セイコーソリューションズ株式会社:クラウド辞書サービス『GIGANTES』を Cloud Run で構築
Google Cloud Japan Team
かつて高校生のマストアイテムの 1 つとされていた電子辞書。しかし、インターネットやスマートフォンの普及で、その市場はピーク期の 4 割程度にまで縮小しています。そうした時代の移り変わりを早くに予見したセイコーホールディングスグループは 2015 年にハードウェアとしての電子辞書ビジネスから辞書アプリビジネスにシフトし、現在は電子辞書市場で培った知見とノウハウを活かしたタブレット向け『セイコー辞書アプリ』を提供中です。そんなセイコーホールディングスグループの次の一手が辞書アプリの Web サービス化。そこに Google Cloud がどのように利用されているか、サービスを提供するセイコーソリューションズ株式会社と、その開発パートナーである株式会社トップゲートの皆さんにお伺いします。
利用している Google Cloud ソリューション:
サーバーレス コンピューティング
利用している Google Cloud サービス:
Cloud Run、Cloud Storage、Cloud SQL、Memorystore、BigQuery など
メンテナンスレス運用を目指し Cloud Run を導入
セイコーソリューションズ株式会社が 2016 年からサービスを開始している『セイコー辞書アプリ』は、表示の見やすさや使い勝手の良さが好評で、個人ユーザーのほか、多くの高校、中高一貫校への導入が進んでいます。しかし、対応デバイスがタブレット端末に限定されるなど、主にマーケティング面でいくつかの課題があったと同社モバイルソリューション本部の堀野さんは言います。
「現在、文部科学省が推進する GIGA スクール構想によって、義務教育の現場に学習用端末が急速な勢いで普及しています。そうした中、学習端末の多様化が進んでおり、タブレット端末からシフトするかたちで PC や Chromebook のシェアが大きく拡大しているのです。特に Chromebook の伸長には目を見張るものがあります。そういった中、デバイスにとらわれない、新たな辞書サービスをクラウドを用いて展開していくというのが我々のマーケティング的な目標です。具体的には、Google Cloud を利用して、2021 年春からクラウド辞書サービス『GIGANTES(ギガンテス)』を提供開始しています。」(セイコーソリューションズ 堀野さん)
数あるクラウド プラットフォームの中から Google Cloud を選んだのは、将来に向けたサービス規模拡大に耐えうるスケーラビリティを期待したから、と話すのはセイコーソリューションズ 浜原さん。
「潜在顧客となる高校生の人数は約 300 万人。しかも今回の COVID-19 禍によってさらに普及が進むのではないかと見られています。とは言え、当初から 300 万人の利用に耐えうるインフラを構築するのは現実的ではありません。そこでトップゲートと相談し、Google Cloud 上にサーバーレス ソリューションを利用してサービスを構築することになりました。」(セイコーソリューションズ 浜原さん)
「今回、サーバーレス ソリューションを提案させていただいたのは、この先、利用者数が一気に増大したとしてもスケーラビリティに優れた Googel Cloud の強みを最大限引き出せるから。また、今後の保守運用など、定常的な負担をなるべく小さくしたいという狙いもありました。」(トップゲート 関戸さん)
こうした狙いを踏まえ、今回のプロジェクトではフルマネージド型のサーバーレス コンピューティング プロダクト Cloud Run を利用。オープンな Knative と互換性があるため開発しやすく、ビジネス規模の拡大にメンテナンスレスで追従しやすいと考えての選択です
「一般的に新たなプロダクト導入の際には、そのプロダクト自体に合わせた実装方法が求められ、さらにプロダクトのアップデートに伴う仕様変更ごとにメンテナンスが発生、また、そこに付随したベンダー ロックインによる問題も発生しがちです。その点、アプリケーションをオープンな仕様のコンテナという形でパッケージングできる Cloud Run なら原則としてそうした問題が発生しません。また、開発という観点からも、開発環境、ステージング環境、本番環境の差異を必用以上に意識することなくコンテナを使えるメリットは多く、Cloud Run を積極的に利用したいと考えました。」(トップゲート 関戸さん)
辞書の価値を損なうことなくクラウドへ
下図は『GIGANTES』のシステム構成ですが、構造上の工夫としては、表示を担当するフロントエンドと機能を担当するバックエンドに分割し、Cloud SQL や Cloud Datastore などのマネージドサービスを上手に活用しながらマイクロサービス化していることが挙げられます。ここには将来的に『GIGANTES』の機能(バックエンド)をさまざまなサービスに応用・拡大していった後も、コストを抑えつつ、信頼性、メンテナンス性を担保するという狙いがあります。
「各辞書の編者が辞書に込めた想いを、アプリの提供者として最大限工夫して表現していくという基本姿勢にたち、『GIGANTES』では、フロントエンドは柔軟に、比較的高頻度に修正作業やメンテナンスを可能とすることを想定しました。しかし、フロントエンドに修正が入るたびにバックエンドの修正が必要になると、手間の問題に加え、信頼性の面で懸念が発生します。『GIGANTES』では、今後、さまざまな利用形態に最適化した表示(フロントエンド)を追加していくことも想定しているので、そうしたリスクを最大限減らしておきたかったのです。」(セイコーソリューションズ 浜原さん)
ちなみに、辞書データは、各出版社が LeXML(辞書および事典類の構造化を目的とした XML 仕様)という形で作成するのですが、それを辞書サービス上で利用するにおいては、LeXML の形式に乗り切らない制作者側の想い、考えをしっかりと汲み取る必要があるのだと言います。
「縦書き、横書きどちらで表示するのか、梯子高(髙)に代表される異字体をどう表現するかなど、辞書データには LeXML での表現から外れた、各辞書ごとの独自の扱いがあります。『GIGANTES』では、こういった想いになるべく寄り添えるように、また、それによって複雑になりすぎないように、辞書データを LeXML をベースとした本システム向けのデータ表現へと正規化するようにしています。」(セイコーソリューションズ 浜原さん)
「かつて電子辞書の時代はそうした作業を手作業でやっていました。しかし、今回の取り組みでは、出版社様の想いを汲み取りつつも、極力自動化してコストを下げています。複雑化し過ぎたデータが将来に禍根を残さないようにすることも、今回の開発で重点を置いたところです。」(セイコーソリューションズ 浜原さん)
また、もう一つ「辞書」ならではの難しさとして検索のレスポンス向上が挙げられます。
「電子辞書の時代は、複数の辞書を一括検索する際のレスポンスがとても重視されていました。辞書を引くというユーザー体験に直結するところ、つまりそれこそが辞書の “価値” なんです。もちろん『GIGANTES』でもこれを重視。データベースの工夫、そして Google Cloud のパフォーマンスによってレスポンスの高速化を実現しています。」(セイコーソリューションズ 廣富さん)
さらに『GIGANTES』では検索の一貫性も重視。サーバーサイドの検索ロジックを、WebAssembly を用いてそのままフロントエンドから使えるようにし、どのようなシーンにおいても検索結果がぶれないようにしています。
「『GIGANTES』では当初より高速検索に加え、インクリメンタル サーチ(逐次検索)をできるようにしたいという要望がありました。これを受け、当初はフロント側で、取ってきたデータをフィルタリングしてレスポンスを担保するアプローチを検討したのですが、そのやり方だと検索結果の一貫性を保つのがとても難しくなります。例えばサーバーサイドでコードの修正が発生した場合にフロント側の修正が必要になりますし、その逆も発生します。そこで今回は、WebAssembly を利用することで、この問題を解決しています。」(トップゲート 矢ヶ崎さん)
ハードウェアからアプリへ、そしてクラウドにステップアップしていくセイコーの電子辞書サービス。今後は、検索結果の分析や、音声認識を利用した発音認識・採点機能など、クラウドならではの特性を活かした機能強化も進めていく予定です。
「今回、Google Cloud を選んだ決め手となったのは、Google が教育市場にとても熱心に取り組んでいること。Google Classroom や Chromebook などといったプロダクトとの相乗効果で、生徒さんにより良い辞書サービスを広く、厚くお届けしたいと考えています。将来的にはセイコークラウド辞書でも Google Cloud の提供する分析基盤 BigQuery を活用することで、単に辞書サービスを提供するに留まらず、トータルで学習をサポートするサービスの提供を検討していきます。」(セイコーソリューションズ 廣富さん)
セイコーソリューションズ株式会社
セイコーホールディングスグループのウオッチ、電子デバイスに続く主柱事業としてグループ内のシステムソリューション事業を統合するかたちで 2013 年 4 月に営業を開始。コンサルテーションから、システム構築、運用管理までワンストップで最適な ICT ソリューションを提供する。従業員数は 667 名(単独 / 2020 年 4 月 1 日時点)。
セイコークラウド辞書GIGANTES(ギガンテス)は、小学生から高校生を対象としたクラウド辞書サービスです。Chromebook をはじめ様々な端末で利用でき、更には 1 IDで 3 端末まで同時に使え、いつでもどこでも辞書サービスが活用できる環境を提供します。
特長としては、充実した検索機能、学習効果を向上させる学習支援機能を搭載し、直感的に利用できる操作性を実現します。また、長年に亘り定評のある辞書群を収録し、生徒の皆さんの学習を強力に支援します。
(写真左から)
・モバイルソリューション本部 モバイル IoT・ソリューション技術統括部長
廣富 淳 氏
・モバイルソリューション本部 MS事業推進部 担当部長 浜原 研作 氏
・モバイルソリューション本部 MS事業推進部 担当部長 堀野 友作 氏
(Google Cloud パートナー)
(写真左から)
・大阪事業所 / Developer West Section / Leader 関戸 栄一 氏
・Product Division / Product Sales Section 増谷 謙介 氏
・大阪事業所 / Developer West Section 矢ヶ崎 圭 氏
*事例制作:2021 年 4 月