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生成 AI で生産性を高める方法(なぜ従業員の満足度が重要か)

2023年10月2日
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Google Cloud Japan Team

生成 AI を構築する際には、常に人間中心のアプローチから始めなければなりません。ただし、データやシステムも見逃してはいけません。

※この投稿は米国時間 2023 年 8 月 19 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

ライフハック、人生相談、ショートカットなど、私たちはビジネスにおいても人生においても常にもっと生産的になるための方法やもっと幸せになる方法、もっと効率的になる方法を探しています。「一流シェフが営むレストラン」の中で、料理長が厨房の各持ち場を 5 秒以内に移動できるよう歩き方を調整する、よくあるあのシーンのように。

生成 AI が広く関心を集めるようになってからわずか数か月の間に、生成 AI は生産性を大幅に高め、時間を短縮し、数十% あるいは数百%、ときにはそれ以上に成果を高めるものとして注目されるようになりました。たとえば、あるコンサルタント会社によると、生成 AI が登場する前は 78 時間かかっていたプログラミング作業を、2022 年以前の AI テクノロジーを利用した場合でもわずか 56 時間で完了させられ、より進歩した最新の AI を活用した場合には 36 時間で完了させられることがわかっています。わずか数年で効率が 114% 改善したことになります。

しかし、自分が適切な AI テクノロジーを選んで、賢く安全に使用できているか、または最大限の効果をあげられているかを知るのは難しいものです。IT だけでなく、法務、マーケティング、営業、運営、M&A、サプライ チェーンなど、企業内のチームの生産性を高める変革の機会はどの領域にも存在します。現在の電子通信やデジタルツールがそうであったように、数年後には、あらゆる組織が AI から何かしらの恩恵を受けているはずです。

ただし、組織がこのテクノロジーの可能性を最大限に活用するには、目標達成のために AI をどう適用すべきかについて理解を深める必要があります。

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AI テクノロジーの真に魅力的な価値提案は、従業員が一定の時間内に達成できる成果を高めるだけでなく、従業員を疲弊させずに、より大きな価値を企業やエンドユーザに提供できるようなるということです。

AI の普及が進むにつれて、このテクノロジーを活用するためのフレームワークを確立することは極めて重要になります。ケースとしては、AI 導入のための独自の原則を策定する場合、既存のフレームワークを活用する場合があります。フレームワークを利用することで、AI テクノロジーを最大限に活用し、企業の生産性を確実に高められるようになります。

生成 AI による生産性向上

今はまだ AI 普及の黎明期にありますが、生成 AI による早期の生産性向上は、十分に期待できる成果だと言えます。

調査会社の Nielsen Norman Group が 3 つのケーススタディを分析した結果、生成 AI によってビジネス ユーザーの生産性が、調査対象全体で平均 66% 向上したことが判明しています。同社は、プログラミングのような複雑な作業ほど、より大きなメリットが得られると述べています。また、スキルの低い労働者ほど生成 AI の恩恵を最も受けていることもわかっています。

最初のケーススタディは、Erik Brynjolfsson 氏(「The Second Machine Age and Machine, Platform, Crowd」著者)と、スタンフォード大学および MIT の同僚らによって実施されました。大手エンタープライズ ソフトウェア企業の 5,000 人のカスタマー サポート 担当者を調査したところ、生成 AI を活用している担当者は、時間あたり 13.8% 多くの顧客からの問い合わせに対応でき、経験の浅いエージェント(下位20%)だと 35% と最も恩恵を受けることがわかりました。さらに、従業員の定着率も向上し、ある特定の月の離職率が 8.7% 減少しました。これは、AI による従業員の満足度の向上の重要性を示しているもう一つの指標です。

AI による真に興味深い価値とは、労働者が特定の時間内に生み出せる量を増やすだけではないということです。AI は、従業員を疲弊させることなく、より大きな価値を企業やエンドユーザにもたらためのものです。

2 番目のケーススタディは、MIT の Shakked Noy 氏と Whitney Zhang 氏によって実施されました。研究者たちは、マーケティング担当者、人事担当者、助成金担当者など、さまざまな分野の経験豊富なビジネス プロフェッショナル 444 人を対象に、AI を使ったドキュメント作成について調査しました。平均すると、AI を活用しなかった場合のドキュメント作成時間は 27 分でしたが、活用した場合は約 17 分でした。1 日の平均労働時間を 8 時間とすると、生成 AI を使用すれば 59% 多くのドキュメントを作成できる計算になります。品質も向上し、AI を利用したドキュメントの平均スコアは 4.5 だったのに対して、利用しない場合は 3.8 を示しました。

最後の調査では、研究者が 70 人のプログラマーに依頼し、JavaScript で HTTP サーバーを実装してもらいました。半数は生成 AI ツールを使用し、残りの半数は AI の支援なしでタスクを完了しました。AI ツールを使用したプログラマーは 1.2 時間で完了したのに対し、AI を使用しなかったプログラマーは 2.7 時間かかりました。

「これで比較材料が揃ってきました」と Nielsen Norman Group の共同設立者で代表を務める Jakob Nielsen 氏は書いています。「AI による 66% の生産性の向上は、米国における47 年間分の自然な生産性向上に相当し、欧州連合(EU)の 88 年間分の自然な生産性向上に相当します。これは 1957 年の欧州共同体(EU の前身)設立から現在までの時間である 66 年間の 約 1.33 倍にあたります。」

AI のあらゆる興味深い可能性を見てきましたが、では、組織や企業はどのように生成 AI を活用すれば、生産性を高められるのでしょうか。それは、しっかりとした測定方法と人間中心のアプローチを備えた、指針となるフレームワークを持つことです。

生産性を高める AI 活用フレームワーク

AI が私たちのコミュニティ、環境、経済、働き方、職場での役割に影響を与え続けていくことはほぼ避けられません。このため、AI の短期的 / 長期的影響と起こり得るリスクについて多くのことを考えておく必要があります。そして、こうしたことは、人と人との関わり方、および世界との関わり方を必然的に変えていくことになるでしょう。

これらを考慮すると、AI を活用したエコシステムを維持するために必要なリソースは、現在のものとは大きく異なる可能性が高いと言えます。問題は、AI が劇的な影響を与えるかどうかではなく、どのような形で影響を与えるかです。

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Midjourney で作成された「生産性のパラドックスの概念を漫画風に描いたイラストでパソコンに向かって働く女性」の 4 つのバリエーションのうちの 2 つ。

Google Cloud やその DORA チームのような組織では、組織が独自の AI ベスト プラクティスの策定できるよう支援するための具体的な手順の作成にすでに着手しています。特に重点を置いている分野の一つが責任ある AI です。これは、より広い範囲に導入を促進して生産性向上を図るうえで極めて重要になる可能性があります。チームが信頼を寄せられるテクノロジーであれば、そのテクノロジーを活用した仕事はずっとしやすくなります。

組織は、これらの考慮事項を念頭に置き、次のような責任ある AI ガイドラインの実装を検討する必要があります。

人を中心とした AI システムを設計する

システムを設計する際、より効果的なものにするためには、人間中心のアプローチを採用することが重要です。特に、対象ユーザーにとって、そのソリューションがどれだけ効果的に機能するか、という観点でその影響を評価する必要があります。

AI システムは、個人をフィードバック ループに組み込み、人間のインプットに基づいてシステムを軌道修正するフローをつくり、時間の経過とともに改善していけるように設計するべきです。AI システムは、明確さ、制御機能、プライバシー保護機能を兼ね備え、補強や支援に重点を置いて、1 つの限定的な答えではなく、さまざまな選択肢をユーザーに提示するものでなければなりません。

幅広い指標を考慮する

AI の影響を評価するには、さまざまな指標を活用する必要があります。デベロッパーの生産性に関する SPACE モデルに従い、あらゆる測定対象について、異なる次元にわたって 3 つ以上の指標を用意することをおすすめします。これらの指標は、コミュニケーション、コラボレーション、効率性、パフォーマンス、満足度が中心となりますが、各組織の状況や目標によっても異なります。もう一つの例は、SPACE モデルと同様の研究に基づいた DORA の 4 つの主要指標です。

別の指標を考慮せずに 1 つの指標だけを判断材料にする、あるいは特定の業績ベースのインセンティブを達成するために指標を操作する、といったことを防ぐために、さまざまな指標を測定することが重要です。

また、ガードレールとなる指標を用意することも不可欠です。たとえば Google では、生産性は重視しますが、データ プライバシー、社員の満足度、セキュリティなどの他の考慮事項に優先するものではありません。Google は、潜んでいる予期せぬ悪影響を明らかにし、意図しない結果を防ぐ明確なルールを確立するために、AI の周囲にガードレールとなる指標を設けています。

生データを理解する

データは AI と ML モデルの基盤であるため、組織はデータを使用して AI を構築する前に、その生データをできる限り理解しておく必要があります。

生データには固有のバイアスがかかっていることがあり、それが偏った AI システムにつながります。このデータは、ユーザーや実世界の状況を完全に表しているとは限りません。また、データクラスによっては、モデルにとって区別が難しいものもあります。パフォーマンス目標を達成するには、代表的なトレーニング データを用意し、適切なデータラベルを使用して、最もシンプルなモデルを構築する必要があります。このようなステップを踏むことが、公平で偏りのない AI システムの開発につながります。

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Midjourney で作成された「生産性のパラドックスの概念を漫画風に描いたイラストでパソコンに向かって働く女性」の 4 つのバリエーションのうちの 2 つ。

データセットやモデルの限界を理解する

同時に、AI システムの限界を理解することも必要です。モデルによっては、特定のクラスを見分けるのが難しい場合や、特定の結果しか出せない場合があります。たとえば、相関関係を検出するようにモデルをトレーニングしている場合、因果関係の立証にそのモデルを使用するのは避けるべきです。別のケースとして、データセットに含まれていない変数であっても、モデルが潜在変数を示す場合があります。

ここで重要なのが、トレーニング データの透明性と、領域、対象範囲の詳細です。ユーザーは、AI システムに何ができるのかを理解する必要があります。そして、より重要なのは、何ができないのかについても理解することです。これらの制限についてオープンに伝えることで、ユーザーの期待を適切に設定し、AI がもたらす結果がユーザーのニーズに合っているかどうかを評価するために必要なコンテキスト情報を提供できます。

定期的にテストする

組織が AI システムの信用を高めるには、継続的に AI システムをテストする必要があります。企業は、厳密な単体テストと統合テストを実施することで、個々のシステム コンポーネントがどの程度うまく機能し、システムの他の部分と相互作用するかを評価できます。

テストすることで、システムを劣化させるデータ ドリフトに対処し、進化するユースケースやさまざまなユーザーに対してシステムが最適に機能しているかどうかを確認できます。また、予期せぬ障害を防ぎ、より優れたパフォーマンスを達成することにもつながります。調査によると、継続的な改善の必要性を認識しているチームでは、そうでないチームよりも組織のパフォーマンスが高い傾向があります。

常にシステムをモニタリングする

AI システムを一度導入したら作業が終わるわけではありません。モニタリングすることで、ユーザーからのフィードバックと実際のパフォーマンスを考慮しながら、継続的にモデルを改善していくことができます。また、問題が発生した際に短期的 / 長期的な修正方法を特定することもできます。それが、ビジネスの中断やユーザーへの影響を最小限に抑えながら、導入済みモデルをアップデートする最善の方法の一つです。

生成 AI は、ビジネスと生産性に大きな影響を与える可能性があります。あらゆる新しいツールと同様に、テストとモニタリングを中心としたアプローチは、企業が生成 AI の有用性を調整するのに有効です。その結果として従業員が、競合他社に対して優位に立てる最先端のテクノロジーを手にし、生産性を高めてより実力を発揮することができるようになります。


すべての画像は、Google Cloud 上で稼働している Midjourney に対して、「a woman working at a computer in a cartoonish illustration of the concept of the productivity paradox.(生産性のパラドックスの概念を漫画風に描いたイラストでパソコンに向かって働く女性)」と指示して作成したものです。

- ユーザー エクスペリエンス リサーチャー Derek DeBellis

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