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コスト管理

現場からの FinOps: FinOps ロードマップを構築する方法

2023年6月13日
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Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2023 年 6 月 2 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

「現場からの FinOps」へようこそ。これは Google Cloud の経験豊富な FinOps の実務担当者が執筆する新しいブログシリーズで、Google Cloud の費用への FinOps の適用に関するよくある質問にお答えすることを目的としています。このコンテンツは、Google Cloud のお客様向けに特別に設計されたストーリーとエクスペリエンスを組み合わせたものです。FinOps の詳細についてはこちらの概要を、特定のクラウドに依存しない一般的な説明については www.finops.org を、それぞれご覧ください。

クラウド サービスがますます複雑化する世界において、その予想を超える請求額に衝撃を受けずにクラウド サービスを活用するにはどうすればよいでしょうか。

State of FinOps 2023 の調査では、「FinOps の組織的な導入」が、事業において FinOps を検討する企業の 2 番目に大きな課題として挙げられています。クラウド損失の推定額が数十億ドルにのぼることを考えると、Flexera の 2023 年のレポートで回答者の 82% が主な課題として「クラウド費用の管理」と回答したことは驚くに値しません。

Google Cloud では、Google プロフェッショナル サービスが大小さまざまな組織と協力して FinOps 評価ワークショップを実施し、FinOps 能力を育成しています。2020 年以来 100 社を超えるお客様が参加しているこのワークショップは、お客様からのフィードバックを反映して繰り返し実施されています。具体的な計画(FinOps ロードマップと呼ばれます)を立てることで、お客様の組織の主要なステークホルダーが、「どこから始めればよいか?」という難問に答える力を身につけることができます。

FinOps ロードマップは、7 つの主要な能力に対する各ビジネス ユニットの現在位置の評価、将来のあるべき状態の優先順位リスト、それぞれの具体的な能力における次のステップをまとめた決定的な文書です。

本日のブログ投稿では、初期の発見および提案ワークショップに焦点を当てて、Google PSO がどのようなステップを踏んでお客様を導くのかを解説します。このワークショップを終えると、以下に説明する情報やツールを使用してお客様独自の FinOps ロードマップを構築できるようになります。

ステップ 1: ステークホルダーを定義する

ワークショップを開始する前に、現在クラウドに支出しているステークホルダー、または今後クラウドに支出する予定のステークホルダーをお客様に具体的に選出してもらいます。これらのステークホルダーは、どのビジネス分野に属する人でもかまいません。出発点としては、以下の分野から 2~3 人の個人を選ぶことをおすすめします。

  • FinOps / CCoE(存在する場合)

  • エンジニアリング

  • プラットフォーム

  • ビジネス

  • 財務

選出するステークホルダーは通常、10~15 人が適切です。これだけの人数がいれば、主要な各ビジネス ユニットが十分に代表され、サイロを分解してワークショップの流れを軌道に乗せることができます。

このワークショップの目標は、現時点での FinOps 能力の成熟度を明らかにし、必要に応じて、FinOps ロードマップという合意された成果物によってクラウド利用の効果的なスケーリングを支援することです。

ステップ 2: FinOps を定義する

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FinOps とは実際にはどのようなものでしょうか。ヒント: それは単なる費用の最適化ではありません。

ワークショップの最初に、まずすべての参加者に「FinOps とは実際にはどのようなものであるか」に対する共通の理解を与えます。世の中には多くの誤解やさまざまに異なる定義がありますが、定義を一本化することで、なぜ FinOps が組織にとって重要であるかを参加者全員に理解させることができます。

FinOps とは、財務のアカウンタビリティを高め、クラウド トランスフォーメーションを通じてビジネス価値の実現を加速するために、テクノロジー、財務、ビジネスを一体化する運用フレームワークと文化的な転換のことです。

このモデルを使用すれば、クラウドへの支出を把握し、価値を生み出す持続可能な部分を最大化できます。また、無駄な支出を削減または完全になくす堅牢な構造がもたらされます。

クラウドを基盤とすることは、組織のビジネスに対する投資です。「どれだけ費用がかかるか」から「どれだけの価値を提供できるか」へと考え方を変えることで、単なる費用削減を超えたロードマップを作成できます。無駄を減らすことも重要ですが、それは成功する FinOps 戦略の唯一の目的ではありません。

ステップ 3: 7 つの中核能力に照らして評価する

次に、以下の 7 つの能力についてグループの現状を評価し、各能力の現在の成熟度を明らかにします。

  • 費用の割り当て

  • 報告

  • 料金の効率

  • アーキテクチャの効率

  • トレーニングとスキル習得

  • インセンティブの提供

  • アカウンタビリティ

Google ではこれら 7 つの能力を実用最小限の FinOps 実践の基礎とみなしており、Crawl-Walk-Run(ハイハイ→歩く→走る。つまり、簡単なことから着手し、徐々に範囲を拡大する)成熟度モデルは、組織が目指す次のステージの骨子を描きます。

これらはお客様の組織に合わせて調整し、独自にカスタマイズできます。以下に、それぞれの能力の定義(常に共通の理解を持つことから始めます)と各能力における Crawl-Walk-Run の明快な例を示します。

それでは各能力を見ていきましょう。

1)費用の割り当て: ショーバックまたはチャージバックのいずれかを識別可能なラベルまたはタグを使用してクラウド費用をオーナーに割り当てるプロセス。

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費用の割り当ては特に解決の難しい問題の一つと考えられており、ワークショップに参加する多くの組織は、これを正しく行うことの複雑さとプレッシャーから、自組織のこの能力を Crawl と自己評価します。そのような組織におすすめするのは、まず小規模に開始し、ツールと教育で自信をつけ、割り当て戦略を何度も反復することです。

2)報告: 割り当てられたクラウド費用のデータを可視化し、ユーザーがそのデータにより自部門または他部門の支出を確認してよくある質問(例: 先月の支出が最も多かったアプリケーションはどれか?)に対する答えが得られるようにするプロセス。

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報告に関して複数のお客様とのやり取りからわかったのは、多くのお客様はコンソールでどのような Google Cloud ツールが使用できるかをよく知らないか、チームにそれらのツールへのアクセス権限を与えていないということです。多くの場合、これは意図的なものではなく、IAM 権限モデルを教育または再検討すれば、そのようなツールへのアクセス権をチームに安全に提供できます。組み込みツールは、どのデータが有用で、どのような場合にビューをカスタマイズする必要があるかをチームメンバーが理解するのに最適な出発点です。

3)料金の効率: 市場の状況やスペシャル オファー(割引、確約利用など)に基づいてクラウドの最終的な費用を減少させる手段の集まり。

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料金の効率はほとんどの組織にとって関心の高いトピックであり、多くのチームがそれぞれ独自に割引料金で購入し始めると「シャドー FinOps」が起こりやすくなります。多くの組織はこれを簡単に成果が得られる手段と考えており、購入料金を可能な限り低く抑えるために、チームごとではなく組織全体の視点から割引を探して一元化するという優先順位の高い項目をロードマップに追加します。

4)アーキテクチャの効率: アプリケーションがどの程度クラウド向けに設計されていて、クラウド料金のメリットをどの程度享受しているか。

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ワークショップを通じて明らかになった興味深い点は、アーキテクチャの効率は通常、FinOps の能力として忘れられているということです。これは、オンプレミスからクラウドへの移行は個々のアプリケーションのモダナイゼーションよりも認識される ROI が高いとお客様が回答していることからわかります。ただし、初期の移行の完了後、組織はアーキテクチャの効率を優先事項に格上げします。ほとんどの組織は自組織のこの能力を Crawl と自己評価します。

5)トレーニングとスキル習得: 組織内の各個人が FinOps についてどの程度スキルアップしているか。

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「トレーニングとスキル習得」および「インセンティブの提供」(下記を参照)は、お客様の成熟度と強い相関関係を持つ傾向があります。主要なロードマップ項目には通常、迅速なスキルアップを促進するために、両方の能力への投資を同時に検討するステップが含まれます。

6)インセンティブの提供: 従業員が費用を意識した選択を行うことにどの程度意欲的であるか。

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インセンティブの提供は、PSO ワークショップだけでなく、より広範な FinOps コミュニティにおいても、多くの組織が課題として報告しています。そこでは、成功に向けて予算を見直すためのなんらかの結果が主要な次のステップとして捕捉される場合が多く、これを通じてチームのスキルアップ用のインセンティブの資金が継続的に確保されます。

7)アカウンタビリティ: クラウド支出に関する所有意識の文化がどの程度確立されているか。

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上記以外にも数多くの能力がありますが(単位指標の作成、正確な予測、内部および外部のベンチマークなど)、それらは基礎が確立された後に明らかにすることができます。

すべての能力が定義され、質疑応答によって成熟度が明確化されたら、参加者は以下について自己評価するよう求められます。

  • 組織は現在どの段階にありますか?Crawl、Walk、Run のいずれですか?

  • 12 か月の目標は何にしますか?どのような目標が現実的ですか?Crawl、Walk、Run のいずれですか?

  • その目標を達成するために不可欠な成功要因は何ですか?

(後にロードマップへの入力となるアイデアのブレインストーミング)

これらの質問が提示されると、たいていは活発な議論が起こり、参加者は各能力がそれぞれのビジネス分野でどのように捉えられるか、どこで成長しているか、さらなる指導や投資が必要な場所はどこかといったことを深く理解していきます。

多くのお客様は、このディスカッションのパートで、最終的にロードマップの出力となる具体的な次のステップの優先順位付けを行います。つまり、どの能力を磨くことが最も急務であるか、個々のステークホルダーは何をする必要があるか、グループが協力してその能力の定義された成熟度に達するにはどうすればよいかといった問いの答えを見つけようとします。

クラウド フットプリントが小規模で、クラウド ユーザーの数が少ない場合は、それほど探索、議論、または努力しなくても上記の問いの答えが得られるかもしれません。

しかし、組織の規模が大きいほど、この演習の有用性は高くなり、参加者は成熟度が組織全体で一様でないことに気づきます。たとえば、データチームと分析チームは自チームの支出額と支出を最適化する方法をしっかり理解しているのに対し、プロダクト チームは自チームの支出額を確認する手段をまったく持っていない場合があります。

個々人の能力をグループとして評価することの重要なメリットは、各自が最終的に次のものを得られることです。

  1. FinOps の主要な能力に立ち向かうための基礎を成す、組織全体での FinOps の共通の理解

  2. 何を次のステップにすべきかという、多くのチームの間で一致した見解

たとえば、ある組織が現在、費用の割り当てについて Crawl 段階にあるとします。部門横断的なステークホルダーは、Walk 段階に到達すること、およびクラウド資産の 50% をカバーする強固なタグ付け戦略を構築することを目的として、費用の割り当てを今後 12 か月の最優先事項に位置付けます。

このシナリオでは、FinOps ロードマップに以下のステップを含めます。これらのステップは通常、FinOps チームが引き受けます。

  • 財務部門との間で、現在のチャージバック モデルがどのようなもので、どこにギャップがあるかについて話し合う

  • 各ビジネス ユニットにとってどのタグに意味があるかを話し合い、特定されたモデルとそれがどのように関係しているかを明らかにする

  • プラットフォーム チームとの間で、タグを(プロジェクトやリソースなどの)どこに適用するかについて話し合う

  • プラットフォーム チームのこの作業を自動化するための技術を評価する

  • エンジニアのワークフローにタグを導入するため、エンジニアに教育とトレーニングを提供する

このワークショップの成果物を正確に予測することは常に困難ですが、まずは(費用の割り当てと報告による)支出の可視化と誰が正式にクラウド FinOps の責任を負うかを定義することに最初の焦点を当てるのが一般的です。ある大手通信会社が、FinOps 評価ワークショップを通じて有益な知見をいくつか見出しました。その事例の詳細については、こちらをご覧ください。

FinOps ロードマップを使用することにより、組織は整合性の取れた方法で次のレベルの成熟度に段階的に進むことができます。

次のステップ

これでロードマップが完成し、最初からすべてを正しく行わなければらないというプレッシャーから解放されました。次はどうしますか?

  1. ゆっくりと深呼吸します。
  2. 各チームがそれぞれの FinOps 能力で目的の成熟度に達するために行わなければならないステップを見直します。
  3. 合意されたアクションを実施する必要がある特定のチームにおいて、ワークショップに参加したステークホルダー個人を「FinOps チャンピオン」に任命します。
  4. 各能力の新たな特性について内部でフィードバックを提供し、成果を称えます。
  5. レビューし、反復します。

FinOps の長所の一つはその反復的性質です。どの組織も、着手してすぐに、あるいはたとえすべての能力が最終目標である Run に達したとしても、Run の成熟度にとどまることはできず、またそうなるべきでもありません。

これを円と考えてください。最初のサイクルを完了すると、再び出発点に戻ります。今度は以前より知識が増えているため、FinOps 戦略を策定してさらに拡大し、イノベーションと成長を推進できます。

これらすべてを一度に行おうとすると大変な作業に感じられるかもしれませんが、落ち着いてください。いずれか 1 つの分野を選んでそこに焦点を当てるだけでも、クラウド支出に関する詳しい分析情報を得ることができます。

6 か月経過したら、能力を再びレビューしてみてください。ディスカッション中にグループとして設定した 12 か月の目標に向けて順調に進んでいますか?

いずれは、皆様は FinOps 戦略について自信を持つようになるでしょう。しかしこの記事が、「FinOps 戦略について何から着手すればよいか」についての指針となれば幸いです。次回の記事でも Google Cloud の FinOps ジャーニーをさらに進展させますので、ご期待ください。

参考文献:

FinOps Foundation による「Adopting FinOps」

Flexera による 2023 年度版「State of the Cloud Report」

FinOps Foundation による「State of FinOps」

- Google Cloud コンサルティング、FinOps クラウド コンサルタント Kinjal Tanna
- Google Cloud コンサルティング、EMEA FinOps プラクティス リード Sam Moss

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