Ask OCTO: エンタープライズ にまつわる技術相談、OCTO がお答えします
Google Cloud Japan Team
毎月お届けする Ask OCTO コラムでは、Google Cloud CTO オフィスのエキスパートが、ビジネスや IT に関する課題の解決策について、読者の皆様からの質問にお答えします。
※この投稿は米国時間 2024 年 2 月 2 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
Google Cloud CTO オフィスのモットーは、「コラボレーションによる実践的なマジック」です。このチームは、Google Cloud の技術エキスパートと大手企業の元 CTO で構成されており、お客様が最大の課題に取り組めるようメンバー全員で支援しています。
そして今、彼らは同様の知恵を読者の皆様にもお届けしようとしています。
毎月お届けするこの新しい Ask OCTO シリーズは、Google Cloud による相談コーナーとなります。ただし、私たちが改善しようとしているのは人間関係の悩みではなく、皆様の技術スタックに関する問題です。皆様からの質問をこちらで受け付けております。
最初のコラムとなるこの記事では、AI のデプロイを最大限に活用する方法、AI 時代のデータ マネジメント、信頼できるサステナビリティ指標、AI 以外の優れた新興テクノロジーについて探ります。
危険な行為や情報操作を最小限に抑えながら、優れた AI ツールやテクノロジーを最大限に活用するにはどうすればよいですか? – Dario 様
ロンドン オフィス、ソリューション リード、Grace Mollison: どのツールやテクノロジーにおいても、最初のステップは、一歩下がってビジネス上の問題を見つめて、達成したい成果を明確にすることです。その後、現在利用可能なサービスが、目指す成果の達成のどの部分に活用できるかを確認します。特に AI の場合、ニーズに合わせて既存モデルの変更やチューニングが必要となる可能性が高いです。
AI は素晴らしいものですが、他のツールと同様に、AI を最大限に活用する方法について規範に則って論理的に考える必要があります。この 1 年間に、特定の(そして急速に拡大している)ユースケースに対応する、生成 AI ベースの優れたソリューションが複数登場しました。
たとえば、その強力な一例が、メール、会議のメモ、コンタクト センターへのリクエストなどの要約です。Wendy’s の事例では、ドライブスルーの注文方法をわかりやすくし、注文処理のスピードアップと顧客満足度の向上に貢献しました。別の分野では、Google の Med-PaLM モデルが、多くの医療機関で画期的な新しい医学研究と効果的な治療をサポートしています。
OCTO が Etsy におけるサステナビリティ目標のトラッキングをどのように支援したかをご覧ください。
それでも、人間による細心の注意を払った情報の入力と確認作業なくして、これらのモデルが完璧にパーソナライズされた、ブランド イメージどおりのソリューションとなることは期待できません。また、AI が面倒見の良い病院スタッフの温かい心遣いを代行することもできないでしょう。AI で代替可能なのは、従業員の専門知識が生かされない単調な仕事だけです。成功の秘訣は、AI の限界を知り、受け入れることです。
そして、モデルの限界を知ることが重要であるように、リスクを知り、そのリスクに焦点を当て続けることも重要です。
AI で使用するデータがすべて自社データを基にしていて、あなたがデータを保護することを強く意識しているのなら、データベースを管理、保護して、個人を特定できる情報を除外することに注力することになるでしょう。データ漏洩に細心の注意を払うことで、リスクの低減策や脆弱性について考えざるを得なくなります。そして、セキュリティと透明性の確保に真剣に取り組まなければならなくなるので、生成 AI が潜在的なリスクへの認識を広めるという、良い影響をもたらします。
特に AI 活用により、データはますますビジネスの成功の鍵を握る要素となっていますが、企業のデータ マネジメント戦略はどのように進化すべきなのでしょうか?また、インサイトの必要性とデータのプライバシーやコンプライアンスの重要性とでバランスをとるにはどうすればよいのでしょう? – Mary D. 様、ニューヨーク
サニーベール オフィス、テクニカル ディレクター、Sarah Gerweck: AI は、そのままではビジネスを完全には理解できません。もちろん、データベースを見ていくことで、ある程度は理解できますし、データを整理する助けとなることもあります。ですが、従業員とデータが必須の情報ソースであることに変わりはありません。
幸い、データ マネジメントは根本的には変わっていません。質の高いデータは以前から有用でしたが、現在はデータを整理することがこれまで以上に重要になり、早ければ早いほど良くなっています。まず、どのようなデータがあるかを理解し、データを見つけて利用できるようカタログ化することから始めましょう。データの出所、適切な使用方法、関連する契約や保証なども重要な要素です。可能であれば、このメタデータをデータそのものと一緒に所有するためのツールをチームに提供しましょう。
イノベーションとセキュリティのバランスについては、原則に基づくアクセス制御と企業内のデータフローの監査機能を活用して、最新のデータ基盤上に構築すると良いでしょう。優れたデータ検出とガバナンスにより、AI などの新しいアイデアを機密性の低いデータで実験するために必要なアジリティと独立性を確保したうえ、必要に応じて関係者に警戒を促すことができます。
シアトル オフィス、テクニカル ディレクター、Dean Hildebrand: Mary 様の質問が的確に指摘しているように、データはビジネスの成功に欠かせない要素ですが、万能ではありません。アプリケーションによってニーズが異なるため、通常は単一のストレージ システムにすべてのデータを保存することはできません。現在増加しているデータの多くは非構造化データですが、従来の構造化データでさえ、複数のデータベースのようなシステムにまたがって保存されています。たとえば、データ分析プロジェクト用の優れたデータ ウェアハウスである BigQuery にデータを保管し、主要な記録システムとして Cloud Spanner を使用し、ドキュメント、画像、動画のようなすべての非構造化データには Cloud Storage を使用するのが一般的なパターンです。
データは今後もますます増加し、サイロ化されていくでしょう。その一方、データ マネジメントは、サイロ化された同様のアプローチから、データがどこに保存されていても、データを保護し、カタログ化し、検索し、アプリケーションに接続できる共通のシステムへと進化しなければなりません。データ マネジメントとしての理想は、組織のすべてのデータを実際に単一のシステムにコピーとして保存しないまでも(ほとんどの場合、これは実現不可能)、データが表面的には一元化されているように見える状態です。
つまり、データを無理にデータ マネジメント システムに合わせるのではなく、データ マネジメントをデータに合わせるのです。
しかしながら、統合されたデータ マネジメント システムの構築には、組織管理、プライバシー、アクセス制御、コンプライアンス、新たな規制など、多くの逆風が吹いています。AI 時代を迎えるにあたり、組織の価値を高め、差別化を推進するには、データへのアクセスが極めて重要であり、こうした課題を克服することが不可欠です。幸いなことに、クラウドというプラットフォームでは、個々のチームが自信を持って組織全体でデータを共有、処理しながら、データの耐久性、保護、コンプライアンスを継続的に確保することが可能です。
脱炭素化とサステナビリティに関する主な課題のひとつが、データの正確性と可用性です。投資家やステークホルダー向けの数値の信頼性を高めるには、企業はどのようにデータを扱えばよいですか?– Felipe D. 様、シンガポール
ロンドン オフィス、テクニカル ディレクター、John Abel: これはとても幅広いトピックなので、効果的な方法のひとつとして、温室効果ガス排出量の焦点をスコープ 1(直接)、スコープ 2(エネルギー使用量)、スコープ 3(間接)に分けてアプローチすることをおすすめします。
まず、企業全体の排出状況を把握することから始める必要があります。その際にデータソースとして適しているのは財務データで、経費、出張、物流、買掛金、売掛金などの指標を使用します。状況を把握したら、各指標について正確かつ可用性の高いデータは何かを検討します。
テクノロジーはすべてのビジネスにある要素であり、クラウド テクノロジーは広く浸透してきています。これにより、クラウド プロバイダと連携することで、スコープ 1、2、3 の排出量について詳しく知ることができます。たとえば、Google Cloud は、二酸化炭素の総排出量と詳細な排出量(どのアプリケーションやサービスが最大の汚染源となっているかなど)を定量化する、二酸化炭素排出量ダッシュボードを提供しています。
自社データの位置づけを検証するもうひとつのアプローチが、同業他社との比較です。CDP や NZDPU は、業界ベースのデータを提供できる組織です。また、ライフサイクル アセスメントや科学的根拠のある目標との関連からデータを理解することにより、優れたインサイトが得られることもあります。
Applied AI Summit 基調講演のハイライト。
最も複雑な要素はスコープ 3 です。従業員の毎日の通勤時に出る排気ガスからパートナー企業のサステナビリティの取り組みまで、その範囲は多岐にわたります。サプライ チェーンの上流については、ティア 1 のサプライヤーとは良好な関係を築きやすく、ティア 2 のサプライヤーについてもある程度はわかるかもしれません。ですが、全体像を把握することは困難です。
検討すべきアプローチとしては、質の高いデータを取得するデータ契約をサプライヤーに依頼する、データ提供も行われる規制(EU の Regulation on Deforestation-free Products(森林減少フリー製品に関する規則)などに目を向ける、Google Earth Engine など、インサイトを得て比較ができるサードパーティのデータソースを探る、などが挙げられます。
脱炭素化とサステナビリティは、主要なビジネス活動の影響を大きく受ける複雑な領域です。幸いなことに、そのすべてを理解するのに役立つクラウドベースのサービスやパートナーは、現在、増え続けています。
現在、AI 以外で最もエキサイティングなテクノロジーは何ですか? - LinkedIn アンケート
ナイロビ オフィス、テクニカル ディレクター、Jack Ngare: エッジ コンピューティングはクラウド サービスの長所をほぼすべての場所にもたらすものだと、考えられます。データ所在地、プライバシー、AI に対する規制が広がり、地域化が進むなか、どのクラウド プロバイダもあらゆる場所にフットプリントを置くことが難しくなっています。これに加えて、特に現在は AI の導入が進むなか、より高速なコンピューティングとより低遅延の処理が、ビジネス活動が行われている場所の近くで求められています。Google Distributed Cloud のようなエッジサービスは、これまで利用してきたクラウドのコア機能を失うことなく、必要なものを必要な場所で実行しようとするすべての人にとって、強力な価値提案となります。
サニーベール オフィス、テクニカル ディレクター、Gemma Garriga: 私にとっての「エキサイティングなテクノロジー」は、世界をより良くする可能性のあるテクノロジーです。今思い浮かぶのは、ロボット工学と人間拡張という 2 つの分野です。というのも、ロボットと AI の融合は、製造や宇宙開発といった産業に大幅な改善をもたらす可能性があるからです。次に、クリーン エネルギー技術です。この技術は、私たちの現代の生活に電力を供給し、経済を活性化させるだけでなく、環境や気候変動の緩和にも影響を与える可能性があります。
サンディエゴ オフィス、シニア テクニカル ディレクター、Massimo Mascaro: 誰もが生成 AI に注目するなか、強化学習は興味深い分野だと考えています。強化学習は、生成 AI を補完するもうひとつの AI 手法であり、注目に値するいくつもの進化を遂げています。強化学習の重要な側面は、問題を解決する方法について多くのデータや例を必要とせず、環境を探索することで AI をトレーニングできることです。このアプローチは、適切なトレーニング データセットがない問題や、解決策がわからない問題を解決できる AI をサポートできるでしょう。
冒頭の画像は、Google Cloud で Midjourney を使用して、「統合されたデータ マネジメント システムをコンセプトとする、カラフルな雑誌風のイラスト」というプロンプトで作成しました。
-Google Cloud、バイス プレジデント兼 CTO Will Grannis