サイオステクノロジー:次世代標準規格である HL7® FHIR® 採用のクラウド電子カルテサービスを Google Cloud で実現
Google Cloud Japan Team
サイオステクノロジー株式会社(以下、サイオステクノロジー)は、医療法人社団 成仁(以下、成仁)の委託・監修・設計のもとで、精神科病院向けのクラウド電子カルテサービス「INDIGO NOTE(インディゴノート)」を開発しました。この INDIGO NOTE は、次世代医療情報交換規格「HL7® FHIR®」をベースに構築された電子カルテサービスであり、その基盤には HL7® FHIR® 準拠の Cloud Healthcare API が採用されています。その背景や活用のポイントについて話を伺いました。
利用しているサービス:
Cloud Healthcare API、Google Kubernetes Engine、Cloud Storage、Cloud SQL
利用しているソリューション:
クラウド技術で日本の医療発展につながる新しい電子カルテシステムを構築
「INDIGO NOTE」は、精神科病院向けに開発されたクラウドベースの電子カルテサービスです。特筆すべき特長としては、データの蓄積および交換にかかる標準規格として、世界的に注目されている次世代医療情報交換規格の「HL7® FHIR®(Fast Healthcare Interoperability Resource)」を採用している点が挙げられます。その他にも、検査結果や処方、病名などの取り扱いについても厚生労働省標準規格に準拠することで、データの二次利用性を確保しています。
もうひとつの大きな特長は、国内の複数拠点でデータを分散管理するフルクラウドのサービスとして展開している点です。高い可用性を実現すると同時に、利用者である病院にとっては導入や運用のコスト削減を見込めるというメリットがあります。
サイオステクノロジーでは、この INDIGO NOTE の開発および運用基盤として、Google Kubernetes Engine(GKE)をはじめとする Google Cloud の各プロダクトを採用しました。また、データの保存基盤には HL7® FHIR® に準拠した Cloud Healthcare API を利用しています。
今回、新しい電子カルテサービスの開発を推進した背景について、成仁の理事長である片山 成仁氏は次のように語ります。
「従来の電子カルテは使い勝手や他病院との連携などに関してさまざまな課題を抱えており、クラウドを活用した技術で、日本の医療発展につながる新しい電子カルテシステムを構築したいと考えていました。ちょうど同じタイミングで厚生労働省でも電子カルテの規格標準化の構想が立ち上がっており、HL7® FHIR® を推奨する動きがありました。そこでサイオステクノロジー様と、愛媛大学医学部の木村 映善教授と協力して、産学共同研究という形で開発を進めることになりました。」
INDIGO NOTE のシステム基盤として Google Cloud を採用をする決め手になったのは、FHIR や医療データ通信の国際標準規格である DICOM®(Digital Imaging and Communications in Medicine) などといった医療系サービスと、インフラ構築のための GKE をはじめとするコンテナ系サービスが、いずれもフルマネージド サービスとして提供されていることだったと、サイオステクノロジー 取締役 専務執行役員の川田 覚也氏は語ります。
「当時、各社のクラウド サービスの中でも医療系サービスの充実度では Google Cloud が抜きん出ていたと思います。必須要件であった HL7® FHIR® への準拠も含めて、機能面やコスト、サポート体制なども考慮した結果、Google Cloud を採用することを決定しました。Google Cloud 採用の決め手になった主な調査項目としては次のようなものが挙げられ、そのすべてを満たすのが Google Cloud でした。」
機能ごとに個別にマイクロ サービスとしてプロビジョニングすることで可用性や保守性を確保
INDIGO NOTE では、電子カルテやテナント管理などといった個々の機能を、独立したマイクロ サービスとしてプロビジョニングすることで、高い可用性や保守性を実現しています。
INDIGO NOTE 開発責任者のサイオステクノロジー藤田 博俊氏は、システム基盤として GKE を採用した理由を次のように説明します。
「INDIGO NOTE は医療系のサービスなので無停止で 24 時間 365 日運用を行う必要があることや、多様な外部システム連携が必要なこと、そして制度改革などがあった場合には迅速にシステムに反映させなければならないことなどの要件がありました。これらの点も踏まえた結果、基盤部分のホスト環境には迅速なプロビジョニングが可能となる GKE が適していると判断しました。」
INDIGO NOTE の場合、コアとなる部分はマルチテナント構成になっているものの、会計処理や FHIR のように病院ごとに個別に管理する必要がある部分については、独立したシングル テナント環境にホストする構成になっているという特長があります。また、負荷の高い帳票レンダリングについては Cloud Run で実行することで、GKE のマシンリソースがスパイクしないように負荷分散する構成になっています。
電子カルテのデータストアの実装では、前述のとおり HL7® FHIR® に準拠した Cloud Healthcare API を利用しています。Cloud Healthcare API の利用について、FHIR 部分の開発を担当したサイオステクノロジーの田川 勇治氏は次のように説明します。
「INDIGO NOTE では 1 日に約 1,500 回の自動テストを実施しています。各テストが前後のテスト結果の影響を受けないように、CI / CD パイプラインでは 20 個のコンテナと 6 つのデータストア、そして Pub/Sub メッセージキューを新規構築し、テストが完了すると抹消する仕組みです。Cloud Healthcare API は数秒でプロビジョニングが完了するので、エンジニアは自身の書いたコードに対するテスト結果を即座に得ることができ、高速なフィードバック サイクルが可能になりました。」
医療制度の専門家と共同で日本の制度設計に則ったシステムとして組み上げる
INDIGO NOTE 以前にも自院で医療システムを内製していた片山氏は、電子カルテシステムを開発する難しさについて次のように語ります。
「実は電子カルテシステムというのは、電子カルテ本体の機能よりも、医師や看護師が行う検査や処方などを管理するオーダリングの機能の方が複雑なんです。オーダリング機能を作るには日本の医療の制度設計に関する知識も必要になります。電子カルテのフォーマットについても同様で、FHIR は国際標準規格なので日本の制度に必ずしもマッチしていない部分もあります。これをどうすり合わせるかが大きな課題でした。」
この課題をクリアするためには、医療の専門家からのアドバイスが不可欠だったと、田川氏は振り返ります。
「オーダリングに関するノウハウについては成仁様に全面的に協力していただいて、共同で要件定義を進めました。また FHIR については、共同研究者である愛媛大学医学部の木村 映善教授によるアドバイスのもとで日本のカルテ制度とのマッピングを行い、不整合が無くなるように注意深く設計を行いました。」
FHIR のデータストアとしての機能面でも、日本の医療制度に則ったシステムとして組み上げるための調整が必要でした。田川氏は次のように続けます。
「例えばデータ検索に関して、FHIR の標準機能だけでは日本の制度の要件を満たせない部分がありました。これについては Google Cloud のサポートチームから、Elasticsearch を併用する方法を提案していただいて無事に解決することができました。Google Cloud には、小回りが効くきめ細かいサポートをしていただき助かっています。」
今回、次世代の標準規格として注目されている HL7® FHIR® を採用したクラウド ネイティブな電子カルテサービスをいち早く構築できたことについて、その手応えを川田氏と片山氏は次のように語っています。
「これからは、病院間での患者さんの情報共有や、自宅にいながらの遠隔診療などで、共通のフォーマットを持った電子カルテの需要はますます高まってきます。実際、2022 年 4 月からは初診から遠隔診療ができるように制度改正されましたが、その条件として診療情報にアクセスできること、という項目があり、電子カルテが必要になっています。Google Cloud の強力なインフラをベースにフルクラウドのサービスとして開発した INDIGO NOTE は、そんな時代の医療 DX に貢献できるはずです。サイオステクノロジーは成仁様とともに本プロジェクトとは別に医療系の AI の研究開発なども進めています。そのあたりでも Google Cloud と連携してサービスを強化していきたいと思っています。」 (川田氏)
「日本は特に複雑な医療制度を持った国のひとつですが、医療系サービスに強くサポートが手厚い Google Cloud であれば、その制度設計に合わせられるということで、結果として実用的なクラウド サービスを構築できたことに非常に大きな手応えを感じています。将来的には、患者さん自身も自分の病歴や薬の情報、検査データなどにアクセスしたり、ライフイベントを載せて患者さんのマイレコードとして使えるような形に電子カルテを発展させていければと考えています。」(片山氏)
1997 年 5 月に創業し、2017 年 2 月にサイオス株式会社を持株会社とする事業会社として分割設立。サイオスグループが掲げる『世界中の人々のために、不可能を可能に。』というミッションに従い、オープンソース ソフトウェアを核とした IT システムの開発や販売、サポートなどを手掛けている。
1994 年創設。精神科医療福祉業界のパイオニアとして、救急病院から在宅生活の支援まで包括的な医療サービスを提供している。
インタビュイー(写真左から)
医療法人社団 成仁
・理事長 医学博士 片山 成仁 氏
サイオステクノロジー株式会社
・ 取締役 専務執行役員 川田 覚也 氏
・ Executive Manager 藤田 博俊 氏
・MedTech-SL チーフエンジニア 田川 勇治 氏
サイオステクノロジー株式会社の導入事例 PDF はこちらをご覧ください。
その他の導入事例はこちらをご覧ください。