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金融サービス

保険業界の生成 AI: Cytora が支援する引受リスクの優先順位付け

2024年3月29日
Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2024 年 3 月 16 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

保険業界では、リスク選択および意思決定のスピード、利便性、一貫した制御が重要です。この状況を踏まえ、先進的な保険会社はリスク ワークフローの大部分を効率化する AI およびデジタルリスク処理テクノロジーに多額の投資を行っています。こうした投資により、査定対象のリスクを一貫した方法で特定して選択しやすくなり、その結果としてリスク選好度や目標ポートフォリオに合わせた形でビジネスを運営できます。さらに、ブローカーのリクエストに対する応答時間を数日から数時間、さらには数分に短縮できます。このため、引受利益率が向上し、競合他社よりも優れたパフォーマンスを発揮する可能性のある戦略を実現できます。Cytora AI による保険会社のワークフロー変革を支援するスタートアップ企業であり、上記の戦略的アライメントがさらに簡単で便利になるようにサポートしています。

Cytora SaaS プラットフォームにより、保険会社はコア ワークフローをデジタル化、自動化、効率化できます。これによってリスクフローが手動からデジタルに進化し、必要なときに必要な場所にのみ人間の能力が投入されます。Cytora を利用すると、保険会社は引受業務の生産性を向上させ、ブローカーへの応答を加速し、目標ポートフォリオをより適切に制御することで収益性を高められます」と Cytora COOJuan de Castro 氏は説明します。

この記事では、Cytora Google Cloud の生成 AI 基盤モデルを活用してクライアントに最先端のサービスを提供している方法や、他の企業が Cytora の事例からどのように学べるかについて説明します。

AI と「リスクのデジタル化」

保険会社へのリスク提出(引受リスクの評価リクエスト)は、多様な形式(PDF、スプレッドシート、メールなど)で行われますが、最近では各種スキーマを備えたさまざまなブローカー API を通じて届くことも増えています。こうした多様性は、デジタル トランスフォーメーション プログラムを実施する保険会社にとって大きな技術的課題となります。現在の運用モデルでは通常、保険会社はすべてのソースから情報を検索、解析、スクレイピングする作業や、複数システムへの入力、さらには再入力に時間を費やす必要があります。

「保険会社が目標とする状態は、効率化された見積もりワークフローによって意思決定の準備が整ったリスク情報を受け取り、意思決定の一貫性や効率性を高め、処理時間を短縮することです」と、Cytora のプロダクト担当バイス プレジデントの Sam Lewis 氏は述べています。

これが「リスクのデジタル化」です。異なるソースと形式の情報は自動的に解析、評価され、リスク分類を通じて、機械が理解してトリアージできるコンピュータ解読可能な形式にマッピングされます。

Chain-of-Thought プロンプトによる自動化

もう一つの課題は、さまざまなブローカーが同じ情報を必要とし、エンドクライアントに同じ質問をすることが少なくないにもかかわらず、質問の表現が異なることです。それゆえ、2 つの質問が意味上は同じ情報を求めている場合でも、テキスト上はまったく異なるように見える可能性があります。たとえば、あるブローカーは次のように質問するとします。

サーバーやノートパソコン、パソコン、管理対象モバイル デバイスに重要なセキュリティ パッチを迅速に適用するためのプロセスを確立していますか?

はい

いいえ

別のブローカーは、同じ情報を求めて少し違う角度で質問する場合があります。

ネットワーク内のすべてのエンドポイントが重要なセキュリティ パッチで更新されるようにするために、どのようなプロセスや制御を導入していますか?

重要度の高いパッチを社内全体にどのくらいの頻度でインストールしますか?

13 日おき

47 日おき

830 日おき

1 か月おき以上

リスク ワークフロー自動化テクノロジーは、こういった質問ごとに意味を理解し、保険会社のリスク選好度の社内基準に意味的に照合する必要があります。

Google Cloud Vertex AI、特に GeminiPaLM 2Gecko のテキスト エンベディングを活用することで、デジタルリスク処理を実装する際のカスタマー エクスペリエンスを変革できました。ゼロショット予測検索拡張生成(RAGにより、当社のプラットフォームはトレーニング データがなくても予測を開始できます。PaLM 2 のファインチューニング機能では、大幅に少ないトレーニング データでリスクのデジタル化に関する以前のパフォーマンス ベンチマークを上回ることが可能です」と Cytora CTOAeneas Wiener 氏は述べています。

Cytora のリスクのデジタル化レイヤは 3 つの柱に基づいています。

1. 適応性と精度の高い自然言語理解

Cytora は、Vertex AI Model Garden の大規模言語モデル(LLM)を活用して、リスク提出の添付ファイルとメールの情報をすべて抽出します。これは、Cytora 専有のプロンプト内チューニング技術と PaLM 2 のファインチューニング機能を組み合わせることで実現します。これにより Cytora の顧客ごとに、独自のプライベート データに基づいてプライベート モデルやファインチューニングされたモデルを作成できます。

Vertex AI のプライバシーとセキュリティの機能は、規制の厳しい保険業界に身を置く Cytora とその顧客にとって特に重要でした。Google Cloud では、お客様のデータはファインチューニングされたものを含めてお客様のものであり、Google プライバシーとセキュリティに関するエンタープライズレベルの保証を提供します。

Vertex AI は始めからエンタープライズ対応であったため、Cytora はプロトタイプを超えて本番環境ワークロードでの生成 AI の使用に迅速に移行できました」と Wiener 氏は言います。

また、保険の合成トレーニング データを生成する Cytora 独自のテクノロジーにより、コールド スタートの課題が軽減され、最初から PaLM 2 のファインチューニングが可能になります。PaLM 2 に加えて、Vertex AI を介して Model Garden 上の幅広いオープンソース モデルと商用モデルを利用でき、Cytora はこれをプラットフォームの構築にも活用しています。

2. リスク分類を活用したデジタル化

Cytora は商業的なリスクを分類するために、意味的に有意な(かつコンピュータ解読可能な)ターゲット フィールドとフィールド値のリストを管理しています。また、サイバー保険、商業不動産保険、法的責任保険、車両保険、航空保険などを含む幅広い保険商品向けに、すぐに使えるベースライン リスク分類のゴールデン スキーマを開発しました。

3. Chain-of-Thought のリスク理解

Chain-of-Thought プロンプトにより、LLM の複数ステップ推論タスクのパフォーマンスが大幅に改善されましたCytora は、この手法を商業保険のリスク処理向けに調整および拡張し、監査可能かつ説明可能な方法でリスクを推論するモデルの機能を高めることに成功しました。たとえば、サイバー保険請求を処理するモデルは以下のような出力を提供できます。

  • 「保険会社は申請者にエンドポイント保護の導入を求めています。」

  • 「申請フォームの 2 ページに、次の記述があります。『すべてのエンドユーザー デバイスでウイルス対策を使用することを求めていますか?[X] はい [ ] いいえ』。」

  • 「ウイルス対策はエンドポイント保護の一種です。」

  • 「リスク評価結果: { submission_within_appetite: True }

リスクをデジタル化するためのエンドツーエンドのプラットフォーム

リスクのデジタル化はインテリジェントな要素であり、保険会社の競争力を高めます。ただし、これは 1 つのビジネスの中だけで単独に成立するプロセスではありません。Cytora の市場での経験から、他のコンポーネントも必要なことが明らかになりました(図 1 を参照)。

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図 1: Cytora のリスクデジタル化プラットフォームの概要

大まかに言えば、Cytora のアーキテクチャは次のモジュールで構成されています。

  • リスクフロー エンジン - マルチステップの人間参加型リスク処理ワークフローを定義、実行するための柔軟なローコード プラットフォームです。BigQuery はエンジンの中核として、ブローカーの処理時間 SLA の追跡や最適化などを目的としたリアルタイム ビジネス分析に加え、さまざまなセグメントのコンバージョン率の測定や、成長機会の特定などを目的としたリスクフロー分析を提供します。

  • 処理コンポーネント - デジタル化、評価、決定 - これらは、データを適切な形式に適合させ、リクエスト プロファイルを評価し、次の最善措置を提案することで、商業保険のユースケースに合わせてソリューションを調整するコア コンポーネントです。

  • 保険会社コンソール - ここで意思決定のサポート情報が保険会社に表示され、保険会社の意思決定がデジタル プロセスに反映されます。

  • 人間参加型のコンソール - このレイヤは、信頼性が低い自動抽出の出力を人間のオペレータにインテリジェントに表示して、確認や変更ができるようにします。最終的には、オペレータによる変更内容を使用可能なトレーニング データとして取得し、システムに再フィードします。これらのデータは、PaLM 2 非公開のクライアント アダプタレイヤの効果を高めるために、プロンプト内のサンプルとしてだけでなく、モデルのファインチューニング トレーニングの実行にも使用されます。

Cytora ソリューションの実用例は、まもなく Google Cloud Marketplace で確認できるようになります。Google Cloud の生成 AI について詳しい情報を知りたい場合は、こちらからプロダクトの詳細をご覧ください。

-Google Cloud、CFA - フィンテック プリンシパル Stathis Onasoglou

-Google Cloud、AI カスタマー エンジニア Julius Von Davier

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