リテール デジタル パルス: アジア太平洋地域における小売業のデジタル成熟度評価
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2022 年 2 月 18 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
世界中の小売業者と同様に、アジア市場の小売業者も COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響を大きく受けています。パンデミック中のロックダウンや規制は、店舗の閉店や売上の損失につながりました。多くの経済活動が回復し始めましたが、小売業者、特にデジタル トランスフォーメーションの初期段階にある小売業者の経済回復には時間がかかると予想されています。
それでも、デジタル化は加速しています。小売業者は、消費者行動の急速な変化に対応する必要性を優先し、ショッピング ジャーニーのあらゆる段階で、効果的かつ効率的な体験を提供するための機能を構築し始めています。
この Google Cloud リテール デジタル パルスでは、アジア太平洋地域の小売業者がデジタル化、レジリエンス(復元力)の強化、ポストコロナの世界での競争を可能にするコンピテンシーの開発にどのように取り組んでいるかを調査しています。 IDC と Google が主導して毎年実施しているこの調査では、アジア太平洋地域における小売業のデジタル トランスフォーメーションの成熟度にスポットライトを当て、さまざまな市場やセグメントの小売業者を対象に、5 つの側面(戦略、人材、データ、テクノロジー、プロセス)におけるデジタル成熟度を調査し、4 段階のデジタル パルス インデックス(4 が最も成熟)が算出されます。
今回の調査では、デジタル成熟度が昨年よりも全体的に向上していることがわかりましたが、アジアの小売業のデジタル化成熟度はまだ比較的低く、約 44% が ステージ 1(デジタル参加者)、29% がステージ 2(デジタル探求者)、25% がステージ 3(デジタル志願者)、ステージ 4(デジタル レジリエント)はわずか 2% であろうとされています。
また、デジタル成熟度は、課題、重点分野、イノベーションのホットスポット、優先的なユースケースに関する主要なインサイトにより、国や地域、セグメントによって異なります。レポートをダウンロードして、組織のデジタル成熟度を評価し、将来のデジタル ロードマップを発展させるための実用的なガイダンスをご覧ください。
進化する小売業界を掘り下げてみましょう。
アジア小売業のデジタルパルス
小売業は COVID-19 のパンデミックによって最も影響を受けたセクターの 1 つですが、2021 年には顕著な立ち直りが見られました。現在、アジアの小売業者の中には、成長を取り戻し、将来への投資に前向きな企業が増え始めています。一方、アジア太平洋地域の市場の景況感はまちまちですが、これは市場特有の課題に起因するものです。香港と日本は楽観的で、60% 以上の小売業者が積極的な投資を考えているのに対し、タイの小売業者の半数以上は、まだリセッション(景気後退)の時期にあると考えています。
デジタル パルス インデックス(DPI)のステージ 1 またはステージ 2 にとどまっている組織が 73% もあることから、競合他社との差別化を図るためにデジタル戦略を策定し、実施する機会が引き続き存在することがわかります。デジタル化の進んだ小売業者(DPI ステージ 3、4)は、デジタルに関連した体験に重点を置き、デジタル化の進んでいない小売業者(DPI ステージ 1,2)は、需要計画、配給、品揃えに関するイノベーションを優先しています。
同時に、小売業者のイノベーションの焦点は市場の成熟度によって異なり、デジタルが成熟した市場では顧客の維持が重視される一方、発展途上の市場では店舗や倉庫でのプロセス改善が主な焦点となっています。しかし、小売業者が今後 12 か月間に投資する予定の、イノベーションのユースケースの上位は、主要な市場におけるモバイル コマースと顧客体験が中心となっています。
市場の成熟度の観点からは、香港、日本、オーストラリア、韓国と並んで、シンガポールがデジタル成熟度においてトップで、これらの国はすべてステージ 2 です。これらの国は、デジタル レジリエンスを向上させ、その結果としてスコアを向上させる余地がありますが、デジタル・ジャーニーを進展させるためには、すべての次元で取り組む必要があります。サブセグメント別の DPI スコアでは、引き続き最も成熟しているオンライン ピュアプレイ(ネット専業業者)を除けば、ハイパーマーケットとコンビニエンス ストアが過去 1 年間で他と比較して最も速い成長を見せていることがわかります。
イノベーションのホットスポット
デジタル レジリエンスへの過程は、変化する顧客の要求と期待に対応できるようなイノベーションの重要性を示しています。デジタル パルス インデックスは、現在のデジタル レジリエンス レベルを把握することを目的としており、イノベーション分野は、小売業者が将来に向けて投資している分野を探るものです。本調査では、この変革の過程を調べると同時に、7 つのイノベーションのホットスポットに注目しました。これは、さまざまな市場やセグメントにおいて具体的なユースケースを伴う「大きな投資テーマ」として特定されたものです。
全体として、顧客維持が最も革新的なホットスポットとなり、店舗・倉庫業務とオムニチャネル コマースがそれに続きました。もちろん、デジタル成熟度によって違いはあります。ステージ 1 の小売業者は顧客獲得に重点を置き、時間とコストの最適化のためにプロセスを改善します。一方、ステージ 4 の小売業者は顧客維持に重点を置き、競合と差別化できるようにオムニチャネル コマース機能を改善し、顧客にパーソナライズした体験を提供します。
スマートフォンの普及率の大幅な伸びと、アジア太平洋地域における新たな決済ソリューションの登場により、小売業者はいつでも、どこでも、買い物客とかかわることができるようになり、顧客の期待も高まっています。その結果、モバイル コマースは、小売業者全体のユースケースの中で上位にランクインしています。 同時に、小売業者がよりデジタルに強くなるにつれ、ユースケースの変遷(コラボレーション分析および顧客関係の最適化から、よりデジタルに接続された製品およびサービスへ)が見られるのも興味深い点です。需要計画、アロケーション、アソートメント、キュレーションされた商品の品揃えなどのユースケースは、特にオフラインの小売業者にとって、引き続き重要な焦点となる分野です。
デジタル トランスフォーメーションへの挑戦
デジタル トランスフォーメーションへの挑戦は続きます。しかし、導入の障壁に変化が起き始めています。最大の課題は、デジタルプランの策定から、導入を推進するための正しい文化やデジタル マインドの確立へと変わってきています。このようなデジタル技術の価値や投資対効果については、依然として企業の困惑や理解不足があります。デジタル技術が最も発達し、必要な計画や技術を導入している小売業者でさえ、適切なデジタルスキルや人材を見つけるという課題に直面し、それぞれの組織内でデジタル マインドセットや文化の欠如に直面しています。
デジタル レジリエンスの向上
アジア太平洋地域のデジタル パルス インデックスの平均値はまだ低いものの、現在では、新興市場が新しいテクノロジーや関連プロセスの採用を加速させ、場合によっては飛躍的にデジタル成熟度が向上していることが確認されています。
デジタル レジリエンスを高めるには、デジタル パルス インデックスの 5 つの側面すべてにおいて進歩を実証することが必要です。同時に、新しいテクノロジーの採用、データの活用、迅速な実装、規模の拡大を可能にするイノベーションを受け入れることが成功の鍵になります。
デジタル トランスフォーメーションのための計画を持つことは、今日の小売業者において競争力をもつために、もはや「あったらいい」ではなく「必須」なのです。デジタル レジリエンスとは、組織がイノベーションを可能にするテクノロジー基盤を持ち、外部環境の変化に混乱なく迅速に対応できる能力を持つことを意味します。しかし、デジタルパルスを理解するだけでなく、変化への欲求を理解することが非常に重要です。ほとんどの小売業者が技術ロードマップを策定している中、デジタルに強くなるための取り組みを加速させるために、デジタル マインドセットとイノベーションの文化を持つことが課題となっています。
- Google Cloud、JAPAC リテール&コンシューマ担当ディレクター Sameer Dhingra