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Inside Google Cloud

Ask OCTO: 生成 AI を本格的に活用するためのチームづくりとクラウドへの移行

2024年4月19日
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Will Grannis

VP and CTO, Google Cloud

毎月お届けするこのアドバイス コラムではほかに、顧客が独自の生成 AI アプリを創作する支援と、生成 AI に向けた最適な組織アプローチを取り上げます

※この投稿は米国時間 2024 年 3 月 8 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

Google Cloud CTO オフィスのモットーは、「コラボレーションによる実践的なマジック」です。このチームは、Google Cloud の技術エキスパートと大手企業の元 CTO で構成されており、お客様が最大の課題に取り組めるようメンバー全員で支援しています。

そして今、彼らは同様のナレッジを読者の皆様にもお届けしようとしています。

この Ask OCTO シリーズは、Google Cloud 版の相談コーナーとなります。ただし、私たちが改善しようとしているのは人間関係の悩みではなく、皆様の技術的な課題です。皆様からの質問をこちらで受け付けております

第 2 回となるこの記事では、AI の活用に向けたチームの準備顧客のために生成 AI アプリを構築するコンサルタントのアプローチクラウド移行における障害の克服組織にふさわしい AI へのアプローチの選択について探ります。

AI の本格的な活用に向けてどのようにチームや従業員の準備を整えるべきでしょうか? - LinkedIn アンケート

ロンドン オフィス、John Abel: AI、特に生成 AI を統合することで、テクノロジーが反復作業をなくし、スケーラビリティを促進する可能性が明らかにされています。しかし、人間とテクノロジーの組み合わせが引き続き最も強力であることは広く認められていて、AI の登場に対してチームや従業員の準備をどのように整えるかが問題になっています。私が企業とのミーティングで共有してきた上位の検討事項をいくつかご紹介します。

  1. 明確なコミュニケーション: 社内外の関係者グループにとって、透明性の高いコミュニケーション戦略の策定が重要となります。AI の活用には、関係者にフィードバックの提供と移行のサポートを可能にするエンゲージメントが必要です。コミュニケーションが明確でない場合、導入や移行が遅延する可能性があります。
  2. 人間と AI のコラボレーション: コミュニケーション戦略の重要な要素の一つは、人間とテクノロジーがビジネス価値を生み出すためにコラボレートする方法に焦点を当てることです。人間が持つ「ひらめき」の力と、既存データから新しい分析情報を導き出す AI の力を組み合わせると、素晴らしい成果が得られることがあります。
  3. エキスパートのトレーニングとスキルアップ: 生成 AI の可能性が最大限まで引き出されるのは、その問題や分野に最も精通したエキスパートが主導する場合です。特にビジネス領域の専門家の育成が重要です。AI には技術的な特質がありますが、最大のメリットを享受できるのはビジネス ユーザーや知識専門家です。単なる技術プロジェクトとして取り扱うべきではありません。
  4. AI に関する原則の文書化: Google の AI に関する原則にならい、各企業は独自の AI に関する原則を定義して文書化し、AI を採用する時期と方法を明確にする必要があります。このような原則は顧客への情報提供に資するだけでなく、従業員向けの指針になります。
  5. 社内ユースケースから始める: 明確なコミュニケーション、原則、使用ガイドライン、トレーニングへの投資を実現した企業に必要なのは、出発点です。AI の導入を社内ユースケースから始めると、チームや従業員は対外的な実験に付随する潜在的リスクを回避しながら、このテクノロジーを学習、活用し、その意義を理解できます。価値を最大化するには、適切な質問と目指す成果を理解するプロンプト エンジニアリングのようなスキルが不可欠です。

企業はこれらの 5 つの簡単なステップを踏むことで、この画期的なテクノロジーの導入に向けてチームや従業員の準備を効果的に整えることができます。ボトムアップ アプローチでは、従業員はさらに大きな価値を促進できるようになります。企業にとって最も重要な課題はテクノロジーそのものではなく、バイアスの克服、既成概念への対処、効率化と市場リーチの向上の機会の特定です。

私は起業家で、さまざまな顧客のためにソフトウェアを構築しています。一例として大型スーパーマーケットのカスタマー サポートなどの、AI アプリケーションをすばやく簡単に構築することを希望する顧客に、どのような種類のアプリケーションを提案できるかを理解したいです。

ロサンゼルス オフィス、Brett Slatkin: デジタル トランスフォーメーションで難しいのは、最新の AI のような真新しいテクノロジーの導入であると想定されるかもしれませんが、多くの場合、必要な組織変革も同様に困難です。そのため、既存のワークフローを中断するのではなく、それを強化するアプリケーションを顧客のために構築することから始めることを提案します。この基盤を確立した後には、顧客と連携して事業の運営方法のより大きな変革を実施しやすくなります。

一例として、カスタマー サポートを取り上げます。最初から自動化を試みる代わりに、生成 AI ツールを活用してまず顧客の感情をより明確に把握するプロジェクトから始めることもできるでしょう。オープンソース ライブラリまたは Cloud APIs でテキスト エンベディングを計算し、それを使用して会話ログをセマンティックにクラスタリングできます。生成 AI 独自の機能によって、初めてより複雑なトレンドを実際的に特定できるようになりました。リーダーはきめ細かい分析情報を使用して、プロダクトとサービスの質を高める効果的なフィードバック ループを作成できます。

生産性向上をもたらすもう一つの機会として、チームが組織全体により適切に知識を共有できるようにすることです。連携やコラボレーションを活性化する社内の文書やレポートは、しばしば大量に存在しますが、社員はその発見と統合に手間取っています。現在では、精度向上のためにモデルの根拠を外部情報に置く「検索拡張生成(RAG)」にオープンソース フレームワークを使用し、生成 AI 強化型検索にエンタープライズ グレードの Cloud APIs を使用できます。これらのツールは、社内情報の発見を容易にすることや、社内情報の価値を斬新な方法で認識するのに役立ちます。

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大手企業は、これまで不可能と思われていたことを、生成 AI を使って実現しています。

いずれにせよ、これらの最先端のシステムの導入する際には入念に取り組むことをおすすめします。総所有コストのトレードオフの相違、新たな注意点、顧客の期待の急速な変化など、検討が必要な固有のリスクがあります。これらの問題への対処方法について顧客をサポートすることは、信頼を構築し、将来的なビジネス拡大につながる優れた方法です。

私はある銀行の中堅幹部で、当行は全データをクラウドに移行しようとしています。あらゆるものが、必要以上に難しく、長引いているような気がします。この問題への取り組みや、大企業が犯した失敗で、避けることのできたものについて、教えてください。

サニーベール オフィス、Gemma Gariga: 銀行業界という規制の強い環境では、大規模クラウド移行が一直線に進むことはめったにありません。迅速な移行というご希望は理解できますが、入り組んだ以前のシステムを整理して、セキュリティ要件に対処し、関係する大量のデータを管理する必要性と往々にして衝突します。私がよく目にする失敗に、野心的すぎるタイムラインとマイルストーンの設定、クラウド専門知識の必要性の過小評価、「リフト&シフト」戦略がすべてのシステムでうまくいくという想定があります。セキュリティを後付けとみなさないこと、変化が従業員に及ぼす影響を積極的に管理することも重要です。

クラウド移行を成功させるには、指針としてビジネス目標を常に堅持する、うまくオーケストレートされたアプローチが求められます。慎重に選び抜いた重要度の低いプロジェクトから始めることで、課題を特定し、経験を積み、社内的な自信を打ち立てることができます。このような方法により、初期に進展を遂げるだけでなく、組織のさまざまなチームが自ずとまとまり、初期の成功を実現します。

さらなる知識を駆使し、カスタマイズしたクラウド戦略が重要です。ワークロードを個別に評価し、最適なクラウド デプロイ モデル(パブリック、プライベート、ハイブリッド)を決定することが重要です。1 つのソリューションがすべてに適合するわけではありません。したがって、アプリケーションのリファクタリングと堅牢なデータ ガバナンスの確保に要する時間を見込んだ、段階的なマイルストーンのロードマップを策定します。

最後になりますが、既存チームのスキルアップか専門プロバイダとの提携による、優れたクラウド専門知識の構築を優先します。クラウドはデータの新しい本拠地であることを越えて、クラウドネイティブな慣行への移行を要求します。競争力のある料金設定を提供するだけでなく、銀行コンプライアンスへの深い理解、堅牢なセキュリティ プロトコル、傑出したサポートを兼ね備える適切なパートナーを選択することが重要です。クラウド移行は継続的な進化であるため、継続的な最適化を受容し、絶え間なくコミュニケーションをとり、その過程でビジネス上のメリットを享受してください。

Google Cloud は、データ ファースト戦略で金融サービス バリュー チェーンの変革を支援しています。金融サービスの AI ユースケースはすでに数百件存在します。問題の核心はデータであり、目標となるのはバックエンド システムの最新化、従業員の生産性向上、社内プロセス ワークフローの強化、パーソナライズされたデータドリブンなカスタマー エクスペリエンスの創出です。

会社への AI 導入に向けた最善の準備方法は、1 社ごとに大きく異なるようになるでしょう。企業はどのようにして、自社にとって最適なアプローチ、さまざまなモデルの価値、最初に取り組むべき事項を理解できるでしょうか。

サニーベール オフィス、Adrian Otto: 基本的に、この問題は、AI かどうかを問わず、あらゆるテクノロジーを探求する際のイノベーションに関係しています。そのような探求から最大限のものを引き出すために、以下のことをおすすめします。

  1. プログラムにリソースと支援が十分に提供されて首尾よく展開するように、あらゆるレベルでリーダーとインフルエンサーを用意します。
  2. その各々が検証可能な小さな仮説を追求する、連続する複数の要素へと目標を分解します。
  3. 迅速な学習と適応を目指します。進捗状況を頻繁にレビューする計画を立て、実験から何を学んでいるかを参加者が把握できるようにします。予期した成果が得られなかった実験に対しても、進捗を褒めたたえます。機能するソリューションを見つけ出すために、方向転換する選択肢を捨てず、多種多様なアプローチを試します。
  4. 漸進的な思考の誘惑に抵抗します。現行のはるか先を行く野心的な一足飛びのイノベーションを発見できるよう、一般的なアプローチとは大きく異なる選択肢を検討します。

すべてのことを事前に理解しておく必要はありません。実験し、進みながら学ぶことで、運用上の自信を獲得できます。AI を活用し、特定のビジネス課題の解決には、全課題に 1 つのツールで対応するシンプルな手法を用いるのではなく、連携可能なコンポーネントで構成するシステムを活用することになるかもしれません。小さなモデルは速やかに実行可能で、通常は大きなモデルよりはるかに低コストで運用できることを忘れないでください。焦点を絞った小さなモデルをいくつかつなぎ合わせると、優れた成果が得られる可能性があります。

ただし、これはニーズ次第です。ワークフローやユースケースごとに、異なるモデルのコレクションが適している可能性があります。次の表に、Google Cloud の Vertex AI プラットフォームで利用できるさまざまなファーストパーティおよびサードパーティ AI モデルの一般的なメリットを明示しているので、ご検討ください。

要件 / 強み

最初に試してみるモデル

迅速なインタラクティブ レスポンス

Gemma 2B/7B, Mistral 7B, Claude 2.0

低コスト

Gemini Pro, Llama 2

高品質、非インタラクティブ

Gemini Ultra

高トークン スループット

Gemini Pro, Mixtral 8x7B

大きなコンテキスト ウィンドウ

Gemini 1.5 Pro

 

要件 / 強み

最初に試してみるモデル

迅速なインタラクティブ レスポンス

Gemma 2B / 7BMistral 7BClaude 2.0

低コスト

Gemini ProLlama 2

高品質、非インタラクティブ

Gemini Ultra

高トークン スループット

Gemini ProMixtral 8x7B

大きなコンテキスト ウィンドウ

Gemini 1.5 Pro

このサンプルセットには、異なるすべての強みを満たすモデルが 1 つもないことに注意してください。ユースケースに複数の要件があり、モデルの特定の組み合わせのみが最適に適合する場合があります。いろいろな組み合わせの可能性を検討してください。

上記のような汎用の基盤モデルから始めて、ある手法が実証可能な価値をもたらすことを示し、その後プロトタイプで重要な進歩を遂げた段階で、エキスパートにシステム最適化の助言を求めます。


冒頭の画像は、Google Cloud で MidJourney を使用して、次のプロンプトで作成しました。「クラウド移行のコンセプトを示唆する、印象派風の水彩画スタイルで描かれた、雲の切れ間でビジネスチームがサーバーを運んでいるイラスト」

-Google Cloud、バイス プレジデント兼 CTO Will Grannis

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