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顧客事例

カプコン: ゲーム開発に必要な数十万件のアイデア出しを生成 AI で支援し、クリエイターの生産性を大幅に向上

2025年1月17日
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Google Cloud Japan Team

『モンスターハンター』シリーズや『ストリートファイター』シリーズなど、世界中のゲーマーから圧倒的に支持される人気タイトルを次々にリリースしてきた株式会社カプコン(以下、カプコン)。同社はこれからも高品質な作品を生み出し続けるべく、生成 AI をはじめとする新技術の活用に積極的に取り組んでいます。そうした先端技術の導入に向けた取り組みについて、タイトル横断で技術開発に取り組む担当者から最新の事例を伺いました。

利用しているサービス:
Vertex AI, Gemini Pro, Gemini Flash, Imagen, Cloud Run など

利用しているソリューション:
生成 AI

費用・工数が増大するゲーム開発を生成 AI を活用して効率化

世界で受け入れられるヒット コンテンツを安定して生み出し続ける開発体制づくりにこだわり、内製ゲームエンジン「RE ENGINE」の開発など、生産性向上という課題に真正面から取り組み続けてきたカプコン。しかし昨今、1 つのゲームタイトル開発にかかる費用・工数は増大の一途をたどっており、ゲームメーカー共通の悩みとなっていました。こうした中、同社でテクニカルディレクターを務める CS 第二開発統括 システム基盤部 ソリューション開発室 副室長の阿部 一樹氏は、先端技術を駆使したゲーム開発の効率化でこの難題を解決できるのではないかと考えました。

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「ゲーム開発の中でもとりわけ手間と時間のかかる要素の 1 つが、ゲームの世界観を作り込んでいくためのアイデア出しです。たとえばゲーム空間内にテレビが置いてあったとして、現実にある商品をそのまま使うわけにはいきません。形状やメーカーのロゴなどを自分たちで考えて作り込んでいく必要があるのです。」

そうした「オブジェクト」は 1 つのタイトルあたり数千から万単位で存在し、しかも比較検討のためにはそれぞれに複数のアイデアが必要です。「使われないものも含めると最終的には数十万のアイデアを考える必要がありました」と阿部氏はその負担の大きさを説明します。各アイデアには内容を説明するテキストだけでなく、実際に「オブジェクト」を作り上げるアート ディレクターやアーティストに誤解なくイメージを伝えるための図版も必要で、その準備にも膨大な手間が発生していました。

そこに効率化の余地を見いだした阿部氏は、生成 AI が人間による膨大な量のアイデア出しを支援するパートナーになり得るのではないかと着想。マルチモーダルな生成 AI に、テキストや画像、表などからなるゲームの設定資料を読み込ませ、必要なアイデアを自動出力させる仕組みを作り上げることで、高速化・効率化ができると考えました。その実行基盤に Google Cloud を選んだ理由については次のように説明します。

「今回の取り組みではアイデアのテキスト出力に加え、画像出力や、そのためのプロンプト生成、でき上がったアイデアの要件評価などでも幅広く AI 技術を活用しています。 Google Cloud なら、これらを Vertex AI という枠組みの中で一括運用できますから、低い管理コストで実装できるメリットがありました。」

なお、ゲーム開発では膨大な量の入出力をレスポンス良くこなしていく必要がありますが、その点でも Google Cloud は優れていたと阿部氏は評価します。

「生成 AI に設定資料を解析させた結果をプロンプトに与えて出力されるまでの時間が他社サービスでは数分だったのに対し、Gemini では数秒と圧倒的に高速でした。これはスピード重視のゲーム開発においては明確なアドバンテージとなります。」

加えて、画像生成で用いる Imagen 2 のビジュアル品質の高さや、用途に応じて高精度な Gemini Pro と高速な Gemini Flash を使い分けられることなども、Google Cloud の採用を後押ししました。

生成 AI 導入によりアイデア出しのコストが激減

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「まだ先行きの不透明な取り組みだったため、開発は私ひとりで始めたのですが、Vertex AI の使いやすさに助けられたこともあり、わずか 1 か月弱で性能評価可能なところまで作り込むことができました」と開発初期段階を振り返る阿部氏。性能評価も Cloud Run などを用いて簡単に実施でき、退勤時に実行した結果を翌日に修正するというサイクルでクイックに作り込んでいけたと、Google Cloud での開発の容易さを強調します。

「まだ一般提供に至っていないサービスも使っていたため、ドキュメントになっていない機能もあったのですが、問い合わせるとすぐに回答が返ってくるなど、サポートのレスポンスが早いことにも助けられました。」

なお、本システムの開発において特にこだわったのが、出力されたアイデア(テキスト、画像)が要件に適合しているかを Vertex AI を用いて評価し、要件を満たしていなかったり、水準に達していなかったりした場合には修正プロンプトを自動作成し、アイデアの出力をリトライする仕組みも実現したこと。これにより低品質な出力を自動で排除し、人力によるトライ&エラーなしに、高品位なアイデアを多数出力できるようになりました。

さらに、生成されたアイデアを資料として再利用することで、アイデアのブレイクダウンもできるようにもしています。たとえば、映画のポスター案を出力させた後、映画のステッカーも提案させたり、お菓子のアイデアを元に、そのパッケージをデザインさせるといったことが可能になりました(下図)。

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「現在はまだ試験運用中ですが、大量かつ多様なアイデアを高速に出力できるようになったことに手応えを感じていますし、実際に試用した開発メンバーからの評価も上々です。単にアイデア出しの時間を短縮できただけでなく、生成 AI(Gemini)とブレストするような感覚でアイデア出しできるようになったのもメリットの 1 つと言えるでしょう。これまでは複数名で行っていたアイデア出しとブレストのサイクルを、個人で回せるようになったのです。」

現在は、エンジニアを増員し、より現場のメンバーが利用しやすいようなインターフェースを開発中。将来的には生成されたアイデアや画像に対して、部分的に修正を施せるようにするほか、社内ネットワークに直接アクセスできない外部パートナーが利用しやすいようなかたちにアップデートしていくことも検討中です。

「現時点での試算ではアイデア出しをすべて人力でやっていた頃に比べて大幅にコストを低減できる見込みです。ただし、カプコンの開発者たちはただコスト削減をしただけでは満足しません。そうして生まれた余裕の多くはクオリティ アップにつぎ込まれることになるでしょう。」

Google Cloud と連携しつつ、今後もさらに生成 AI を活用していきたい

カプコンでは現在、アイデア出しのシステム以外にも、さまざまなかたちで生成 AI を活用あるいは研究中です。

阿部氏は「今回の取り組みを通じ、改めて、生成 AI に業務効率を大幅に改善する可能性を感じた」と生成 AI を用いたゲーム開発の効率化への手応えを語り、開発の効率化だけでなく、ユーザー体験や、アーティストたちが手がける最終成果物の品質向上にも生成AIを活用していきたいと今後の展望を語ってくれました。

「そうした取り組みの中で、今後も適材適所で Google Cloud の各種 AI プロダクツを利用していくことになるでしょう。カプコンの技術と Google の技術を組み合わせることで、これまでにない新しい価値を生み出したり、もっと面白いチャレンジができるようになるはず。引き続き、優れた技術の提供と緊密な連携体制を維持しつつ、一緒に新しい挑戦に取り組んでいけることに期待しています。」


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株式会社カプコン
1983 年の創業以来、ゲーム エンターテインメント分野において数多くのヒット商品を創出するリーディング カンパニー。代表作として、『バイオハザード』『モンスターハンター』『ストリートファイター』『ロックマン』『デビル メイ クライ』などのシリーズ タイトルを保有。本社は大阪にあり、米国、イギリス、ドイツ、フランス、香港、台湾およびシンガポールに海外子会社がある。社員数は 3,186 名(連結 3,531 名、2024 年 3 月 31 日現在)。

インタビュイー
CS 第二開発統括 システム基盤部 ソリューション開発室 副室長 阿部 一樹 氏


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