Ubie株式会社:医療現場のタスク・シフトを推進する『AI問診Ubie』のシステム基盤に Google Cloud を採用
Google Cloud Japan Team
高度なセキュリティや可用性など、システムへの要求水準が極めて高い行政や金融業界がパブリック クラウドの活用を進める中、最も保守的な業界の1つとされている医療業界。しかし、近年、一部の大病院を中心にクラウドの利用が始まっています。そして、その活用事例の 1 つとして注目を集めているのが、医療機関での事前問診を AI が代行する『AI問診Ubie』です。Google Cloud がそのサービス構築にどのように貢献しているのかを聞いてきました。
利用している Google Cloud サービス:Google Kubernetes Engine、 BigQuery、 Cloud SQL、 AI Platform、Cloud Interconnect など
クラウドの力を活用して医療現場の課題を解決したい
医療機関を訪れた患者が、初診時に必ず求められる問診票への記入。しかし、従来の紙問診票では患者の症状に合わせた柔軟な質問ができず、医師が必要な情報を入手できないという大きな課題がありました。医療スタートアップ Ubie株式会社が提供する『AI問診Ubie』は、これを AI 技術を駆使する事で解決するソリューション。患者がタブレットに表示された質問に回答していくと AI が症状を推測し、診察時に必要な情報を個別化して聴取してくれるというものです。もちろん、電子カルテとの連携にも対応しており、結果として、初診の問診にかかる時間が約 3 分の 1 にまで短縮。カルテばかりではなく、より患者と向き合う診察を可能にするとしています。
2018 年の β 版提供開始時点では他のクラウド プラットフォームを使っていたという『AI問診Ubie』ですが、その年のうちに Google Cloud への移行を決断。11 月には移行を完了しました。そこにどのような理由があったのか、その開発をリードした久保さん、坂田さんは次のように当時をふり返ります。
「『AI問診Ubie』は当初、小~中規模のクリニックを中心に導入を進めていたのですが、それを大きな病院に拡げていくにあたり、より高度なセキュリティが求められるようになったというのが Google Cloud への移行を考えたきっかけです。また、将来的に『AI問診Ubie』をグローバル展開していくにあたり、Google のバックボーンに期待したという面もあります。」(久保さん)
「『AI問診Ubie』ではもともと問診の履歴やアクセスログなどのデータ分析周りで BigQuery を利用しており、今後、より多くのデータを処理していくにあたり、データありきでアプリケーションのプラットフォームも Google Cloud に置いてはどうかという議論もありました。」(坂田さん)
なお、医療の世界でクラウドプラットフォームを使うのは久保さん曰く「現時点ではかなり攻めた姿勢」とのこと。事実、多くの病院はほとんどの場合、院内ネットワークがインターネットに接続されておらず、それが導入における最初のハードルとなることが多かったそうです。
「厚生労働省は、院内ネットワークをクラウドに接続する際は VPN 経由で繋ぐことを推奨しています。これが病院それぞれの慣習・方針などもあってなかなか実現しにくいものの、対応できるトップレベルの大病院から徐々にクラウドの活用が始まっています。もちろん、それぞれ厳しい規定があるのですが、『AI問診Ubie』や Google Cloud はそれらを当初からクリアしていることが多く、現時点でいくつかの大学病院を含む医療機関で導入が始まっています。」(久保さん)
「もちろんその上でセキュリティについては、基本的な対策である IP 制限に加え、Web Application Firewall(WAF)を利用した SQL インジェクション対策や、Container Registry を使ったコンテナ脆弱性スキャンなど、一通りの対策は実施しています。ちなみに、先進的な大病院ほど情報システム部がしっかりしており、一緒に安全に接続する方法を考えていこうとしてくださるように感じています。今後、そこで得られた知見が多くの病院に広がっていき、クラウドを活用する流れはさらに加速していくでしょう。」(坂田さん)
そしてこれに合わせて、『AI問診Ubie』は Google Kubernetes Engine(GKE)を利用したサービスのコンテナ化も実施。これも Google Cloud を選択した大きな決め手の 1 つとなりました。
「『AI問診Ubie』は、久保らが創業前から研究・開発していたプロダクトで歴史も長く、2018 年にはコンテナ技術を使ってマイクロサービスに近い構成に再構築し直そうという動きが始まっていました。病気予測のモデルについても、心臓や脳、肺など、特定の部位に特化したモデルを個別にデプロイしていくことを想定しており、そうした柔軟性を実現できる仕組みができる Kubernetes に注目していました。そして、そうした Kubernetes のマネージドサービスの中で先進的だったのが、Google Kubernetes Engine(GKE)。導入がスムーズで運用負荷が少ないのは、当時、インフラ担当が私 1 人しかいなかった我々にとってとても魅力的でしたね。」(坂田さん)
Google Cloud を導入したことでサービスの開発が迅速・活発化した
そうして現在、約 200 の医療機関(病院・クリニック)で利用されている『AI問診Ubie』ですが、現場の評価はどのようなものなのでしょうか?
「まず医師からは、これまで問診票を見ながら電子カルテに入力し直していた手間がなくなったのが大きいと喜ばれています。また、一部の病院では看護師が患者と相対して問診を取るケースがあるのですが、混み合ってくると待ち時間が 20~30 分にもなってしまいます。そこに『AI問診Ubie』を導入することで看護師の負担が減り、患者の待ち時間も短くなったという事例もあります。」(久保さん)
医療業界では一部の業務を専門家からそうでない人やモノに移動させることを「タスク・シフト」と言い、働き方改革の要の 1 つとして注目を集めています。『AI問診Ubie』は、まさにそのタスク・シフトを実現し、医師や看護師が本来の業務に注力できるようにするサービスなのだと、久保さんは胸を張ります。
さらに『AI問診Ubie』では、最重要項目のひとつである病気予測のモデルの作成についても、Google Cloud の活用を開始しているそうです。
「機械学習については当初、他社のサービスを利用していたのですが、最近では、AI Platform Notebooks から JupyterLab のインスタンスを作成して学習させているケースが増えました。Google Cloud 内で完結させれば、データの転送速度は高速ですし、転送による課金の心配もありませんからね。」(坂田さん)
「なお、機械学習には、『AI問診Ubie』で取得した問診データを利用しています。『AI問診Ubie』ではサービスとして名前や生年月日などの個人情報を取得していないため、匿名化された状態で問診データを利用できるんです。また、医師側のアプリケーションには AI が予測した病名が、医師が疑っている病名と同じかをチェックする機構が組み込まれており、それらを 1 日 1 回のペースで自動で回していくことで日々 AI 診断の精度を高めています。もちろんまだまだ先は長いと考えていますが、AI が医師の想定していなかった疾患を見つけたというケースも見受けられるようになってきています。」(久保さん)
そのほかにも、Google Cloud を導入したことで、サービスの開発が活発化。久保さん曰く「以前の環境では、まずその機能を実現できるかできないかの議論があったのですが、Google Cloud 移行後はそういう話はほとんどなくなり、積極的に新しい機能を追加していこうという意識が生まれているように感じています」とのこと。これによって、例えばお薬手帳やクリニックからの紹介状をスキャン & OCR して『AI問診Ubie』と連携させる機能などが素早く実現し、機能の改善も効率的に進められているそうです。
「そして、現在、注目しているのが Cloud Spanner。今後、グローバル展開を見据えたサービスの拡充に合わせてユーザー数が増えていくことを考えると、スケールする RDB として使える Cloud Spanner の存在はとても魅力的です。まだこれから実証実験という段階なのですが、そう遠くない未来にはサービスに組み込むつもりです。」(坂田さん)
「私がエンジニアということもあって、Ubie にはシステムがビジネスを促進させるという考え方が根付いています。我々は今後も、先進技術に精通したエンジニアなど尖った仲間をどんどん増やして、Google Cloud のプロダクトの進化を取り入れ、より安定したアーキテクチャーの実現を通じて、医療分野に深く貢献していきたいと思っています。」(久保さん)
COVID-19 で逼迫する医療現場の負担や患者の不安を軽減する新サービスを迅速提供
そして 2020 年 4 月 28 日、COVID-19 が世界中で猛威を振るう最中に、Ubie は COVID-19 にも対応した新サービス『AI受診相談ユビー新型コロナウイルス版』を無料で提供開始しました。その最大の特長は、これまで医療機関向けに提供していた『AI問診Ubie』の知見と技術を、一般患者がスマートフォンや PC など使って自宅から利用できるようにしたこと。画面に表示された質問に答えていくだけで該当する参考病名の代表例を表示し、それに基づいた、医療現場に過度の負担をかけない適切な受診行動をアドバイスしてくれます。
『AI受診相談ユビー新型コロナウイルス版』のバックエンドは『AI問診Ubie』と同じもので、「今回 COVID-19 感染拡大の影響を受けて、一般患者向けのサービスが必要になると考え、当初年内に提供する予定で開発していた仕組みを大幅に前倒しして対応」したとのこと。
また、『AI問診Ubie』についても新たに拡張機能「COVID-19 トリアージシステム」を追加。来院前確認、来院直後(院内立ち入り前)確認、院内トリアージの 3 段構えで導入医療機関の外来機能維持をサポートします。
「今後も、サービス間のスムーズな連携など機能の充実をはかりながら、変化する医療現場のニーズに、テクノロジーを通じて迅速に対応していきたいと思います。」(坂田さん)
(写真左から)
・CEO 久保 恒太 氏
・Software Engineer, Reliability 坂田 純 氏
Ubie株式会社
医師・阿部吉倫氏と、エンジニア・久保恒太氏が 2017 年 5 月に創業した医療スタートアップ。2013 年から久保氏が独自に研究していた病気推測の研究を元に、2018 年、医療機関向けの AI 問診サービス『AI問診Ubie(ユビー)』をローンチ。「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに、コミュニケーション齟齬や事務作業の負担軽減など、医療現場の課題解決に尽力している。従業員数は 50 名(正社員のみ。2020 年 4 月現在)
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