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リテール

「適正ノード」における「適正在庫」の予測が小売業者に成功をもたらす

2023年6月8日
Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2023 年 5 月 27 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

四半期の業績発表において、小売業の経営幹部たちが頻繁に語っていたのが、送料の高騰や分割配送の増加、在庫量のモニタリングによる利益への悪影響でした。たとえば米国のアパレル業界全体では、オンライン ビジネスの需要加速により、金利税引前利益が 30% 以上下落しています。

現在、小売業者は保有在庫を抑制したり、シーズン終わりの値下げを減らしたり、ネットワーク内での商品配分を最適化して需要予測と地域を結びつけたりといった方法で、利益率の改善に努めています。もちろん今後も送料は課題となりますが、店舗在庫がより適切に配置されれば、利益への悪影響は緩和されるはずです。言い換えれば、小売業者で収益性を最大限に高めたいのであれば、「適正在庫」を予測し、「適正ノード」にその在庫を配置する必要があります。

在庫に関する課題があふれる小売業

実際、在庫は小売業者の最大かつ最も複雑な問題です。特にコロナ後の動きと、対面販売からオンライン ショッピングへの移行が大きな課題となっています。以下は、小売業者が直面している課題のごく一部です。

  • 過剰在庫: 小売業者は、在庫が売れるまでの平均日数、すなわち在庫の回転率を、重要業績評価指標のひとつとして見ています。小売業者の年間報告書の広範な分析では、小売業者が直面する、過剰在庫という課題が強調されています。過剰在庫はキャッシュ フローの問題や、納品センターや店舗の収容力の制約の原因となり、「値下げ」によって在庫の目減りに追いやられることで収益性に悪影響が及びます。

  • 送料の高騰: アナリストによれば、小売業者のオンライン ビジネスの成長は、それに伴う利益率の低下につながる可能性があるとされています。そして COVID-19(新型コロナウイルス感染症)によって、在庫の置き場所という新たな問題が加わりました。納品日数の短縮とアジリティが要求されるこの時代において、これは珍しい問題ではありません。荷送人が過大な在庫経費を回避するには、適正な場所に適正な量の在庫を置く必要があります。多くの小売業者は、需要予測を場所と費用に十分に結びつけられていません。

クラウドとデータ解析が果たす役割

今日の小売業者は、在庫の最適化を目指す一方で、適切な場所に最適な在庫を置く方法を探しています。小売業者の間では、過去の実績と勘に基づいて季節商品への需要を手作業で予測するやり方から離れる動きが加速しています。そうした業者は、従来の方法に代わり、データと高度な分析を活用してデータをインサイトに変換し、将来のシーズン需要に関する推奨事項を収集する方法に移行しつつあります。

機能リファレンス アーキテクチャ

前述のとおり、小売業者の課題は 2 つあります。的確な需要予測による利益率の向上と保有在庫の抑制、そして需要予測と地域の紐付けおよびネットワーク内での商品配分の最適化による費用の抑制です。Google Cloud の小売業向けコンサルティング チームでは、「適正需要」の予測と「適正ノード」への在庫の配置を支援する AI / ML サービスを含む各種 Google Cloud テクノロジーを提案する、機能リファレンス アーキテクチャを開発しました。このアプローチにより、在庫の抑制による利益率の向上と、ネットワーク内での商品配分の最適化が可能になります。具体的に見ていきましょう。


需要予測サービス

需要予測サービスは、将来のある一定期間向けに目安となる数量を予測します。以下のように、予測される需要の基準は小売業者によって異なります。

  • 商品階層の SKU レベルやサブクラス レベル、および自宅配送(STH、一般またはウェブ限定)、オンライン購入店舗受け取り(BOPUS)、オンライン購入店舗発送(BOSS)、来店などのフルフィルメント レベル

  • 期間(9~18 か月先)

収益性予測サービス

収益性予測サービスは、SKU の収益性を計算し、商品階層の高い方のレベル(サブクラス)で集計します。収益性は次の 2 通りいずれかの方法で計算されます。

  • 1 点あたりの単価(AUR)、陸揚単価、フルフィルメントの費用、配送の費用から算出。

  • SKU に対して販売されたユニット数に基づく加重計算。算出されたデータは、サブクラス、フルフィルメント タイプ(一般またはウェブ限定の STH、BOPUS、店頭購入)、ノード(実店舗、サテライト店、納品センター、配送センター)ごとに保存されます。

この機能リファレンス アーキテクチャでは、収容力の制約、たとえば所定の週のうちに処理可能な受領ユニット数や、指定された受け取りフローで処理可能な発送ユニット数、収容力なども考慮しています。ある所定の週に、あるノードに対して割り当て可能な需要の上限を判断する際にこのアーキテクチャを使用します。

最適化ソルバーという機能もあり、その目的は週ごとの需要予測と収容力の制約を入力として取り込むことによって収益性を最大限に高めることです。このソルバーから出力されるのは、(前の手順で決定した)商品階層やフルフィルメントのノード(e コマースの納品センター(EFC)、小売業者の配送センター(RDC)、サテライト店舗(SS)、実店舗など)、またフルフィルメント タイプ(来店、BOPUS、STH)や未来の予測を決定する週に対して目安となる数量です。

最後に、販売業者はビジネス上のニーズや優先順位、その他の制約に基づいて、最適化ソルバーから得た目安を無視することもできます。

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図 1: 「適正在庫の予測と適正ノードへの配置」のための機能面のリファレンス アーキテクチャ

技術リファレンス アーキテクチャ

前述した機能リファレンス アーキテクチャは脇に置いて、ここでは技術リファレンス アーキテクチャについて説明します。これは、アーキテクチャの各層で活用できる Google Cloud のテクノロジーに関するガイドラインを提示するものです。このアーキテクチャの基本的な構成要素は次のとおりです。

データの統合と取り込みの層には、データの取り込みと処理に必要なデータの管理とデータ統合に関連する Google Cloud のサービスがすべて含まれます。これに該当する Google Cloud のサービスとしては、次のようなものが考えられます。

  • Dataflow: サーバーレスで高速かつ費用対効果の高い、ストリームが統合されるバッチ処理サービス。Dataflow は、売上や在庫、商品階層、プロモーション価格とプロモーションのカレンダーのイベントデータを BigQuery に転送する際に活用されます。

  • Dataproc: Apache Spark クラスタと Apache Hadoop クラスタを実行するためのサービス。Dataproc はすべてのバッチジョブに活用されます。

  • Cloud Composer: Apache Airflow をベースに構築されたワークフロー オーケストレーション サービス。Cloud Composer はスケジュール設定が必要なバッチジョブの転送に活用されます。

  • Apigee: サービスを API プロキシと一緒に前面に配置することでバックエンド サービスを抽象化する、Google Cloud ネイティブの API 管理ツール。データの読み込み、売上の集計、収益性、需要および最適化ソルバーなど、あらゆるサービスが、Apigee を活用して API を構築、管理、保護するサービスとして扱われます。

Data Cloud またはストレージの層では、統一されたオープンなアプローチで、入力データと処理済データの両方を格納します。Data Cloud では、組み込みの AI により、スピードとスケールとセキュリティのために構築されたデータドリブンな変革が可能になります。この層を対象とする Google Cloud のサービスには、次のようなものがあります。

  • Cloud Storage: 非構造化データを保存するためのマネージド サービス。保存できるデータ量に制限はなく、必要に応じて何度でもデータを取得できます。外部システムから取得された収容力の制約やフルフィルメント、送料や人件費に関連するデータが Cloud Storage に保存され、その後処理されて BigQuery に保存されます。

  • BigQuery: ビジネスのアジリティとインサイトを引き出す、スケーラビリティと費用対効果の高いサーバーレスのデータ ウェアハウス。BigQuery は入力データと処理済データ(売上集計データや週単位の需要、商品の収益性に関するデータを含む)を保存する際に活用されます。

  • Google Cloud を利用中の小売業者の場合は他のデータベース サービス。たとえば、商品階層やプロモーション価格データを保存する Cloud Spanner(拡張が無制限で強整合性と可用性に優れたフルマネージドのリレーショナル データベース)や、店舗販売および在庫に関連するトランザクション データを保存する Cloud SQL(MySQL、PostgreSQL、SQL Server を対象とするフルマネージド データベース)など。

高度な AI / ML サービス。Data Cloud をベースとする AI / ML 層であり、高度な AI / ML サービスの構築に活用されるストレージ層には、需要予測、利益予測、最適化ソルバーのサービスが含まれます。この層で提供されるサービスには、次のようなものがあります。

  • Vertex AI: ML モデルのトレーニング、ホスティング、管理用の統合プラットフォーム。Vertex AI は、需要予測や利益予測、最適化ソルバーといった、フルマネージド ML ツールを使用することで高速化する ML モデルの構築、デプロイ、スケーリングを行うために活用されます。

  • 可視化層、すなわち小売業者がクラウドネイティブなテクノロジーを使って構築し、Google Cloud にデプロイできるフロントエンド プラットフォーム。

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図 2: 「適正在庫の予測と適正ノードへの配置」のための技術リファレンス アーキテクチャ

デジタルに対する需要の高まりや顧客の購買パターンの変化、出荷と返品プロセスの関連費用を鑑みると、小売業者は、自社のデータや高度なデータサービス ツールとともに Google Cloud の AI / ML サービスなどのテクノロジー機能を活用して、「適正需要」を予測し、「適正ノード」に在庫を配置することで収益性を最大限に高めるべき時期に来ています。このアプローチを取ることで、保有在庫を抑制する、シーズン終わりの値下げを減らす、ネットワーク内での商品配分を最適化して需要予測と地域を結びつけるモデルを探すといった方法で、利益率を改善することが可能になります。このリファレンス アーキテクチャの実装方法を詳しく知りたい場合、または自社独自の課題についてご相談になりたい場合は、Google Cloud の営業担当者までご連絡ください。


- Google Cloud、小売業向けコンサルティング担当 Mohamed Rafee
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