SAP Order to Cash アクセラレータ
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2021 年 6 月 7 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
Google は先日、SAP Business Suite、SAP ERP、S4/HANA からデータをシームレスに移動するために、Google Cloud ネイティブのデータ統合プラットフォームである Cloud Data Fusion と SAP の統合を発表しました。これにより、BigQuery への SAP データの統合が簡素化され、Looker を利用した貴重な知見の獲得が可能になります。Cloud Data Fusion のような拡張性と信頼性を持ち合わせた統合プラットフォームでも、ミッション クリティカルな企業データをウェアハウスに組み込むパイプラインを作るには長期間かかることがあります。パイプラインの作成には、インテグレーションの構築だけでなく、ディメンショナル モデルとアナリティクス ダッシュボードの作成作業も含まれます。これを理解するためには、企業内でのビジネス プロセスをより詳しく見る必要があります。
企業におけるビジネス プロセス
どのような規模の企業でも、業務を最適化し、最大限の利益を上げるためには、しっかり定義された生産的なプロセスが必要となります。ほとんどの企業では、SAP などの単一 ERP システムに実装可能な、またはプロセス チェーンの主要な機能をそれぞれ担う複数のシステムに分散可能な、一連の標準的なプロセスで業務を行っています。このような長期にわたるプロセスをエンドツーエンド ビジネス フローと呼びます。ビジネスの状況を把握するためには、このような業務プロセスを慎重に分析する必要があります。
企業には、互いにからみ合った非常に複雑なプロセスが多数存在しています。Order to Cash、Procure to Pay、サプライ チェーンなど、実にさまざまです。このようなプロセスを理解するのは困難な場合があります。ましてや、アナリティクスのための複雑なシステムやデータセットの統合については言うまでもありません。これらのプロセスを基盤としてスケーラブルなアナリティクス プラットフォームを構築するには時間とリソースがかかるだけでなく、各分野の専門家、ビジネス アナリスト、データ エンジニア、ETL デベロッパー、ステークホルダーの間の協力も必要となります。
SAP アクセラレータとは
SAP を利用する顧客が多様な価値を自由に模索できるようにするために Google Cloud が提供しているのが、SAP アクセラレータです。これらのサンプルは、SAP データのアナリティクスを促進するための主要なデータ分析用プロダクトの一部として組み込まれています。どのようなアナリティクスのシナリオでも、SAP データを主要な要素として BigQuery に持ち込むことが最初のステップです。SAP データで付加価値のあるサービスを提供するためには、やはりデータの統合が最も優先順位の高い要件となります。統合は以前と変わらず複雑な問題のひとつです。これに対処するため、Google Cloud では Cloud Data Fusion に、SAP データを迅速にオンボーディングするためのパイプラインを 50 以上用意しています。SAP データの分析を開始するには、必要なディメンショナル モデルが BigQuery に存在している必要があります。Cloud Data Fusion では、SAP データの統合中にディメンショナル モデルを作成する機能がプロダクトに組み込まれています。また、導入後すぐに Looker のダッシュボードを介してデータを分析できる Looker Blocks が Looker から提供されます。
Order to Cash とは
Order to Cash は、受注管理から受注フルフィルメント、発送、請求書の作成と支払い、売掛、報告までを含めた、非常に重要なビジネス プロセスのひとつです。一般的な Order to Cash プロセスでは、顧客、マテリアル、価格設定、受注、配送、請求の作成と管理などを行います。ほとんどの企業はこれらのビジネス プロセスに依存し、受注や収益、売上などに関する重要業績評価指標(KPI)で業績を測っています。そのため、主要なステークホルダーがビジネスの健全性を効果的に評価し、新しい収益モデルを編み出し、カスタマー エクスペリエンスを向上させるためには、総収入、割引の実施、利益率などの指標に関する分析情報が不可欠となります。
SAP Order to Cash アクセラレータ
そこで発表されたのが、Google Cloud の SAP アクセラレータです。このアクセラレータは、お客様が独自の Order to Cash シナリオを短時間で開始できるようにするための設計図でありサンプルです。つまり、お客様のニーズに従ってカスタマイズする必要があるということです。
実装にあたり、Google では以下のようなコンポーネントを提供しています。
Google Cloud Data Fusion を使用したデータの統合と変換
SAP コネクタ: すべてのテーブルへの初回のデータ読み込みと限定されたテーブルへの増分データ読み込みに使用可能な SAP Table Reader コネクタ
ステージング パイプライン: このタイプのパイプラインは、SAP から取得した元データを、省略形の列名から有為の英語の列名へのマッピングとともに取り込みます。
変換パイプライン: このタイプのパイプラインは、購入者のシナリオに合わせて簡単にカスタマイズ可能な SQL ステートメントが埋め込まれた BQ 実行パイプラインを簡略化したものです。
Order to Cash に役立つ Cloud Data Fusion の重要なパイプラインと主なビジネス エンティティ
Order to Cash のサイクルにおける主なビジネス エンティティ | データを提供し、サイクルのこの部分における分析を支援するアクセラレータのパイプライン。 |
Customer は、組織がビジネスを行う相手の個人の場合と法人の場合があります。これら 3 つのテーブルは、ビジネスに関連する顧客の詳細な情報を個々に取得します。これらのテーブルから得られた情報は、データ ウェアハウスのディメンション レイヤ内にある customer_dimension に追加されます。 | KNA1_CustomerMaster |
KNVV_CustomerSales | |
KNVP_CustomerPartnerFunction | |
Material または Product は、企業とその顧客との間で取引される商品です。これらのテーブルから得られた情報は、データ ウェアハウスのディメンション レイヤ内にある material_dimension に追加されます。 | MARA_MaterialMaster |
MARD_MaterialStorageLocation | |
Order to Cash プロセスは、システムが顧客から注文を受け取った瞬間に開始します。会社のウェブサイトから顧客が直接オンラインで注文してくる、営業チームを通じてメールで届くなど、注文には複数の形式があり得ますが、おすすめの方法は、受注管理を自動化して効率的な Order to Cash プロセスを実現することです。 | VBAK_SalesDocumentHeader |
VBAP_SalesDocumentItem | |
VBEP_SalesDocumentSchedule | |
サイクルの次のステップは、受注フルフィルメントと発送です。このパートは主に、物理的な商品を取り扱うビジネスに当てはまります。そこでは、フルフィルメントと発送の手続きを進めるために在庫管理担当者が注文の正確な詳細を知らされる必要があります。 | LIKP_DeliveryHeader |
LIPS_DeliveryItem | |
サイクルの 3 つ目のステップは、請求書の作成と支払いです。顧客は、個々の品目のほか、税金や値引き(該当する場合)に関する詳細な情報がすべて記載された、注文に対する請求書を受け取ります。顧客には、発行されたその請求書に対する支払いを行う手段が必要となります。 | VBRK_BillingHeader |
VBRP_BillingLineItem | |
発生した注文に対する売掛の一部として支払が会計帳簿に記録された時点で、このサイクルは完了です。 | ACDOCA_UniversalJournalItem |
また、ステージング スキーマを BigQuery へ読み込むために Data Fusion ハブで利用可能なパイプラインが、約 50 個あります。
Google BigQuery 内のターゲット スキーマ
ステージング データセット: ステージング データセットは、ステージング パイプラインを通じて SAP から抽出されたデータが配置される場所です。
ディメンション データセット: ステージング データセットの配置後に、報告に使用される主要なフィールドが、変換パイプラインを使用して変換および取得されます。Order to Cash アクセラレータでは、各顧客に関する情報が入った customer_dimension と、各マテリアルに関する情報が入った material_dimension という 2 つのテーブルが作成されます。
ファクト データセット: ディメンション データセットのほかに、ファクト データセットも作成されます。このデータセットには、対象の KPI を計算するためのビジネス インテリジェンス ツールに後から集約可能なテーブルが入ります。Order to Cash アクセラレータには、注文に関連する指標が入った sales_order_fact と、収益に関連する指標が入った revenue_fact という 2 つのテーブルがあります。
Looker Block
ビルド済みのセマンティック モデル: Looker のブロックは Looker アプリ内のマーケットプレイスを通じてインストール可能で、事前にパッケージ化された LookML モデルが付属しています。ここでは、直接使用可能な KPI と、組織のニーズに基づいてより詳しくカスタマイズ可能な KPI が定義されています。
オペレーション ダッシュボード: LookML モデルのほかに、このブロックにはユーザーがすぐに SAP 分析を開始できる 2 つのダッシュボードが付属しています。一方のダッシュボードには収益の動向が大まかに示されます。もう一方のダッシュボードでは、調査員が 1 人の顧客の行動を集中的に掘り下げて見ることができます。
これらの機能が搭載されたことにより、データのパイプラインの開発、主要な指標の定義、可視化にかける時間を短縮し、その代わりに情報を分析して、情報に基づくビジネス上の意思決定を下すことにより多くの時間を割くことが可能になります。
SAP 統合を開始する
Cloud Data Fusion のパイプラインを設定および実行する方法については、SAP Table Reader ガイドとブログをご覧ください。SAP Order to Cash アクセラレータの詳細な情報は、こちらでご確認いただけます。
Looker のブロックは、Looker Marketplace で 6 月初旬にプレビュー版がリリースされます。ブロックを動かす LookML は、こちらの GitHub リポジトリで公開されています。Looker Marketplace へのアクセス方法とブロックのインストール方法については、こちらをご覧ください。Looker インスタンスへのアクセス権をお持ちでない方がブロックをお試しになりたい場合は、こちらから無料トライアルにご登録いただけます。
-デベロッパー アドボケイト Leigha Jarett
-Google Cloud プロダクト管理データ分析担当 Chaitanya (Chai) Pydimukkala