The Prompt: 生成 AI 活用、グローバルなビジョンとローカルな文脈のバランス
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2024 年 1 月 19 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
このところ、ビジネス リーダーたちの間では、生成 AI が話題の中心となっています。急速に進化を続け、変革をもたらすこの分野の話題をフォローできるよう、「The Prompt」と題したシリーズを通じ、Google がお客様やパートナーと接するなかでの気づきや、Google の AI の最新動向を紹介していきます。今回は、フィリップ モイヤー と キャロライン ヤップ が、生成 AI をグローバルに普及させるうえで高まっている地域性の考慮の重要性についてご紹介します。
世界中のあらゆる業界と地域の企業・組織が生成 AI への取り組みを進めています。Google はこの 1 年間、ヨーロッパとアジアを巡る最近の「ワールドツアー」を含め、あらゆる地域の約 1,000 の組織の担当者と会い、お客様やパートナー様と何百時間も話をしてきました。
驚くべきことに、民間組織か政府機関か、規制の対象かどうか、構造的に組織化されているかどうか、さらにはスタートアップか 100 年の歴史を持つ企業かを問わず、私たちが会ったすべての企業がなんらかの方法や形で生成 AI を試していました。これまでのテクノロジーと比べて、生成 AI が導入されるスピードと範囲は本当に異なっているように感じます。実際、生成 AI の導入を試みていない組織を見つける方が難しいくらいです。
これほど広範に関心が高まっている状況は、生成 AI に関する特異な点を説明することにも役立ちます。Google がサービスを提供している多様な組織とミーティングを重ねていくなかで、このグローバルな現象はとてもローカルなものでもあることが明らかになりました。
こうした生成 AI の急速な導入ペースとその目新しさ(自然言語インターフェースを通じて、説得力のある信頼性の高い回答や現実的な出力を得ることができる)により、このテクノロジーに対する強い興味と誰もが稀に見るレベルの警戒心が、どちらも同じくらい高まっています。経営者、従業員、規制機関、そして一般市民はそれぞれ、生成 AI に対し特別な懸念を抱いています。
このように、生成 AI に対する受け入れようとする心と警戒心の間の緊張関係そのものにも興味を引き付けられますが、同様に重要なのは、それが世界でどのように受け止められているかということです。各市場では、特定の問題を明確に焦点を当てています。たとえば、韓国の組織はデータ漏洩の防止に力を注いでいますが、フランスやオランダの責任者は AI が生成したコンテンツの検出と特定に熱心に取り組んでいます(こうした例については他にも後述します)。このような優先事項の中には、ビジネス価値に関連するもの、文化に関連するもの、そしてやはり地政学的なものなどがあります。これらが意味するものについては、後で詳しくご説明します。
グローバルなビジョンにはローカルな文脈が必要
生成 AI の導入が普遍的なものとなっていることは、今や明白です。たとえば、Pitchbook によると、生成 AI を扱う企業は 2023 年に 270 億ドル近くを調達しています。これは、わずか 1 年前に商業化されたテクノロジーとしては驚異的な数字です。それに比べて、インターネットや携帯電話など、これまでの画期的なテクノロジーは、広く普及するのに何年もかかりました。ブロックチェーンのような最近のディスラプターでさえ、生成モデルや生成機能ですでに見られるような、導入することが主流となるレベルにはまだ達していません。
それにもかかわらず、世界を舞台に人気急上昇中の生成 AI は、身近なところで同様に疑問や懸念を引き起こしています。
生成 AI 独自の推論能力とコンテンツ生成能力により、不正行為、政治的干渉、ニュースやメディアへの潜在的な影響など、新たなリスクに重点が置かれるようになっています。AI の世界的な広がりにもかかわらず、私たちがお客様と話す際に耳にした共通のテーマは、特定の政府、国、地域における文化、ニーズ、課題に合わせたローカルレベルでのガバナンスの必要性でした。国も企業も、急速に進化するグローバル エコシステムに参加すると同時に、生成 AI をローカルで管理し、コントロールすることを強く望んでいます。
Applied AI Summit 基調講演のハイライト。
部分的には、生成 AI のローカル化は商業的な利益のために推進されています。データ所在地の枠を越え、知的財産を保持し、国内で価値創造を維持することに、組織は明確な関心を持っています。彼らは、ローカルモデルの開発をサポートするデータ主権、ローカライズされた言語サポート、ローカル インフラストラクチャを求めています。
同時に、生成 AI 戦略は、グローバルな視点では見つからない要素や影響を踏まえて形成するものだという強い感覚もあります。
人それぞれ異なるキーストローク
お客様とのミーティングにおいては、生成 AI に対するアプローチが地域によって大きく異なることを目の当たりにしました。
技術リテラシーが高い傾向にある韓国では、著作権保護にはあまり重点を置いていませんが、複数の敵対国に近接しているため、データ主権やデータ漏洩の防止には大きな懸念を抱いていると大手企業の幹部から話を聞きました。一方、日本では、ディープフェイクが誤った情報の拡散に利用されていることや、生成 AI が作り出すコンテンツについて多くの議論が交わされました。
それと比べて、私たちが訪ねたヨーロッパの責任者は、バイアスからの保護や著作権侵害、コンテンツ作成における来歴の役割について、高い関心を寄せる傾向がありました。
たとえば、フランスやオランダの組織と議論した最大のトピックの一つは、コンテンツが生成 AI モデルによって生成されたものか、人間によって作成されたのかを判別する方法でした。大規模な AI モデルを、安全、透過的、非差別的、持続的に利用するための包括的なルールを定めた、初の業種横断型 AI 規制である EU AI 法の施行が予定されているため、この地域の組織や政府は、これまで以上の対応が求められています。
中東では、生成 AI を構築し活用するためのインフラストラクチャの設定や人材獲得への関心が高まっています。AI イノベーション ハブを構築するための手順や要件、生成 AI への野心的な目標に優先順位を付けるベスト プラクティスについて、お客様と多くの会話を交わしてきました。地域のリーダーたちは、天然資源だけに頼らない経済の構築を目指す中、生成 AI がもたらす柔軟性とスピードにより、AI についてはテクノロジー ビジネスと他産業の進歩の両方を拡大する手段だと捉えています。
同様に、アフリカやラテンアメリカ地域のリーダーたちは、肥料の改良や気候モデリングの改善など、現実的な問題の解決に生成 AI を活用することに期待を寄せています。また、より弾力的なサプライチェーンを構築してグローバル市場へのアクセスを強化し、それに伴ってもたらされるビジネス チャンスにも期待を寄せています。
地域毎の洞察と文脈に基づくグローバルなアプローチの形成はすでに現実のものとなっており、安全性と責任を考慮して AI テクノロジーを利用するために、各国間のコーディネーションとコラボレーションを強化する多大な努力がなされています。
OECD は、AI が生成するコンテンツの潜在的な倫理的問題をさまざまな領域で評価、調査する AI 検査ツールをリリースしました。また、Future Investment Initiative では、AI をめぐる適切な連携方法について先進市場と新興市場がともに議論することを目的とする AI 連合が設立されています。
ローカルが促進する、責任ある AI のグローバルな成熟
生成 AI をめぐる目標は非常に高く、テクノロジーの導入を越え、ビジネスや文化的な変革の推進にまで広がっています。成功事例となるかどうかは、こうした新たなテクノロジーの導入が社会にもたらすメリットを企業や政府がいかに理解し、規制要件を満たして潜在能力を最大限に引き出し、リスクを最小限に抑えることができるかにかかっています。
人々はテクノロジーの消費者としてもまた、仕事と私生活の両面で変わりつつあります。人々が責任ある安全な方法で生成 AI テクノロジーを構築したり、実験したりすることを可能にしない組織は、新たなイノベーションを推進し、長年の問題の解決につながる、地域の重要な文化的情報を活用する機会を逃すことになります。
そして何より、さまざまな国や地域がそれぞれの地域の主要な課題に取り組むことで、あらゆる場所で責任ある安全な AI の実践が推進されていくものと我々は確信しています。
各地域、国、都市により、不正行為、来歴、データ主権、バイアス、企業や政府の規制など、重視する要件は少しずつ異なります。それぞれが個別に解決策を発見し、フレームワークを構築しているため、グローバルなギャップが早期に解消され、他のテクノロジーでは数十年かかるような成熟が、生成 AI 分野では速いスピードで実現しています。
最終的には、特定の文化的、社会的、規制的なコンテキストに合わせたローカルな生成 AI が、AI を活用してグローバルに成功を収めるうえで欠かせない要素となるでしょう。Google では、責任を持って生成 AI テクノロジーを導入、開発するという複雑なプロセスに組織が対応できるよう支援すると同時に、組織固有の多様な課題に、明確かつ思慮深く積極的な方法で対処できるように取り組んできました。
生成 AI がもたらすビジネス チャンスは非常に大きなものかもしれませんが、私たちには、世界のあらゆる場所にいるすべての人の役に立つ AI を構築するという大きな責任があります。
冒頭の画像は、Google Cloud で Midjourney を使用して、「小さな村がポップアップしている、漫画のような誇張されたスタイルで描かれた遊び心のある地球のイラスト」というプロンプトで作成しました。
-Google Cloud、グローバル AI ビジネス担当マネージング ディレクター Caroline Yap
-Google Cloud、AI &ビジネス ソリューション担当グローバル VP Philip Moyer