カプコン: Cloud Spanner や GKE を用いて『ストリートファイター6』のためのクロスプレイ プラットフォームを構築
Google Cloud Japan Team
『ストリートファイター』や『バイオハザード』、『モンスターハンター』など、世界中で愛されるゲームシリーズでその名を知られる株式会社カプコン(以下、カプコン)。その最新 AAA タイトル『ストリートファイター6』では、ユーザーのすそ野を広げる意欲的な取り組みを多数実施して注目を集めています。そこに Google Cloud のテクノロジーがどのように役立てられているのか、開発の中核メンバーにお話を伺いました。
利用しているサービス:
Cloud Spanner, Memorystore for Redis, Google Kubernetes Engine, Anthos Service Mesh, Cloud Monitoring, Cloud Logging, Cloud Trace, BigQuery など
利用しているソリューション:
Google Cloud for Games, ゲーム向けデータベース
世界中のファンが集結できる「クロスプレイ プラットフォーム」
「我々カプコンはゲーム会社として知られていますが、かねてよりワンコンテンツ・マルチユース戦略を掲げ、保有するゲーム発の人気コンテンツ(IP)を映画や舞台などさまざまなメディアに展開してきました。そこにはファンの皆さんにもっと喜んでいただきたい、また、より多くの人にファンになっていただきたいという気持ちがあります。」
そう語るのは、カプコンで GM / VP of Engineering を務める井上真一氏。2023 年 6 月に発売された『ストリートファイター6』においても、より多くの人々に楽しんでほしいという強い思いを体現すべく、重要なミッションが課せられていたと井上氏は言います。
「『ストリートファイター』シリーズを含む "格闘ゲーム" というジャンルは、1990 年代に一大ブームを引き起こし、その後も長らく愛好されてきたものの、近年はプレイヤー層が従来からのファンに固定されている傾向がありました。そこで最新作となる『ストリートファイター6』では、シリーズをずっと追いかけ続けてくださった方々や、かつて『ストリートファイター II』などを遊んでいた人だけでなく、これまで格闘ゲームをプレイしたことのない人も含め、全方位に幅広く喜んでもらえるものを作ろうと決意し、"誰でも遊べるストリートファイター" をコンセプトに、開発がスタートされました。」
この観点から『ストリートファイター6』には、直感的なボタン入力で必殺技を繰り出せる「モダンタイプ操作」や、1 人でじっくり腕を磨くことができるシングルプレイヤーの没入型モード「ワールドツアー」など、さまざまなモードを用意。中でも特にユニークなのが、プレイヤー同士の交流を促す仮想ゲームセンター「バトルハブ」の存在です。バトルハブでは格闘ゲームならではのオンライン対戦に加え、アバターを使ったコミュニケーションが可能で、単にチャットするだけでなく、設置されたアーケードゲーム筐体(きょうたい)でカプコンの過去の傑作タイトルをプレイしたり、その様子を後ろから眺めたりといった、まさに在りし日のゲームセンターのような交流を可能にしました。
そしてカプコンは、これらの施策の効果を最大限に引き出し、より多くのプレイヤーに新しい楽しさを提供するべく、前作に引き続き、異なるゲームプラットフォーム間でのオンライン対戦などを実現する「クロスプレイ」対応を決定します。
「せっかく多くのユーザーが集まることができる空間を作ったのに、ゲーム機でプレイする人と PC でプレイする人とでコミュニティが分断されてしまうのはもったいないですよね。特に日本では PC ゲーマーが急増しているのでなおさらです。そこで『ストリートファイター6』では通信対戦などオンラインでの遊びをゲーム プラットフォームおよびエリアの隔てなく、同一に提供するため、独自の『クロスプレイ プラットフォーム』を Google Cloud を用いて構築することにしました。」(井上氏)
大規模システムをマネージド サービスを駆使して高性能、低コストに実現
異なるゲーム プラットフォーム同士を繋ぐクロスプレイ環境では、各ゲーム プラットフォームが提供するオンライン機能が利用できず、ユーザーデータの管理からフレンド機能、マッチング機能まで、基本的な機能を全て自前で再構築する必要があります。
「カプコンは前作『ストリートファイターV』(2016 年発売)でも他社クラウドサービスを用いたクロスプレイ対応を実現していましたが、当時と現在では機能や求められるネットワーク水準が大きく異なるため、利用するクラウドサービスについてもゼロから相応しい技術を選定する必要があった」と、技術選定から一任されクロスプレイ プラットフォームの開発をリードしたシステム基盤部 ゲーム基盤室 ネットワークリードエンジニア 中島淳平氏は説明します。
「世界に対して同時に、同一の品質でサービスを展開するにあたり求められるネットワーク品質、データベース性能を備え、かつ運用コストを抑えられる選択肢を検討した結果、Google Cloud のマネージド サービスがベストな選択肢だろうという結論に行き着きました。」(中島氏)
上図は『ストリートファイター6』のために構築されたクロスプレイ プラットフォームのシステム構成です。
データベースには Cloud Spanner が採用されており、そのキャッシュには超低遅延な Memorystore for Redis が使われています。API の提供には GKE(Google Kubernetes Engine)を使用しています。なお、API にはマイクロサービス アーキテクチャを採用しており、Anthos Service Mesh でリージョンを超えたグローバル クラスター メッシュを構築。それらを Cloud Monitoring、Cloud Logging、Cloud Trace などを用いて監視しています。また、プレイ分析には主に BigQuery を活用しているとのことです。
「極力、利用するサービスを絞り込んで管理コストを下げることを意識した構成になっています。その上で、『ストリートファイター6』ならではの工夫としては、Google Cloud の優秀なロードバランサとネットワーク品質を生かして、API のエンドポイントを米国リージョン 1 つに絞り込んでいることが挙げられます。本作では米国のほか、南米、アジア、欧州の 4 リージョンにクラスターを構築しているのですが、それぞれにデータベースを用意すると同期処理が必要になりますし、その管理コストもばかになりません。そこで本作ではエンドポイントまでに地域的なレイテンシを解決してしまい、リクエストが到着してからはどのリージョンからでも一定の速度となるようにしています。これは Google Cloud のネットワークが高品質だから実現できたことだと感じています。」(中島氏)
その上で大規模サービスの運用において大きな課題となるセキュリティについては、Google Cloud のベスト プラクティスに則った使い方を意識することで担保。
「おかしな使い方をしなければ、Google Cloud が面倒を見てくれますから、それに乗ってしまおうということです(笑)。本作はこれから何年も運用していくことになるサービスです。今、細かく自前で作りあげたとしても、いずれは必ず大がかりな修正が必要になるのであれば、この点は Google Cloud にお任せして、長期的にも負担なく良い状態を維持できるようにすることを選びました。」(中島氏)
Google Cloud ならではのプラネット スケールなサービス発展に期待
『ストリートファイター6』の世界同時発売とその後のその盛り上がりは期待通り、発売後わずか 3 日で販売本数 100 万本を突破、1 か月後には 200 万本を突破するという勢いを見せました。 ピーク時には最大約 12 万人ものユーザーが同時接続するという驚異的なアクセスを記録しましたが、中島氏は「ローンチから今まで大きな事故は起きていない」と胸を張ります。
「本作の成功によって、カプコンとしては今後、Google Cloud を使うという選択肢を得ました。単純に選択肢が増えたということで、よりベストな選択ができるようになったことは大きなプラスです。今回使わなかった機能やサービスも機会があれば掘り下げて行きたいと考えています。」(中島氏)
「我々カプコンのタイトル群には世界中のゲームファンの皆さんに楽しんでいただけているものが多くあります。Google Cloud はかねてより "プラネット スケール" という言葉で地球規模のサービス展開を標榜してきましたが、今後もぜひ、そうしたグローバルに、かつ柔軟に使える方向にサービスを発展させていってくれると、とても頼もしいと考えています。カプコンでは、最新のソリューションも最速のネットワークも、テクノロジーはすべて "おもしろさ" のためにあります。技術を駆使することで捻出したリソースを "おもしろさ" を産み出すために再投資し、これからも最高のコンテンツを作り続けていきます。」(井上氏)
株式会社カプコン
1983 年の創業以来、ゲーム エンタ-テインメント分野において数多くのヒット商品を創出するリーディング カンパニー。代表作として、『ストリートファイター』、『バイオハザード』、『モンスターハンター』、『ロックマン』、『デビル メイ クライ』などのシリーズ タイトルを保有。本社は大阪にあり、米国、イギリス、ドイツ、フランス、香港、台湾およびシンガポールに海外子会社がある。社員数は 3,332 名(連結 / 2023 年 3 月 31 日現在)。
インタビュイー(写真左から)
・GM/VP of Engineering 井上 真一 氏
・システム基盤部 ゲーム基盤室 ネットワークリードエンジニア 中島 淳平 氏
【関連動画】
Google Cloud Next Tokyo ’23 のアーカイブ配信から、カプコン 井上氏、中島氏の講演がご覧いただけます。
⚫︎カプコン 井上氏が登場する「DAY 2 基調講演」のアーカイブ配信はこちらから
⚫︎カプコンのエンジニア 中島氏、松村氏によるセッション「Street Fighter 6 アーキテクチャー大解剖」のアーカイブ配信はこちらから
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