SAP ジャパン株式会社:沖縄県の観光プラットフォームに GCP を採用
Google Cloud Japan Team
既存の技術に先端技術を付加することで、イノベーションを加速させるインテリジェント エンタープライズを推進する SAP ジャパン(以下、SAP)。顧客やパートナーとイノベーションを創出する取り組みの一環として、沖縄県で観光プラットフォームの実証実験を実施しています。この観光プラットフォームの構築と、SAP と Google Cloud のパートナーシップについて、SAP の福田代表取締役社長、イノベーション・スペシャリスト吉田さんに話を伺いました。
利用している Google サービス:Google Cloud Platform、Google Analytics
O2O を一気通貫で実現できることを評価して Google Cloud Platform を採用
2018 年、沖縄県を訪れた観光客数は 1 年間で 999 万 9,000 人に上ります。これは、ハワイの 995 万人を超える規模ですが、一方で観光客 1 人あたりの消費額は、ハワイの半分以下にとどまっています。また、観光客の急増から、交通機関の混雑や宿泊施設の不足などの問題も顕在化。沖縄県では、増える観光客の満足度をさらに向上させるとともに、観光収入を増やす策を講じる必要に迫られていました。
観光資源の最大化、観光収入の向上とともに、住民の QoL(クオリティ オブ ライフ)も向上させる取り組みができないだろうか。デジタルエコシステム統括本部 ビジネスイノベーション推進部 イノベーション・スペシャリストの吉田彰さんは、「企業に取り入れられているデジタル トランスフォーメーション(DX)を沖縄県で実践し、沖縄をスマート アイランド化するプロジェクトを開始しました」と話します。
まずは観光資源の最大化を目的に、観光客の行動データを収集して、分析するプロジェクトをスタート。2018 年夏よりディスカッションを開始し、11 月より実質 1 か月程度でデータ・ドリブン観光プラットフォームを実装して、2019 年 1 月~ 3 月の期間で実証実験の第 1 弾を、2019 年 5 月~ 6 月の期間で実証実験の第 2 弾を実施しています。
実証実験の第 2 弾では、沖縄観光キャンペーン「Okinawa E-Motion」にあわせて、観光客にパーソナライズされた情報を提供したり、デジタルクーポンを配布して、飲食店や土産物店に誘客したり、スマートフォンをかざすだけで参加できるスタンプラリーを展開したりしています。また、スタンプラリー参加者が、デジタル ルーレットの抽選に参加できる仕組みも構築しました。
このデータ・ドリブン観光プラットフォームを構築基盤に、Google Cloud Platform(GCP)が採用されています。GCP採用の最大の理由を吉田さんは「オンラインとオフラインのチャネル(O2O)が統合されたキャンペーンサイトを実現するときに、入り口から出口までを実現できる仕組みが提供されていたこと」だと語ります。
「店舗の実総客数を、いかに収集し、管理するかが大きなチャレンジでした。他社の仕組みも検討しましたが、コストと時間がかかり過ぎることが課題でした。GCP を利用することで、O2O の仕組みを一気通貫で実現できるので、広告収入の仕組みそのものを変えることができます。たとえば従来の広告収入は、位置や大きさで決まっていました。O2O の実現で、実総客数に基づく広告収入に変えることができます。」(吉田さん)
両社の強みを生かして、世界の課題の解決も
データ・ドリブン観光プラットフォームでは、O2O のすべてのアクセスデータを収集、管理するために Google Analytics(GA)を、タグを管理するために Google タグマネージャを採用。どのような属性の顧客が、どの媒体を見て、どの店舗に訪れたのかといったデータを SAP Cloud Platform on Google Cloud Platform でクラウドに送信しています。転送されたデータは、BigQuery および SAP Cloud Analytics により、多角的に分析され、観光客を混雑していない観光地に総客したり、そのエリアに不足している店舗を拡充したりするなどの施策を可能にしています。
「GA は、アクセス解析サービスとしてはメジャーで、非常に使いやすかったです。また、BigQuery を通して SAP Cloud Platform on Google Cloud Platform とシームレスに連携できることを実証できたこともよかったです。今後、データ・ドリブン観光プラットフォームの沖縄県での正式採用への働きかけを継続するとともに、2019 年秋には沖縄で Mobility as a Service(MaaS) をテーマにしたデザインシンキングを実施するなど、次のステップに足を進めてもいます。」(吉田さん)
より先端技術を活用するという分野では、機械学習(ML)の活用も検討されているとのこと。ML を使うことで、何時にどこが混雑して、どれだけの収益が期待できるか、どこでキャンペーンを展開するともっとも効果的か、どこでクーポンを配布すればもっとも集客できるかといったことを予測できます。吉田さんは、「今後、SAP S/4HANA on Google Cloud Platformで、基幹システムが GCP 上で稼働するようになるので、基幹システムや ML などの先端技術とあわせて、Google Cloud の技術を活用してきたいと思っています」と話します。
すでに進み始めている両社のテクノロジーの協力関係を受けて、代表取締役社長の福田譲さんは次のように期待を寄せます。「両社がそれぞれに得意とすることを掛け合わせた相乗効果を期待しています。SAP の得意技は、企業内外の様々な部門や組織をまたがる業務プロセスと情報共有プラットフォームの構築です。また、非常に多くの企業とパートナー関係にあり、エコシステムを活用した問題解決ができます。さらに、 力をいれているデザイン シンキングでは、例えば、単に沖縄の商品を並べて販売するだけでなく、民家のおばあちゃんと一緒に料理を作ったり、一緒に食べたりという体験の方が求められているかもしれない、といった多角的な視点から、従来とは違った問題解決のアプローチを行います。」
「一方、沖縄県にやって来る観光客の多くは、Google マップや Gmail などのサービスを利用する Google ユーザーです。非常に多くのタッチポイントを持っていることで、ユーザーにさまざまなアクセスができます。GCP も、さまざまなユーザーにリーチできる圧倒的なプレゼンスとサービスがあります。2 社の得意技をかけ合わせることで、今までにない新たな価値を創造できます。多様な参加者が、それぞれの個性を生かし、皆で課題を解くオープン イノベーションを進めていきます。」(福田さん)
「IT 業界のエンタープライズ市場とコンシューマ市場、2 つの大きな市場に通ずる両社のパートナーシップは、非常にインパクトのある取り組みです。両社がもつ知恵とテクノロジーで、世界が直面している課題を、世界に先駆けて日本で解決し、世界に向けて発信できるかもしれない。まだ始まったばかりですが、すでに面白い事案も出てきており、今後の取り組みも期待しています。」(福田さん)
(写真右から)
社長執行役員(代表取締役社長) 福田 譲 氏
デジタルエコシステム統括本部 ビジネスイノベーション推進部 イノベーション・スペシャリスト 吉田 彰 氏
エンタープライズ アプリケーション ソフトウェアにおけるマーケットリーダーとして、あらゆる業種の、あらゆる規模の企業を支援している SAP SE の日本法人として、1992 年に設立。常に最終消費者を意識して、デザイン シンキングを用いた SAP 独自の方法論とインメモリー、モバイル、クラウドなどの技術を駆使することで、顧客企業がイノベーションを起こすための支援を推進。現在、データをインテリジェンスに変換し、プロセスの自動化とイノベーションを実現するインテリジェント エンタープライズに取り組んでいる。
その他の導入事例はこちらをご覧ください。