コンテンツに移動
サステナビリティ

Google Earth Engine を使った最新研究の紹介: カリフォルニア州の都市部における気候格差対策

2023年2月16日
https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/sustainability_2022.max-2500x2500.jpg
Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2023 年 2 月 4 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

山火事や、洪水、ハリケーンなど、温暖化に起因する気象現象に対する世間の関心は高まりを見せていますが、こうした問題を扱った研究および報告はいまだに十分とは言えないのが現状です。毎年夏になると、熱波が人々の健康やエコシステムに深刻な脅威をもたらしています。北米では人口の 83% が、気温がその周辺の非都市圏に比べて局所的に上昇するヒート アイランド現象(UHI)が発生する都市部に住んでいます。

しかし、米国の都市に住む人が皆同じように夏季の熱波やヒート アイランド現象を体験しているわけではありません。低所得者層や有色人種が多い地区のほうが、緑地が少なく、かつ、エアコン設備が整っていないために、猛暑の影響をより深刻に受ける傾向にあります。所得レベルの異なる地域間の環境格差については多数の研究がされている一方で、あらゆる人々を猛暑から守るためにどのような対策をとればよいのか、という分析はほとんど行われていません。

2019 年夏、Google 主催の Geo for Good Summit で、当時、イェール大学の School of the Environment の博士課程に在籍していた TC Chakraborty 氏と、当時カリフォルニア州の The Nature Conservancy 所属の空間データ サイエンティストだった Tanushree Biswas 氏は出会いました。このサミットは、政策立案者や、科学者など、Google のマッピング ツールを活用して世の中に変革をもたらそうとしているさまざまな職種の人たちが交流する機会を設けることを目的としています。両氏はそれぞれの専門分野(Chakraborty 氏は都市熱、Biswas 氏は樹木被覆)の見解を分かち合い、オープンなツールおよびデータセット群を使用して都市部の気候格差に対処する方法を探りたいと考えていました。そこで、樹木被覆が都市部の局所的な熱を軽減する効果があることに着目し、低所得者層が住む都市エリアに、植林可能な空間がどれくらいあるかを調べたいと考えました。

植林可能な空間を数値化できれば、樹木被覆によって得られる猛暑軽減以外の効果、たとえば、炭素吸収や、大気汚染の削減、冷却用エネルギーの削減、健康上のメリットなども推定することが可能になります。Chakraborty、Biswas の両氏は、この利用可能な空間内で樹木エリアを増やすことが、気候に関する公平性を促進すると同時に、グリーンジョブの経済的機会にもつながると考えました。このビジョンを共有した両氏は力を合わせて、カリフォルニア州の都市部において樹木を増やすことの実現可能性を検討し始めました。

それから 3 年後の 2022 年 6 月、Chakraborty、Biswas の両氏は、L.S. Campbell 氏、B. Franklin 氏、S.S. Parker 氏、M. Tukman 氏と共同で、この課題への対策をテーマとした論文を発表しました。この研究では、中~高解像度の衛星観測データと国勢調査データを組み合わせて、カリフォルニア州の都市部における 200 以上の人口集中地区を対象に、植林が可能な面積を計算しています。この論文は、Google Earth Engine の公開データを活用し、体系的アプローチを用いているのが特徴です。Google Earth Engine は、地球規模の地球科学データ分析用プラットフォームであり、非営利団体、教育機関や、研究目的の活動に対して無償で提供されています。この研究の結果は、Earth Engine のウェブ アプリケーション Closing Urban Tree Cover Inequity(CUTI)で見ることができます。

カリフォルニアは米国で最も人口が多い州であり、世界各国と比較して 5 位に相当する経済規模を誇ります。それと同時に、熱波に頻繁に襲われている州でもあります。こうした条件が揃うカリフォルニア州は、SUHI(都市地表面のヒート アイランド状態)を戦略的に減らす方法を実証するのに最適な地域であり、そうすることで熱波の被害を受けやすい地区を中心に、数百万の人々に恩恵がもたらされる可能性があります。Chakraborty 氏らの論文(2022 年)では、カリフォルニアの貧困地区はより裕福な地区に比べ、樹木被覆率が 5.9% 低く(図 1 のサクラメントの例を参照)、夏の SUHI レベルが 1.7°C 高いことが示されました。樹木の少ない地区に狙いを定めて植林を進めることによって、この樹木被覆率の格差を部分的に埋めることが可能性です。

https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/1_cuti.max-2000x2000.jpg
図 1. サクラメントの貧困地区および裕福な地区のストリートビューと航空写真。

この研究では、カリフォルニア州の都市に関する豊富なデータ(気温上昇に関連する死亡率および罹患率や、気温が家庭のエネルギー需要にもたらす影響度、カリフォルニア州の森林の炭素吸収率など)を活用し、都市における植林プランをいくつか示したうえで、プランごとの相乗効果を計算しています。植林を最大限に進めるプランでは、3,600 万本(128 万エーカー相当)を植樹できる可能性があり、その経済的効果は年間 11 億ドルにも上ると推定されています。具体的には、以下のような効果が期待されます。

  • 年間の CO2 吸収量 450 万トン

  • 気温上昇に関連する受診者数の減少(10 年間で約 4,000 人)

  • エネルギー使用量および費用の削減

  • 雨水流出量の削減

  • 不動産価値の上昇

この研究では、都市内における SUHI および樹木被覆率の格差解消を重視し、カリフォルニア州の国勢調査ブロック グループごとに、植林展開の目安となる適合性スコアを示しています。この適合性スコアが特に高い地区に焦点を当て、年間 4 億 6,700 万ドルを植林に投資することで、気温上昇に伴う格差が軽減されるだけでなく、年間 7 億 1,200 万ドルの純利益がもたらされると予測されています。この利益は主に低所得者層に還元され、具体的にはカリフォルニア州の都市において所得下位 25% に属する約 900万人の住民の 89% がこの恩恵を受けると見込まれています。この年間投資を 20 年間続けると 93.4 億ドルとなり、年間 1 万台の電気自動車を導入することに相当します。

https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/2_cuti.max-2000x2000.jpg
図 2. ロサンゼルス都市部の a 所得の中央値、b 現在の樹冠被覆率、c 夏の日中における SUHI レベル(都市地表面のヒート アイランド状態を示すレベル)、d 植林可能な面積の割合を示すマップ。国勢調査ブロック グループに基づく(画像提供: TC Chakraborty 氏、Tanushree Biswas 氏)。

気候変動による被害の大きさは、都市部の地域によって偏りがあるため、このような環境格差を埋めるべく、実現可能な対策を今すぐ検討する必要があります。そのための重要な第一歩は、気候変動の影響に強い都市を設計できるよう、都市計画に携わる人たちにデータドリブン型ツールを提供することです。Chakraborty 氏らの研究は、Earth Engine のデータ、技術、そしてクラウド コンピューティングのリソースを活用し、都市における環境格差に対処するための実用的なインサイトを提供します。この研究は、Earth Engine が都市政策に役立つこと、ならびに、イノベーションや投資の機会をもたらす拡張可能な気候対策を支えるロジスティクスの全体像を把握するうえで役立つことを示す格好の例であるといえます。Chakraborty 氏、Biswas 氏は今後、この分析を米国全土の都市に広げ、すべての人が平等に気候変動に対応できるような社会の実現に役立つ基本データを提供したいと考えています。


Google は、ここで紹介したような研究を支援したいと考えています。Google Cloud は、米国国立科学財団(NSF)の AI Institute for Research on Trustworthy AI in Weather, Climate, and Coastal Oceanography(AI2ES)と提携し、Google Cloud 気候変動イノベーション チャレンジを通じて、研究にお使いいただける無料クレジットを提供しています。気候問題に取り組む研究者の方は、奮ってご応募ください。


このブログ投稿を執筆するにあたって、TC Chakraborty、Tanushree Biswas 両氏にご協力いただきました。心より感謝申し上げます。


- デベロッパーリレーションズ エンジニア Nicholas Clinton
投稿先