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顧客事例

日本テレビ放送網: Vertex AI Search を用いたドキュメント検索など、生成 AI 活用で全社的業務改善プロジェクトを加速

2024年7月25日
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Google Cloud Japan Team

1953 年の開局時に放送された日本初のテレビ CM から、2005 年の動画配信サービス参入などまで、数々の前例にないチャレンジでテレビ業界の変革をけん引してきた日本テレビ放送網株式会社(以下、日本テレビ)。そんな同社が今、取り組んでいるのが「放送」の枠を超えて拡大する事業を支えるための環境作りです。ここではそのなかで、Google Cloud の生成 AI「Gemini」がどのように活用されているのかを伺いました。

利用しているサービス:
Vertex AI Studio, Vertex AI Search, BigQuery など

利用しているソリューション:
生成 AI

まずは社内の誰もが安心して生成 AI を使える環境を構築

データ基盤、BI(Business Inteligence)、ローコードやノーコードで作成したウェブ アプリケーション、そして生成 AI。それぞれが連携しながら「共に新しい働き方を創造し、新しい価値を創造する」というビジョンのもと、業務改善を実現していくという日本テレビの DX Platform 構想。同社ではこの構想が形になる以前から、2020 年に BigQuery を導入して社内データの統合に乗り出すなど、DX を精力的に推進してきました。そうしたなか、統合されたデータの活用をさらに一歩先に進めるべく、社内ドキュメントへのアクセシビリティを高めるために始まったのが生成 AI プロジェクト『FACTly-Mate』です。

このプロジェクトについて、同社の DX推進局 データ戦略部 主任の辻 理奈氏は次のように説明してくれました。

「DX Platform 構想のもと、すでに BigQuery を中心としたデータ分析基盤『FACTly』や、データを可視化するための BI などが現場に導入されていますが、それだけではなかなか業務改善に向けたアクションにつながっていかないという現実がありました。そこで、『FACTly-Mate』では、生成 AI 技術を活用したチャット機能『Mate Chat』を作り上げることで必要な情報に行き着くまでのコストを低減することを目指しています。」

プロジェクトがスタートしたのは 2023 年夏。実装は段階的に行っていくこととし、第 1 フェーズでは、年内に生成 AI チャットを全社員がセキュアに使える環境を用意することを目指しました。

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「以前から、アイデア出しのための "壁打ち" に生成 AI を使いたいという声があったのですが、一般向けに解放されている生成 AI サービスはセキュリティ リスクがあるため利用が禁止されていました。そうした背景もあったため、なによりもまず、社内の誰もが情報漏えいの不安なく生成 AI を使える環境を作りたかったのです。そのうえで、契約書の翻訳や文書の要約など、業務で多用する用途については、より適切な回答を引き出せるプロンプトをあらかじめ用意し、セットしてあります。」(辻氏)

開発メンバーから利用者まで全ての社員が生成 AI に興味津々

『Mate Chat』で使われる生成 AI に PaLM 2(現在は Gemini に移行済み)を選んだのは、先行していたデータ基盤で BigQuery などの Google Cloud プロダクトがフル活用されており連携の点で一歩リードしていたこと、そして第 2 フェーズで予定している検索機能の実現に際し、Vertex AI Search が最も有力な選択肢だったからだと辻氏は言います。

なお、この開発に際しては DX推進局内から公募というかたちで担当者を抜擢。辻氏の上司としてデータ分析基盤『FACTly』のプロダクト マネージャーを務める同局 データ戦略部 リードスペシャリスト、川越 五郎氏はそのときの若手の反応に驚かされたと当時を振り返ります。

「なんと部門の若手の 3 分の 2 くらいがやりたいと言い出したんです。やはり、注目の技術ということで興味があったんでしょうね。おかげで、それぞれに役割を与えるのが大変なくらいでした。」

開発は外部パートナーとの協業で行われ、社内若手エンジニアの多くはプロンプト エンジニアリングに専念。今後も生成 AI とつきあっていくにあたり、財産になる技術を身に付けさせることができたと言います。

「『Mate Chat』のプロンプト エンジニアリングにおいて役立ったのが Vertex AI Studio です。個別の検証環境を用意することなく、Vertex AI Studio 上でプロンプト設計の PDCA を回すことができ、コストの低減も含め、開発効率を大幅に高めることができました。」(辻氏)

その後、『FACTly-Mate』の第 2 フェーズでは、Vertex AI Search を用いた社内ドキュメント検索機能(RAG)を実装。当初は精度を出すのに苦労したそうですが、適切なプロンプトの設定に加え、検索の前段、後段で Gemini を呼び出し、きちんと分類させてから検索する処理を作り上げることで、期待していた精度を得られるようになったそうです。現在はまだ検索対象となるドキュメントが限定されているものの、今後はさらに多くの社内ドキュメントに利用範囲を広げていく予定です。

「なお、開発においては第 1 フェーズ、第 2 フェーズとも TAP(Tech Acceleration Program)を利用し、開発におけるブレークスルーとなる重要な提案をいただきました。単にアドバイスしてくれるだけでなく、一緒に考えて伴走してくれる "One Team" なカルチャーがとても印象に残っています。」(辻氏)

今後はあらゆる業務の中で生成 AI を活用できるようにしていきたい

『Mate Chat』最初のリリースから約半年が経過した 2024 年 5 月時点での UB(ユニーク ブラウザ)数は 2,000 前後をマーク。社員数約 1,400 名の日本テレビにおいて、この数字は大成功と言えるものでしょう。今ではその便利さを聞きつけたネット局のスタッフからも使わせてほしいという声が上がっているそうです。川越氏、辻氏はこの成果について「感心の高いところに早めにアプローチできたため、当初から認知は高かった」と前置きしつつ、ローンチ前に生成 AI のオンライン勉強会を行うなど、期待と気運を盛り上げていったこと、勉強会後に数十名の社員から具体的な要望をヒアリングするなど現場と積極的にコミュニケーションしながらローンチしていったことがスムーズな導入に貢献したのではないかと分析しています。

「オンライン勉強会には 150 名もの社員が参加するなど、生成 AI への期待をひしひしと感じました。Google Cloud のチームにもご参加いただき、デモやプレゼンを通して、生成 AI でできることの世界観が伝わり、皆の期待感を高めてくれたように感じます。また、普及に向けた日本テレビらしい取り組みとしては、Mate(メイト)ちゃんというオリジナル キャラクターも作ったんですよ。」(辻氏)

もちろん『Mate Chat』はこれからも機能を増強していく予定。まだ詳細は未定なものの、マルチモーダルな Gemini の強みを活かした動画データの活用を視野に入れているとのことです。

「『FACTly-Mate』は業務の中で生成 AI を使っていこうと始まったプロジェクトですが、現在は当時よりもさらに踏み込み、あらゆる業務の中で自然と生成 AI が使えるような環境作りを目指しています。」(辻氏)

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「その『あらゆる業務』には、もちろんコンテンツ制作も含まれます。現在、AI ドリブンなコンテンツ ワークフローを検討しているのですが、Gemini ならば、最後の部分だけ人間が確認すればいいくらいのものが作れるのではないでしょうか。なお、生成 AI というと、どうしても単体の精度や特性にばかり目がいきがちですが、実際の開発・運用においては周辺環境も極めて重要です。その点、Vertex AI は Google Workspace や Google Cloud などとの連携を前提に設計されており、トータルなソリューションとして生成 AI 導入・活用の敷居を下げてくれます。この強みを今後もさらに拡大・発展させることにも期待しています。」(川越氏)


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日本テレビ放送網株式会社
1952 年に設立され、1953 年 8 月 28 日より本放送を開始した、国内で最も長い歴史を誇る民放テレビ局。現在は「日テレ無料(TADA) by 日テレオンデマンド」や「Hulu」などのインターネット動画配信サービスなど、テレビ放送に限定されない幅広いメディア事業を展開中。従業員数は 1,353 名(2024 年 4 月 1 日現在)。

インタビュイー(写真左から)
・DX推進局 データ戦略部 リードスペシャリスト 川越 五郎 氏
・DX推進局 データ戦略部 主任 辻 理奈 氏


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