Google Cloud で無線アクセス ネットワークを再定義する
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2023 年 2 月 28 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
この 10 年間、通信サービス プロバイダ(CSP)は自社のモバイル ネットワーク アーキテクチャの変革に取り組んできました。今、最先端領域となっているのは無線アクセス ネットワーク(RAN)です。本日、Mobile World Congress 2023 Barcelona において発表させていただいたとおり、Google Distributed Cloud Edge 上で無線アクセス ネットワーク機能をソフトウェアとして実行できるようになりました。これにより CSP は、ネットワーク コアからネットワーク エッジにまで拡張する、広く使用されているアジャイルな運用モデルを使用して、高度なプログラム可能性、柔軟性、および低い運用費用を実現できます。
現在までに、さまざまな CSP がオープン アーキテクチャ、オープンソース ソフトウェア、分離、自動化、クラウド、AI と ML、新しい運用モデルなどを利用するようになりました。このジャーニーの始まりは、約 10 年前のネットワーク仮想化です。最初は付加価値サービスの分野で始まり、その後、コア ネットワーク アプリケーションで普及が進み、ここ数年でクラウドネイティブな方向に進化しました。コア部分が大幅に進歩し、今では Cloud RAN の時代がやって来ました。
しかし、業界や地域に固有のコンプライアンス上の理由、データ主権の必要性、またはレイテンシやローカルデータ処理に関する要件に関係なく、モバイル ネットワークや有線ネットワークにデプロイされるネットワーク機能のほとんどは、ネットワーク機能がオンプレミスとクラウド リージョンの組み合わせに柔軟に配置される、ハイブリッド デプロイモデルに従わなければならないでしょう。従来から独自仕様のハードウェアで実装される RAN もまた、例外ではありません。
2021 年に Google は Google Distributed Cloud Edge(GDC Edge)をリリースしました。これは、一貫性のある運用モデルをパブリック Google Cloud リージョンからお客様の施設にまで拡張するオンプレミス サービスです。このハイブリッド アプローチにより、CSP は容易な開発、迅速なイノベーション、優れたスケーリングと運用効率を実現しながらネットワークをモダナイズし、しかも同時にテクノロジー リスクと運用費用を削減できます。GDC Edge は、2022 年に一般提供されました。
Google の Cloud RAN ソリューションの 4 本の柱
本日リリースされた Telecom Data Fabric および Telecom Network Automation とともに、GDC Edge の RAN サポートは、クラウド、AI、自動化の世界を前提としたモバイル アクセスの新しい時代の幕開けを意味します。
Google の RAN 戦略は、4 本の柱(クラウド インフラストラクチャ、分析、自動化、RAN ネットワーク機能プロバイダとのパートナーシップ)を通して、オープンかつ革新的で、価値を差別化する一連のプロダクトとソリューションを提供することです。O-RAN アライアンスの一員として、Google のソリューションは独自のリファレンス アーキテクチャ上に構築され、vRAN と O-RAN の両方(合わせて Cloud RAN という)のデプロイをサポートします。これにより、お客様に柔軟性と移行パスが提供されます。

では、Google Cloud RAN フレームワーク内のソリューションのそれぞれの柱によって実現する主な機能をいくつか見てみましょう。
最適化されたクラウドネイティブ インフラストラクチャ
クラウドネイティブ ネットワーク変革では通常、ハイブリッド クラウドエッジ基盤から多くの恩恵が得られます。つまりオンプレミス ワークロード向けの GDC Edge と、クラウド リージョンからより集中的にサービスを受ける機能向けの Google Cloud です。加えて本日は、Network Function Optimizer を使用してネイティブな Kubernetes マルチインターフェース ネットワーキングとトラフィック高速化を可能にする Google Kubernetes Engine(GKE)の高度な機能も発表しました。
非 RT RIC、SMO、管理機能などのソリューション コンポーネントの多くはクラウド リージョン ベースのデプロイに適していますが、Google の Cloud RAN プラットフォームは GDC Edge を十分に活用し、お客様の施設における極めて重要な RAN ネットワーク機能の実行を支援することで、ソフトウェアとハードウェアの両方に次のような主要な機能を提供します。
多世代ネットワーク - CSP は非スタンドアロン(NSA)戦略や SA 戦略に基づいてネットワークのモダナイゼーションを絶えず繰り返しています。多世代ネットワークをサポートできるよう、GDC Edge は標準的 MIMO 構成と大規模 MIMO 構成のサポートのどちらも備え、さまざまな周波数の TDD バンドと FDD バンドを長波、中波、およびミリ波(mmWave)でサポートします。
柔軟なデプロイモデル - GDC Edge は、仮想中央ユニット(vCU)と仮想分散ユニット(vDU)で構成された O-RAN に完全に準拠する分離ネットワークを使用して、一貫性のあるクラウドネイティブ プラットフォームを提供できます。デプロイモデルでは、集中型(C-RAN)トポロジと分散型(D-RAN)トポロジがサポートされるようになりました。CSP は自社の制約に応じた正しいデプロイモデルを選択できます。この制約には、ファイバーや不動産の利用可能性、帯域幅要件、および距離 / レイテンシの制約が含まれます。
フォーム ファクタ 費用の最適化 - サイト固有のデプロイ要件により、計算密度、機器の奥行きとアクセスに関する制限、環境強化、電力、冷却などの制約が生じることがあります。GDC Edge は C-RAN ユースケースや D-RAN ユースケース向けの柔軟なラックと縮小されたフットプリントを提供します。これによりクラウド フットプリントをセルサイトにまで拡張できます。
パフォーマンスとスケール - GDC Edge は可用性と性能に優れたプラットフォームとして設計されており、さまざまな冗長メカニズムをサポートすることで制御とネットワーク データプレーンの可用性を保証します。GDC Edge は、高度な命令セットを備えた Intel Xeon CPU と、CPU コアあたり複数の AVX-512 SIMD、および Enhanced Platform Awareness を Kubernetes 環境で提供することにより、高性能なデータプレーンの実現を支援します。GDC Edge の最適化されたホスト EdgeOS により、リアルタイム カーネル用のオプションが可能になります。これは決定論的な予測可能性と低レイテンシを提供し、ベアメタルと同程度のパフォーマンスの確保を支援します。L1 高速化では、ルックアサイド アクセラレータとフルインライン L1 アクセラレータのどちらかを使用することで、Google の NF パートナーやお客様に柔軟性を提供しながら、リアルタイム vDU ネットワーク機能の性能要件が満たされます。
時間同期 - 時間同期(TS)は RAN の基本的な要件です。GDC Edge インフラストラクチャはこの機能を提供することで、さまざまな O-RAN 準拠 D-RAN および C-RAN デプロイモデルが可能になります。さまざまなプラットフォーム ソフトウェア機能と、TS 対応 NIC、ネットワーク アンダーレイ デバイス、その他の手法によって可能になるハードウェア機能を組み合わせることができます。
GDC Edge for Cloud RAN にはハイパースケール構築における Google の 20 年に及ぶ経験が活かされており、インフラストラクチャを水平方向にスケーリングし、包括的な自動化、ライフサイクル管理、および SRE ベースの運用がクラウド プラットフォーム スタック全体で利用可能です。該当する Google Cloud データ プライバシーおよびセキュリティ プラクティスを、スタック、スパニング アプリケーション、ネットワーク、ストレージ、およびサプライチェーン ワークフロー全体に拡張できます。
高度な分析用の統合データ ファブリック
データドリブンなインテリジェント ネットワークを活用して、CSP は運用効率化と費用削減を実現できます。CSP は、ほぼリアルタイムのインテリジェンスを利用することでネットワーク性能を向上させ、カスタマー エクスペリエンスを改善し、ネットワーク効率を高めて、サステナビリティ イニシアチブを推進できます。
本日、Google は Telecom Data Fabric を発表いたしました。これを利用して、データ管理プラットフォーム エクスペリエンスの簡略化、高価値データへのパスの高速化、制御ループの自動化を促進できます。このクラウドベースのサービスはハイブリッド クラウドエッジ分析機能を強化することで、従来型と最新型の O-RAN O1 および O-RAN O2 インターフェースの標準化を支援します。マルチベンダー ネットワーク機能プロバイダからのデータを一般的なデータモデルに変換できるので、分析アプリケーション プロバイダは分析情報と制御ループの自動化を推進できます。AI モデルと AI アプリケーション(非 RT RIC 用の rApp と準 RT RIC 用の xApp)からなる RAN 固有のマーケットプレイスは再利用性を高めます。これにより予測インテリジェンスとジャストインタイム RAN の最適化が可能になり、ネットワーク性能、サブスクライバー品質のエクスペリエンス、エネルギー効率、その他多くのユースケースの質を向上させることができます。
インテントベースの自動化と制御
大規模なプラットフォーム、インフラストラクチャ、ワークロード、およびエンドツーエンド サービスのライフサイクル管理ユースケースを含む包括的なセットを自動化することは、Cloud RAN に必要な効率性、信頼性、および TCO 削減の目標の達成につながる基本的な要件です。新しい Telecom Network Automation は、CSP 向けの Google Cloud クラウドネイティブ ネットワーク モダナイゼーション サービスに不可欠なコンポーネントであり、インテント主導の宣言型自動化を採用することで、インフラストラクチャ機能とネットワーク機能の両方を大規模に処理でき、ライフサイクル管理と最適化に役立ちます。高度な制御ループベースの自動システムは、O-RAN 準拠コンポーネントのデプロイ、スケール、および最適化を一つに統合して合理化をサポートすることで、より簡略化された自律ネットワークを推進します。
この自動化の実現に向けて、Google のネットワーク機能エコシステム パートナーが Nephio イニシアチブで働いています。このイニシアチブの目的は、Kubernetes 準拠の CRD とオペレーターを促進し、O2、O2-IMS、O2-DMS、O1 などの O-RAN インターフェース仕様を満たすことです。
ネットワーク機能プロバイダとのエコシステム パートナーシップ
成功につながる RAN クラウド化戦略の中核は、オープンな業界基準と新しいイノベーションでしょう。それとともにネットワーク機能プロバイダとの戦略的パートナーシップは、Google の CSP ネットワーク モダナイゼーション戦略の中心に位置しており、Cloud RAN も例外ではありません。
Google は世界中の CSP から、マルチベンダー対応のオープンなソリューションを構築するよう依頼を受けています。Cloud RAN パートナーとの緊密なコラボレーションにおいて、Google はフルスタック ソリューションを事前に統合、テスト、検証することで、CSP の統合負担が軽減され、共同ソリューションのデプロイ、管理、運用が容易になります。Google のパートナー エグゼクティブのコラボレーションに関するコメントを以下にご紹介します。
Ericsson - 「Cloud RAN は、サービス プロバイダの 5G ネットワークにスケーラビリティと柔軟性をもたらし、それらがオープンなネットワーク アーキテクチャに進化できるように支援してくれるでしょう。近端 / 遠端デプロイ向けに Google Cloud の GDC Edge とコラボレーションすることは、ネットワーク進化の一環として CSP が積極的に Cloud RAN を導入する助けになるでしょう。」 - Ericsson 社、Engineering Unit Cloud RAN 担当テクノロジー責任者、Oscar Toorell 氏
Mavenir - 「オープン RAN は、5G RAN からクラウドネイティブな仮想化および自動化されたネットワークへの変革を加速させています。この変革により、コアとエッジの両方のクラウド インフラストラクチャのメリットを利用できるようになります。Mavenir の完全にコンテナ化されたソリューションは、Google Cloud と GDC Edge の柔軟性と、最新世代 CPU による組み込みハードウェア アクセラレーションを組み合わせることで、オープン RAN コンポーネントがより大容量、より高性能、そしてよりエネルギー効率に優れたものとなり、非リアルタイム / ほぼリアルタイムのネットワーク最適化を自動化する AI / ML 型 RIC によってより良い運用効率、スケーラビリティ、信頼性を CSP に提供します。」 - Mavenir 社、テクノロジー戦略担当バイス プレジデント、Jane Shen 氏
Nokia - 「Cloud RAN に対する共同アプローチは、Cloud RAN を採用している組織に競争優位性を与え、効率性、イノベーション、オープン性、スケーリングを推進できることを意味します。当社は、業界をリードするパートナーと協力し、あらゆるパートナーのクラウド インフラストラクチャまたはサーバー ハードウェアで一貫してパフォーマンスを伸ばすことにより、この目標に大きく近づきました。」 - Nokia 社、パートナー Cloud RAN ソリューション責任者、Pasi Toivanen 氏
結論として、ソフトウェア定義による RAN 変革は CSP の最優先事項です。Google Cloud と CSP およびネットワーク機器ベンダーとの連携により、クラウド インフラストラクチャ、分析、自動化、セキュリティ、運用プラクティスを包括する一連のプロダクトとソリューションが実現し、こうして CSP は無線アクセス ネットワークを再定義できるでしょう。CSP やモバイル ネットワーク アーキテクチャの変革を中心とした今後の可能性と機会や、それらがお客様にもたらす良い影響を想像するだけでワクワクします。Google はこれらのプロダクトやソリューションで多数の大手 CSP と連携しており、今後数か月の間に、より多くの最新情報をお知らせする予定です。Google の Cloud RAN のビジョンとサービスの詳細については、Google Cloud 担当者にお問い合わせください。
- Telco Cloud 担当グループ プロダクト マネージャー - DP Ayyadevara