株式会社オープンハウス:業務改善による年間約 4 万 2,000 時間の工数削減に AI Platform 、BigQuery を活用
Google Cloud Japan Team
「好立地、ぞくぞく。」というキャッチフレーズで、都市圏を中心に、不動産業を展開する株式会社オープンハウス(以下、オープンハウス)。地域に根ざした営業活動を強みとする同社では、機械学習やデータ分析などの先端技術を活用することで、営業活動の効率化を推進。「待ちの営業」から「攻めの営業」への変革を実現しています。この取り組みについて、シニアデータサイエンティスト /上席課長の中川帝人さんと、OH総合推進本部 広報宣伝部の多田千佳子さんに話を伺いました。
利用している Google Cloud サービス:AI Platform、BigQuery
Google Cloud によるバックオフィス業務の効率化で“足で稼ぐ情報力”を強化
「都心に戸建てを持ちたい」という顧客の夢を叶えるために、土地の仕入れから企画、設計、建築、販売までをトータルに展開するオープンハウス。時代が変わっても、価値が変わらないものをコンセプトに、「都心」「好立地」にターゲットを絞った営業を展開しています。
「オープンハウスでは、戸建ての仲介を通じて、年間 5,000 件以上の住宅購入をサポートしています。子会社のオープンハウス・ディベロップメントでは、土地の仕入、建設を担い、年間 4,000 棟以上の戸建てを供給しています。当社グループが製販一体体制によって提供する戸建ては、価格と利便性からお客様にご支持いただけ、『'20年度全国No.1ホームビルダー大全集』にて東京都区部 No.1、川崎市商圏 No.1、さいたま市都市部 No.1、名古屋区部 No.1を獲得しました。」(OH総合推進本部 広報宣伝部 多田千佳子さん)
(OH総合推進本部 広報宣伝部 多田千佳子さん)
不動産業界では、ネットやチラシなどの媒体を使い、より広いエリアから集客する待ちの営業が一般的ともいわれるなか、「オープンハウスの強みは、足で稼ぐ情報力」と語るのは、情報システム部 ディスラプティブ技術推進グループ シニアデータサイエンティスト / 上席課長の中川帝人さん。
「拠点ごとに十数人の営業担当者がいる営業が多い会社なので、営業の工数削減が大きな効果につながります。また不動産業務では、法律上必要な書類の種類や量も多く、なるべく面倒な書類のやり取りを減らすための仕組みを提供することも重要です。そこで情報システム部 ディスラプティブ技術推進グループでは、データ分析と機械学習を活用した情報力の強化で、業務の自動化による工数削減に取り組んでいます。」(中川さん)
営業担当者の業務効率化を推進するための IT プラットフォームとして、オープンハウスがグループ全体で採用しているのが Google Cloud Platform です。Google Cloud を採用した理由を中川さんは、「以前より、データ解析に BigQuery やデータポータル、Operations(旧称 Stackdriver) などを使っているので、これらのさらなる活用を見据えて連携性を第一に考えました。Chromebook や G Suite を全社的に利用していたことも後押しとなりました」と話します。
AI Platform による物件資料のオビ付け自動化で大幅な工数削減
オープンハウスでは、さまざまな IT システムを使って業務を支えていますが、新規領域の研究開発にも注力しています。機械学習を取り入れ、業務効率化を目的に、営業担当者の業務で自動化できそうなものを見つけてシステム化、またウェブ マーケティング分野を中心に、データ分析も積極的に活用しています。
「情報システム部ディスラプティブ技術推進グループは、4 名の小さな部門、うち 3 名は 20 代のベトナム人です。データベース関連、データ分析関連のシステムのほか、地理情報システム(GIS)と機械学習を組み合わせたシステムなどにも取り組んでいますが、最近工数削減において大きな効果をあげたのが、物件資料のオビ付けの自動化の仕組みです。」(中川さん)
オビ付けとは、仲介物件の概要や間取り、条件などが記載された物件資料のオビ部分を、自社の連絡先情報に差し替える作業のことで、以前は営業担当者が PDF ツールを使って 1 枚ずつ手作業で変更し、膨大な時間と手間が発生していましたが、TensorFlow の Object Detection API を活用した自動化の仕組みを開発。2 ~ 3 か月という短期間で開発し、2019 年 7 月にリリースしています。開発にあたっては「サンプル スクリプトや情報が豊富なことも役立った」と、中川さんは語ります。
「物件資料のオビ付け業務は、営業担当者 1 人あたり 1 日に 10 分程度の作業なのですが、単調で精神的負担の大きい作業です。これを 300 人の営業が 1 日に 1 回程度実施することになります。この自動化により、現在の利用実績から年間約 1 万 2,000 時間(300 人 × 10 分 × 240 日)分の工数削減を実現できる見込みで、インパクトの大きい効果だと考えています。また、そのほかにも機械学習やデータ分析、RPA などの活用で、全社で年間約 4 万 2,000 時間の工数を削減を見込んでいます。」(中川さん)
またオビ付け作業は、営業担当がデスクワークを行う夕方の時間帯に作業が集中するという特徴もあり、その機械学習予測処理においては複数の AI Platform モデルを用意して、大量の処理がリクエストされたらラウンドロビンで振り分ける分散処理を行うなど細やかな対応で、急激なワークロード増加の状況でも処理速度を担保しています。
一方、少ないエンジニアでの機械学習の導入にはハードルはなかったのでしょうか。中川さんは次のように話します。「機械学習のモデル構築を自社の問題に特化してゼロから開発することは大変です。しかし、今は Google も含め企業や研究機関が機械学習モデルの実装コードをオープンソースで幅広く利用できるように公開していますので、既存の機械学習アルゴリズムと社内で抽出した学習データで業務ニーズを機能面、精度面で満たすことが確認できれば実装はそれほど難しくありません。実際に当社の案件では、 Google の開発者が公開しているオープンソースのコードを利用し、Google Cloud で動かすためのサンプルやナレッジがあったおかげで実装はスムーズで、素早く検証をすることが出来ました。」
さらに今後については、仲介以外の業務にも機械学習の活用を展開していく予定とのこと。「これまでは仲介業務を対象に画像分類や物体抽出で AI Platform を活用してきましたが、今後は設計業務を対象に Cloud TPU を活用してセマンティック セグメンテーションに取り組んでいきます。現在の設計業務では、過去の類似間取物件を検索することで設計工数を削減したり、設計に必要な複数の図面を担当者が見比べながら整合性チェックをしており、特に後者は単純な作業ながら数が多く繰り返し行う心理的な負担の高い業務となっています。Cloud TPU でのセマンティック セグメンテーションモデルの開発により、これらの画像処理に必要とされる、より高度なモデルの迅速な開発が可能になり、設計業務においてのさらなる効率化も見込んでいます。」(中川さん)
(情報システム部 ディスラプティブ技術推進グループ シニアデータサイエンティスト / 上席課長 中川 帝人さん)
BigQuery を中心に全社的なデータ分析基盤を実現
オープンハウスでは、データ分析基盤として BigQuery を活用し、日々のトランザクション データから広告、ウェブ履歴、地理情報などの多様なデータを格納した DWH を構築しています。
「基盤を BigQuery に統一することでより精緻なビジネスの評価ができるようになりました。例えば、当社マーケティング本部で実施している ウェブ集客については Google アナリティクス 360 を導入していますが、Google アナリティクス上の ウェブアクセス履歴データを BigQuery に転送、これに広告媒体側の実績データと社内システムにある顧客の契約実績データを組み合わせ、機械学習モデルにより広告キャンペーンの評価をしています。Google アナリティクスのデータは数十 GB になりますが、BigQueryはすぐに結果を返してくれるので何度も試行を重ねながら機械学習モデルを構築することができました。不動産の場合、他業界に比べ集客から契約までは長い過程となりますが、基盤を統一することで直接契約につながったかどうかという観点で集客を評価できています。」(中川さん)
また物件の場所や営業ルートの確認などに地理情報システム(GIS:Geographic Information System) を使っています。当初はオープンソースの RDBMS が使われていましたが、たとえば、データベースを全件参照すると、時間がかかりすぎるため、地域などの条件による絞り込みをした参照が必要となるなど、パフォーマンス上の限界に課題を感じていたといいます。
「オープンハウスに入社したころ、ちょうど BigQuery GIS のベータ版が公開されましたので、すぐに試してみたのですが、非常に早くて驚きました。RDBMS の GIS 機能で、2 日程度かかっていた処理が、1 分かからずに終了します。これにより、地域などの条件で絞り込むことなく、お客様の要望に沿った広い参照が可能となり、最適な物件の素早い提案にもつながっています。」(中川さん)
情報システム部門が推進する積極的な効率化は、社内全体の活性化にもつながっていると、多田さんは話します。
「不動産業界はアナログな業界だと言われていますが、その中にあってオープンハウスではかなり IT 化が進んでいます。国内の業界大手の企業では、おそらく外注されることも多いであろう社内システムやアプリ開発を内製開発している点は当社の大きな強みです。情報システム部が、社内の事業部からの要望を素早く正確に吸い上げ、スピード感のある開発と実装をどんどん進めてくれるおかげで、実際に業務効率化は大きく進んで、現在では、年間 4 万 2,000 時間の工数削減という効果を現実的に見込むまでになっています。このような形で IT 化が継続的に効果を生んでいる会社は少ないのではとないかと感じています。」
積極的な業務効率化で大きな成果を上げているオープンハウスですが、ほかにも IT 活用で最適化できる業務が数多く残っていると中川さんは話します。「今後も Google Cloud の連携機能が強化されると思うので、BigQuery を中心に全社的なデータ分析基盤を強化したいと思っています。特に、G Suite を長く導入している当社では、社内データベースがスプレッドシートで管理されているケースが多く、スプレッドシートのデータと BigQuery のデータを連携し、データポータルで分析する仕組みが便利だと思っています。データポータルを使うことで、BI の専門家でなくても、誰でも簡単にデータ分析ができる世界を期待しています。」(中川さん)
(写真右から)
・情報システム部 ディスラプティブ技術推進グループ シニアデータサイエンティスト/上席課長 中川 帝人 氏
・OH 総合推進本部 広報宣伝部 多田 千佳子 氏
株式会社オープンハウス
1997 年 9 月に創業し、城南、および都心エリアを中心に不動産流通事業を開始。2001 年、株式会社オープンハウス・ディベロップメント(旧社名:創建ビルド)で、新築戸建物件の販売を開始。2013 年 9 月には、東証一部上場。東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知、福岡の各拠点で、不動産売買の代理・仲介事業、新築戸建分譲事業、マンション・ディベロップメント事業、不動産投資事業、不動産金融事業その他付帯関連事業を展開。2016 年に名古屋エリアに進出して以降、埼玉、福岡、千葉エリアへと事業を拡大。2012 年より、年成長率 30 %を続けており、2020 年 9 月期は売上高 5,700 億円を目指しています。
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