株式会社ディー・エヌ・エーの導入事例:Advanced Solutions Lab で培った知見を踏まえ Google Cloud Platform 上に AI 基盤を構築。『逆転オセロニア』のプレイヤー体験を向上
Google Cloud Japan Team
モバイルゲームは現在も日々進化し、ゲーム業界を革新し続けています。しかし、ゲーム表現がより高度になっている一方で、複雑なゲーム内容が初心者の参加を妨げてしまうという課題は残り続けています。今回紹介する、株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)の大ヒットゲーム『逆転オセロニア』※では、その問題を Google Cloud Platform(GCP)上に構築した AI 基盤を活用することで見事に解決。ここでは、その取り組みについて聞いてきました。
利用している Google Cloud Platform サービス
Google Cloud Machine Learning Engine、Google BigQuery、Google Compute Engine、Google App Engine、Google Stackdriver、Cloud Pub/Sub、Google Cloud Functions、Cloud Datastore など写真左から
- ゲーム・エンターテインメント事業本部 ゲームサービス事業部 第一ゲームサービス 第二グループ プロデューサー 香城 卓氏
- システム本部 AI システム部 AI 研究開発第三グループ AI 研究開発エンジニア ゲーム AI チームリーダー(理学博士) 奥村 エルネスト 純氏
Google Cloud のエキスパートから機械学習を学び、独自の AI 機能を実現
『逆転オセロニア』は、その名の通り、オセロの要素を持った、シンプルだけれども奥深い戦略対戦ゲームアプリです。誰もが知っているオセロのルールをベースとすることで、戦略対戦ゲームの普遍的課題の 1 つである初期のルール理解が難しいというハードルを下げることに成功しています。しかし、キャラクター(駒)やデッキといったゲーム要素は、リリースから日を追うごとに複雑化。さまざまな「スキル」を持ったキャラクター(2019 年 1 月までで約 3,000 種)を効果的に組み合わせる「デッキ」の構築が初心者には難易度が高くなっていました。
「そんな中、2017 年の春ごろに Google Cloud から Advanced Solutions Lab - Immersive Education(ASL)をご紹介いただき、DeNA でも AI 活用を本格的に実践投入していこう、まずは『逆転オセロニア』の課題を AI で解決してみようということになりました。」(香城さん)
ASL とは、Google Cloud のエキスパートと連携し、GCP、Machine Learning Engine(ML Engine)や TensorFlow の活用法を学び、機械学習の基礎を確実に身につけることができるという施設。奥村さんら DeNA の AI 研究開発チームは、2017 年 5 月に渡米し、ASL 学習プログラムの最初のフェーズとなる機械学習の基礎を学びました。現在は奥村さんを含めた 4 名体制(田中 一樹さん、岡田 健さん、甲野 佑さん)で開発を続けています。
「ASL では、GCP を使って機械学習のプロダクトを作るために何をすべきか、どのようにプロジェクトを進めていくかという基本的な部分を、ハンズオンなどもおこないながら 4 週間みっちりと教えていただきました。プログラムには、具体的に Google Cloud のエンジニアと AI を開発していくという第 2 フェーズもあったのですが、今回は第 1 フェーズでの学びをふまえて、自社での開発を決意。まずは、デッキ構築を AI でサポートする『オススメ編成』を 2018 年 11 月に実装しました。この機能は、AI が上位プレイヤーのデッキのデータを参考にしながら、手持ちのキャラクターからおすすめのデッキを自動的に作ってくれるというものです。ASL では、Google で実際に AI プロダクトを作っているエンジニア達と多くの議論をしていたので、 AI 開発の落とし穴などを先に見越しておくことができました。こうした知見がなければ、開発はもっと難航したかも知れません。」(奥村さん)
奥村さん曰く、この『オススメ編成』を導入したことで、初心者の勝率がはっきりわかるほど向上したそうです。
「具体的には、オススメされたデッキを使うことで、ゲームを始めたてのプレイヤーの勝率が 5 ポイントほど上がっています。初心者が苦労するデッキ編成でつまずかなくなったことで、初期のゲーム体験が大きく変わったのは間違いないでしょう。これは 1 か月後、2 か月後のゲーム内の数字にも影響を及ぼすはず。実際、リリース直後から数字を追っていますが、この機能の認知は継続的に拡大しており、事業的にもポジティブな数字が見えてきています。今は、早く数か月後の数字を見てみたくてワクワクしています(笑)。」(奥村さん)
「私は初心者だけでなく、長らくプレイしてくださっている中級者以上の方々にも発見があったのではないかと考えています。新しいキャラクターを獲得した時に、定番の入れ方を参考にしたり、煩雑だったデッキ作りの手間を減らすことが出来ているでしょう。『オススメ編成』には、これまで多くの対戦型ゲームに存在していた、負けることでしか学んでいけないという “負の PDCA ” を打ち破れる手応えを感じています。」(香城さん)
そして、2019 年 3 月には、『逆転オセロニア』の AI 活用第 2 弾として、同じく初心者の戦略の学習を後押しするために『オセロニア道場』を実装。AI が良き練習相手、師匠となり、対戦ゲームの次なる一歩をサポートしてくれるそうです。
「『逆転オセロニア』では、オセロの盤面展開に加え、キャラクターの適切な運用などのプレイング スキルも要求される高度なゲーム。『オセロニア道場』では、“実戦” に出る前に、AI を練習台として、デッキの使いこなしや定石を学んでいただくことができます。」(奥村さん)
2019 年 2 月に 3 周年を迎えた『逆転オセロニア』は、今後も AI を活用したプレイヤー体験向上を追求。将棋の感想戦的な指導機能や、まったく新しいゲーム体験につながる機能も検討されているようです。
「可能性だけでいえば AI の使い道はまだたくさんあります。ただ、私達の目的はあくまでもゲームの体験を良くすること。AI のための AI 開発にはせず、プレイヤー視点で実用化を検証していきたいと思っています。並行して進めている事例になりますが、人力でおこなうには負荷が大きいゲームバランスの調整を AI が一部サポートする取り組みも、試験的に検証しています。」(奥村さん)
ML Engine などの AI プロダクトを駆使してゲーム作りを変えていく
AI 技術を効果的に駆使することで、プレイヤー体験の向上に成功している『逆転オセロニア』ですが、その基盤に GCP を採用したのはなぜでしょうか?奥村さんは次のように語ります。「『逆転オセロニア』の AI 基盤を構築するに際し、もちろん GCP 以外の選択肢も検討しました。その際、決め手となったのは GCP がフルマネージドなサービスであったこと。我々は AI の専門家なので、AI の開発や精度向上こそ注力すべきであり、AI の運用コストはできるだけ抑えたいと考えています。しかし、特にゲームサービスではイベントオープン時にリクエスト数が一気に 10 倍になったりするなど、非常に難しい分野。そうしたスケーラビリティも含めすべてお任せしたいと思い、GCP を選びました。」(奥村さん)
現在、『逆転オセロニア』の AI 基盤には、GCP プロダクトをオールスター活用。データの収集・蓄積には BigQuery を、データの加工、モデリングには Google Compute Engine を、モデルのデプロイには、ML Engine を活用。他、モデルに基づき最適なデッキ編成をおこなうサーバーには Google App Engine(GAE)を、モニタリングには Stackdriver を採用しており、細かいところではデータ管理周りは Cloud Pub/Sub や Google Cloud Functions、Cloud Datastore なども駆使しているとのことです。
「基本、AI 基盤はすべて GCP の中で完結させているのですが、中でも気に入っているのが、ML Engine と GAE。ML Engine はデプロイが簡単で、複数モデルの管理が楽などといった開発上のメリットに加え、ゲーム特有の急激なアクセス増にも耐えるスケーラビリティも備えています。GAE も同様に柔軟なスケーラビリティが素晴らしく、フルマネージドであることも含め、人員とコストの削減に大きく貢献。GCP の導入時にはエンジニアが 1 人いればメンテナンスできるという環境を目指したのですが、見事に実現してくれました。なお、実装に際しては、事前に入念な負荷試験を実施。Google Cloud のチームにもご協力いただき、いきなりリクエストが 10 倍になっても想定通りにスケールしてくれることをあらかじめ確認したうえで導入することができました。また、すべてを GCP 上に一気通貫で用意することで、データやサービスの権限管理などが楽になるというメリットもありました。」(奥村さん)
最後に、今回の成功を受け、『逆転オセロニア』以外のプロダクトでも GCP や AI を活用していくかについても聞いてみました。
「はい。今回の実績を足がかりにして、他のタイトルでも AI を利用していきたいと考えています。例えば、同じくデッキという仕組みをもった他の作品に『オススメ編成』を導入していきたいという気持ちがあります。今はまだこういった取り組みは珍しいと思いますが、5 年後、10 年後には、高度な AI が実装されていることが、ゲーム作りの “当たり前” になっているのではないでしょうか。それによってゲームの制作方法も変わっていくのかもしれませんね。また、個人的には Cloud AutoML にも興味があります。従来は AI のアーキテクチャーをリサーチャーが職人芸的に構築していたのですが、そういったことまで自動的にやってくれると、AI 活用の敷居がより下がるでしょう。課題ごとに最適なモデルを作っていくためのオプションの 1 つとして考えていきたいです。」(奥村さん)
※ オセロ・Othello は登録商標です。TM&© Othello,Co. and MegaHouse© 2016 DeNA Co.,Ltd.
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