生成 AI と共に歩むアダストリアの未来:ファッション業界の顧客体験を進化させる AI 活用事例
Google Cloud Japan Team
グローバルワークやニコアンドなど人気ブランドを 30 以上展開する株式会社アダストリア (以下アダストリア)は、AI 技術を駆使し、顧客体験の向上に成功しています。今回は、デジタルソリューション本部の梅田和義氏とアダストリアの 100 % 子会社、株式会社アンドエスティのアンドエスティ事業部上田航大氏に、その具体的な取り組みについてインタビューしました。
利用しているサービス:Gemini API, BigQuery, Looker Studio など
現場の声を元に商品開発や接客を進化させる、アダストリアの生成 AI 活用
アダストリアは、生成 AI を活用し、顧客の声を収集・分析することで、商品の開発や改善、店頭での接客の精度向上に取り組んでいます。
従来、顧客の声は主に EC サイトを中心に集めている商品レビューを通じて収集していました。しかし、商品レビューは購入した顧客の声に限られるため、購入に至らなかった顧客の声を収集・活用することで、より顧客ニーズに応えられる商品を開発できるのではないかと考えました。
以前は、各店舗の店長が会議で顧客の声を共有していましたが、情報量や質にばらつきがあり、定量的な分析も困難でした。さらに、情報収集のために現場担当者が 1 -2 分かけて都度メモを作成し、店長が集まったメモを 1 時間かけて要約するなど、多くの手間と時間がかかっていました。
そこでアダストリアは、店舗スタッフが顧客の声を簡単に記録・共有できるソリューション「STAFF VOICE」を開発しました。
STAFF VOICE では、スタッフが接客後、購入に至らなかった商品のバーコードをスキャンし、顧客の反応を接客したスタッフが音声で録音します。例えば、「Mサイズのストレッチパンツを試着したのですが、かかんだ時に思ったより丈が短くなってしまったので買わなかった」のように、アプリに向かって 30 秒程度話すだけで記録が完了します。
録音された音声は、STAFF VOICE アプリ内でテキスト化され、BigQuery に集約されます。さらに、Gemini を活用することで、顧客層、期待する利用シーン、購入に至らなかった理由などが分析され、Looker Studio で可視化されます。これらの分析結果は、製品の改善や接客の改善に役立てられています。
例えば、「グローバルワーク」というブランドの「ウツクシルエットテーパードパンツ」という商品では、サイズ感などが課題として想定されていましたが、確証を得るには至っていませんでした。しかし、STAFF VOICE で収集した顧客の声を分析した結果、膝周りのサイズ感やかがんだ時の窮屈さなどの課題を感じている顧客が多いことが判明しました。そこで、これらの声を基に製品を改良した結果、初動の売上が数 % 伸びるという成果が得られました。
STAFF VOICE は現場スタッフからも高く評価されており、アダストリアでは今後、社内での活用を拡大するとともに、外部への販売も進めています。
お客様の声はLooker Studioを使ってダッシュボード化されている ※画像はサンプルです
意味理解とパーソナライズで EC サイトを進化
アダストリアが展開する 公式 WEB ストア and ST (アンドエスティ)では、顧客体験向上のため、Vertex AI Search for retail と Recommendations AI を導入しました。
従来の検索エンジンでは、個々人に合わせたパーソナライズや、検索ヒット率の向上に課題がありました。例えば、「赤 ワンピース」はヒットするのに「赤いワンピース」だとヒットしないなど、意味を理解した検索ができていませんでした。また、ブランド名である「スタディオクリップ」を「スタジオクリップ」と誤表記した場合にもヒットしないなど、表記ゆれや同義語への対応も不十分でした。このような課題に対応するため、辞書登録機能を活用していましたが、課題を発見するたびに手作業で対応する必要があり、商品件数が増えている中、運用負荷が高くなっていました。
そんな中、Vertex AI Search for retail について知りました。意味理解による検索の精度を見て、「本当にこれができるのであれば凄い」と思い、検証に取り掛かったと上田氏は話します。
検証では、実際にシステムの一部に組み込み、A / B テストを行うことで効果検証を行いました。「検証段階でも、自分で幾つかキーワードをいれて検索をしてみたのですが、明らかにこれまでよりも自分にあった商品がファーストビューで表示されているなと感じました。これはお客様体験が格段に向上すると確信しました。」と、実際のユーザ目線でも大きな価値になると感じたと話します。
Vertex AI Search for retail の導入は、検索体験の向上に大きく貢献しました。意味理解による検索精度の向上により、ユーザーが求める商品にたどり着きやすくなった結果、検索から商品詳細ページへの遷移率が 15% 向上し、コンバージョンレートは 20 % 改善しました。また、ユーザの行動データが溜まり、検索の結果がパーソナライズされるようになると、遷移率が更に 5% が向上しました。
加えて、「カテゴリから探す」ページでは、Recommendations AI を活用することで、パーソナライズされた商品レコメンドを提供しています。これにより、ユーザー一人ひとりの好みに合った商品を提案できるようになり、商品遷移率が 9 %、コンバージョンレートが 16 % 向上しました。
これらの改善により、以前は多かった「検索がしづらい」といった顧客からの声がなくなり、「以前より目的の商品を見つけやすくなった」「おすすめ商品が自分に合っていて嬉しい」といった肯定的な意見が寄せられるようになりました。
「ブランド数や商品数が増加し続ける中で、顧客がストレスなく欲しい商品を見つけられるようになったことは、大きな成果です。また、EC サイトをカタログ代わりに利用する顧客も多い中、商品詳細ページへの遷移が増加したことで、商品魅力をより深く理解してもらえるようになった点も大きな効果です。」と上田氏は話します。
Imagen 活用で撮影コストを 50 % 以上 削減
アダストリアでは、EC サイトの運用効率化に画像生成AI「Imagen」を活用しています。
増加するブランドや商品点数に対応するため、EC サイトに掲載する画像の準備は大きな負担となっていました。従来の方法では、ロケ、機材、スタジオ代など、多大な費用と時間がかかっていました。
そこでアダストリアは、Google Cloud の Imagen に注目。営業チーム主催のワークショップに、EC 担当者を含む 30 名近くの社員が参加し、Imagen の操作方法やプロンプト作成のコツを学びました。
EC 担当者をワークショップに巻き込んだ理由について、梅田氏は次のように語ります。「各ブランドのEC 担当者は、それぞれのブランドコンセプトを深く理解し、独自の表現方法を持っています。そのため、Imagen を実際に使ってもらい、それぞれのブランドイメージに合った画像を生成できるか確認することが重要でした。」
ワークショップ後、法務部門と連携し、Imagen 利用に関するガイドラインを策定。わずか 2 週間後には、EC サイトでの運用を開始しました。
EC 担当者は、Imagen で生成した画像をそのまま使うのではなく、自身の持つブランドへの想いや感性に基づいて画像を評価し、プロンプトを調整することで、ブランドイメージに合致する高品質な画像を生成しています。
Imagen の導入により、導入したブランドにおいて、撮影コストを 50 %以上削減することに成功しました。
生成 AI で未来を創造 - アダストリアの挑戦
生成 AI の活用を積極的に進めてきたアダストリアは、さらなる進化を目指し、新たな取り組みを始めています。
今後の展望について、梅田氏は次のように語ります。
「生成 AI に関しては、現場から様々なアイデアが生まれてきています。現在、特に力を入れているのは、Gemini を活用した対話型接客の実現です。EC サイト上で、まるで店舗にいるかのようなリアルな接客体験を提供し、人間の対応では難しい 24 時間体制でのを目指しています。」
さらに、Google Meet の録画を活用した取り組みも進めています。「本部と店舗店長とのミーティング内容を AI が自動的に要約し、重要な情報や課題を抽出することで、情報共有の効率化を図っています。これにより、実績、顧客の反応、地域状況などを体系的に把握できるようになり、迅速な意思決定に役立ちます。」
このように、アダストリアは生成 AI を活用することで、顧客体験の向上だけでなく、業務効率化や社内コミュニケーションの活性化にも取り組んでいます。
株式会社アダストリア
株式会社アダストリアは、東京渋谷区に本部を置く、カジュアル衣料品および雑貨を中心としたSPAブランドを展開し、グローバルワークやニコアンドなど、幅広い世代に向けた人気ブランドを多数展開するアパレル企業です。
株式会社システムサポート
Google Cloud の認定パートナーとして数多くの生成 AI 案件の実績を持ち、今回の Vertex AI Search for retail と Recommendations AI の基盤開発をサポートしました。
インタビュイー
株式会社アダストリア
デジタルソリューション本部 兼 DX本部 梅田 和義
株式会社アンドエスティ アンドエスティ事業部 上田 航大