SpiralAI: Google Cloud で GPU ホスティング環境を構築し、"愛嬌" あふれるキャラクターと会話を楽しめる新世代 AI アプリを開発

Google Cloud Japan Team
SpiralAI 株式会社(以下、SpiralAI )は、2023 年 3 月に設立された新進スタートアップ。同社が 2025 年 4 月にリリースした『HAPPY RAT』は、自社開発の感情特化型 LLM「Geppetto(ゼペット)」によって生み出された感情豊かな動物キャラクターたちと、楽しい会話を通じて友だちになれる AI アプリです。その開発とサービス運用に、Google Cloud がどのように貢献したのかを伺いました。
利用しているサービス:
Compute Engine, Google Kubernetes Engine(GKE), Cloud Load Balancing, BigQuery, Firestore など
利用しているソリューション:
インフラストラクチャのモダナイゼーション
感情特化型 LLM『Geppetto』で AI キャラクターとの斬新な会話体験を実現
今、最も注目されるテクノロジーの 1 つである生成 AI は、驚異的な速度で進化を続け、ビジネスから日常生活まで、あらゆるシーンに変革をもたらしつつあります。こうしたなか、SpiralAI は対話における人間らしさや親しみやすさを重視した、新たな生成 AI 開発の可能性を切り拓こうとしてきました。
そんな同社が約 2 年にわたる開発期間を経て、2025 年 4 月にリリースしたスマートフォンアプリが『HAPPY RAT』です。そのコンセプトについて、代表取締役 / CEO の佐々木 雄一氏は次のように語ります。
「『HAPPY RAT』は、テーマパークのような仮想世界『ハッピーアイランド』を舞台に、さまざまな動物たちとの会話を楽しめるアプリです。すぐに泣いたり、すねたりするネズミのチュン太くんや、ちょっと上から目線で話すライオンのシドウさんなど、個性あふれる AI キャラクターたちと、まるで長年つきあってきたリアルな友人のようなコミュニケーションが体験できるようになっています。開発の際に私が念頭に置いたのは『ドラえもん』のような世界でした。人間が AI を一方的に使ったり、逆に AI が人間に命令したりするのではなく、お互いにケンカしたり冗談を言い合いながら、対等のパートナーとして身近に存在している関係性を実現したかったのです。」
『HAPPY RAT』に登場する AI キャラクターはリリース時点で 10 体。アプリでは、彼らが繰り広げる「イマーシブ ドラマ」に自由に入り込める仕組みになっています。毎日追加されるドラマでは 1 対 1 で親密な対話を楽しめるほか、AI キャラクター同士が掛け合いしているものもあり、ユーザーはその様子を眺めたり、やりとりに参加することもできます。佐々木氏は、かつてない世界観を構築した、独自の技術について説明します。


「この AI キャラクターたちを誕生させたのが、私たちが開発した感情特化型 LLM『Geppetto』です。12 ビリオン規模の比較的小さな LLM ですが、『ピノキオ』のゼペットじいさんのように、魅力的でバラエティ豊かな個性を創り出す技術を実現しています。LLM の学習を『ガチャ』のようなランダム性の高い仕組みにたとえる人もいますが、『Geppetto』は高度なアライメントによって、作りたいモデルを緻密にコントロールすることができます。結果、無駄なトライ アンド エラーなしに、それこそ 1 日 1 キャラクターというスピード感で、効率的に AI キャラクターを生み出せるようになりました。」
このようなアプローチは、生成 AI 開発における同社ならではのフィロソフィーも反映しています。
「従来の AI 開発は、より早く、より正確な応答を目指す方向で進んできました。いわゆるスケール則に基づき、LLM を大規模化することで "IQ" の向上を追求してきたのです。しかし私たちは "IQ" ではなく"愛嬌"、規模のビジネスで性能やコストを追求する高性能な『生成 AI』ではなく、温かみのある『生命AI』を目指しています。『Geppetto』を開発する際には、対話における楽しさの本質を探るために、エンターテインメントの分野における会話技術を徹底的に研究・分析することにも挑戦しました。このような取り組みは、日本が誇るIP(知的財産)や大衆演芸の伝統、何より人の温もりを生成 AI で体現していくことにもつながります。」
さらに『Geppetto』は、オリジナルのキャラクターだけでなく、既存 IP の人気キャラクターも AI 化。『HAPPY RAT』では、著名な芸能人やお笑いタレントも AI キャラクター化して起用しており、今後も多くの人気者がコラボレーションという形で登場する予定です。
『HAPPY RAT』の運用を支える Google Cloud のマネージド サービス
日本発のユニークな AI アプリケーション「HAPPY RAT」の運用基盤として、SpiralAI は Google Cloud を採用。それまで他社クラウド プラットフォームを利用していた同社が採用を決断した背景には、AI サービスの商用化フェーズ特有の課題がありました。


「AI 開発には『学習』と『推論』のフェーズがあります。『HAPPY RAT』をサービスとして展開するにあたっては『推論』、つまり実際のユーザーからのリクエストに応答できるようにすることが重要でした。私たちの要件を考慮した結果、このプロセスには NVIDIA L4 のようなコスト効率の良い推論特化型 GPU が適していると判断しましたが、トラフィックの増減に合わせて柔軟に運用することが不可欠になります。さまざまな選択肢を検討したところ、この推論用 GPU を効率的にスケールさせるソリューションが最も充実していたのが、Google Cloud だったのです。」
佐々木氏によれば、Google Cloud の実装、そして『HAPPY RAT』のシステム構築はきわめてスムーズかつ短期間に実施されています。
「他社クラウド プラットフォームで GPU の自動スケーリングを行うのは大変ですが、Google Cloud は実用的な仕組みやツール、ノウハウがそろっており、すぐに最適な環境を構築することができました。企画段階から手厚いサポートや技術的アドバイスを受けたおかげもあって作業は順調に完了し、費用も大幅に削減できたと感じています。Google Cloud でなければ、運用にも 2~3 倍の GPU コストがかかり、そもそもサービスとして成立させられなかったかもしれません。サービス提供開始後はメトリクスの収集・分析を自動化できる Prometheus などを利用し、負荷を抑えながら運用していければと期待しています。」
システム構築に際しては「止まらないサービス」のための冗長化と、国内だけでは吸収しきれないトラフィックを近隣リージョンに分散できる、マルチクラウド化とマルチ リージョン化も図られています。初めての試みだったにもかかわらず、この作業も設定に 1~2 日程度、動作検証を含めても 1 週間程度で完了したことに驚かされたそうです。
なお『HAPPY RAT』では、推論用 GPU のホスティング部分だけでなく、アプリそのものも Google Cloud 上に構築。Google Kubernetes Engine(GKE)、Firestore などのマネージド サービスが、開発作業でも採用されています。今後はユーザー分析のために、BigQuery なども積極的に活用していく予定です。


社会課題の解決、そして AI と楽しく共生する未来を実現するために
『HAPPY RAT』をリリースし、創業当初からの理想を具現化した SpiralAI。しかし、これはあくまでスタート地点にすぎません。佐々木氏は『Geppetto』を商用サービスやエンターテインメントの枠にとどまらず、多くの分野で活用できるようにしていきたいと言います。
「『HAPPY RAT』は、大人から子どもまで楽しめるエンターテインメントに AI を活用した事例の 1 つですが、社会課題の解決においても AI の存在感を高めていきたいですね。特に介護や教育の分野では貢献できると思いますので、そうした領域のソリューション開発・提供にも取り組んでいきたいと考えています。」
最後に佐々木氏は、未来への大きな夢とともに、Google Cloud とのコラボレーションで深まった期待と信頼、一体感について語ってくれました。
「この夢を実現するためにも、コストと拡張性の問題を解消する Google Cloud のツールは不可欠です。また、Google という会社は YouTube や広告事業に至るまで、ユーザーを楽しませる事業を幅広く展開してきたと思いますが、なんでも面白がってチャレンジするカルチャーは、私たちと共通する印象を受けます。サポートチームの皆さんとのやりとりでも、同じような未来を目指そうとするマインドを常に感じてきました。今後も Google Cloud をフルに活用しながら、AI の素晴らしさや可能性を世界に発信していくための活動を一緒に展開できれば嬉しいですね。」


SpiralAI 株式会社
2023 年 3 月に設立。「人間らしさの再現」を目標に掲げ、大規模言語モデル(LLM)を基盤とした新世代の生成 AI テクノロジーやサービスの開発を意欲的に展開。AI が人々の生活に自然に溶け込み、心を支える存在となる未来を目指す。従業員数は 36 名(業務委託などを含む。2025 年 4 月時点)。
インタビュイー
代表取締役 / CEO 佐々木 雄一 氏
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