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顧客事例

嘉穂無線ホールディングス 株式会社が Google Cloud を使った需要予測で小売業の課題に挑む

2022年12月5日
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Google Cloud Japan Team

編集者注: Google Cloud を利用する企業のリーダーの皆様にお話を伺い、想いを語っていただく Google Cloud Leader’s Story。連載 2回目となる本記事では、福岡県に本拠を構え、ホームセンターの運営等の事業を展開する、嘉穂無線ホールディングスの代表取締役を務める柳瀬隆志氏にお話を伺いました。


嘉穂無線ホールディングス(以下、嘉穂無線 HD )は、「常に変わる社会の中で、新しく生まれる続ける社会課題を解決する役割を担うこと」を自社の存在意義と捉え、九州地方を中心に中核事業であるホームセンター「グッデイ」を運営する株式会社グッデイ、学習工作キット「エレキット」の製造及び販売を担う株式会社イーケイジャパン、データ活用やクラウドサービス活用推進などの IT 事業を営む株式会社カホエンタープライズといったグループ事業を展開しています。

今回はグループの代表取締役を務め、また DX の旗手としても広くその名を知られている柳瀬隆志氏に、 Google Cloud のテクノロジーを活用して小売業の課題を解決する取り組みや、Google Cloud への期待についてお話を伺いました。

利用しているサービス:Google Kubernetes Engine, Google App Engine, Cloud Functions, Cloud Scheduler, Cloud Run, Cloud SQL, Cloud Memorystore, Cloud Firestore, BigQuery, Cloud Composer, Cloud Pub/Sub, Cloud AutoML, Cloud Dialogflow, Cloud Speech API

利用しているソリューション:

サプライ チェーンとロジスティクス ソリューション

実際に手を動かすことが DX 進展の鍵

地方の小売業として DX を積極的に推進する嘉穂無線 HD。グループの代表取締役を務める柳瀬氏が、DX を扱う様々なイベントで講演を行う中で痛感するのは、DX を推進したい経営者自身が深く最新のITやクラウドの知識をもつべきだという事だといいます。

総合商社でキャリアをスタートした柳瀬氏は、食材の輸入業務に関わっていました。当時はメールや FAX が情報のやり取りの中心であり、大量の手入力を必要とする非常に非効率な業務であったといいます。そのような非効率な業務を、簡易的なデータ管理システムを構築して効率化した経験は、その後の仕事の進め方にとても大きな影響があったそうです。

家業であるグッデイに入社時、メールアドレスもウェブサイトもないという自社の状況に驚いたそうですが、2015年から自社システムのクラウド化に着手。現在はシステム関連の会議には必ず出席し、積極的に議論に参加。また、技術書の新刊は欠かさずチェックするなど、経営者でありながら新しい技術の吸収を怠りません。自らの IT への関わりを、柳瀬氏は次のように表現します。「ITだけでなく、人がする業務も含めた、広い意味でのシステムを作る役割。色々な人やモノを組み合わせて実際の仕事の現場で役に立つ仕組みを作ることが、自分の仕事だと思っている。」

このような柳瀬氏のもと、社内には社員が自主的に IT に触れる土壌が育っています。社内では自社のユースケースを題材にしたデータ分析業務に関する勉強会が開催されており、IT エンジニアの指導の下、バイヤーのような非エンジニアが SQL を学び、業務に必要なデータを自分で抽出する取り組みを始めています。また、COBOL で組まれた古い基幹系システムを、社員を中心に Web 化するなど、システムの内製化も積極的に進めています。

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「DX 人材の育成とは特殊なスキルを身につける人を育成するという事ではなく、実際の業務に役立てられるデジタルスキルを教え、実践出来るようにすることだと考えています。SQL のように、実際に自分たちが関心有るデータを扱うことで、データとはどのようなもので、どう活用すればよいのか、といった知見が自然と身に付いていくものだと思います。」と柳瀬氏は話します。

また、「学んだことは、手を動かして試さなければ定着しません。それにはすぐ試すことが出来るクラウドが最適です。 SQL を例にとると、我々には BigQuery がすぐ使える環境にある、ということが大きい。ですが、多くの企業では社員が簡単にクラウドに触れることが出来ず、座学で理論を教えて DX 人材を育成しようとするが、それでは思うように育成が進みません。」 DX が思うように進まないジレンマを柳瀬氏はこのように分析します。

これからの小売業に求められる変革

「国内の人口が減少していく以上、今後の小売業は従来のプライベートブランド戦略や、大量仕入れによる購買コストの削減など、安く大量に売るアプローチでは成り立たなくなります。お客様が本当に求めるものを理解して、それに対して応えようと考えることが重要です。」と柳瀬氏は語ります。

お客様を理解し、お客様の求めるものに応えるために、実店舗を展開する小売業が迫られる変革について、柳瀬氏は次のように語ります。「EC サイトが出来ていることは、実店舗でも同じように出来なければいけません。実店舗がなくなってしまうことは無いと思いますが、両者の利便性に差が有ってはいけないと思っています。」

そして、実店舗に EC サイト同等の利便性を持たせる要はIT であり、実現には IT に関する知識が必要不可欠であるとして、小売業の変革とデジタル技術を持った人材の育成の必要性を強く訴えています。

AutoML Tables を活用した季節商品需要予測の取り組み

嘉穂無線 HD では、BigQuery に全店舗の売上データが集約されており、それを AutoML Tables で学習させることで、季節商品の需要予測を実現しています。この仕組を取り入れた経緯や、得られた効果について柳瀬氏に伺いました。

「Google のカンファレンスで米国の活用事例を聞いたことが始めたきっかけです。自社が持つデータと気温のデータを組み合わせると、季節商品の需要予測が出来るのかな、と思い立ち、自社で持つ過去 5 年分の販売データと気温のデータを使って AutoML Tables のチュートリアルに従ってモデルをトレーニングしてみました。やってみたら、思っていたよりも非常に簡単だ、という印象を受けました。」

一方、季節商品の需要を予測するには将来の気温の予測値が必要で、その予測値自体が正確であるという保証がありません。そのため、「機械学習を使って細かい数字を100%当てにいく」というアプローチは成功しない、というのが試行錯誤を繰り返した末に柳瀬氏が行き着いた結論です。

「気温の予測モデルは大きく分けて平年並み、平年より暑い、平年より寒い、の3パターンに設定しています。季節商品の売上を予測するとき、これまでバイヤーは”今年は昨年より暑いからこの商品の売上は前年比30%上がる”といったことを言うわけですが、この数字には根拠がありません。平年との気温差の値や商品毎に売上の前年比は変わります。」と、バイヤーの経験と勘に頼った需要予測の限界を柳瀬氏はこう説明します。

”いつ売れるか”を正確に予測することは難しいが、”今シーズンどれくらい売れるか”を予測することは十分可能と結論づけ、AutoML Tables が算出した予測値を上限値として仕入れを行うことで、仕入れの意思決定業務の改善を実現しました。「この予測を取り入れたことで、在庫回転率はそれまでの約 1.4 倍に改善しました。」と、柳瀬氏は機械学習による需要予測がグッデイにもたらした効果について明かしました。

一方、「実現には技術的な知識と最新の情報に対するアンテナが不可欠であり、経営者が自社のデータの扱い方や分析方法を正しく理解していなければ、自社に最適な方法を見つけることは難しいと思います。」と、経営者が IT に対する関心を持ち、データを理解することの重要性を柳瀬氏は強調します。

Google Cloud にこれから求めるもの

もともと一人のコンシューマーとして Google のプロダクトには親近感を持っていたという柳瀬氏。Google Cloud と出会ったきっかけは 2015 年頃に開催された Google のイベントでした。 

「イベントでは BigQuery などのテクノロジーが紹介されていたものの、小売業でどのように使うのか、当時全くイメージ出来ませんでした。また、既に一般提供されていた Google App Engine についても、”尖ったサービスなのは分かるが、これは何に使うものなんだろう?でも、きっとものすごく便利なテクノロジーに違いない”、と思っていました。」と当時の印象を柳瀬氏は笑いを交えながら振り返ります。

これまで Google Cloud の尖ったプロダクトにわくわくしてきた柳瀬氏、これから Google に望むことは「クラウドはまだまだ普及途上。様々なユーザーにとって使いやすいプロダクトにブラッシュアップしていく動きも予想しますが、これからもワクワクするような尖った技術と尖ったプロダクトを世に送り出してほしいと思います。」と締めくくりました。

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嘉穂無線ホールディングス株式会社

1950年2月設立。創業者・柳瀬網夫氏が飯塚市の自宅にラジオパーツ・アマチュア無線専門の小売店を開設し創業した嘉穂無線株式会社が起源。ホームセンターを運営する株式会社グッデイをはじめ、学習工作キット「エレキット」を手掛ける株式会社イーケイジャパン、データ活用サービス事業を提供する株式会社カホエンタープライズと行った、各事業会社を統括運営するホールディングスカンパニー。

インタビュイー

嘉穂無線ホールディングス株式会社 代表取締役社長 柳瀬隆志

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