Datastore はトランザクションをサポートしています。トランザクションは不可分な一連のオペレーションから構成されます。つまり、トランザクション内のオペレーションが部分的に実行されることはありません。アプリケーションは、1 つのトランザクションで複数のオペレーションと計算を実行できます。
トランザクションの使用
トランザクションとは、1 つまたは複数のエンティティに対して Datastore が行う一連の処理です。トランザクションのオペレーションは不可分で、部分的に実行されることはありません。トランザクション内のオペレーションは、すべて適用されるか 1 つも適用されないかのどちらかとなります。トランザクションの持続時間は最大 60 秒で、30 秒後に 10 秒間のアイドル時間が発生します。
次の場合、オペレーションが失敗します。
- 1 つのエンティティ グループに同時に実行される変更の数が多すぎる場合。
- トランザクションがリソース制限を超過している場合。
- Datastore で内部エラーが発生した場合。
いずれの場合も、Datastore API で例外が発生します。
トランザクションは Datastore のオプション機能です。Datastore オペレーションを実行するために、必ずしもトランザクションを使用する必要はありません。
次の例では、Joe
という名前の Employee
エンティティで、vacationDays
という名前のフィールドを更新しています。
コードの説明を簡単にするため、トランザクションがアクティブな状態でロールバックを実行する finally
ブロックが省略されている場合があります。本番環境のコードでは、すべてのトランザクションを明示的に commit またはロールバックする必要があります。
エンティティ グループ
どのエンティティも 1 つのエンティティ グループに属しています。このグループは、1 回のトランザクションで操作可能な 1 つ以上のエンティティから構成されます。App Engine では、エンティティ グループの関係に基づいて、複数のエンティティが分散ネットワークの同じ場所に格納されます。トランザクションでは、1 つのエンティティ グループに Datastore オペレーションが設定されます。このオペレーションはすべてグループとして適用されます。トランザクションが失敗した場合には、どのオペレーションも適用されません。
アプリケーションでエンティティを作成するときに、別のエンティティを新しいエンティティの親に設定できます。新しいエンティティに親を割り当てると、このエンティティは親エンティティと同じエンティティ グループに属します。
親のないエンティティは、ルート エンティティとなります。子を持つエンティティに親を指定することもできます。エンティティからルートまでの親エンティティの連鎖が、そのエンティティのパスになります。パスのメンバーがエンティティの祖先になります。エンティティの親はエンティティの作成時に定義され、後で変更することはできません。
特定のルート エンティティを祖先とするエンティティはすべて同じエンティティ グループに属します。グループ内のすべてのエンティティは同じ Datastore ノードに保存されます。1 回のトランザクションで同じグループ内の複数のエンティティを修正できます。また、グループ内の既存のエンティティを新しいエンティティの親にし、1 回のトランザクションでエンティティをグループに追加することもできます。次のコードは、さまざまな型のエンティティに対するトランザクションを示しています。
特定のエンティティ グループにエンティティを作成する
アプリケーションで作成した新しいエンティティをエンティティ グループに割り当てるには、他のエンティティのキーを指定します。次の例では、MessageBoard
エンティティのキーを生成し、そのキーを使用して、MessageBoard
と同じエンティティ グループに Message
エンティティを作成して永続化しています。
クロスグループ トランザクションを使用する
クロスグループ トランザクション(XG トランザクション)は、複数のエンティティ グループにオペレーションを実行します。クロスグループ トランザクションでは、1 つのグループに対するトランザクションとは異なり、複数のエンティティ グループのエンティティを更新してもトランザクションが失敗することはありません。
クロスグループ トランザクションの使い方は 1 つのグループに対するトランザクションと類似していますが、次のように TransactionOptions
を使用して、トランザクションの開始時にクロスグループ トランザクションであることを指定する必要があります。
トランザクションで実行可能な処理
Datastore では、1 つのトランザクション内で実行できる処理に制限を設定しています。
1 つのグループに対するトランザクションの場合、トランザクション内の Datastore オペレーションは、同じエンティティ グループ内のエンティティに対して実行される必要があります。クロスグループ トランザクションの場合は、最大 25 のエンティティ グループのエンティティに対して実行される必要があります。たとえば祖先に基づくエンティティの照会、キーに基づくエンティティの取得、エンティティの更新、エンティティの削除などを実行できます。ルート エンティティはそれぞれ別のエンティティ グループに属しているため、1 つのトランザクション内で複数のルート エンティティを作成または操作するには、クロスグループ トランザクションを使用する必要があります。
1 つ以上の共通エンティティ グループで複数のトランザクションがエンティティを同時に変更しようとすると、変更を commit した最初のトランザクションは成功しますが、他のすべてのトランザクションは commit に失敗します。このため、エンティティ グループを使用する場合、グループ内のエンティティに同時に実行できる書き込みの数が制限されます。トランザクションが開始されると、Datastore は楽観的同時実行制御を使用して、トランザクションで使用されるエンティティ グループの最終更新時間をチェックします。エンティティ グループのトランザクションを commit する時点で、Datastore はトランザクションで使用されたエンティティ グループの最終更新時間を再度チェックします。最初のチェック以降に変更が行われていると、例外をスローします。
アプリでは、トランザクション内でクエリを実行できますが、実行するには、祖先フィルタを使用する必要があります。また、トランザクション内でキーを使用してデータストア エンティティを取得できます。このキーは、トランザクションの開始前に準備することも、トランザクション内でキー名または ID を指定して作成することもできます。
分離と整合性
トランザクションの外部では、Datastore の分離レベルは「read committed(確定した最新データを常に読み取る)」に最も近くなります。トランザクション内部では、「serializable(シリアル化可能)」分離レベルが強制的に適用されます。つまり、このトランザクションによって読み取りまたは変更が行われているデータを、他のトランザクションが同時に変更することはできません。
トランザクション内のすべての読み取りは、トランザクションを開始したときの最新かつ整合性がある Datastore の状態を反映します。トランザクション内の各クエリと get は、トランザクション開始時の Datastore に対する単一の一貫したスナップショットを参照することが保証されています。トランザクションのエンティティ グループ内の各エンティティとインデックス行は完全に更新されるため、クエリは完全で正確な結果セットとしてエンティティを返すことができます。トランザクション外部で生じる可能性のある、偽陽性または偽陰性といった誤検知が生じることはありません。
こうした一貫性のあるスナップショット ビューは、トランザクション内の書き込み後の読み取りにまで拡張されています。ほとんどのデータベースと異なり、Datastore トランザクション内のクエリや get オペレーションが、同じトランザクション内で先に実行された書き込みの結果を読み取ることはありません。特にトランザクション内でエンティティが変更または削除された場合は、クエリまたは get により、トランザクション開始時のオリジナル バージョンのエンティティが返されます。または、トランザクション開始時にこのエンティティが存在しなかった場合は何も返されません。
トランザクションの用法
この例では、トランザクションを使用して、現在の値より新しいプロパティ値でエンティティを更新します。Datastore API はトランザクションを再試行しないため、ロジックを追加して、別のリクエストが同じ MessageBoard
または任意の Messages
を同時に更新したときにトランザクションを再試行します。
このコードがオブジェクトをフェッチした後、変更済みオブジェクトを保存する前に値が別のユーザーによって更新されてしまう可能性があるため、トランザクションが必要になります。トランザクションを使用しないと、最初のユーザーのリクエストに対し、もう 1 人のユーザーによる更新前の count
値が使用され、保存によって新しい値が上書きされてしまいます。トランザクションを使用することで、もう 1 人のユーザーによる更新がアプリケーションに通知されます。トランザクションでエンティティが更新されると、トランザクションが失敗し、ConcurrentModificationException
を返します。アプリケーションはトランザクションを繰り返し、新しいデータを使用します。
トランザクションのもう 1 つの一般的な用法は、名前付きキーによってエンティティを取得することです。名前付きキーがまだ存在しない場合は、新規に作成します。
同じ文字列 ID を持つエンティティを別のユーザーが作成または更新しようとする状況を処理するには、前の例と同様、ここでもトランザクションが必要です。トランザクションを使用しない場合は、エンティティがまだ存在していない時点で 2 人のユーザーが同時にこれを作成しようとすると、1 人目のユーザーが知らないうちに 2 人目のユーザーが作成したエンティティが 1 人目のエンティティを上書きしてしまいます。トランザクションを使用すると、2 つ目の試行は自動的に失敗します。必要であれば、アプリケーションはエンティティの取得を試み、更新を行います。
トランザクションが失敗した場合は、成功するまでアプリにトランザクションを再試行させることができます。またはアプリのユーザー インターフェースのレベルまでエラーを伝達し、ユーザーにこのエラーを処理させることもできます。すべてのトランザクションに対し、再試行ループを作成する必要はありません。
最後に、トランザクションを使用してデータ整合性のある Datastore スナップショットを読み取ることができます。こうした手法は、整合性が要求されるページの表示やデータのエクスポートに、複数回の読み取りが必要となるような場合に役立ちます。このような種類のトランザクションは、書き込みを伴わないため、読み取り専用トランザクションとも呼ばれます。読み取り専用の単一グループによるトランザクションは、同時変更によって失敗することはないため、失敗した場合の再試行を実装する必要はありません。ただし、クロスグループ トランザクションは、同時変更によって失敗する可能性があるため、再試行が必要になります。読み取り専用トランザクションの commit とロールバックは、いずれも no-op(何も行わない)として処理されます。
トランザクション タスクをキューに入れる
タスクを Datastore トランザクションの一部としてキューに登録できます。これにより、トランザクションが正常に commit された場合にのみ、タスクがキューに登録されるようになります(キューへの登録が保証されます)。トランザクションが commit されると、タスクはキューに登録されることが保証されます。キューに登録されても、タスクがすぐに実行されることが保証されるわけではありません。また、タスク内で実行される処理はすべて元のトランザクションとは別に実行されます。タスクは成功するまで再試行されます。これは、トランザクションの関連でキューに登録されたすべてのタスクに適用されます。
トランザクション タスクは、Datastore 以外のアクション(たとえば、購入確認のメールの送信など)を Datastore トランザクションに追加できるので便利です。また、Datastore の処理をトランザクションに結合することもできます。たとえば、トランザクションが成功した場合にのみ、他のエンティティ グループに対する変更をトランザクションの外部でコミットできます。
アプリケーションでトランザクション タスクをタスクキューに挿入できるのは、1 つのトランザクション中に 5 個までです。トランザクション タスクの名前をユーザーが指定することはできません。