AI 時代をリードする: 企業の AI 人材不足を克服し、競争力を高めるための 4 ステップ

Brad Little
Vice President, Global Head of Cloud Professional Services
AI 導入を成功させる鍵となるのは、「AIを使いこなせる人材」です。AI を活用できる従業員を育成するために、組織は導入前のベースラインを戦略的に評価し、継続的な学習を促進し、既存のツールに AI を組み込み、責任あるエージェント AI フレームワークで管理する必要があります。
以前にも述べた通り、AI 時代に最も重要なのは、プロンプトではなく「人」です。AI テクノロジー、特に生成 AI は、業務効率、イノベーション、そして顧客体験の向上において計り知れない可能性を秘めています。しかし、その真価を引き出すには熟練した人材が必要です。言い換えれば、最新のテクノロジーに多額の投資をしても、それらを導入し、応用し、最大限に活用できる人材がいなければ、宝の持ち腐れになってしまいます。AI での成功を目指す組織にとって、AI を活用できる従業員の育成は最重要課題のひとつなのです。
今日学んだ専門スキルの平均的な寿命(半減期)は 5 年未満、技術分野によってはわずか 2 年半に短縮されています。ここ 2 年間で生成 AI が急速に台頭したことを考えると、スキルの変化は前例のないペースで進んでおり、スキルが時代遅れになるまでの時間はますます短くなると予想されます。その結果、スキルギャップはかつてない速さで広がり、個人も組織も、最新の知識に追いつくための学習や再教育に必死なのが現状です。
では、AI 時代に従業員が単に生き残るだけでなく、真に活躍できるようにするには、組織としてどう備えるのが最善でしょうか。
Google Cloud は、最先端のテクノロジーを提供するだけでなく、AI の可能性を最大限に引き出すために必要な知識、スキル、戦略的思考力の基盤を提供することにも注力しています。この点を踏まえ、スキルギャップを解消し、将来にわたって AI を活用しながら、AI とともに働くことができる人材を育成するための 4 つの戦略的ステップをご紹介します。
1. 現在のスキルセットと組織の準備状況を評価する
Google は、自社とお客様のために AI イノベーションを数十年にわたり牽引してきた経験から、AI に対する明確なビジョンを持ち、ビジネス全体の目標に沿った AI 戦略を構築することの重要性を学びました。組織の状況と、AI が価値を生み出せる領域を全体的に把握しなければ、従業員が「現在持っているスキル」と「将来必要になるスキル」を評価することは困難になります。
しかし、スキルセットは問題の一部にすぎません。AI を統合し、大規模に展開(スケール)するには、AI への投資と導入だけでは不十分です。私たちが頻繁に目にする一般的な失敗例は、AI から具体的な成果や価値を得るために、組織全体でどれほどの変革と適応が必要かを過小評価してしまうことです。したがって、組織が AI を効果的に活用して導入範囲を広げられるようにするには何が必要なのかを理解することも重要です。この理解こそが、従業員が新しい AI スキルを習得し、実務に応用できるかどうかに直結するからです。
私たちの経験則では、初期の AI 導入から先の段階へと進むためのコア要素は:
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データ基盤の強化: データは、競争優位性を高めるための貴重な差別化要因です。組織の誰もがデータを効果的に発見、アクセス、使用できるようにデータ基盤を構築する必要があります。
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イノベーション文化の醸成: AI 開発は継続的なサイクルを通じて成長します。リスクを許容し、好奇心を育み、失敗を学びの機会としてとらえる環境に置かれると、人々は変化に寛容になり、アイデアを試行錯誤するモチベーションが生まれやすくなります。
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経営陣の賛同: AI イニシアチブを支持し、導入を推進し、必要なリソースの確保を後押ししてくれる経営幹部がいなければ、AI をスケールさせることはほぼ不可能です。経営幹部の賛同がなければ、ほぼ例外なく AI プロジェクトは抵抗にあい、リソース不足に陥り、あるいは期待される費用対効果を上げられず、ひいてはトレーニングのための時間とリソースの確保も妨げられる可能性があります。
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適切な試験運用の優先順位付け: 試験運用がもたらす潜在的なメリットとコスト、トレードオフを慎重に比較するだけでなく、組織の長期的な目標にとってどの試験運用が最も重要であるかも考慮する必要があります。これは、より的を絞ったスキル開発を促し、最大のギャップを克服して競争優位性を築く助けにもなるでしょう。
まず、現在のスキルセットを把握し、AI の準備状況を評価することで、組織が AI の取り組みのどの段階にあるのか、また、目標を達成するために必要なスキルを把握できます。
2. 継続的な学習に投資する
AI スキルの習得に関しては、AI の急速な進歩と、それがビジネスに及ぼす動的で変革的な影響を考えると、従来の学習だけでは現在のスキルギャップを埋めることはできません。新しい従業員のアップスキリングと既存の人材の再トレーニングという終わりのない繰り返しを避けるために、学習は 1 度切りのイベントではなく、適応性があり継続的である必要があります。
Google の調査によると、従業員が必要としているのは、実際のシナリオを使った実践的な演習、学習リソースへの手軽なアクセス、さらには各自の学習スタイル、スキルレベル、職務、組織に合わせてパーソナライズされたトレーニングです。また、AI 開発の最前線で活躍できるよう、最新の関連ガイダンスとメンターシップを確実に提供する専門家主導のトレーニングの必要性も高まっています。
同時に、トレーニングへの投資における最大の障壁は、費用と時間です。現在のスキルギャップを埋めることは、ミッションクリティカルであると同時にビジネスクリティカルであると意思決定者が口をそろえて語る一方で、収益拡大、業務効率、生産性、AI の活用などの喫緊の懸念事項に比べて、従業員のスキル向上は依然として優先順位が低いと見られがちです。その結果、多くの企業がチーム全体のスキル トレーニングの導入に苦慮しており、特に、業務と並行してトレーニングを受けるための時間とリソースの確保に苦しんでいるのが現状です。
これらのハードルを克服するには、柔軟なオンライン プログラムによる継続的なアプローチを提供し、経験豊富な実務担当者でも AI 初心者でも、誰でも AI スキルを簡単に構築できるようにする必要があります。
たとえば、学習リソースを一元化するオンライン学習プラットフォームを導入すると、学習リソースを一か所に集約して、組織の特定のニーズに合わせてカスタマイズされた学習プログラムを作成できます。従業員は必要なスキルやツールを選択できるだけでなく、自分のペースやスケジュールに合わせて学習できます。重要なのは、AI 業界の専門家と連携し、実際のビジネス ユースケースに基づいた実践的なトレーニング コンテンツを取り入れて、従業員が貴重な洞察や実践的な経験を得て、学んだ知識を自信を持って応用できるようにすることです。
3. AI を既存のツールとワークフローに統合する
昨年、多くの組織が生成 AI のユースケースを実現していく中で、AI が人間の能力や才能をいかに引き出して高めているかという、期待感が高まる可能性が次々と明らかになってきました。特に、目標を解釈し、マルチステップのアクションを計画し、さまざまなシステムを横断して自律的に動作できる AI エージェントが、変革の新たなパートナーとして登場し、仕事のやり方を根本から見直すのに貢献しています。
エージェント機能への関心の高まりは、AI を日常業務に取り込み、目に見える結果を出せる存在にすることがいかに重要であるかを裏付けるものです。AI 機能を従業員が使い慣れたプラットフォーム、ツール、プロセスに直接統合することで、導入の障壁を大幅に下げ、実践的な学習を促進し、AI とのやり取りの即時的な価値を示すことができます。従業員は AI のメリットを説明される代わりに、ビジネスデータとチャットしてレポートを作成したり、自分らしさを織り込んだメールの返信の初稿を作成したり、コードブロックや関数全体を生成したりして、直接体験することができます。
たとえば、Gemini for Google Workspace は、日々の意思決定や作業が行われるツールに組み込まれ、マルチモーダル AI 機能を提供します。ユーザーは毎日使用しているアプリを切り替えることなく、AI のサポートを受けて、時間を節約しながら質の高い成果を生み出せるようになります。現在、Gemini for Workspace は、ビジネス ユーザー向けに毎月 20 億回以上の AI アシストを提供し、Google の AI 成功事例の多くを支えています。
4. 信頼できるエージェント AI フレームワークで管理する
ユーザーの管理下で、インテリジェント システムが複雑なタスクを推論、計画、実行するエージェント AI への移行は、企業の業務効率を向上させ、革新的なカスタマー エクスペリエンスを提供し、競争優位性を確立する絶好の機会となるでしょう。
しかし、この可能性を実現するには、進化を続ける AI テクノロジーに柔軟に適応できる人材が必要です。AI、特に生成 AI はその複雑さとリスクが常に変化しているため、誤用、不正使用、意図しない結果や予期せぬ結果を招く可能性があります。AI を使いこなせる従業員は、AI の強みと限界をしっかりと把握しているだけでなく、これらが、バイアス、公平性、透明性、プライバシー、セキュリティに関する配慮のもとに責任を持って開発されているシステムであると信頼できます。
Google Cloud コンサルティングのAgent AI Transformation Framework は、この新たな現実を乗り切るための明確なロードマップとしてご利用いただけるフレームワークの一例です。高度な AI システムを理解し、連携して働くための知識とスキルを従業員が身につけなければならない、という必要性に直接応えられるように設計されたこのフレームワークは、組織の変革の管理などの課題を克服し、人材が AI エージェントを効果的かつ安全に導入、スケーリング、活用できるようにするのに役立ちます。
このアプローチに沿って、エージェント ソリューションを構築、デプロイするための構造化された手法を提供することで、イノベーションの文化と継続的なスキル開発を、本来あるべき姿で促進することができるようになるでしょう。そして従業員は、実践的な経験と洞察を得て、自信を持って次の時代の AI を受け入れ、そのパワフルな新機能の効果を最大限に引き出すことができるようになるでしょう。
将来を見据えて
AI と歩む道の先にあるのは、勝ち敗けを決めるゼロサムゲームではなく、人間の才能と AI が手を取り合い協力する「共創のフロンティア」です。勝利を手にするにはテクノロジーの変革だけでは足りません。AI の可能性を最大限に引き出し、使いこなせる人材が必要になります。明確な戦略を立て、継続的なスキル開発を優先し、AI を日常業務に自然に溶け込ませ、責任ある活用を推進していく。そうすることで、自信を持って未来に立ち向かえる人材を育成できるはずです。
※この投稿は米国時間 2025 年 10 月 18 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
-バイス プレジデント、Cloud プロフェッショナル サービス グローバル責任者、Brad Little



