コカ・コーラ ボトラーズジャパン:約 70 万台の自動販売機の分析・機械学習による予測プラットフォーム構築を短期間で実現
Google Cloud Japan Team
「すべての人にハッピーなひとときをお届けし、価値を創造します」というミッションの達成を目指すコカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社。販売エリア 1 都 2 府 35 県に約 70 万台が展開されている自動販売機の新規設置や管理業務を効率化するためのデータ分析・機械学習プラットフォームに、Google Cloud が採用されています。データ分析の重要性や分析・機械学習プラットフォーム構築プロジェクトについて、データサイエンティストに話を伺いました。
利用している Google Cloud サービス:BigQuery、DataFlow、Vertex AI(旧 AI Platform)、Cloud AutoML
日々変化する KPI に臨機応変に対応できる分析プラットフォームが必要
街角のいたるところに設置されている自動販売機。同じ飲料メーカーでも、設置場所や季節などで販売されている製品が異なります。たとえばオフィスでは、コーヒー飲料やエナジードリンクが、スポーツ施設では、スポーツドリンクやミネラルウォーターが中心だったり、季節に応じて夏はコールド製品、冬はホット製品が多く陳列されたり。こうした自動販売機の製品構成は、古くは営業担当者の勘と経験に基づいて決定されていましたが、現在ではデータ分析に基づいて、より戦略的に決められています。
アジアでナンバーワン(*1)のコカ・コーラボトラーである コカ・コーラ ボトラーズジャパン。主力事業である自動販売機は販売エリア 1 都 2 府 35 県に約 70 万台を展開しています。ベンディング事業本部 データサイエンティストマネージャである松田氏は、「世界的に見ても、これだけの自動販売機を持っているのは日本だけ。欧米諸国では、自動販売機はそれほど普及していません。約 70 万台の物理デバイスから収集される数十億件のデータは大きな財産であり、活用すべき宝の山」だと語ります。
「たとえば、スポーツ施設の自動販売機の製品構成を考える場合、一般的にはスポーツドリンクが多く売れるだろうと考えます。しかし実際の購買データを分析してみると、スポーツドリンクに並んでホットドリンクやミルクティーなどの甘い飲み物も多く購入されていることが分かります。これは、子どもの習い事に付き添う保護者がその待ち時間に購入しているもの。データを分析することでそこには新たな発見があり、探索的データ分析(EDA)からこういったキャッチーなストーリーテリング手法を使うことにより、社内にデータ文化を浸透させています。思い込みではなくファクトベースでみていくことで生み出せる価値があることを伝えていっています。」
自動販売機から収集される膨大なデータを分析するためには、強力な分析用プラットフォームが必要です。これまでは、基幹システムから分析に必要なデータを抽出し、ETL ツールを使ってデータ ウェアハウスを作成する仕組みを独自に構築し、さまざまな分析を行っていましたが、約 70 万台の日々のトランザクションを含むデータの巨大さからいくつかの課題が露呈するようになったと言います。
「これまでの分析プラットフォームでは、膨大なデータを処理しきれなかったり、クエリを投げても結果が返ってくるのに時間がかかったりなどの課題がありました。またレガシー システムの巨大さからメンテナンスも困難になっていました。そこで 2020 年 8 月から分析・機械学習プラットフォームを既存システムの上のレイヤとして構築する検討を開始し、9 月にはすでに Google Cloud を採用していました。」
採用の理由について松田氏は、「Google Cloud は、すべてのプロダクトにエッジが効いていて、非常によく考えられていると感じています。試行錯誤の多い機械学習において、トライしてみて結果がよければスケールさせ、ダメだった場合もコストが最小限で済む点もありがたい。作業そのものがボトルネックとなることを極力避け、なるべく頭を使っている時間を長くしたい、思いつきでさまざまなデータを探索的に見ていくことを容易くしたかったし、見たい KPI も日々変わってくるため、とにかく臨機応変に対応できるものが欲しいと感じていましたが、Google Cloud はここに合致しました」と話しています。
ML パイプラインの開発ライフサイクル全体を効率化する MLOps を実現
分析プラットフォームは、BigQuery を中心に Vertex AI(旧 AI Platform)を使い、一部に Cloud AutoML Tables も利用して構築。自動販売機を、どこに置き、どの製品をいくらで並べれば、どれだけ売れるといった予測モデルを作り、地図上で分析できる仕組みを実現しています。システム構築面での苦労はあまりなかったという松田氏、「プラットフォームの検討から導入、予測モデルの構築、現場での PoC からロールアウトまで、スピード感をもって、短期間で実現できました」と話します。
分析プラットフォームの構築は、2020 年 9 月からスタートし、10 月末にはモデルが完成。その後、2021 年 2 月から京都の拠点で PoC を実施し、4 月から販売エリア 1 都 2 府 35 県にいる営業担当者向けに分析プラットフォームをロールアウトしています。松田氏は、「データ分析は、営業担当者の日々のルーチンに組み込まれていて、利用率は 100 パーセント。営業担当者はタブレットを使いデータ分析を活用、すでに予測に基づいて設置された自動販売機のトラッキングも開始し、かなりの精度を初回から実現することができました」と話します。
デプロイにあたって苦労したのは、現場の営業担当者に作成したモデルの予測結果がなぜこの判断をしたのかを理解してもらうこと。営業担当者に分析結果をより活用してもらうためには、納得性のあるものにする必要がありました。「たとえば、モデルが新規設置場所として予測した場所について、地図情報からは設置に有効な情報はなさそうにみえたが、実際に行ってみるとバイク屋さんがありバイク好き若者の集う場となっていたり、小さな集会所があり近隣のお年寄りが活動していたり。地図情報からだけでは分からない新たな発見がデータから導かれることも多くあります。」
松田氏は、「モデルが推測した要因を、人間が追いかけて想像あるいは確認するという現象がおきたことが非常に興味深かった」と語ります。「一旦分析を体験し、それが有効に働くと、“次はこんな分析・予測はできないの?”という問い合わせが生まれ、情報がどんどん集まり、それにより分析用のデータも増えて、結果精度も上がっていく。とてもよいサイクルが生まれています。」
Vertex AI(旧 AI Platform)の活用と分析プラットフォーム構築のメリットについては、「ML パイプラインの構築から実行までの開発ライフサイクル全体を効率化する MLOps を実現できたことも大きなメリットのひとつでした。データ分析の結果から次の戦略を考える時間も長くとれるようになりました。以前は必要なデータをシステム部門に都度依頼が必要で、抽出までのボトルネックがありましたが、現在はほぼリアルタイムに入手できます。これにより、探索的データ分析(EDA)が非常にやりやすくなりました。ML やデータ分析は、穴を掘る場所を間違えると正しい結果が得られません。どこに宝が埋まっているかを見つけるには、手数が多い方が有効ですが、トライアンドエラーが繰り返し行いやすくなることで、データ分析の精度も大幅に向上しています。同時に、大きなデータをもっていると、活用率が 1 パーセント上がるだけでその効果も大きい。”人間が半年かけて行う深くて確実なモデル”と”機械が短期間で素早く実行するモデル”、これらをうまく使い分けて、コスト面、期間面双方のメリットを享受しつつ効果を最大化することを狙っています。」(松田氏)
最後に、今後の展望について、
「今後は、データスキューやデータドリフトの検知、モデルの精度の最適化の自動化を目指しています。コカ・コーラ ボトラーズジャパンは、食品業界でありながら、一方でテック カンパニーでもあります。約 70 万台の物理デバイスを対象に、大きなデータをサイエンス、エンジニアリングできる環境があるのは私たちの大きな強み。これだけの規模を持つ自動販売機ネットワークを持つのは世界のマーケットでも特殊です。これらのデータをより深く分析し活用することで、新しいビジネスを創出していきたいと考えています。かねてから積極的に取り組んでいるリサイクル ペットボトルの活用やフードロスへの対応、自動販売機を通じた地域社会貢献など、SDGs の取り組みでも将来的に Google Cloud と協力できれば面白いですね。」(松田氏)
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社
「Paint it RED! 未来を塗りかえろ。」という企業理念に基づき、チェーンストア(スーパーマーケット / コンビニエンスストアなど)、ベンディング(自動販売機)、リテール フードサービス(飲食店 / 売店など)の 3 つの事業を、1 都 2 府 35 県、1億人以上の顧客向けに展開。日本のコカ・コーラシステムの約 9 割の販売量を担う国内最大のコカ・コーラボトラー(*1)であり、世界に 250 以上あるコカ・コーラボトラーの中で、売上高はアジア最大(*1)。
(*1)コカ・コーラ ボトラーズジャパン 『事業内容』 <https://www.ccbji.co.jp/corporate/activity/> 2020年末時点情報
インタビュイー
ベンディング事業本部 データサイエンティストマネージャ Google Developer Expert (Machine Learning) 松田 実法 氏
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