コンテンツに移動
顧客事例

カインズ: Vertex Forecast を用いた需要予測 AI で、オリジナルブランド商品の販売計画や各店舗の発注を適正化

2023年12月5日
https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/hero_image_cainz_horizontal.max-2500x2500.jpg
Google Cloud Japan Team

全国にホームセンター事業を展開する株式会社カインズ(以下、カインズ)が、その需要予測に Google Cloud を活用。内製化支援プログラム「TAP(Tech Acceleration Program)」をご活用いただくことで、迅速かつ効率的にプロジェクトを推進できたと言います。ここでは、本プロジェクトに立ち上げから携わってきたエンジニアの矢口 未知彦氏から、その一連の取り組みとその成果についてお話しいただきます。

利用しているサービス:
Vertex Forecast, Vertex Pipelines, Cloud Run, Workflows, Cloud Storage, BigQuery など

利用しているソリューション:
TAP(Tech Acceleration Program)

需要予測 AI のトレーニングには Vertex Forecast を採用

市場規模 3 兆 3,420 億円(2022年、経済産業省調べ)のホームセンター業界の中で売上高 1 位(※)を誇るカインズは、2018 年に「IT 小売業宣言」を掲げ、組織のデジタル活用を強力に推進してきました。そうした中、2021 年 11 月に AI を用いた需要予測プロジェクトがスタート。本プロジェクトの立ち上げから携わる同社デジタル戦略本部 データプラットフォーム部 需要予測グループの矢口 未知彦氏は、その狙いを次のように説明します。

https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/_K3A0494_small.max-1200x1200.jpg

「需要予測の AI 化は、カインズオリジナル商品の販売計画立案と各店舗の発注適正化が目的です。オリジナル商品の需要予測は、これまで社内ディストリビューターが長年の経験に基づいて行っていたのですが、ベテランと新人で精度に大きな差がついたり、別カテゴリーへの担当変更でノウハウが失われてしまう問題がありました。一方、店舗別・商品別の需要予測については、扱う商品点数が膨大というホームセンターの特性から、在庫数が "定点" を下回ると自動的に補充発注される定点発注方式を採用しているのですが、その需要予測に直近数週間の移動平均を使っていたために、季節性のある商品の需要や直近のトレンドを踏まえた需要を正しく予測できないという課題がありました。」

https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/architecture_cainz_202312_small.max-1400x1400.png

上図は Google Cloud を活用して構築された、現在の需要予測システム構成図です。グループの基幹システムから収集、加工したデータを用いて需要予測モデルをトレーニングし、そのモデルを使って週に 1 度、需要予測を実施。結果を基幹システムに戻すというものです。

「実は初期はモデルのトレーニングに他社のソリューションを使っていたのですが、需要予測の適用範囲を広げていく中で性能に限界を感じ、Vertex Forecast に置き換えたという経緯があります。Vertex Forecast の良いところは、大規模な学習データを扱え、多変量のマルチ ホライズン予測ができ、何よりアルゴリズムとして優れていることです。なお、需要予測では、その結果に対して根拠の説明が求められがちですが、Vertex Forecast には Vertex Explainable AI の機能が備わっており、このモデルではこの特徴量や説明変数が効いているといったことをある程度説明可能です。また、学習時間を指定してトレーニングできるためトライ アンド エラーしやすい点も気に入っています。我々のように少ない人員でやるには、とても扱いやすいツールだと感じました。」(矢口氏)

なお、その適用対象は 2022 年 6 月の運用開始時にはオリジナル商品は一部カテゴリー、店舗別の発注については旗艦店である伊勢崎店の一部商品に限定されていましたが、2023 年 4 月には オリジナル商品の予測対象は全カテゴリー、店舗別の予測対象は 6 店舗全商品に拡大。さらに、10 月末には 48 店舗での運用が可能になり、カインズの年度末である翌年 2 月末までの全店展開を目指しているとのことです。

「2018 年の IT 小売業宣言から加速した IT 化への取り組みが店舗に浸透してきたこともあって、導入に対する拒絶反応のようなものはほとんどありませんでした。むしろ、需要予測をより効果的に機能させるためには、その前提となる在庫管理の精度をより高める必要があるといった前向きな提言をもらうほどです。」(矢口氏)

2 度の TAP 活用で最適なアーキテクチャを効率的に構築

2021 年 11 月にプロジェクトが立ち上がり、およそ半年後となる 2022 年 6 月に運用開始した需要予測 AI。その構築において、カインズは TAP を利用したことで効率的な開発を実現できたと言います。

「実は今回、TAP を 2 度利用しました。1 回目はプロジェクトが立ち上がったばかりの 2021 年 12 月。すでに実行基盤を Google Cloud にすることは決めていましたが、チームに Google Cloud の知見がほとんどなかったため、どのサービスを組み合わせれば良いのかという部分から相談しました。ヒアリングからプロトタイピングまで、全 3 日間のプログラムでしたが、そのときに作ったアーキテクチャがつい先日まで動いていたほどの完成度で仕上がり、とても勉強になりました。」(矢口氏)

そして 2 度目は 2023 年 4 月に実施。当時、需要予測 AI の適用対象は オリジナル 商品の予測は全カテゴリーおよび店舗別・商品別の予測は 6 店舗にまで拡大しており、これを 50 店舗に拡大していこうという段階でした。

「店舗数が大幅に増えるということは、扱うデータ量もそれだけ増大するということです。ただ、当時は 6 店舗のデータで推論時の前処理が約 3 時間かかっていましたから、単純計算でこれはもう 1 日で終わらないぞ、と。そこで TAP を通じて、50 店舗でも、200 店舗でも時間内に処理が終わるようなアーキテクチャの検討を相談しました。」(矢口氏)

この依頼を受け、TAP では Cloud Run を並列に実行できる新機能、Cloud Run jobs の利用を提案します。

「これまではそれぞれの前処理を 6 店舗直列で行っていたのが並列で行えるようになったことで、どんなに店舗が増えても、50 分程度で完了するようになりました。Cloud Run jobs は 需要予測プロジェクトをスタートさせた 2021 年時点にはなかった機能で、私たちはその存在を知りませんでした。TAP を利用して改めて痛感したのが、一度作り上げたアーキテクチャが絶対のものではないということ。新しい技術や機能を取り入れてアーキテクチャを洗練し、より効率的にしていく "モダナイゼーション" の大切さを強く実感しました。」(矢口氏)

需要予測 AI は全てのプランニングのベースになり得るポテンシャルを持つ

新たなアーキテクチャに刷新されたカインズの需要予測 AI は、これから全店舗展開に向け適用を加速していきます。矢口氏は「まずは、この全店舗展開が第一の目標」と前置きしつつ、その先の展望について次のように語ってくれました。

「我々のような小売業者にとって、商品の需要予測はあらゆるプランニングのベースになり得るものです。その精度を高めていくことで、当初の目的だった オリジナル商品の販売数量予測や各店舗の発注適正化だけでなく、在庫の最適化、物流の最適化、商品企画の最適化など、あらゆる最適化が実現できるでしょう。私としては、この需要予測を足がかりに SCM(サプライ チェーン マネージメント)の最適化に挑戦したいと考えています。」

そうした新たな挑戦に向け、どんどん新しいサービスを生み出し、アップデートしていくことを Google Cloud に期待しているという矢口氏。

「最新のサービスの情報や、それをどう使うのかも含めた提案を今後も期待しています。ちなみに、現在私が気になっているのは 、2023 年 5 月に発表された開発者向け生成 AI、Duet AI for Google Cloud。リアルタイムのコード提案にはとても興味があるので、いずれこれを使って開発をさらに効率化できたらと考えています。」

※カインズ新卒採用「CAINZ Infographics 数字から見るリアルなカインズ」より、 売上高 4,826 億円(2022年2月末)、業界ランキング 1 位(2022年時点)。https://recruit.cainz.com/newgraduate/ (2023 年 11 月参照)


https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/_K3A0817_small.max-1200x1200.jpg

株式会社カインズ
物販チェーンを中心とする 30 社で構成されるベイシアグループの中核企業として、ホームセンター事業を展開。豊富な オリジナル 商品群に代表される店舗メンバーも含めた全員参加の商品づくりで知られる。店舗数は関東地方を中心に 234 店舗(2023 年 6 月 1 日)、従業員数は 13,086 名(2023 年 2 月末現在)。

インタビュイー
デジタル戦略本部 データプラットフォーム部 需要予測グループ 矢口 未知彦 氏


その他の導入事例はこちらをご覧ください。

投稿先