ミスミグループ本社:SAP S/4HANA を Google Cloud へ移行、基幹システムのマルチクラウド化を実現
Google Cloud Japan Team
株式会社ミスミグループ本社(以下、ミスミ)は、 基幹システム刷新の一環で、単一クラウド上で運用していた ERP システムの SAP S/4HANA(以下、S/4HANA)を Google Cloud へ移行し、事業基盤のマルチクラウド化を実現しました。基幹システムのマルチクラウド化プロジェクトについて、ミスミのシステム部門の担当者 2 名、および導入支援パートナーであるアクセンチュア株式会社(以下、アクセンチュア)の担当者 2 名に話を伺いました。
利用しているサービス:
Anthos、Apigee、Compute Engine、Cloud Functions、Cloud Storage、Google Kubernetes Engine(GKE)、BigQuery
マルチクラウド化の最初の一歩として Google Cloud を選択
ミスミは、オートメーションの現場で必要とされる機械部品や工具・消耗品などをグローバルに販売。製造機能を持つメーカー事業と他社ブランド品を販売する流通事業、そのユニークな事業モデルを支える事業基盤により「確実短納期」を実現。MISUMI ECサイト(以下、EC サイト)を通じ、国内外 33 万社以上の顧客に、3,000 万点以上の商品を提供しています。EC サイトで提供される商品は、ミクロン単位でサイズを指定できるため、800 垓(1 兆の 800 億倍)の商品バリエーションを提供できるのが強みです。また 99% の納期順守率も強みの 1 つであり、お客様に時間価値を提供する時間戦略のさらなる強化を目指しています。
IT 活用においては、国ごとの商慣習に合わせた画面デザインや機能のカスタマイズ、検索性の向上など、さらなる利便性を追求するほか、デジタル技術を活用したものづくりの強化などを推進。積極的に先進技術を取り込むことで、さまざまな事業課題を解決し、より一層の事業領域の拡大とビジネスの発展を目指しています。さらに、事業継続性を向上させるために、これまでの単一クラウドへの依存を見直し、マルチクラウド化の方針を決定。S/4HANA を Google Cloud へ完全移行しました。
マルチクラウド化の必要性について、ミスミ インフラチーム リーダーの石原昌尚氏は、「これまで利用してきた単一のクラウド サービスでは、障害や計画停止などでサービスが停止した場合、クラウド サービスが復旧するのを待つ他に業務を復旧させる手が無く、事業基盤としての継続性に対する大きな課題がありました。そのため、複数のクラウド サービスを使いこなすことで、一部のクラウド サービスで障害が起こったとしても部分的には業務継続できるようにしたいと考えました。加えて、Anthos や Apigee、BigQuery など、Google Cloud の技術的な先進性を高く評価し、マルチクラウド化の最初の一歩としてGoogle Cloud を選択しました」と話します。
S/4HANA の Google Cloud 移行プロジェクトを実行
2020 年末から S/4HANA の移行を開始し、2021 年 8 月より Google Cloud 上で S/4HANA が稼働しています。今回、構築したシステムは、S/4HANA の API 呼び出しを処理する Web Dispatcher、S/4HANA 本体のアプリケーション サーバー、SAP HANA のデータベース サーバーの 3 層構造になっています。各層は複数の Google Compute Engine で冗長化しており、層の間を Cloud Load Balancing でつなぐことで負荷分散またはフェイル オーバーできるようにしています。
石原氏は、「アプリケーション サーバーとデータベース サーバーを同一ゾーンに配置することで、サーバー間通信のレイテンシを低減し、SAP の性能を最大限に発揮できる構成にしています。クラスタ構成により冗長化し、自動でフェイル オーバーできるので、あるゾーンにトラブルや障害が発生して停止しても、アプリケーション サーバーとデータベース サーバーがセットで他のゾーンに切り替わり、事業を継続できる構成になっています。この構成により、ゾーン障害発生時の目標復旧時間(RTO)を手動切り替えの約 3 時間からほぼゼロに短縮できました」と話します。
Google Cloud の採用によりマルチクラウド化を実現したメリットを、ミスミ SAP 移行プロジェクト リーダーの佐々木泰徳氏は、「HANA はインメモリー データベースのため、非常に多くのメモリを必要とします。Google Cloud を採用したことで、Compute Engine にてメモリ最適化マシンタイプを利用できるようになったため、従来のクラウド サービスと同等のコストでより大容量のメモリを利用することが可能となりました。これにより、将来的なスケールアップの時期を遅らせることができ、トータルでのコスト削減を実現しました。また、マルチクラウド化のもう一つの狙いであったクラウド障害時の業務継続性の問題も解決しました。S/4HANA の Google Cloud 移行後、他社クラウドで障害が発生した際、他社クラウド上のシステムとの連携部分は停止したものの、Google Cloud 上で稼働する S/4HANA を用いた業務は継続することができました」と話します。
【他社クラウド障害時の業務継続範囲】
プロジェクトにおける Google Cloud のサポートについて石原氏は、「S/4HANA の移行やクラスタ化などに関して、推奨構成やノウハウの提供、オープンソースや周辺システムとの連携などを、テクニカル アカウント マネージャー(TAM)に提案してもらえました。また、事前レビューにて、Google Cloud へ切り替えた後も効率的に運用できるのか、パラメータは適切なのかといった観点でも指摘を頂きました。どこに課題があるかを常に意識しながら、事前に対応策を検討できたことがプロジェクト成功のポイントでした。今後も事業を発展させていくために、新しいビジネスモデルやサービスを考え、変化を続けていくことが必要です。そのために必要な技術的な提案やサポートを、Google Cloud には期待しています」と話します。
今後の取り組みについて佐々木氏は、次のように話します。「S/4HANA の Google Cloud への移行はファースト ステップに過ぎません。現在利用している S/4HANA のモジュールは財務会計(FI)だけですが、今後はさらにミッション クリティカル性の高いサービスである販売管理(SD)、購買 / 在庫管理(MM)も順次導入していく計画です。」
また石原氏は、「基幹システム刷新の取り組みは継続しており、マルチクラウド環境を Anthos で統合管理したり、マイクロ サービスの API を他のシステムや他の部門で共有しやすいよう Apigee を導入したり、 Google Cloud の技術を多数取り入れております。目指すのは、“ローコード開発により現場に近いところで業務改善できるようにし、マイクロ サービスの高い柔軟性と拡張性により新サービス・新規事業へも対応する、それでいてベースとなる取引は S/4HANA がしっかりと担保する”という世界です。今後の不透明な社会においても事業を発展させていけるよう、ビジネス的な変わり身の早さ、システム変更の早さを獲得すべく取り組んでいます」と話しています。
グローバルの知見を集め、ワンチームで Google Cloud を導入
本プロジェクトは、Google Cloud のパートナーであるアクセンチュアが S/4HANA の移行・導入をサポートしています。アクセンチュアに今回のプロジェクトを依頼した理由を石原氏は、「数年前から基幹システムのサポートをしてもらっている実績があり、S/4HANA はもちろん、Google Cloud の経験や実績、ノウハウを、グローバルで有していることを評価しました」と話します。
アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 マネージャー の 傅 強氏は、「Google Cloud とアクセンチュアはグローバルの組織として Accenture Google Business Group(AGBG)という体制を築いて世界各国のプロジェクトを支援しています。今回のプロジェクトにおいても、グローバル リソースを活用して、事例の収集や、有識者によるソリューション プランのレビューを実施しました。プロジェクト管理では、早い段階でスケジュール、リハーサルやテストの計画、コンティンジェンシー プランなどをミスミ様に提案し、問題が発生してもいち早く対応できる体制を確立しました。会社間の壁を越え、ワンチームでプロジェクトを進めることができたのが成功のポイントです。さらには Google Cloud の強みであるデータ分析基盤など、今後の展開についても両社一丸となってお客様へ提案できるものと期待しています」と話します。
また、Google Cloud のサポートについて、アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 マネージャー の近藤 仁氏は、「アクセンチュアでは S/4HANA のクラウド移行については多くの実績があったものの、今回実施した Google Cloud への移行については国内で初のプロジェクトでした。問題が発生したとき、Google Cloud 担当者の対応やサポートが非常に迅速だったので、プロジェクトを進めるうえで本当に助かりました。いろいろと問い合わせをした際も毎回的確な回答が得られました。さらに、トレーニングのコンテンツが豊富かつ実用性があったためチームの Google Cloud への理解が深まりました」と話します。
佐々木氏は、「今回実施した S/4HANA の Google Cloud への移行は、システムが乗る基盤ごと切り替えるため、間違いがあると各国現地法人の会計業務に一斉に影響を及ぼしてしまうプロジェクトでした。そのため手堅く進行する必要がありました。アクセンチュアに Google Cloud の技術情報を集めていただき、その情報に基づいた提案をいただけたことで、事前にリスクを把握し予め対策を講じることができたため大変助かりました」と話します。石原氏は「ミスミは、Google Cloud の製品思想を理解してそれに合わせて正しく使い、先進技術を積極的に事業へ取り込んでいこうと考えています。たとえば、Translation API や BigQuery などを活用するプロジェクトも立ち上がっているので、今後はこうした新しい分野でも Google Cloud の強みを生かすことができるようにサポートを期待しています」と話しています。
1963 年 2 月設立。メーカー事業と流通事業を併せ持ち、2 つの事業を支える事業基盤を構築。アジア、欧米を中心に、62 の営業拠点、18 の配送センター、22 の生産拠点でグローバルに事業を展開。ミスミ QCT(高品質、低コスト、確実短納期)モデルの強みを生かし、生産材調達フロー全体を効率化するサービスを提供しています。
インタビュイー(写真右から)
・株式会社ミスミグループ本社
NEWTON開発推進室 NEWTONインフラ設計チーム リーダー
石原 昌尚 氏
・株式会社ミスミグループ本社
NEWTON開発推進室 NEWTON開発推進チーム リーダー
佐々木 泰徳 氏
(Google Cloud パートナー)
インタビュイー
・アクセンチュア株式会社
テクノロジーコンサルティング本部 マネージャー
傅 強 氏
・アクセンチュア株式会社
テクノロジーコンサルティング本部 マネージャー
近藤 仁 氏
株式会社ミスミグループ本社の導入事例 PDF はこちらをご覧ください。
その他の導入事例はこちらをご覧ください。