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Google Cloud での SAP

SAP のパフォーマンス ベンチマークのベスト プラクティス

2023年11月9日
Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2023 年 10 月 19 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

あらゆる SAP システムの実装において、パフォーマンス ベンチマークは不可欠な要素です。実装プロセスのさまざまな段階でシステムのベンチマークを行うことで、パフォーマンスのボトルネックを早期に特定して対処できます。これにより、ビジネスの成長に伴うパフォーマンス上の影響を出さずに、SAP システムがビジネスニーズを満たせるようにできます。

パフォーマンス ベンチマークは、プロジェクトの段階に応じて異なることを意味します。

  • 実装前: この段階では、オンプレミス環境の SAP システムのパフォーマンスを評価します。これはクラウド リソースのサイズ設定の指標になります。また、SAP システムをクラウドに移行した後の評価ベースラインとしても機能します。
  • 実装: SAP システムを Google Cloud にデプロイした後、再度システムのパフォーマンスを評価する必要があります。これは実装プロセスで発生した可能性のあるパフォーマンスのボトルネックの特定に役立ちます。この段階では、負荷テストやパフォーマンス テストなど、さまざまなタイプのテストを実施し、潜在的なパフォーマンスのボトルネックを特定します。負荷テストはさまざまなツールや手法で実施できます。よく利用される手法に、サードパーティ ツールである LoadRunner や JMeter などを使用して、システムに多数のユーザーがアクセスしている状況をシミュレートするものがあります。合成トランザクションを利用して、特定のビジネス プロセスをシミュレートすることもできます。負荷テスト スクリプトを定義する際、システムで予想されるユーザータイプ、ビジネス プロセス、ピーク時の負荷を考慮することが重要です。
  • 運用: システムを Google Cloud に移行した後には、パフォーマンス ニーズを満たしていることの確認が重要です。これは時間の経過とともに発生する可能性のあるパフォーマンス低下を特定したり、パフォーマンスの低いシステム部位を特定して必要な改善を施せるようにするのに役立ちます。

SAP システムをクラウドに移行する前に、パフォーマンス改善のために次の点を考慮してください。

  1. ネットワーク

ネットワーク ティア

Google Cloud には、スタンダードとプレミアムの 2 つのNetwork Service Tiers があります。Network Service Tiers を使用することで、お客様はネットワーク パフォーマンスを改善できます。Google Cloud の存在を際立たせる重要なコンポーネントの一つがプレミアム ネットワーク バックボーンで、高いネットワーク パフォーマンスと低いレイテンシを実現します。

プレミアム ティアでは、インターネットと VPC ネットワーク内の VM インスタンス間のトラフィックは可能な限り Google のネットワーク内でルーティングされ、それにより最高のパフォーマンスと低レイテンシを実現します。スタンダード ティアでは、インターネットと VPC ネットワーク内の VM インスタンス間のトラフィックは、通常はインターネット経由でルーティングされます。

オンプレミスからプライマリおよび DR リージョンまでのレイテンシ

SAP システムのリージョン選択にあたって、オンプレミス環境とターゲットのクラウド内プライマリおよび DR リージョンとの間のレイテンシを考慮します。Google Cloud では、パフォーマンス ダッシュボードを使用して、Google Cloud リージョン間のレイテンシをチェックできます。

レイテンシが影響を与える可能性のあるさまざまなシナリオを以下に示します。

  • アプリケーションとデータベース間のレイテンシが高いと、応答時間やトランザクション時間の延長、タイムアウト エラーなどが発生する可能性があります。
  • SAP システムを構成してデータのゾーン間レプリケーションを有効にできるため、ゾーン間レイテンシが低いことは高可用性にとって重要です。しかし、ゾーン間レイテンシが高すぎると、データベースのレプリケーション、ひいては SAP システムのパフォーマンスに影響が及ぶ可能性があります。
  • リージョン間レイテンシが低いことは、障害復旧の目標復旧時点(RPO)の実現にとって重要です。

相互接続と Cloud VPN

Google Cloud は、相互接続のために Dedicated Interconnect、Cloud Interconnect、Cloud VPN など、さまざまなオプションをご用意しています。

SAP システムに最適な相互接続オプションは、お客様固有のニーズにより異なります。高帯域幅と低レイテンシが要件の場合、Dedicated Interconnect または Partner Interconnect が優れた選択肢です。他のクラウド プロバイダへのパートナー接続をお持ちの場合、パートナーがサポートしていれば、Google Cloud への接続用に再利用できます。より費用対効果の高いソリューションが必要な場合、Cloud HA-VPN がより優れた選択肢になる可能性があります。ほとんどの SAP アプリケーションに十分対応できます。ただし、ラスト ワンマイルのトラフィックはインターネット経由でルーティングされるため、レイテンシの変動が見られることがあります。

  1. アベイラビリティ ゾーン

SAP システムのゾーン選択にあたって、次の要素を考慮することが重要です。

  • レイテンシ: マルチゾーン アーキテクチャの場合の、ゾーン間レイテンシ
  • 可用性: 選択したゾーンにおけるマシンタイプの可用性

Google Cloud のパフォーマンス ダッシュボードで、ゾーン間レイテンシをチェックできます。

  1. ディスクの選択

ゾーンを選択したら、ディスクのタイプ選択とサイズ設定を、ユースケースと必要な IOPS およびスループットに基づいて行う必要があります。

Compute Engine は、ソリッド ステート ドライブ(SSD)テクノロジーまたは標準のハードディスク ドライブ(HDD)テクノロジーに基づいて、さまざまなタイプの永続ディスクHyperdisk を提供します。タイプごとにパフォーマンス特性が異なります。Google Cloud は、ディスクの基盤となるハードウェアを管理して、データの冗長性を保証し、パフォーマンスを最適化しています。

ディスク スループットとは、ディスクの秒あたりの読み取りまたは書き込み可能なデータ量のことです。ディスク スループットと IOPS が SAP システムのニーズを十分に満たしていることが重要です。

さまざまな SAP プロダクトでサポートされているディスクタイプの詳細は、SAP Note - 2456406 を参照してください。必要な IOPS およびスループットを実現するには、選択したディスクのサイズを、ドキュメントに基づいて必要なパフォーマンスを満たすように設定します。

ディスク パフォーマンスのベンチマークは、Flexible I/O tester(FIO)ツールで実施できます。
詳細はこのドキュメントをご覧ください。

実行中のインスタンスで使用されているディスクの IOPS とスループットを測定するには、測定用に作られた構成でファイル システムのベンチマークを行います。そうすることにより、既存のディスクの内容を失わずに現実的なワークロードをテストできます。既存のディスクでファイル システムをベンチマークすると、開発環境固有のさまざまな要素がベンチマーク結果に影響を与える可能性があり、その結果、ディスク パフォーマンスの上限に届かないことがある点にご注意ください。

永続ディスクの純粋なパフォーマンスを測定するには、ブロック デバイスを直接ベンチマークします。この方法を使用して、純粋なディスク パフォーマンスとディスク パフォーマンスの上限を比較します。

  1. VM インスタンスの選択

Google Cloud で SAP システムをデプロイできるのは、事前定義された認定マシンタイプまたはカスタム マシンタイプで、その SAPS 評価が SAP インスタンスの SAPS 評価以上の場合です。VM インスタンスの vCPU 数とメモリが SAP インスタンスの要件を十分に満たしていることも必要です。SAP 認定マシンタイプの一覧は、SAP Note - 2456432 および Google Cloud のドキュメントを参照してください。

永続ディスクのパフォーマンスは、ディスクのサイズと VM インスタンスの vCPU 数に応じてスケールします。パフォーマンスは、ディスクの上限か、ディスクがアタッチされている VM の上限に達するまでスケールします。VM の上限は VM のマシンタイプと vCPU 数により決定されます。

4 個の vCPU を備えた N2 マシンタイプの VM にアタッチされている 1,000 GB のゾーン SSD 永続ディスクがあるとします。ディスクのサイズのみに基づく読み取り上限は、36,000 IOPS(6,000 ベースライン IOPS +(30 IOPS/GB × 1,000 GB))です。しかし、VM が備えているは vCPU は 8 個であるため、読み取り上限は 15,000 IOPS に制限されます。

  1. 共有ファイル システム

共有ファイル システムは、SAP システムの多くで重要なコンポーネントになっています。これは SAP のアプリケーション ファイル、インターフェース ファイル、構成ファイルのストレージとして使用できます。

共有ボリュームのベンチマークを行い、SAP ワークロードに必要なパフォーマンス要件を確保することが重要です。SAP ワークロードの要件は非常に厳しいものになる可能性があり、共有ボリュームのパフォーマンスが優れない場合、SAP システム全体のパフォーマンスのボトルネックになることがあります。

共有ファイル システムのパフォーマンスに影響する可能性のある要因はさまざまで、次のようなものが含まれます。

  • ネットワーク帯域幅: 共有ファイル システムを SAP サーバーに接続するネットワークの帯域幅は、パフォーマンスに大きな影響を与える可能性があります。
  • ストレージのパフォーマンス: 共有ファイル システムに使用されるストレージ デバイスのパフォーマンスも、共有ファイル システムのパフォーマンスに大きな影響を与える可能性があります。

まとめ

SAP システムの実装のさまざまな段階でベンチマークを行うことで、パフォーマンスのボトルネックを早期に、またシステムのライフサイクル全体を通じて、特定して対処できます。これにより、SAP システムはビジネスのパフォーマンス ニーズの高まりに対応できるようになります。

ベンチマークでは、基盤となるインフラストラクチャのあらゆる側面、すなわちネットワーク ティア、相互接続オプション、レイテンシ、アベイラビリティ ゾーン、ディスク選択、VM インスタンス、共有ファイル システムなどを考慮します。詳細については、Google Cloud 上の SAP をご覧ください。

-SAP クラウド エンジニア Ghanshyam Patel

-SAP クラウド エンジニア Shubham Rai

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