小売店の迅速な成功を支援する Google Cloud 陳列棚確認 AI および Cortex Framework と SAP との統合
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2023 年 7 月 27 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
次のような場面を想像してください。あなたはお気に入りのブランドの商品を購入しようとワクワクしながら店に入りましたが、売り切れているのを見てがっかりしました。このような状況は多くの人が経験していることです。
陳列棚が空の店に足を運びたい買い物客はいません。中には根気よく店員に尋ねる人もいますが、ほとんどの買い物客は、たとえ欲しい商品の在庫があったとしても、購入せずに立ち去ります。このような販売機会の逸失は、減益、収益性の低下、不満足な顧客体験につながる可能性があります。さらに昨今では、買い物代行サービスや注文アプリの台頭によって従来の買い物パターンが一変しており、空の陳列棚の問題はますます悪化するばかりです。2021 年だけでも、米国の小売店は、陳列棚に商品がなかったことで 820 億ドルの売り上げを逃しています。
店舗がある限り、店舗経営者は陳列棚に商品がある状態を維持しようとします。大型店で数千点の商品を手動でチェックするのは費用がかかり、店員にとって大きな負担となります。このような店舗が他の店より一歩先んじるには、なんらかの自動化を導入して陳列棚をスキャンする必要があります。たとえば、陳列棚を撮影するカメラを設置し、陳列棚の商品がいつなくなりそうかについて店員が情報を得られるようにします。
これは有望なアプローチではありますが、データを大規模に分析することが課題となります。数百万点もの商品を販売している企業の複数の小売店に画像キャプチャ ソリューションを導入し、商品の画像を認識してマッピングできるモデルをトレーニングするには、スケーラビリティの高いトレーニング設定と膨大な量のデータが必要です。
Google Cloud は、データと AI に関する専門知識を駆使して、この問題の大規模な解決を支援しています。さらに、Google Cloud Cortex Framework を使用して、SAP ERP の商品データや在庫データのような関連データソースへのアクセスとこれらのデータの取得を加速させています。また、陳列棚管理に関する分析情報と組み合わせることで、効率的なタスク管理を可能にする統合されたデータレイヤが生み出され、店員の生産性向上が実現します。これについて以下で詳しくご説明します。
リアルタイムの陳列棚確認 AI: 空の陳列棚を解決するソリューション
今年初めに開催された全米小売業協会(NRF)のイベントで、Google は小売店向けの新たな AI ツールをいくつか発表しました。その一つである陳列棚確認 AI は、自動化、AI の専門知識、データ処理の力を活用して、空の陳列棚の問題を解決を促進します。
このソリューションは、商品認識 AI モデルによって画像を特定の商品に関連付ける事前トレーニング済み ML モデルを利用し、タグ認識 AI モデルによって値札属性(価格、商品名など)を識別します。さらに、ロボティック オートメーション、固定カメラ、シェルフ エッジ カメラ、モバイル デバイスなど、陳列棚画像をキャプチャするためのさまざまなモダリティに対応しています。現在プレビュー版の陳列棚確認 AI は、陳列棚に十分な量の商品を維持するという課題の解決に向けた大きな一歩を表しており、小売店が最終収益と顧客体験を向上させ、ブランドの評価を高めるために役立ちます。
陳列棚確認 AI の中核にあるのは、商品認識 AI モデルです。このモデルは、画像に含まれている商品または陳列棚にある商品を識別できます。なお、このモデルは、カメラやモバイル デバイスで撮影した陳列棚の画像に適用できます。さらに、陳列棚確認 AI は Google の持つ膨大な商品情報コレクションを使用します。これには、商品の GTIN / UPC ID、ブランド、商品名、言語横断的な説明、ロゴ、さまざまなパッケージのバリエーションを捉えた画像などが含まれます。この商品データベースにより、商品認識 AI モデルは多数の商品を迅速に識別できます。
Google Cloud と SAP: 連携効果の高いソリューション
上記のようなソリューションの登場で、どの陳列棚の商品が不足しているかをリアルタイムに把握できるようになり、小売店はこの問題の解決に向けて行動を起こせるようになりました。しかし、十分な情報に基づいて意思決定を下すという観点から見た場合、このデータだけで十分でしょうか?答えはノーです。在庫の補充を最適化する方法について十分な情報に基づいて意志決定を下すためには、ERP システムからの補助的なデータも必要になります。これには以下のようなデータが含まれます。
利益率の高い商品: 補充する商品の優先順位を付けるため。
手持ちの店内商品在庫: 商品の在庫を補充する必要があるかどうかを決定するため。
サプライヤーのリードタイム: 遅れずに補充品を入荷するにはサプライヤーにいつ商品を再発注すればよいかを判断する目安にするため。
発注頻度: どのくらいの頻度で商品を再発注する必要があるかを決定するため。
陳列棚から収集されたデータと SAP などの ERP アプリケーションのデータは、状況に即した優れた分析情報を提供します。これら 2 つのデータセットを組み合わせることで、店舗の運営状況をより深く把握することができ、より的確な意思決定を下せるようになります。
このデータを使用して実現できることの例は次のとおりです。
在庫補充タスクの優先順位を付ける: 需要と利益率が最も高い商品を把握することで、在庫補充タスクの優先順位を付け、それらの商品が常に陳列棚にあるようにして収益性を最大化することができます。
労働力を最適化する: 補充のタスク管理を自動化し、在庫補充の頻度をスケジュール設定することで、小売店は労働力をもっとうまく活用できます。
在庫切れを減らす: 現在の在庫量と需要を把握することで、在庫切れを最小限に抑えることができます。
- 補充を最適化する: リードタイムと需要を把握することで、費用を処理して削減できます。
Google Cloud は、小売店が上記のようなさまざまな問題の答えを得られるように、エンタープライズ データセットの統合(SAP データへのアクセスの迅速化を含む)により、高度な分析情報や知見を引き出します。
ただし、SAP システムの外部で SAP データを扱うことは簡単ではありません。SAP データには多くのビジネス セマンティクスがあり、SAP のアプリケーション レイヤからデータを抽出して外部のデータクラウドに取り込むには、通常は手作業でこれらを連携させる必要があります。
そこで Google Cloud Cortex Framework の出番となります。このフレームワークは、SAP データから迅速に価値が得られるように、統合するためのリファレンス アーキテクチャ パターンを提供します。また、高度な分析と AI 処理を大規模に行うための基礎として、BigQuery 内で高速なデータ処理とモデリングを実行するための事前定義されたデプロイ可能な一連のソリューション アクセラレータ コンテンツも提供します。
SAP コンテンツ用の Cortex Data Foundation を Google Cloud BigQuery 環境に迅速にデプロイして SAP の豊富でコンテキストアウェアな一連のデータモデルと分析情報を取得し、商品、発注頻度、手持ち在庫、サプライヤー リードタイムなどの関連するエリアでそれらを利用できます。Cortex Framework は、タスク管理、労働力最適化、補充などの効果的なビジネス成果につながる意思決定のためのデータ基盤の提供にも役立ちます。たとえば、Cortex Data Foundation for SAP と POS データおよび陳列棚確認 AI とを組み合わせて、フルフィルメント タスクの管理や計画といった店舗マネージャーの業務を支援することにより、店員の生産性を向上させることができます。これにより、収益性を最大化し、空の陳列棚と在庫切れの発生を最小限に抑えることができます。
分析情報取得の自動化のレベルを高めるには、陳列棚、商品、商品利益率、発注頻度、在庫情報を含む包括的な全体像を組み込む必要があります。全体像を組み込むことで、最適化されたタスクリストを生成するためにそれの情報を利用することや、それらの情報を店舗経営者のモバイルアプリに送信することができます。
このソリューション アプローチは、他にもさまざまなメリットを実現するための基盤になります。以下にいくつか例を示します。
トレンド、気象条件、Instacart への注文、陳列棚のリアルタイムな消費状況、現地イベントといった短期的な需要を予測するための外部シグナルの統合を通じた、準リアルタイムでの需要予測
高度な競争力のある価格設定分析
最適化された価格設定とプロモーションなど
Demand Sensing のような Google Cloud Cortex Framework ソリューション アクセラレータにより、小売店は、さまざまなデータを組み合わせて既存の需要計画能力の価値を拡張する際に役立つ事前定義されたデータモデルと AI テンプレートを使用して、需要把握の迅速化に伴う課題を解決することもできます。
ビジネスデータを包括的な全体像と統合すると、無限の可能性と成果が生まれます。実店舗の包括的な視野とトランザクション データを融合することで、競争力のある価格設定分析、リアルタイムの価格設定とキャンペーン管理、在庫補充のための店舗 / 陳列棚 / 倉庫の可視性の強化、店員の生産性の向上を実現し、サプライヤーの関与を高めることができます。Cortex によるデータ基盤と AI を活用した分析情報がもたらす可能性に終わりはありません。
Google Cloud の陳列棚確認 AI と Cortex Framework ソリューションの詳細を確認し、今すぐ新たな一歩を踏み出しましょう。