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顧客事例

凸版印刷:AI 運用パイプライン構築で作業時間を月 20 時間削減し、モデル構築と予測のコストを 10 分の 1 に削減

2023年2月10日
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Google Cloud Japan Team

「すべてを突破する。TOPPA!!!TOPPAN」というブランド メッセージに基づき、印刷の領域だけではなく、デジタル マーケティングにおいても得意先に対するさまざまな領域での課題解決力を発揮している凸版印刷株式会社(以下、凸版印刷)。取り組みの 1 つとして、AI ソリューション「KAIDEL(カイデル)」を提供しています。この KAIDEL の AI ソリューションに、統合 AI プラットフォーム Vertex AI が採用されています。Vertex AI の導入プロジェクトについて、デジタルマーケティングセンターのセンター長、およびメンバー 2 名に話を伺いました。

利用しているサービス:

Vertex AIBigQueryCloud Storage、Cloud FunctionsContainer RegistryCloud MonitoringLooker Studio

利用しているソリューション:

AI と機械学習のソリューション(データ サイエンス)

チームで 1 つの仕組みを利用できる一体感が重要なポイント

凸版印刷では、デジタル エコノミー社会に対応すべく、顧客中心主義を実現するためのデジタル マーケティングの取り組みを推進。顧客を起点としたデータの収集、統合・価値化、活用という 3 つのサービスによるマーケティング ROI(投資利益率)の向上を目的に、データを活用したウェブ広告から CRM までの統合型 PDCA をサポートしています。

データ活用の一環として、AI ソリューションを活用したプロモーション ターゲティング サービス KAIDEL を提供しています。KAIDEL は、取引先が保有する過去データから分析した特徴を基に、高見込み顧客を発見し、マーケティング施策の ROI を向上することを目的に、2017 年 6 月よりサービスの提供が開始されています。

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デジタルマーケティングセンター 課長の森川 東勲氏は、「2000 年ごろから、得意先のデータを預かり、課題解決のための分析やレポート作成を行っていました。その発展形で、カタログや DM(ダイレクト メール)の送付業務も行っていたので、より効果の高いお客様を見つけることを目的に KAIDEL が誕生しました」と話します。

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デジタルマーケティングセンターの梶原 康至氏は、「当初、KAIDEL は、他の AI プラットフォームを利用していましたが、機械学習用のデータをオンプレミスの別環境で作成することが必要なため、データを移動させるために工数がかかり、データ量が多いと移行処理に時間がかかっていました。またオンプレミスのストレージは容量に限界があり、維持管理に工数とコストがかかることも課題でした」と話します。

そこで、AI プラットフォームのリプレースの検討を開始。2021 年より Google Cloud の機械学習プラットフォームの Vertex AI を採用した AI 運用パイプラインの構築を開始しています。Google Cloud を採用した理由は、全社的に利用している Google Workspace のアカウントが使えるので、導入のハードルが低いこと、日常的に業務に使っているスプレッドシートなどと連携がしやすいことなどでした。

森川氏は、「いくつかのクラウド サービスを比較検討しましたが、Google Cloud の Vertex AI は、ほかのクラウド サービスよりもインターフェースが優れていて、使い勝手がよかったことや、ウェブ広告や CRM などの仕組みの構築も増えていたことから、既存のビジネス領域との親和性が高いことも採用の理由でした。チームで 1 つの仕組みを利用できる一体感は、非常に重要なポイントだと思っています」と話しています。

Vertex AI 選定の決め手は精度とコスト

2022 年より本稼働している新しい KAIDEL は、まずは Vertex AI の AutoML を活用し、顧客一人ひとりに対して、行動を起こす確率を予測して、スコアを付与する仕組みを構築しました。その後、Google Cloud の各プロダクトを利用した AI 運用パイプラインを構築することで、運用の半自動化を実現。AI の継続的運用の省力化を可能にしています。

現在の KAIDEL 構成は、まず外部システムやローカル環境から、顧客データや購入履歴データなど、必要なデータを抽出し、Cloud Storage に格納します。そのデータを BigQuery に取り込み、Vertex AI Pipelines で AutoML を呼び出して、モデル作成、スコアリングを行い、その結果を Cloud Storage に戻す仕組みになっています。

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KAIDEL システム構成図

Google Cloud を採用した効果を梶原氏は、「運用の半自動化により、作業時間を月に 20 時間削減できたほか、モデル構築と予測のコストを約 10 分の 1 に削減できました。また、ストレージ間の連携やデータの移行の作業負荷、容量の限界などを気にしなくてよくなったので、精神的にも楽になっています。安心感があるということは、数値には現れませんが、現場の担当者にとって大きな効果でした」と話します。

Vertex AI の選定の決め手は、精度とコストでした。梶原氏は、「複数のアルゴリズムを用いてモデルを作成するため、処理時間が大きくなってしまいますが、それを差し引いても、業務全体としての時間が大幅に削減できたため、使いやすいというのが Vertex AI の評価です。精度に関しては非常に高く、これまでの案件とモデル精度を比較した結果、Vertex AI の方が精度が高い結果となりました。日々の実案件でも問題なく利用できており、得意先からも、高く評価されています」と話します。

得意先からの評価について森川氏は、次のように話します。「ある得意先では、当初は手作業で簡単なターゲティングをして、DM を送付したり、キャンペーンを実施したりしていました。KAIDEL を利用することで、従来の施策に比べて約 3 倍の購入率を実現しています。すでに金融業界や流通業界など、多くの企業で効果を上げています。KAIDEL を説明するときに、アルゴリズムの確かさなどを説明することが必要なのですが、『Google Cloud の AI エンジンを使っています』と話せばすぐに納得してもらえます。」

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ビジネス面での効果をデジタルマーケティングセンター センター長の梅川 健児氏は、「これまで AI 活用にかかわってきたのは、エンジニアとデータ アナリストまででした。Google Cloud は、GUI(Graphical User Interface)が優れているので、マーケティングのメンバーも直感的にツールを活用することができます。これまでは特定のチームが便利になる、特定の部門の売上が上がるという効果でしたが、これからは、あらゆるチーム、部門でシナジー効果を発揮することが期待できます。また、これまで個別に導入していたテクノロジーを、Google Cloud による共通基盤に集約することで、個別最適を全体最適にすることができます。凸版印刷のすべてのサービスに対応するには、数十社のベンチャーのテクノロジーが必要ですが、Google Cloud の豊富なサービスにより 1 社で対応できるのもメリットです。Google Cloud の最新テクノロジーを活用できることが、社員のモチベーションにもつながっています」と話しています。

サービスのモジュール化で各チームが効率的に得意先の DX を推進

現在、凸版印刷では、KAIDEL を構築していく流れの中で開発した、データ取り込み、数値予測、スコアリング、機械学習データ集計などの処理をモジュール化し、得意先の課題やテーマに応じて、モジュールを組み合わせ、各種パイプラインを効率的に構築、提供できるサービスを開始しています。今後、このサービスを目的別にメニュー化し、得意先の課題解決に活用していく計画です。

梅川氏は、「社内でも、IoT センサーをサービスとして提供しているチームや決済系のサービスを提供しているチームなど、さまざまなチームが DX を推進しています。Google Cloud のプロダクトによるサービスのモジュール化で、各チームが自分たちでモジュールを組み合わせ、DX を推進できる仕組みづくりも進めていきたいと思っています。そのために、どのようなモジュールが必要かをアンケートしているところです」と話します。

また、今後いかに人材のケイパビリティを向上していくかも重要な取り組みの 1 つ。現在、約 10 種類の職能を定義していますが、この定義を増やしていく予定です。また、KAIDEL のような AI を活用した仕組み一つひとつの稼働状況を管理します。AI の稼働状況を社員と同じように管理することで、人と AI が同居するデジタルマーケティングセンターの実現を目指しています。

梅川氏は、「AI の稼働状況は、売上や利益などの KPI の 1 つとしても組み込まれるので、売上が伸びても AI の稼働量が増えていなければ、事業そのものが評価されません。そこで、ウェブ広告や CRM 運用の担当者も含めたデジタルマーケティングセンター全体で、AI の恩恵を直接的に受けられるようにしていこうと計画しています。これにより、経営上 IT 投資がより一層しやすくなり、わかりやすくなります。これまで以上に他社の成功事例やビジネスモデルなどを取り込みたいと思っており、そのためのサポートを Google Cloud には期待しています」と話しています。


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凸版印刷株式会社

1900 年に創業。現在、印刷テクノロジーをベースに、「情報コミュニケーション」「生活・産業」「エレクトロニクス」の 3 つの事業分野にわたり幅広い事業活動を展開。持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指す「中期経営計画(2021 年 4 月~2023 年 3 月)」では、"Digital & Sustainable Transformation" を基本方針として掲げ、経営戦略に SDGs 視点を反映させた企業活動を推進し、グローバル市場を視野に「デジタル」と「リアル」を最適に組み合わせた事業を展開しています。

インタビュイー(写真右から)

デジタルマーケティングセンター  

・センター長 梅川 健児 氏

・コミュニケーションデザイン本部 インタラクティブ部 2 部 2 チーム 梶原 康至 氏

・コミュニケーションデザイン本部 インタラクティブ部 2 部 2 チーム 課長 森川 東勲 氏


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