプットできるようにしていきたいですね。そのためには、投稿の多言語化に対応することも課題の 1 つですし、集客や店舗管理に関しては、まだ残っている手作業を自動化する機能を拡張しなければなりません。『店舗の "できていない" をなくす』というミッション達成のため、Google Cloud には、さまざまな提案や最新機能の提供も期待しています。」
株式会社mov
「日本のポテンシャルを最大化する」という使命に基づき、インバウンド事業、および店舗支援事業の 2 つの事業を展開。インバウンド事業では、インバウンド対策支援としてトータルのコンサルティングやデジタル マーケティング支援、プロモーション設計など全体のマーケティング支援などを行っており、「業界最大級のインバウンドビジネスメディア 訪日ラボ」を運営。一方、店舗支援事業では、店舗事業者様向けに AI 店舗支援 SaaS「口コミコム」をサービス提供している。
インタビュイー(写真左から)
・執行役員 CFO 諸見里 卓 氏
・執行役員 CTO 大薮 永 氏
・プロダクト開発部 AI エンジニア 海馬沢 大 氏
・執行役員 赤司 誠 氏
・事業戦略部 アライアンス担当 訪日ラボ・訪日コム編集長 根本 一矢 氏
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