The Prompt: ジェネレーティブ AI に関する 5 つの誤解を解く
Google Cloud Japan Team
変革をもたらすジェネレーティブ AI の最新トレンド
※この投稿は米国時間 2023 年 4 月 14 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
現在、ビジネス リーダーたちの間で、ジェネレーティブ AI が話題になっています。急速に変化し変革をもたらすこの分野の話題に追従するために、Google がお客様やパートナーと接するなかで気づいた発見や、Google の AI の最新動向を紹介します。ここでは、Google Cloud の AI & ビジネス ソリューション担当グローバル VP の Philip Moyer が、ジェネレーティブ AI に関する 5 つの誤解を取り上げます。
今年に入ってから、Fortune 500 企業のリーダーたちを相手に、ジェネレーティブ AI をビジネスにどう活用するかというテーマの会議をすることが増えています。新しいテクノロジーに対するエンタープライズの関心がこれほど急速に高まったことは、これまでになかったのではないでしょうか。ジェネレーティブ AI は前世代の AI に比べるとはるかに敷居が低く、そこには様々な可能性が期待できるのです。
しかし、こうした盛り上がりにつきものなのが、過剰な喧伝です。これまで、お客様に提案したアイデアと同じくらいの数の誤解を解く必要がありました。今回は、こうした誤解の一部を取り上げて、急速に進化するこのテクノロジーに関する誤った認識を正していきたいと思います。
誤解 1: 1 つのモデルで、あらゆるケースに対応できる
大規模言語モデル(LLM)やその他のジェネレーティブ AI モデルを 1 つ定義すれば、あらゆるユースケースに対応できる、という考えは誤りです。
現在、テクノロジー市場の多くの分野が、少数の企業の動静によって左右されるようになってきています。ジェネレーティブ AI の性質上、特にエンタープライズでは、数千またはそれ以上のモデルが必要になるでしょう。
理由は一概には言えませんが、要約に向いているモデルや、箇条書きに長けているモデル、推論に秀でているモデルなど、モデルによって得意分野が異なることはすでに明白な事実です。業種や、事業部門、企業によって、知識の表現方式は大きく異なります。モデルを選ぶ際は、そうしたことをすべて考慮に入れる必要があります。
誤解 2: 大きければ大きいほどいい
ジェネレーティブ AI モデルは、コンピューティング リソースを大量に消費します。基盤モデルの作成に取り組む企業が、巨額の資金調達を繰り返していることは、こうした費用の高さを示す一例といえるでしょう。
ジョブに適したモデルを使用すべき理由の一つに、コンピューティング費用に対する懸念があります。モデルが大きければ大きいほど、クエリを実行するための費用は高くなります。
エンタープライズ向けの、次の四半期の地域別売上目標の要約レポートを生成するモデルに、Taylor Swift の全曲の歌詞を学習させる必要はありません。重要なのはコンテキストです。モデルのユースケースによって、どの程度の IQ が必要なのかを考えながら、情報を取捨選択するようにしましょう。
誤解 3: 入力した情報の秘密は守られる
過去に、BYOD(Bring Your Own Device、私物デバイスの持ち込み)や私物アプリの持ち込みが増えたことで、「シャドー IT」が問題となったことがありました。同じように、金融機関の中には、モデルによる機密情報のリークを恐れ、一般公開されているジェネレーティブ AI へのアクセスを禁止しているところがあります。
一般公開されているジェネレーティブ AI は、ユーザーデータを将来的にトレーニング セットとして利用する可能性があり、機密データを入力すると人目に触れる恐れがあります。たとえば、ある銀行が大口法人顧客のために合併の可能性について調査しており、M&A 部門のスタッフが「XYZ Industries 社が買収すべきターゲット企業は?」と公開モデルに尋ねたとします。すると、その情報が学習データとして使用され、誰か他の人が同じ質問をしたときに答えを示すようになってしまう恐れがあります。しかし、Google Cloud の AI サービスでは基本的に、非公開データをこのように使用することはありません。
顧客のほとんどは、モデルに質問することの安全性や、学習に使用されるデータ、モデルの出力について懸念しています。そしてその懸念は、間違いではありません。
誤解 4: AI の回答は正しい
ジェネレーティブ AI に関する最大の関心事の一つは、その正確性および信頼性についてです。ジェネレーティブ AI のアルゴリズムは、とにかく回答を示すように設計されており、ときには間違った回答を示すこともあります。
ほとんどの場合、どの企業も検証可能な事実やデータの整備に力を入れています。エンタープライズにとって、正しいデータに基づくモデルやテクノロジー アーキテクチャを採用することは非常に重要です。
ジェネレーティブ AI の多くは、エンタープライズのデータ要件におけるこの項目に抵触します。しかし、規制の厳しい業界では特に、これは決して無視してよい要件ではありません。
誤解 5: どんな質問にも答えられる
エンタープライズには、価格、人事、法務、財務など、さまざまな情報があります。しかし、これらの情報すべてに自由にアクセスできるようにしている企業はないでしょう。
ビジネス リーダーの中には、自社が所有するあらゆる情報を大規模言語モデル化することに高い関心を寄せている人もいます。そうすることで、部門ごとに、または全社的に、あらゆる質問にできれば答えられるようにしたいと考えているのです。
情報の機密性および事実性を保つにはどうすればよいか、ということを深く考えれば、モデルに質問する人をどう制限するか、また、どの程度の質問を許可するかという問題にすぐに行きつきます。
ビジネス リーダーの中には、自社が所有する情報を LLM 化することに関心を寄せている人もいます。そうすることで、部門ごとに、または全社的に、あらゆる質問にできれば答えられるようにしたいのです。
Google Cloud、AI & ビジネス ソリューション担当グローバル VP, Philip Moyer
Google Cloud の AI に関する最新の話題
上述の現場からの見解は、このエキサイティングな話題に対するほんのひとつの視点にすぎません。ここからは、Forrest Brazeal 提供の記事を引用し、Google Cloud のジェネレーティブ AI 関連の最新ニュースをお届けします。
Med-PaLM 2: 4 月にシカゴで開催された HIMSS カンファレンスに先立ち、Google Cloud は Med-PaLM 2 の限定公開について議論しました。Med-PaLM 2 とは、米国医師免許試験(USMLE)形式の問題で構成される MedQA データセットにおいて、「エキスパート」ドクターレベルの成績を記録した初の LLM です。Google Cloud は、医療分野においてジェネレーティブ AI が大きな力を発揮する可能性を信じ、医師や研究者と共同でユースケースの特定に取り組んでいきたいと考えています。
AI のガーデン: 3 月に開催された Data Cloud & AI Summit では多くの発表やニュースがありましたが、その中でも特に注目度が高かったのが Vertex AI 向けの Model Garden と Generative AI Studio に関する徹底解説です。これは、Google やその他の幅広い AI エコシステムが提供する、ジェネレーティブ AI 基盤モデルの閲覧、微調整、デプロイのためのワンストップ ショップのようなものであり、すでに確立している Vertex AI ワークフローの中で利用することが可能です。
モデルをもっと多くのユーザーへ: BigQuery を分析情報収集ツールとしてご利用の方には、AI 関連のアップグレードという朗報があります。具体的には、最新型の推論エンジンが搭載されました。Google が提供する事前トレーニング済みモデルを使うか、自社の独自モデルをデータのある場所へ直接インポートできます。
チップを拡充: Data Cloud & AI Summit からの話題をもう 1 つ。Google Cloud は NVIDIA とのパートナーシップを拡大し、AI で最適化した L4 Tensor Core GPU を提供する初のクラウドとなりました。詳しくはこちらをお読みください。
コンタクト レンズ: エンタープライズで AI がすぐに役立つ分野といえば、カスタマー サポートです。その点に着目し、Google Cloud は以前から Contact Center AI に力を入れています。こちらの投稿では、新しくリリースされた Gen App Builder を使って、Contact Center AI のエクスペリエンスをさらに強化する方法について説明しています。
デベロッパーに朗報: 最近の発表の中で個人的なお気に入りは、Google Cloud が AI を重視した新しいパートナーシップをデベロッパー ツール会社の Replit と結んだことです。Replit の AI コーディング アシスタント ツールは、Google Cloud のサービスおよび基盤モデル上で動作し、2,000 万人以上の開発者の生産性アップに貢献すると見られています。これはかなりすごいことです。
情報源: Google Cloud チームは、変化のスピードが速い AI 関連情報を漏れなくカバーできるよう、多数の追加コンテンツを作成しています。忙しくてあまり時間が取れないときは、ジェネレーティブ AI に関する最新発表を取り上げるこちらの Twitter をチェックすることをおすすめします。また、「ジェネレーティブ アプリ」に関する Stephanie Wong の短い動画や、サイバーセキュリティの AI に対する Google Cloud のアプローチを取り上げた Phil Venables の投稿もご覧ください。
- Google Cloud、AI & ビジネス ソリューション担当グローバル VP Philip Moyer