株式会社LIFULL の導入事例:物件画像のカテゴリー分類を AutoML で自動化。数十秒かかっていた分類を自動化で 2 秒に
Google Cloud Japan Team
創業以来、IT と不動産を融合した「不動産テック(リーテック)」を推進する株式会社 LIFULL(ライフル)。常に先進的なテクノロジーを活用し、人々の暮らしや人生を満たす、安心・安全な住まい探しをサポートする付加価値の高いサービスを提供し続けています。同社で、人工知能(AI)や機械学習を活用した、より付加価値の高い次世代サービスの提供を推進する 3 名のキーパーソンに話を伺ってきました。
■ 利用している Google Cloud Platform サービス
Google Cloud AutoML Vision、Google Cloud Machine Learning Engine、Google App Engine、Google Cloud Endpoints、Google Cloud Storage
■ 株式会社LIFULL
先進テクノロジーを駆使した不動産・住宅情報サイトを中核に、「あらゆる人の暮らしや人生(LIFE)を満たす(FULL)サービスを届けたい」というビジョンを実現するための各種関連サービスをグローバルに展開しています。
■ 写真左から
LIFULL HOME'S 事業本部
新 UX 開発部 デバイスソリューションユニット
ユニット長 横山 明子 氏
開発グループ 衛藤 剛史 氏
新 UX 開発部 AI 推進ユニット
ユニット長 林 信宏 氏
AutoML の導入で HOME'S における利便性の向上を目指す
掲載物件数ナンバーワン(*1)の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S(ライフル ホームズ)」の運営を中核に、「世界一のライフデータベース&ソリューション・カンパニー」を目指す LIFULL。2014 年には世界最大級のアグリゲーションサイトを運営する Trovit 社を傘下に入れ、世界 57 か国で事業を展開してます。そのほか、介護や地方創生、引っ越し、保険など、不動産・住宅情報とは異なる分野の事業にも積極的に参入。LIFULL HOME'S 事業本部 新 UX 開発部 デバイスソリューションユニット ユニット長の横山 明子さんは、「当社は、多くのサービスを自社開発しているので、最新の技術を取り入れやすい環境が整っています。今回、Cloud AutoML Vision(AutoML)の導入で、LIFULL HOME'S における利便性の向上を目指しました。」と話します。
最新技術の活用の一環として、AI や機械学習の活用を推進。2018 年 3 月には、おとり物件自動検出システムの刷新に機械学習を活用したほか、2018 年 5 月には、建物に AR 対応のスマートフォンのカメラをかざすだけで、物件の空室や売り物件を手軽に探せるサービス「かざして検索」をスタートしています。
(*1)出典:産経メディックス調査(2018 年 1 月 30 日)
専門知識がなくても非常に高い精度で物件画像を分類できる AutoML
LIFULL HOME'S では、全国の不動産会社やデベロッパーなどが、物件画像を一括でアップロードすることができるサービスを提供しています。物件の画像をアップロードするときに、画像のカテゴリーをプルダウンで登録する分類機能があり、この機能によりアップロードされた画像が、外観なのか、キッチンなのか、バスルームなのかといったことを判別できます 。しかし、不動産会社やデベロッパーの担当者は、複数の不動産・住宅情報サイトに物件情報を登録しなければならないため、物件の写真をアップロードするだけで手いっぱいで、画像のカテゴリーまで登録する余裕がなく、その多くがプルダウンの初期値である「その他」で登録されていました。そのため、LIFULL HOME'S で物件を探している利用者は、物件画像を利用した効率的な物件選びを行うことが困難でした。そこで 2015 年~2016 年ごろ、不正カテゴリー登録検出システムを開発し、カテゴリー登録が不正な物件画像を検出するための解析を行いました。
解析の結果について、LIFULL HOME'S 事業本部 新 UX 開発部 デバイスソリューションユニット 開発グループの衛藤 剛史さんは、「アップロードされた物件の画像を解析し、カテゴリーを自動的に分類できる機能が必要だと感じました」と語ります。そこで 2018 年 2 月より、AutoML の本格的な導入プロジェクトをスタート。2018 年 5 月に、AutoML を採用した物件画像の一括アップロード機能を公開しています。AutoML の採用を決めた理由を衛藤さんは、「Google が最先端の AI や機械学習に関する情報を持っていることや、AutoML が非常に高い精度で物件画像を分類できたことが理由です。また、Google Cloud Platform(GCP)上で、統合的に利用できることも採用を決めた理由の 1 つでした。」と話しています。
今回、GCP 上に構築されたシステムは、Google App Engine(GAE)で開発されたアプリケーションと AutoML を、Google Cloud Endpoints で管理された API で連携。AutoML は、Google Cloud Storage に登録されている物件画像を、Google Cloud Machine Learning Engine で解析し、GAE で開発されたアプリケーションに解析結果を戻す仕組みになっています。当初は、分類の性能に課題がありましたが、バスルームひとつでも、バスタブや給湯器など画像の特徴が複数あるため、バスルームのカテゴリーを細分化させる工夫により性能向上を実現しています。
AutoML の導入プロジェクトと同時に、 TensorFlow を使い、1 ~ 2 週間というごく短期間で検証用の独自モデルも開発。 AutoML で開発したモデルを比較すると、TensorFlow の評価指標(AUC)が 0.897 だったのに対し、AutoML の評価指標は 0.9559 という高い精度を実現しています。衛藤さんは、「TensorFlow で短期間に作成した独自モデルも悪くなかったのですが、AutoML の精度の高さを実感しました。専門家でなくても、簡単に AI の恩恵を受けることができます。また Cloud Endpoint は、セキリュティを自前で実装する必要がないので、開発を効率化できました。」と話します。
10 数枚の物件画像を登録する場合、カテゴリーを手作業で分類すると、入稿ツールを開いてから 40 ~ 50 秒かかりますが、AutoML の導入により 10~12 秒に短縮が可能。物件画像の登録の手間は確実に低減できます。画像分類だけに限れば、AutoML によるカテゴリーの自動分類は 2 ~ 3 秒で可能です。導入から約 1 か月検証した結果、「その他」の分類率は 2 %低減され、「その他」以外のカテゴリーは分類率が最大で 3.9% 改善されました。横山さんは、「今後、使い続けると、さらに効果が期待できます。」と話します。実際に利用した不動産やデベロッパーなどの担当者からは、「カテゴリーを一つひとつ選択する手間が省けて便利」や、「以前と比較して、画像入稿が格段に早くなった」というフィードバックも得られています。
現在、AutoML では、新築、中古のマンション、一戸建ての画像しか対象としていませんが、今後は賃貸物件も対象とする計画。横山さんは、「LIFULL HOME'S の利用者が、物件探しで重視するのが物件画像です。正しい画像情報を提供することで、問い合わせ件数や資料請求率が向上し、最終的には成約率の向上が期待できます。経営層にも見てもらったのですが、ほかのサービスでも利用したいと高く評価されています。」と話します。
LIFULL HOME'S 事業本部 新 UX 開発部 AI 推進ユニット ユニット長の林 信宏さんは、「機械学習は参入障壁の高い分野でした。AutoML は、機械学習の専門的な知識がなくても、必要な項目を設定するだけで、精度の高いモデルを作成できます。操作性もよく、機械学習を活用するハードルを下げてくれます。今後も LIFULL HOME'S 全体で AI や機械学習を推進していきますが、Google の先進技術には期待しています」と話しています。
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