東京理科大学:全学の教学データを集約するデータ分析基盤を Google Cloud 上に構築し、個別最適化した教育の実現へ
Google Cloud Japan Team
文科省「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)」のもと、今、多くの大学が教育 DX の推進を大きく加速させています。今回お話を伺った東京理科大学も、Google Cloud を用いた全学共通のデータ分析基盤構築や、それに基づく新しい学修支援システムの開発など、精力的な取り組みを行っています。その詳細について、本プロジェクトに関わった皆さんにお話しいただきました。
利用しているサービス:
BigQuery、Cloud Functions、Cloud Storage、Partner Interconnect、VPC Service Controls、Vertex AI、Data Catalog、Data Portal
利用しているソリューション:
処理性能、拡張性、そして安全性の高さが Google Cloud を選んだ理由
「学修者本位の柔軟な教育 IT 環境の実現により、学びの質向上を加速させる」という目標を掲げ、学生のためのネットワーク、コンピューター利用環境整備に注力してきた東京理科大学。近年では広報活動の一環としてメタバースを活用し、学長をリアルアバターで登場させるなど時代を先取りしたユニークな試みも意欲的に行っています。そんな東京理科大学が今、特に力を入れているのが「学びの質的転換を達成するための教育 DX」です。今年度から教育開発センターを教育DX推進センターに改組するなど、全学をあげたその取り組みについて、同センターを統括する教育支援機構の機構長も務める教育担当副学長 井手本 康氏と、同センターを推進する中心メンバーの 1 人である教育支援機構 教職教育センター 教授 渡辺 雄貴氏は次のように説明します。
「教育DX推進センターの最大のミッションは、急激に変わりつつある社会情勢を受けた、教育のあり方の検討や新しい教育方法の開発です。このたび文科省の Plus-DX事業に採択された取り組みは、本学の DX 推進計画 3 つの重点目標である ”教育プログラム改革” と ”教育手法の開発”、そして ”教育環境整備” のうち、”教育手法の開発” と ”教育環境整備” に焦点を当てたものであり、具体的には AI を活用した個別最適化による学修支援システムや、学修到達度測定 WEB テストの開発などを行っています。」(井手本氏)
「この取り組みにおいて最も重要なのは『すべてを学生に還元していく』ことです。大学が保有するさまざまなデータを、個別最適化を目指した教育支援にどう活かしていけば良いのか、そこが出発点でした。そのためには、どのようにして学内に点在する教学データを集め、クレンジングして一元管理するか、どのようにしてデータ分析の成果を学生一人ひとりに適切に還元していくのかという課題をクリアしなければなりません。今回はそこに Google Cloud を活用しています。」(渡辺氏)
実際のシステム構築は株式会社大和総研(以下、大和総研)が担当。Google Cloud の採用も大和総研側からの提案だったと言います。
「このプロジェクトでは短期間かつ低コストにシステムを立ち上げるということも重視していたため、パブリック クラウドの利用は必須でした。それらの中から Google Cloud を選んだのは、BigQuery の処理性能が優れていたことに加え、将来的に授業動画や音声など、さまざまなデータを蓄積・分析していく上で Cloud Storage を容量無制限で使えるコスト・拡張性のメリットが大きかったこと、そして既存オンプレミス環境と安全に閉域網接続できることなど、求められたセキュリティ要件を満たしていたからです。またデータ分析ツールの Vertex AI は将来の MLOps など考慮すると非常に魅力的なツールでした。」(大和総研 コーポレートシステム部 内山 知道氏)
「従来から本学では多くの教職員、研究者が Google Workspace をはじめとした Google プロダクトを活用しており、機能面だけでなく心理的にも Google Cloud との親和性が高いと感じていました。また、我々は現在、学内 IT 環境のフルクラウド化を推進しており、今回のようなデータ分析基盤は特に他のシステムと連携しやすいものにしたいという思いがあります。Google Cloud ならば、そうして集約されたデータをもとに、高度なリアルタイム分析や情報の可視化などを行えると聞き、採用を決めました。今後もより一層のリアルタイムな分析が求められる現状を踏まえ、このデータ分析基盤に東京理科大学のデータを集約していくことを構想しています。」(東京理科大学 経営企画部 広報課 課長 松田 大氏)
統合されたデータを AI で分析し、各学生にパーソナライズされた教育へ
東京理科大学の新しいデータ分析基盤では、オンプレミスの既存環境から閉域網を通して、Google Cloud 上にデータが格納されると、それをトリガーに Cloud Functions がデータのクレンジングを行いデータ分析基盤として活用。この際、Goole Cloud へのインバウンドは接続元 IP 制限および IAM 認証で、アウトバウンドについては全通信拒否というかたちでセキュリティを担保しました。蓄積されたデータは Vertex AI で分析されます。データポータルを使って分析結果の閲覧性を高めることも可能です。
「Vertex AI の各プロダクトの中で、今回特に重宝したのが AutoML 機能です。限られた開発期間で、効率的に分析のための仕組み作りを行っていかねばならない中、前処理でのデータ自動カテゴリ推測や欠損値の通知、補完など一連の作業をスムーズに進められるようになっているところがフィットしました。」(大和総研 システムインテグレーション部 末安 俊也氏)
「できあがったシステムでまず取り組んだのが、統合した教学データをもとに『在学時のどの学修特性が高パフォーマンスに寄与しているか』を分析するという取り組みです。さらに本年度は『卒業生の学部 1 年次までの教学データをもとに卒業時 GPA(成績評価値)を予測し、高パフォーマンスな卒業生と関連しうる要素を抽出する』モデルを構築する予定です。この結果を学部 1 年生各人にフィードバックすることで望ましい学修傾向に誘導する仕組みを作れればと考えています。」(渡辺氏)
なお、東京理科大学はこれと並行して、項目反応理論を駆使した学修到達度測定 WEB テストのシステムも開発。同システムは長年に渡って蓄積してきた「理数系高校生のための数学基礎学力調査」のシステムを基に構築しており、従来の学修到達度測定、収集方法の見直しを図ることで、学生それぞれにパーソナライズした指導へ活用していきたいとしています。
「今は目標達成の基礎を構築した段階。分析結果を学生一人ひとりに還元していくためには今後、分析結果の統計的観点からの精査が必要であると考えています。その際、探索的にデータを見ていくことができ、モデルのチューニングも容易な Vertex AI の AutoML 機能が役立ってくれるだろうと期待しています。大和総研の支援も受けながら、さらに機能に対する理解を深めていき、目的を達成したいですね。」(渡辺氏)
「渡辺教授ら専門家が、データをどのように分析するのかに時間を費やせるようになったことが大きな成果。システムの理解や、どうやって性能を引き出すかといった雑事にかかずらわせることなく、本来やるべき、本質的なことに集中していただけるようになりました。」(松田氏)
これらの成果を踏まえ、井手本氏は「今後も個別最適化した教育の実現に向けた取り組みを Google Cloud をはじめとした各種ツールを駆使して継続していく」と言います。
「ここまでは学生へのフィードバックのお話を中心に説明しましたが、教える側がデータを活用して学生それぞれの特性を知り、適切な教育方法を選んでいけるようになることにも大きな可能性を感じています。また、今回の取り組みの中で、従来では予想していなかった要因を抽出できることにも期待しています。」(井手本氏)
「今、アメリカでは DX がどれくらい進んでいるかが大学を選ぶ基準のひとつになりつつあります。こうした流れは当然日本にもやってくるでしょう。来るべき、その時代に向けて、我々が先陣を切って DX をリードしていきたいと考えています。」(渡辺氏)
創立から 141 年を迎えた、私立理系大学としては最も長い歴史を持つ理工系総合大学。創立以来の伝統として「実力主義」を掲げ、数多くの人材を育成・輩出してきた。神楽坂(東京)のほか、野田(千葉)、葛飾(東京)、長万部(北海道)にキャンパスを構え、7 学部、32 学科、7 研究科、30 専攻、計 19,113 名の学生が学ぶ(2022 年 5 月 1 日)。
インタビュイー
・教育担当副学長 教育支援機構長 井手本 康 氏
・教育支援機構 教職教育センター 教授 渡辺 雄貴 氏
・経営企画部 広報課 課長(前学術情報システム部 情報システム課 課長) 松田 大 氏
(Google Cloud パートナー)
インタビュイー
・コーポレートシステム部 内山 知道 氏
・システムインテグレーション部 末安 俊也 氏