カプコン:Looker の導入でデータ ガバナンスを損なうことなく、各部門のニーズにあわせた迅速なデータ共有を実現
Google Cloud Japan Team
『ストリートファイター』『バイオハザード』『モンスターハンター』など、世界レベルの人気 IP(知的財産)を多数擁する大手ゲームメーカー、株式会社カプコン(以下、カプコン)。同社ではかねてより、自社のゲームがどのように遊ばれているのかを見極め、次のヒットに結びつけていく分析業務に取り組んできたと言います。その要となる BI ツールに Looker を導入した理由とその成果について、分析業務の最前線で活躍するアナリスト・エンジニアの皆さんに話を伺いました。
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Looker ならデータ分析環境を各部門に提供できる
スマートフォン アプリだけでなく、家庭用ゲーム機向けタイトルにおいても、今その作品を遊んでいるユーザーがどれくらいいるのか、何時間くらい遊んでいるのか、追加コンテンツはどのくらい利用されているのかなど、ユーザーのプレイ動向を分析・把握して迅速にフィードバックしていくプロセスは、今日のゲーム開発において当たり前のことになっています。早くからその重要性に気がついていたカプコンでは、Google Cloud 上に BigQuery を中心とした分析基盤を構築し、BI ツール Tableau を用いて、アナリストが分析結果を開発チームや各部門に提供してきました。しかし近年、タイトル数とニーズが共に増大し新たな壁に直面していたと、デジタルサービス開発部デジタルアナリシス室をマネジメントし、自らもアナリストである二瓶 美帆氏は当時を振り返ります。
「近年、データ活用に対する社内の機運が高まっていくにつれ、我々の部門への依頼も増える一方でしたが、一見同じように見える依頼でも、部署ごと、タイトルごとに前提条件や対象範囲が異なるものがほとんどです。たとえば同じ『アクティブ ユーザーの比率』でも、追加コンテンツに関する調査では『実際にゲームをプレイしている人』だけを分母にしなければならず、サーバー維持費に関する調査では『ゲームを立ち上げただけの人』も対象にしなければならないのです。正しい分析にはそうした定義付けをはじめとした擦り合わせも必要となるため、限られた人数のアナリストでは迅速な対応が難しくなっていました。結果、会議に最新データが間に合わないのであればそもそもデータを出すのを諦めよう、といった好ましくない流れが生まれてしまう怖れがありました。」
二瓶氏はさらに、なによりアナリストたちがそうしたデータ集計業務に忙殺され、本来やるべき、専門家にしかできないデータの深掘り分析業務に手をつけられなくなっていることを解決し、データ利活用を加速する必要があったと言います。
「最もシンプルな解決法は、各部署がアナリストに依頼せず、独自にデータの集計・分析を行える環境を提供することです。それをどうデータ ガバナンスを保ちながら実現するか悩んでいたところ、Looker の思想と特性がぴったりなのではないかと薦められ、2021 年末から、まずは PoC(概念実証)という形で導入しました。」(二瓶氏)
この決断について、デジタルアナリシス室所属エンジニアの一人である鬼塚 勇弥氏は、Looker の優位点はそれだけではないと説明します。
「同じことを他の BI ツールでやろうとすると、データベースの内部構造や注意点をかなり細かくドキュメント化して渡す必要があり、その後のサポートやトラブルのフォローなども含めて現実的ではありません。対して Looker ならモデルを構築するだけでしっかりとデータ ガバナンスを効かせられますから、簡単に、安心して他部署に必要なデータだけを渡すことができます。こうした Looker の特性は、データの民主化を推し進めていく上で極めて有効であり、私たちが抱えていた複数の課題を一気に解決できると感じ、私の進退を賭けてでも Looker 導入を進めたいです、とまで言ってしまいました(笑)」
なお、カプコンでは現在 Looker と Tableau を並用し、アナリストが課題を深掘りしていく用途にはデータを探索しながら分析することに長けた Tableau を、各部署のニーズに合わせたデータ共有にはデータ ガバナンスに優れた Looker を、といった形で適材適所の使い分けを行っています。
<システム構成図>
Dataform の併用で Looker のよりスムーズな運用を実現
4 か月ほどの PoC を経て、Looker は 2022 年 1 月より正式な運用がスタート。以前からデータ分析基盤を Google Cloud 上に構築していたこともあり、PoC から導入まで極めてスムーズに進んだとのことですが、その設計と運用についてはいくつかの工夫をしていると鬼塚氏、そして同じくデジタルアナリシス室所属エンジニアの阿部 冬威氏は言います。
「Looker は LookML を使うことでデータの加工や集計を行い派生テーブルを作成できますが、使いこなすための学習コストがやや高いこと、スキャン量が予測しにくいこと、Tableau などの他の BI ツールへの流用がしにくいことなどがネックだと感じました。そこで、派生テーブルの作成、テーブルの依存関係の管理などは同じ Google Cloud のプロダクトである Dataform に任せ、LookML はモデルを作るということだけに使うようにしています。」(鬼塚氏)
「分析対象となるゲームタイトルは、そのゲーム性によって出力するログが異なりますが、Looker の運用においてはそこに統一感を持たせられるよう、各ディメンションやメジャーの定義付けにはこだわりました。それにより、Looker 以外の BI ツールを用いる際にも、自然と Looker の基準をもとに定義付けしていくようになり、分析部門全体でのデータ ガバナンスの向上にも繫がっているのではないかと考えています。」(阿部氏)
本格導入から約 1 年が経過した現在、二瓶氏はその導入成果を次のように語ります。
「以前は新規タイトルが発売されるごとにアナリストへのデータ集計依頼が急増していたのですが、Looker が定着した現在では、各部門で集計が実施できることで、言いすぎではなく依頼が "ほぼゼロ" になりました。これにより、私たちの集計業務対応コストが減ったことに加え、各部門は問い合わせるコストがなくなったため、現場でのデータの利活用が加速しています。最近では、上層部から『もっとデータ活用を』というメッセージが発せられることも増えており、Looker の活用機会や範囲も広がっていくと考えています。我々の部門でも、現場がさらに便利に Looker を使いこなしていけるよう、細かな TIPS やデータからの気付きを毎日発信する『今日の Looker』といった取り組みなどを行っています。」
また、もう一つの課題であった、アナリストが本来の業務に取り組む時間の捻出にも成功。開発を効率化するためのデータ活用や、ユーザーのプレイ状況のより詳細な分析といった取り組みに時間をかけられるようになったそうです。
「Looker 導入時、同じく BI ツールである Tableau と並用することに対して、コスト面を危惧する声もありました。確かに Looker のライセンス費用分はプラスになりましたが、得られた成果はそれよりもはるかに大きいと考えています。現在はゲームの開発・運用のためのデータを対象としている Looker ですが、今後は GA4 や自社 ID 関連の施策など、さまざまなデータを Google Cloud に蓄積し、あらゆる部署が、さまざまな用途で手軽にデータ分析を行えるようにしていく予定です。我々アナリストが同じデータを深掘りしていくのと合わせ、より広くより深くデータを活用していきたいですね。」(二瓶氏)
1983 年の創業以来、ゲーム エンタ-テインメント分野において数多くのヒット商品を創出するリーディング カンパニー。代表作として、「バイオハザード」、「モンスターハンター」、「ストリートファイター」、「ロックマン」、「デビル メイ クライ」などのシリーズ タイトルを保有。本社は大阪にあり、米国、イギリス、ドイツ、フランス、香港、台湾およびシンガポールに海外子会社がある。現在の社員数は 3,206 名(連結 / 2022 年 3 月 31 日現在)。
インタビュイー(写真 左から)
・デジタルサービス開発部デジタルアナリシス室
データエンジニアリングチーム チーム長 鬼塚 勇弥 氏
・デジタルサービス開発部デジタルアナリシス室
室長 二瓶 美帆 氏
・デジタルサービス開発部デジタルアナリシス室
データエンジニアリングチーム 阿部 冬威 氏
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