NTTドコモ: 統合 API 基盤『RAFTEL』を Google Cloud へ完全移行。GKE 採用で高度な開発と運用効率化、サービス提供の高速化を実現

Google Cloud Japan Team
国内大手の携帯電話事業者として知られる株式会社NTTドコモ(以下、NTTドコモ)は、映像・エンタメ分野や金融分野、ヘルスケア分野など、通信以外の領域へも積極的にビジネスを拡大。それらの各種サービスをより効率的に開発できるよう構築されたのが 、統合 API 基盤『RAFTEL(ラフテル)』です。同社は 2024 年、『RAFTEL』の運用基盤を Google Cloud に完全移行させています。ここではその開発チームの皆さんに、本プロジェクトの狙いと今後について伺いました。
利用しているサービス:
Google Kubernetes Engine(GKE), Apigee Edge, BigQuery など
利用しているソリューション:
アプリケーションのモダナイゼーション
サービスとトランザクションの急増に対応すべく GKE への移行を決断


映像配信サービス「Lemino」や「dアニメストア」、スマホ決済サービス「d払い」など、現在、NTTドコモが運営する各種サービスやアプリは 60 を数えるまでに増加。日本屈指の規模を誇るコンテンツ ストリーミングや決済トランザクションが行われています。これらサービスの迅速な開発と安定運用に貢献してきたのが、統合 API 基盤『RAFTEL』です。開発と運用を担う同社ネットワーク本部 サービスデザイン部 アプリケーション基盤 担当部長 加藤 雅俊氏は、こう胸を張ります。
「『RAFTEL』は、それまで各サービスでバラバラだった社内基盤にアクセスするための API をラッピングし、統一された仕様で利用できるようにしたもので、フロントには Apigee Edge、バックエンドには Kubernetes を採用しているのが特徴です。2020 年 3 月に『RAFTEL』が稼働し始めた結果、NTTドコモのサービス開発は劇的に『はやく』『やすく』なり、お客様にもさらに幅広くサービスを活用いただけるようになるなど、多くの成果が得られています。」
しかし『RAFTEL』には、いくつかの課題もありました。特に大きかったのは、既存のアプリケーション プラットフォームのライセンス コストが高額で、運用の柔軟性に欠けていたことです。システムのスケールアウトを行うには、ライセンスを追加で調達する必要があるため、契約に関するリードタイムの影響やライセンス管理の煩雑さが懸案になっていました。また、以前のアプリケーション プラットフォームでは技術者の確保も困難で、長期的に安定運用を図るうえで不安が残っていたといいます。
そこで NTTドコモは 2022 年末、『RAFTEL』の運用基盤を Google Cloud へ全面的に移行しつつ、GKE(Google Kubernetes Engine)Standard を活用する方針を固めます。加藤氏は、移行先に Google Cloud を選択した理由を次のように説明します。
「Google Cloud を選んだのは、当時使っていたアプリケーション プラットフォームにブラック ボックス的な要素が多く、開発自由度の拡大や開発者確保・育成のためには、業界標準のプラットフォームに移行したほうが良いという認識があったからです。Kubernetes はもともと Google が開発した技術であり、Google Cloud への移行は自然な選択肢でした。加えて『 RAFTEL』では Apigee を利用していたため、親和性を重視し Google Cloud への移行を決定しました。Cloud Run など複数の選択肢の中から GKE Standard を選んだのも、今回の取り組みでシステムをアップグレードする作業などを、自分たちでコントロールできるようにしたいという思いによるものでした。」


加藤氏のもとでプロジェクト全体を取りまとめた福田 訓之氏は、安定的に運用を継続するという点でも、Google Cloud の採用は必然だったと強調します。
「『RAFTEL』では当初から API ゲートウェイに Apigee Edge を使っていましたので、各サービス部門への影響を最小限に抑えるうえでも、引き続き使用していく方針が決まっていました。この意味でも、Google Cloud への移行は極めて自然な判断だったと考えています。」
PSO と TAM の支援のもと、開発の自由度拡大と大幅なコスト削減に成功
Google Cloud への移行は、数度の PoC(実証実験)を経て、2023 年 10 月よりスタート。小規模かつ利用頻度の低い API から段階的に作業を開始し、2024 年 2 月まで 4 回に分けて実施されました。移行に際しては、Google Cloud Consulting の Professional Services Organization(PSO)と、プレミアム サポートに含まれるテクニカル アカウント マネジメント(TAM)のサービスが当初から活用されました。福田氏は Google Cloud との共同作業を、こう振り返ります。
「PSO にはさまざまなサポートを受けましたが、チームメンバーがまだ GKE に不慣れな中、基礎的なところからガイダンスを得られたのがありがたかったですね。細かい質問も合計 300 問ほどしたと思いますが、対応も素早く、即答できない内容は持ち帰ってしっかり確認してくれるなど、手厚い支援内容でした。SRE(サイト信頼性エンジニアリング)について学べたことも、その後の運用にとてもプラスになっています。TAM にも、問題解決や最新情報へのキャッチアップなどにおいて、移行作業をきめ細かくサポートしていただきました。まさにプロジェクト全体の潤滑油のような存在だったと感じています。」
こうして『RAFTEL』の移行作業は無事に完了。突発的なトラフィック増大に柔軟かつ迅速に対応できるスケーラビリティを確保する、GKE で技術を内製化していくといった目標をしっかりクリアできる見通しが立ちました。社内の関係部門と連携しながら入念に準備していたこともあり、エンドユーザーである一般顧客へのトラブル発生を回避するという、最大の目的が達成されたことは言うまでもありません。福田氏によれば、Google Cloud への移行は『RAFTEL』全体の信頼性を向上させただけでなく、顕著なコスト削減にもつながりました。
「コスト低減に特に貢献したのが BigQuery の追加採用です。『RAFTEL』はその性質上、トラフィックが極めて多く、ログ保持のコストも高額になっていました。移行当初は同じ作業を Cloud Logging で行っていたのですが、PSO の推薦もあって BigQuery に移行したところ、なんとコストを従来の約 3 分の 1 まで低減することができました。」


API セキュリティの確保、データ可視化、そして生成 AI の活用も視野に
NTTドコモでは今後、『RAFTEL』のフロントエンドを担う Apigee Edge を次世代の Apigee X に切り換え、社内オンプレミス環境にも対応できるようにしていくことを予定しています。
もちろん、それ以外にも運用の拡充を目指した多岐にわたるアップデートが検討されています。Google Cloud 移行後に『RAFTEL』開発チームに参加し、現在は加藤氏の後任として全体を統括している山口 範和氏、同じく、新たに開発チームのメンバーとなった浴林 和輝氏は、具体的な方向性について語ってくれました。


「これから、まず取り組みたいのが API セキュリティの強化です。我々のチームでは Advanced API Security の利用を検討していますが、Google Cloud の一員になった Mandiant のサイバー防御ソリューションが Apigee X に組み込まれるということで、セキュリティ関連の新たな動向にも非常に注目しています。」(山口氏)


「BigQuery の導入は、膨大なログデータの効率的な分析・抽出にも役立っていますが、この試みを一歩先に進め、Looker Studio を用いたデータの可視化に力を入れていく予定です。具体的には、サービス部門向けのダッシュボード開発や、異常検知を一層自動化できる仕組みづくりなどを実現したいと考えています。」(浴林氏)
もちろん、同社では昨今、注目を集めている生成 AI を活用するための取り組みも始まっています。例えば Vertex AI を用いて、開発ナレッジを総合的に管理する RAG の構築に挑戦し、開発プロセスの効率化と知識共有の強化を目指していくとのことです。
Google Cloud への移行、そしてこれらの新機軸を通し、『RAFTEL』にはさらに機能を充実させ、NTTドコモの多様なサービス開発を加速させていくことが期待されています。加藤氏の総括は、強い意欲に満ちていました。
「『RAFTEL』を Google Cloud に移行したことで、急速なビジネス環境の変化、あるいは求められる機能の変化にも柔軟に追従できる自由さを確保することができました。近い将来、『RAFTEL』は社内の API すべてを取りまとめ、外に展開していく役割なども担っていくことにもなるでしょう。そのためには生成 AI だけでなく、Google Cloud から今後提供される新技術をどんどん取り入れていく必要があります。Google Cloud にはこれまで以上に連携いただきつつ、我々のチームも新たな技術をしっかり活用できるよう、長足の成長を続けていきたいと考えています。」


株式会社NTTドコモ
国内約 9,000 万ユーザーを擁する日本最大の携帯電話事業者。携帯電話サービス、光通信サービスなどからなる通信事業を主軸に、近年は動画配信などのコンテンツ・ライフスタイル サービスや金融・決済サービスなどのスマートライフ領域事業も意欲的に展開。従業員数は 8,919 名、グループ全体では 5 万 1,061 名(2024 年 3 月 31 日時点)。
インタビュイー(写真左から)
・ネットワーク本部 サービスデザイン部 アプリケーション基盤 担当部長 加藤 雅俊 氏
・ネットワーク本部 サービスデザイン部 アプリケーション基盤 主査 福田 訓之 氏
・ネットワーク本部 サービスデザイン部 アプリケーション基盤 担当課長 山口 範和 氏
・ネットワーク本部 サービスデザイン部 アプリケーション基盤 浴林 和輝 氏
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