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顧客事例

NTTドコモ 社内データ活用基盤の裏側 - Cloud Run が支える開発の民主化とデータ活用の未来

2025年11月21日
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Google Cloud Japan Team

「つなごう。驚きを。幸せを。」というブランドスローガンをかかげ、通信サービスだけでなく金融決済サービスやエンタメサービスなど多様な事業に取り組む株式会社 NTTドコモ(以下、NTTドコモ)。NTTドコモが保有する数十 PB(ペタバイト)級の膨大なデータを、全社員が迅速かつ安全に活用できるようにするために、社内データ活用基盤「Pochi」が開発されました。その開発で採用された Google Cloud のモダンなサービス群と、それによって実現した開発の民主化、そして生成 AI を活用した未来の展望について、今回は、NTTドコモ データ プラットフォーム部(以下、DP 部)の吉田氏、藤平氏、黒須氏、と開発支援するNTTデータの兼子氏にお話を伺いました。

データ活用を 9 割高速化せよ - 全社データ活用基盤「Pochi」開発の背景

1 億人を超える dポイントクラブ会員、約 7,200 万の携帯電話契約者など、膨大かつ多様な顧客データを保有する NTTドコモ。このデータを事業成長の武器とすべく、これまでもメール施策の配信リスト作成など、様々なデータ活用が行われてきました。

しかし、そこには大きな課題がありました。事業部門の担当者がデータ抽出を必要とする場合、専門部署に依頼する必要があり、そのプロセスが複雑でした。「依頼書を作成し、専門部署が要件をヒアリングし、SQL を設計し、すり合わせを行う。この一連の流れで、データ抽出までに 2 週間以上かかるケースも珍しくありませんでした。」と黒須氏は語ります。

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この状況を打破し、「データ活用までにかかる期間を 9 割削減する」という高い目標を掲げてスタートしたのが、データ活用基盤「Pochi」の開発プロジェクトでした。

「Pochi」が目指したのは、専門家でなくても、誰もが簡単かつ安全にデータを扱えるようにすること。そのために、UI フレームワークとして Streamlit を採用し、直感的な操作でデータ抽出や分析ができるアプリケーションを、迅速に開発・提供できる基盤を構築することにしたのです。

“誰でも開発者”を実現するモダンな開発環境の裏側

「Pochi」の成功を支えているのは、そのアプリケーションだけではありません。全社員が開発者になり得る「開発の民主化」を支える、モダンでセキュアな開発環境の存在が不可欠でした。その中核を担っているのが、Google Cloud のマネージドサービスです。

現在「Pochi」上で稼働する 133 の Streamlit アプリケーションは、すべて Cloud Run でホスティングされています。開発チームが Cloud Run に感じているメリットは多岐にわたります。

「Cloud Run はインスタンス数 ゼロまでスケールインができるのがとても魅力的です。分析系のアプリの場合、そのアプリが実際のどの程度利用されるかがデプロイしてみないと分からないことも多いです。Cloud Run ではアクセスがない場合はゼロまでスケールインするので、コストを気にせず『どれだけ使うかわからないけど、まずリリースしてみよう』という文化が生まれました。」と兼子氏は話します。

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また、「Pochi」の大きな特徴は、開発者が DP 部のメンバーに限らないことです。事業部門や支社の社員など、現在では 300 人以上の開発者が存在します。このため、それぞれの開発環境をいかにセキュアに、かつ簡単に提供できるかが重要でした。

当初は Google Compute Engine 上に共有の開発環境を構築し、複数のユーザーが環境にログインして開発をしていましたが、SSH キーやポートの管理が発生する上、コンピューティングリソースの奪い合いが発生するなど、効率的かつセキュアな運用管理が課題でした。そこで採用されたのが Cloud Workstations です。

「Cloud Workstations は、ワンクリックで自分専用の開発環境が立ち上がります。開発者のスキルレベルは、今回の開発をきっかけに Python を覚えた初心者から、10 年選手のベテランまで様々ですが、誰もが開発のハードルを低く感じられるようになりました。」

ブラウザから直接アクセスできる手軽さや、インスタンスの消し忘れによる不要なコスト発生を防ぐアイドルシャットダウン機能も、開発者と管理者双方にとって大きなメリットです。また、カスタムコンテナイメージによって全社の開発環境を統一し、安全にアップデートしていく仕組みも構築しています。

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さらに、「Pochi」 の基盤を構築し継続的に進化させる上でテクノロジーパートナーである NTTデータの存在も不可欠であったと藤平氏は振り返ります。従来の開発現場にありがちな要件を元にした受発注の関係を越えて、一人の技術者として Pochi を良いものにする思いが共有され、積極的な提案が可能な「垣根を意識しない」良好な関係性が、Pochi の成功に寄与しています。

開発の民主化が生んだ成果と、AI エージェントが実現する次のステージ

「Pochi」の導入は、NTTドコモ社内のデータ活用に劇的な変化をもたらしました。現在、月間アクティブ ユーザー(MAU)は 4,700 人を超え、年間 74 万回以上利用され、累計で 30 万時間もの業務稼働削減に貢献しています。

そして、最も注目すべき成果の一つは「開発の民主化」の成功です。現在稼働する 133 個のアプリのうち、最もアクセス数が多いアプリは、なんと関西支社の現場のメンバーが開発したものです。

「その方は、社内の研修プログラムで Python と SQL を習得し、現場の課題を解決したいという想いから開発に参加してくれました。現場の担当者が作ったアプリは、やはり現場のニーズに即しており、利用者からの人気も高い。これは、私たちが当初から目指していた理想の姿です。」と吉田氏は話します。

アプリが増える一方で、新たな課題も生まれました。「どのアプリを使えば自分のやりたいことができるのか分からない」というユーザーの声です。この課題に対し、チームは生成 AI の活用に乗り出しました。

各アプリのリポジトリにある README などのドキュメントを、Vertex AI RAG Engine を使って検索可能なナレッジベースとして整備。そして、ユーザーが自然言語でやりたいことを入力すると、Gemini がその意図を汲み取り、最適なアプリを推薦してくれる機能を開発しました。

この機能の開発に携わった担当者は、その能力に驚きを隠せません。「正直、Pochi のアプリについては自分が一番詳しいと思っていましたが、自分よりも詳しいんです。自分が思いつかなかったようなアプリの組み合わせを提案してくれることもあり、AI が持つ知識の広さと深さを実感しました。」

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NTTドコモの挑戦はここで終わりません。現在はアプリを「推薦」するにとどまっている AI の役割を、さらに一歩進めようとしています。

「将来的には、個々のアプリが持つ機能を部品として AI が扱えるようにしたいと考えています。例えばユーザーが『こういう条件でデータを抽出して、グラフ化してほしい』と指示するだけで、AI が複数のアプリ機能を自律的に組み合わせて実行し、結果を提示してくれる。ユーザーが画面を直接操作しなくても、対話するだけでデータ活用が完結する世界です。」

事業戦略の核としてコンシューマーサービスの更なる成長を目指す NTTドコモにとって、誰でも簡単にデータを活用できる基盤「Pochi」はまさに戦略上の重要な取り組みとなります。「つなごう。驚きを。幸せを。」というブランド スローガンの実現、そして AI エージェントが自律的にデータ活用を完結させるという次のステージに向けて、NTTドコモの挑戦は続きます。

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インタビュイー(写真右から)
・吉田 祥平 氏 (株式会社NTTドコモ コンシューマサービスカンパニー データプラットフォーム部 データ基盤 担当部長)

・藤平 亮 氏 (株式会社NTTドコモ コンシューマサービスカンパニー データプラットフォーム部 データ基盤 Senior Principal Data Scientist)

・黒須 遥介 氏 (株式会社NTTドコモ コンシューマサービスカンパニー データプラットフォーム部 データ基盤データプロダクト担当)

・兼子 菜緒見 氏 (株式会社NTTデータ テクノロジーコンサルティング事業本部テクノロジーコンサルティング事業部 課長代理)

株式会社NTTドコモ
国内約 9,000 万ユーザーを擁する日本最大の携帯電話事業者。携帯電話サービス、光通信サービスなどからなる通信事業を主軸に、近年は動画配信などのコンテンツ・ライフスタイル サービスや金融・決済サービスなどのスマートライフ領域事業も意欲的に展開。従業員数は 9,433 名、グループ全体では 5 万 1,698 名(2025 年 3 月 31 日時点)。

株式会社NTTデータ
1988 年 5 月設立。多様な産業分野に向けて IT システムの企画・構築・運用からコンサルティング、研究開発まで幅広いサービスを提供。官公庁や金融など社会基盤を支える実績を持ち、クラウド活用による先進的なソリューション展開を推進している。近年は「LITRON®」ブランドで多様な AI エージェントソリューションを展開しており、Google Cloud 上でも柔軟に構築可能なサービスをラインナップ。生成 AI を活用したお客様の業務効率化と価値創出を支援している。

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