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Google Cloud

Google Cloud でビジネス レジリエンスを再構築

2021年1月12日
Google Cloud Japan Team

過去 20 年間、さまざまな IT プロジェクトやエンタープライズ ビジネス全般にわたるコンサルティングを経験し、復元力のある IT 戦略を実現するために同様のパターンが何度も使用されている状況を見てきました。モダナイゼーションを目指す企業にとって、セキュリティ、運用、イノベーション、データ戦略、情報分析にまつわる課題は付き物です。2020 年はここまで、誰にとっても非常に困難な年でしたが、多くの企業がビジネスの成功を保つため、復元力のある戦略を計画、設計、構築することを求めています。Google Cloud のエンタープライズ クラウド アーキテクトである私の仕事は、企業がそれを実現するプロセスを支援することであり、現在のような困難な時代を乗り切り、成功を収めるため、どういった要素が不可欠であるかを見いだしてきました。この記事では、私の経験や、そうした成功に不可欠な要素、Google Cloud を通じて復元力のある IT 戦略を実現するために私が開発した方法論についてご紹介します。

復元力のある IT 戦略(RIS)とは

企業の経営者層からよく求められる事柄の一つが、ビジネス レジリエンスの達成、つまり現在のような困難な時期だけでなく、今後もビジネスの成功を保つことです。具体的には、従業員の保護、コアビジネスの継続的運営、デジタル変革の促進を意味します。

私はビジネス レジリエンスの達成に必要な要素(軸)を、RIS: 復元力のある IT 戦略と名付けた次のような方法論に基づき、いくつかのグループに分類しました。

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RIS モデル: Google Cloud を活用して復元力のある(Resilient)IT 戦略(Strategy)を構築する方法

この「レジリエンスの家」は、ビジネス レジリエンスを達成するためのビジネスモデルの再構築を支援するものです。家の底にあたる基礎部分は、RIS モデルの 6 本の軸の 1 本目「稼働し続ける」ことです。セキュリティ、イノベーション、復元力、データ戦略に関するベスト プラクティスを軸に 4 本の軸が垂直に立っています。家の上部にある最後の軸は「実用的なデータ分析の提供」です。では、それぞれの軸が Google Cloud で前述の課題を解決するのにどのように役立つかを見ていきましょう。

1. 稼働し続ける

IT はビジネスの実現手段であるだけでなく、ビジネスの推進力であり、IT 運用はまさにビジネスの「エンジン」といえます。IT 運用において「稼働し続ける」ことが、レジリエンスの家にとって非常に重要である理由はここにあります。基礎がなければビジネス エンジンが停止してしまいます。このセクションでは、企業が Google Cloud を使用してその目標を達成する方法をご紹介します。

最初のステップは、Google の企業組織向けベスト プラクティスを実践することです。この記事は、ID とアクセスの管理、ネットワーキング、セキュリティ、クラウド アーキテクチャ、請求、管理全体にわたる強固な基盤を計画するエンタープライズ アーキテクトやテクノロジー担当者に役立ちます。Google Cloud を使用して運用効率の問題を解決するホワイトペーパーには IT 運用を最適化する方法について多数の情報が記載されていますので、基盤を拡張する際にお役立てください。費用の最適化と、アジャイルかつスケーラブルな環境へのプランニングに関する方法もご確認いただけます。

2. 組織を守る

モノリシック アプリケーションに慣れていて、クラウドへの移行を始めたばかりの旧来の企業では、アプリケーション セキュリティ、社内アプリケーションへの安全なアクセス、セキュリティ分析など、クラウドにおけるさまざまなセキュリティの課題に直面することがあります。組織を保護し、脅威を検出して阻止することは常に優先すべき事項です。この軸では、効果に違いが生まれるいくつかの最新アプローチをご紹介します。Google Cloud は、こうしたアプローチによってビジネスの防御が格段に容易になると考えています。クラウド テクノロジーが変革をもたらす可能性のある 3 つの分野について見ていきましょう。

1. セキュリティ分析と運用

多くの企業では大量のセキュリティ テレメトリーを保存および分析することが難しいため、分析と運用はセキュリティの重大な課題になります。目標は、こうしたデータを分析、保存するための費用を削減し、そこからインサイトを得るスピードを高めることです。企業がセキュリティ テレメトリー データの保持を制限し、脅威を分析および検出する機能を縮小させる理由の大部分は費用にあります。Chronicle と VirusTotal に基づく Google のソリューションを活用すれば、インテリジェントな識別を実現しつつ容易にスケーラビリティを実現することができます。その結果、費用を削減しながら、Google 検索並みの速度で多くのリスクを分析できます。詳細については、Chronicle の顧客である世界的なヘルスケア企業の事例紹介をご覧ください。

2. アプリケーション セキュリティ

ユーザーとアプリケーションを保護するには、新しいセキュリティの脅威に対する知識を常に更新する必要があります。Google のアプリケーション セキュリティ ソリューションには、reCAPTCHA Enterprise と WebRisk プロダクトが含まれており、Google が自社サービスを保護してきた長年の経験が活かされています。これは、クラウドやオンプレミスのサイトやモバイルアプリに簡単に統合できるエンタープライズ ソリューションを使用して、アプリを不正使用や悪用からより適切に保護できることを意味します。

3. BeyondCorp リモート アクセス

VPN は、常時接続のリモート アクセスでの使用は想定されていませんでした。そのため、リモートワークが一般的になった現在では、VPN がエンドユーザーと IT 管理者にとって大きな生産性の低下につながる可能性が生じています。BeyondCorp リモート アクセスは、VPN を使用せず、従業員と外部人材に社内アプリへのシンプルで安全なアクセスを提供します。ゼロトラスト セキュリティ モデルである BeyondCorp と、Google Cloud を使用して BeyondCorp を実装した Airbnb の事例について詳しくは、こちらの動画をご覧ください。

3. デジタル イノベーションを促進する

イノベーションはこれまでずっと、成長を促進し、将来の混乱を防ぐ大きな役割を担ってきました。デジタル イノベーションを促進することが Google の RIS モデルの 3 番目の軸です。残念なことに、イノベーションは昨今、IT 戦略全体を考慮せず反復サイクルで行われるケースが多くなっています。私は、イノベーションは企業のトップとアーキテクチャ チームによって意識的に推進されるべき全社的な課題であると考えています。その目標は、顧客の利益になるように各ビジネス ユニットがイノベーションを推進できるようにすることです。そしてこのことが、デジタル イノベーションが Google の DNA に組み込まれている理由にもなっています。Google Cloud がイノベーションの課題解決にどのように役立つかについては、こちらをご覧ください。

この第 3 の軸のおかげで、企業は今後も時宜にかなうビジネスの機能とサービスを構築していくことができるのです。Google Cloud はこうした課題に対し、アジャイルかつオープンなアーキテクチャを通じて、アプリとインフラストラクチャの管理方法の再構築を主として取り組んでいます。最近の Next カンファレンスで、新しい Google Cloud アプリケーション モダナイゼーション プログラム(CAMP)をご紹介しましたが、これはアプリケーションの迅速かつ大規模な配信を推進してきた Google の経験に基づいており、また 31,000 人を超える専門家から収集された 6 年分の研究とデータをまとめた DevOps Research and Assessment(DORA)チームが開発した原則に則っています。CAMP と未来への歩みを加速する方法に関する詳細をご確認ください。

4. レジリエンスのための設計

RIS モデルの第 4 の軸は、柔軟性と復元力に優れたスケーラブルな IT アーキテクチャを設計することです。この使命には、言い換えれば、アーキテクチャに柔軟性を組み込み、アジリティを維持しながら、変化に対応するためにオープン クラウド アーキテクチャを採用することが含まれます。さらに、組織全体で復元力の高いスケーラブルなソリューションを設計し、耐障害性システムを構築することも含まれます。需要に応じて機能性を調整できるスケーラビリティと、障害からの復元力。第 4 の軸の重要な目標はこの 2 つです。Google Cloud ではこの原則に則り、スケーラブルで復元力のあるアプリを設計するためのいくつかのパターンと手法を導入しています。

さらに Google は、何年にもわたって何十億人ものユーザーにグローバル アプリを提供し続けてきた経験から、サイト信頼性エンジニアリング(SRE)手法を構築しています。SRE は、組織に DevOps の原則を実装することだと考えることができます。DevOps、アジャイル、リーンといったムーブメントの根幹には常に文化が存在し、ソフトウェア デリバリーのパフォーマンスと組織のパフォーマンスの両方を推し進めてきました。「エラーの発生を前提とする」、「組織のサイロを減らす」、「段階的に変更する」、「ツールと自動化を活用する」、「すべてを数値で測る」といった SRE の原則が、組織全体に通じる共通のテーマになっていることがわかりました。こうした原則は文化と働き方にも当てはめることができます。さらに詳しくは、SRE の導入開始方法と実践の評価方法をご確認ください。

5. データ戦略を更新する

ビジネスの価値を生み出すための明確なデータ管理戦略は、あらゆるビジネスにとって成功に欠かせない要素です。今日のエンタープライズ ビジネスでは CRM、ERP、消費者および顧客のデータがデータサイロに存在することが多いため、その構築には困難が伴います。データ戦略と、現代に合わせてデータ戦略を更新して構築する方法を RIS モデルの第 5 の軸に据えたのはこうした理由からです。変革の過程はお客様それぞれで異なり、それに伴って定義するデータ戦略もさまざまです。

企業の経営者層は、データを使用したカスタマー エクスペリエンスの改善、新しいビジネス チャンスの発掘、かつてない価値と競争上の優位性を創出する新しい方法を見いだしたいと強く求めており、ベンダー ロックインを回避するためにオープンソースやマルチクラウドなどのテクノロジーを採用する機会を模索しています。Google Cloud は、今日のマルチクラウド環境でアプリケーションを管理するための新しいプラットフォーム、Anthos を発表しましたが、マルチクラウド戦略は適切に実践されなければ、かえってデータサイロの問題を増大させる結果になります。このため、クラウド全体で一貫したデータ エクスペリエンスを実現することが求められます。データのタイプやサイズ、保存場所に関係なく、データから価値を引き出すには、最新のマルチクラウド データ戦略が必要です。これを実現することで、さまざまなパブリック クラウド(Google Cloud、Amazon Web Services、Azure)に存在するデータの分析と、データの一括管理が可能になります。マルチクラウドの世界において、企業はプロバイダ間でデータを移動させることなくデータサイロを解消し、クラウド全体でシームレスに重要なビジネス インサイトを得られるようにすることを必要としています。Google Cloud は先日、この軸の構築を支援する BigQuery Omni を発表しました。これにより、Google Cloud、AWS、Azure にあるデータにクエリを実行できます(近日提供予定)。

データ戦略の刷新方法に関する情報を記載した詳細ガイドでは、第 5 の軸を補完する顧客の事例紹介とともに、データ戦略を拡大する方法に関してさまざまな側面を紹介しています。

6. 行動につながる予測的なインサイトを提供する

データの価値を引き出すことは、あらゆる企業にとって重要かつ困難なミッションですが、これが RIS モデルの第 6 の軸になります。多くのエンタープライズ ビジネスがデータの活用、データドリブン アプローチの採用、予測分析の強化を目標に掲げています。ここまでのさまざまな軸では、データに内在するあらゆる価値から実際に恩恵を受けられるような、優れたフレームワークの構築に必要な手順をご紹介してきましたが、第 6 の軸は、ビジネス、パートナー、顧客からインサイトを得ることについてです。Google Cloud で人工知能(AI)と機械学習を使用すれば、さまざまなユースケースを実装し、ビジネス上の問題点を解決して、顧客にビジネス価値を提供できます。その結果、ビジネスを再定義するうえで、意思決定の改善やイノベーションの加速につながるリアルタイムのインサイトが得られます。例として、イリノイ州が AI を活用して、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)で職を失った住民による数十万件の失業保険請求の提出を支援した方法をご覧ください。

まとめとして、ここでご説明した方法論は Google Cloud を活用して復元力のある IT 戦略を構築することに仕事を集中し、この困難な時期を乗り切るために役立ちます。6 つの軸は、ビジネスの成功を保つため、重要な成功要素を通じてビジネスを変革するために構築、維持、促進する必要のある分野を表しています。このアプローチは、つまりはビジネスおよび IT 関係者向けのガイドラインであり、Google Cloud の活用において安定性、価値、成長をもたらすものです。


本記事にご協力いただいた Google Cloud ソリューション アーキテクトの Théo Chamley に感謝します。

-Google Cloud エンタープライズ クラウド アーキテクト Moreno Nolo

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