AI による破壊と創造: ブライソン・デシャンボーが語る、AI を活用した実験とスポーツ パフォーマンスの未来

Matt A.V. Chaban
Senior Editor, Transform
世界トップクラスのゴルファーが、AI の力でスイングのわずかな乱れを発見。今では、この技術をすべてのプレーヤーに広めたいと考えています。
一流のアスリートやパフォーマーがそうであるように、ゴルファーのブライソン デシャンボー選手も、常に向上心を持っています。すべてが順調に見えるときでさえ、自身のプレーをさらに高める方法を探し続けているのです。
長年のトップレベルのトレーニングと世界一流の指導を受けていても、デシャンボー選手は満足していませんでした。自身のスイングを AI で動画分析する中で、人間の知覚に関する驚くべき発見をしました。
「自分ではそう感じていたとしても、その感覚が現実と一致するとは限りません」と、最近のインタビューで語っています。一見完璧そうだったフォームが、実はスコアを落とす原因になっていたのです。その理由を見抜けたのは AI だけでした。
デシャンボー選手がゴルフ界で異彩を放っている大きな要因の一つは、系統的かつ綿密なアプローチにあります。3D プリントでクラブヘッドを自作し、データ分析に基づいて練習は打ちっぱなしに絞り、さらに物理学の学位を活かして新たな方法で用具を検証しています。
探究心と実験精神にあふれるそのスタイルから、デシャンボー選手は「科学者」の異名を持つようになりました。しかし、今では「AI エンジニア」と呼ぶ方がふさわしいかもしれません。
デシャンボー選手が AI に興味を持ち、探求を始めたのは、ちょうど 1 年ほど前。全米オープンを控えた時期のことでした。それ以来、デシャンボー選手は AI の活用法を次々と見いだしており、その数はやがて、彼の多彩なショットやクローゼットのゴルフウェアの数を上回るかもしれません。
こうした機能のすべてを実現するにあたって、デシャンボー選手は Google Cloud と提携する道を選びました。その目的は、アスリートとしてのパフォーマンスだけでなく、ビジネスや日常生活、そして人とのつながりまでも向上させるような、「現代の生き方そのもの」を AI で切り拓くことです。
「Google は世界で最も重要な技術企業の一つであり、AI の未来を担う存在だと考えています」とデシャンボー選手は述べています。「その未来に強い関心を持つ一人として、特にそれがスポーツと交わる部分において、Google Cloud と一緒に取り組めることにとてもワクワクしました。」
技術の勝利
デシャンボー選手が AI を活用したスイング動画の分析を始めたのは 2024 年のことです。特定の課題を修正したいという目的だけでなく、純粋な好奇心もその原動力でした。Sportsbox AI というスタートアップのツールを試し始めたとき、デシャンボー選手は思いがけない発見をし、それが彼のキャリアの軌道を変えることになりました。

偶然にも Google Cloud の顧客である Sportsbox AI や、デシャンボー選手が Google Cloud と共同開発しているプラットフォームは、いずれも特定のゴルファーの理想的なスイング映像をもとに、AI ビジョンモデルをトレーニングする仕組みです。こうして確立されたベースライン スイングをもとに、生成 AI が動きを解釈し、わかりやすく簡潔な言葉で即座にフィードバックを行います。
デシャンボー選手の場合、彼とコーチ陣は、2020 年の全米オープン優勝時のスイングと、それに近い数回のパフォーマンスをベースラインとして選びました。デシャンボー選手が昨年、AI を使ってトレーニングやプレーを分析し始めたところ、チームは最近の大会で、スイング動作にわずかなズレが生じていることを突き止めました。
こうしたトレーニングと分析による洞察がデシャンボー選手をスランプの危機から救い、2024 年の全米オープンではリーダーボード入りするなど、再びトップフォームへと導きました。すべてはロリー マキロイ選手との劇的な 1 打差の勝負に集約され、その結果、全米ゴルフの頂点を制することになりました。大会後のインタビューでデシャンボー選手は、ノースカロライナ州 パインハースト リゾートでの同大会に向けて活用していた AI のサポートが、優勝の一因になったと語りました。この AI サポートは、数週間前から直前の数時間まで活用されていました。
「ティーショットの数分前まで、提示されたデータをもとにスイングを分析し、修正を重ねています」とデシャンボー選手は語ります。「そのデータがあることで、ベストなゴルフができます。なぜなら、自分のスイングで実際に何が起きているのかを明確に把握できるからです。」
専門家の直感が、先端の測定技術と出会うとき
デシャンボー選手の AI 活用における、もう一つの転機はペブルビーチで訪れました。それはトーナメントではなく、Google Cloud が主催した AI イベントでした。Google のイベントチームは、AI を活用したゴルフ アドバイザーの Google 版を開発しました。そして、モデルの微調整を行い、さらにサンプル スイングを提供してもらうために、デシャンボー選手とクラッシャー GC のチームメイトを招待しました。
常にゴルフの限界に挑み続けるデシャンボー選手でさえ、その技術には度肝を抜かれました。「Gemini は、個々のゴルファーの癖や強み、弱みを理解するのに役立っています。非常にパーソナライズされていて、反応も迅速です」とデシャンボー選手は言います。「まさにゲームチェンジャーです。」
この独自性こそが、デシャンボー選手の AI へのアプローチの中心にあります。そしてそれは、過去の実績がどれほど華々しくても、世界トップクラスのアスリートでさえ、自身の感覚を超えた客観的な測定から恩恵を受けられることを思い出させてくれます。




デシャンボー選手は最近、テキサス州で AI を活用したスイングラボを開催し、ファンとともにその体験を楽しみました。
スポーツからビジネス、そして私生活まで、あらゆる分野での成功、特にそれを持続させるための成功は、たいていの場合、小さな改善を積み重ねることによって生まれます。デシャンボー選手は、多くのアスリートと同様に、わずかな改善がもたらす効果を強く意識しています。そして、Google とのコラボレーションを通じて、AI によるコーチング、トレーニング、イノベーションを、プロだけでなくスクラッチ プレーヤーや週末ゴルファーにも広く届ける方法を探しながら、その成果を世界と共有したいと考えています。
AI を活用して得た小さな気づきが、ブライソン デシャンボー選手のプレーにどれほど大きな違いをもたらしたか、ぜひ想像してみてください。右に外れたショットでは、骨盤がターゲット方向に約 2.5 cm 動きすぎており、その結果、サイドベンドが生じ、クラブフェースをスクエアに戻すための正しい手のリリースができていないことがわかりました。スイング中にミリ秒単位で起こるこの微細な動きは、本人にもコーチにも、従来の動画分析でも捉えられませんでした。
しかし、AI のレンズを通して見ると、その事実はまさに決定的なものとなりました。
超人的なビジョンがもたらすリアルタイム最適化
現在デシャンボー選手は、Google と協力してスマートフォンで動作するプラットフォームを開発しています。これにより、デシャンボー選手はもちろん、近い将来には一般のユーザーも、コース上でスイングをほぼリアルタイムで分析し、調整できるようになります。調子が少しでもおかしいと感じたときは、Gemini を活用したアプリで数回スイングを撮影するだけで、1 分もかからずにバイオメカニクスのフィードバックを得ることができます。
この技術は、コンピュータ ビジョンを使用して、デシャンボー選手のスイングにおける主要な要素を追跡し、骨盤の持ち上がり、胸の回転、体の位置のわずかな変化を測定します。こうした微細な変化は、従来の動画分析ではほとんど検出できません。このシステムは、独自の 2D および 3D モデルを使用したディープ ラーニング アルゴリズムを採用し、体、クラブ、ボールの 30 か所以上のキーポイントを追跡します。また、各ショットの結果を追跡し、それぞれのスイングのトップ、インパクト、フォロースルー、フィニッシュなども記録します。
「Google は自社の指標を使って、私の動きを正確に可視化してくれます」と、デシャンボー選手は説明します。「ラウンドのわずか数分前まで、これらのツールを使ってリアルタイムにパフォーマンスを高めています」とデシャンボー選手は語ります。「まるでゴルフコーチのような存在です。今はそのために使っていて、このおかげでスイングを何度も見直せるようになりました。」
ラウンドのわずか数分前でも、こうした [AI] ツールを使ってリアルタイムにパフォーマンスを高めています。
ゴルフチャンピオン、ブライソン デシャンボー選手
今では、ブライソン・デシャンボー選手にとって「ポケットに入るコーチ」のような存在になっています。そして彼は、このツールは誰にとっても役立つはずだと信じています。
「AI がゴルフの指導そのものを変えると、本気で信じているのかって?はい、100%信じています。」とデシャンボー選手は語ります。「それが未来だと思っています。AI がコーチの役割そのものを奪うとは思っていません。でも、これからはコーチを支える頼もしい補助役になると思います。数ある手段の中でも、とても頼れるツールです。」
技術チームは改良を重ねた結果、複雑な動作データをリアルタイムで処理できる、包括的なバイオメカニクス測定システムを構築しました。また、動作パターン、環境要因、過去のパフォーマンスなど、複数のデータストリームを統合し、手軽に利用できるハードウェアを通じて包括的な分析を可能にしています。
このシステムはパッティング グリーンにも応用が進められており、まったく異なる動作求められるものの、ベースラインと現在のショットを比較分析するという基本的な技術は変わりません。こうした手法こそ、このシステムによって他のスポーツにも恩恵をもたらし、さらにはパーソナライズされた健康と医療の支援にもつながるとデシャンボー選手が期待している理由です。基盤となる技術は、究極的に見れば、非常に柔軟で幅広い応用が可能です。
「Google のプラットフォームは、ゴルフスイングのあらゆるポジション、指標、バイオメカニクスを理解するうえで欠かせない存在です」とデシャンボー選手は語ります。「AI こそが未来です」
パフォーマンス可視化の未来
デシャンボー選手のリアルタイムなアプローチは、従来の事後対応型コーチングから、予測的な最適化を目指す方向への根本的な転換を示しています。これは、工場からスマートシティ、さらには個人に至るまで、あらゆる領域で始まりつつあるパラダイム シフトです。
エッジ接続されたセンサーとデバイスが、問題発生時はもちろん、発生する前や重大化する前の段階でも検知できるようになっているのです。
そこでは、パフォーマンスの改善が、悪い結果が出た後ではなく、機会を逃す前に行われます。


トリックショットから日々のパフォーマンス向上まで、デシャンボー選手は、ゴルフの枠を超えた幅広い分野で AI の応用可能性を見いだしています。
こうした成果は、スポーツの分野ではごく自然なことです。AI ツールが、パフォーマンスの理解や最適化のあり方を根本から変えつつあります(その好例が、マクラーレン レーシングの成功です)。専門家の評価や直感的な調整に頼るだけでなく、AI がデータに基づく新たな提案を行います。
デシャンボー選手は、AI アシスタントが一般に浸透するにつれて、AI コーチング ツールの市場がすでに大きく広がり始めていると考えています。
「いずれは、24 時間いつでも AI アシスタントと話せるようになります。スイングのことを考えているときも、調子が悪いときも、逆にうまくいっているときでも、そのパーソナライズされたアシスタントにいつでも相談できるようになるのです」と語ります。「AI が、あなたを理想のパフォーマンスへと少しずつ導いてくれます。」
そして今、問われているのは、デシャンボー選手が自ら問い、見事に答えを出したのと同じ問いです。果たしてあなたは、大きな試合、あるいは人生の大きな瞬間に、AI を信頼する準備ができていますか?見落としているものを教え、自分の直感が正しいかを確かめてくれる、そんな AI の力を受け入れる準備はできていますか?正しい答えを見つけた者に、勝利は訪れます。
※この投稿は米国時間 2025 年 9 月 26 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
-Transform 上級編集者 Matt A.V. Chaban



