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顧客事例

三重県: BigQuery、Looker Studio を用いたデータ活用基盤を構築し、データドリブンな政策立案・行政サービスを実現

2023年10月4日
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Google Cloud Japan Team

いまや多くの地方行政機関で喫緊の課題となっている「自治体 DX」。中でも三重県の取り組みは、その先進性で大きな注目を集めています。迫り来る「2040 年問題」に向け、三重県がどのように備えているのか。三重県庁で DX 推進基盤プロジェクトに取り組むデジタル改革推進課 岡本副課長と、パートナーとして開発を担当した日鉄ソリューションズ株式会社(以下、NSSOL)の皆さんにお話を伺いました。

利用しているサービス:
BigQueryLooker StudioCloud FunctionsCloud DataflowCloud IdentityCloud IAM など

利用しているソリューション:
政府および行政機関のための Google Cloud

BigQuery の持つ拡張性と柔軟性が実現するアジリティ

2040 年には人口減少と少子高齢化の進行により、労働力不足や社会保障費の増大、インフラ老朽化など、国内においてさまざまな問題が表面化すると予測されています(いわゆる「2040 年問題」)。特に地方ではその影響が顕著と言われており、多くの地方自治体が子育て・移住支援や雇用促進、インフラ最適化など、さまざまな施策で来たるべき「危機」への備えを講じ始めました。自治体の業務をデジタル技術で効率化する DX なども、そうした手法の一つと言えるでしょう。

このような中、県を挙げての大規模な DX で「2040 年問題」に立ち向かおうとしているのが三重県です。三重県では、県の総合計画である「みえ元気プラン」の分野別計画として「みえのデジタル社会の形成に向けた戦略推進計画(略称: みえデジプラン)」を掲げ、行政の DX に注力。そのうち、県庁内の業務改革に特化した「県庁 DX」の推進に 2021 年から取り組んでいます。

「当時の県庁は、庁内システムの利便性向上やデジタル化の推進、システムデータのサイロ化への対応など、さまざまな課題を抱えていました。そこで我々はまず、DX 推進基盤としてデジタル環境の整備を開始。「クラウドシフト」によるコミュニケーションの活性化、「ゼロトラスト」セキュリティでのリモートワークなど柔軟で多様な働き方の実現、「データドリブン」な政策立案と行政サービス提供を 3 つの柱とする県庁 DX を追求することにしたのです。」

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そう語るのは本プロジェクトを進めている、三重県庁 総務部 デジタル推進局 デジタル改革推進課 副課長の岡本悟氏。岡本氏は、県庁 DX のうち県民サービス向上にもつながる 3 つ目の柱「データドリブン」が特に重要であるとし、データの効率的な利用・分析を加速すべく、新たにデータ活用基盤を構築することにしました。

「少子高齢化によって職員が減り続けるにもかかわらず県民のニーズが多様化していく中、これまでの "経験、勘、度胸" に基づく仕事のやり方は限界がきていて、根本的に変えていかなくてはなりません。そこで今回、Google Cloud を用いたデータ活用基盤を構築し、データに基づく政策立案、サービス創出の実現を目指すことにしました。」(岡本氏)

このデータ活用基盤の開発を担当したのは製造業を中心に、金融、流通、公共など幅広く課題解決に取り組んできた NSSOL(本件では NTT ビジネスソリューションズ株式会社と協業)。DX 推進基盤構築のプロジェクトマネージャーを務めた NSSOL ソリューション企画推進部 自治体DXグループ エキスパート 白井朋彦氏は、そこに Google Cloud の採用を提案した理由を次のように説明します。

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「このデータ活用基盤に求められているのは柔軟性とアジリティです。さまざまなデータソースから条件の異なる多様なデータが取り込まれ、多岐にわたる分析が行われ、それによって用途も変わっていくことが予測されたため、BigQuery の持つ拡張性と柔軟性が適していると考えました。また、クエリ課金という料金体系も、時期によって分析量が変わる使い方にマッチしていました。」

岡本氏はこの提案を支持。「Google は検索エンジンも含めて、データ活用という点で圧倒的な存在。その知見の活用には大きな信頼感と魅力がありました」と、三重県庁として初となる Google Cloud の大規模導入に不安はなかったと語ります。

Google Cloud サービスを用いて拡張性・安全性に優れた基盤を手軽に構築

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上図は現時点でのデータ活用基盤のシステム構成図です。データを抽出・変換・格納するETL 関連処理に Cloud Functions を用いて新しいデータ形式を扱うことになっても柔軟に対応できるようにしたこと、将来、他の自治体や民間企業とデータ連携しやすいよう、API ゲートウェイを使えるよう準備してあること。特にこの 2 点を心がけたと白井氏は言います。

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「蓄積したデータの活用については、Looker Studio を利用し、利用者が簡単な操作で表やグラフを作ってデータを可視化、意志決定に役立てるようにしています。なお、データ活用基盤へのログインは、三重県庁で元々使われているソリューション との SAML(Security Assertion Markup Language) 連携でシングル サインオンを実現。これを Google Cloud の管理コンソールから容易に設定できたのはありがたかったですね。庁外からのアクセスについても Cloud Identity や VPC Service Controls を用い、適切かつ安全に制御できます。」(NSSOL ITサービス&エンジニアリング事業本部 デジタルサービス&エンジニアリング事業部 システムエンジニアリング第一部 第5グループリーダー 後藤哲也氏)

データ活用は一朝一夕にはできない

こうして作り上げられたデータ活用基盤を使用して、現在、三重県では、2 つの実証実験がスタートしています。そのうちの 1 つである豚熱(※)の発⽣状況に関する「豚熱浸潤状況調査データの活⽤」について、運用に携わる NSSOL ITサービス&エンジニアリング事業本部 ソリューション企画推進部 自治体DXグループ エキスパート 杉田文香氏に聞きました。

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「担当所属である家畜防疫対策課には、 2019 年度から収集している豚熱の調査データが 2023 年 2 月時点で約 1 万件あります。このデータに養豚場の位置情報や、県内地理データなどを加えて BigQuery に取り込み、リアルタイムに Looker Studio 上で感染状況を可視化・分析できる仕組みを構築しました。」(杉田氏)

「このデータを活用することで、豚熱の広がりを事前に予測し、必要な時期・地域に効果的にワクチン散布を実施するなど、地元の養豚業、ひいては三重県の畜産業全体を守ることにつなげていけるとも考えています。」(岡本氏)

※ 豚熱とは: 豚熱ウイルスによって引き起こされる、豚、いのししを対象とする特定家畜伝染病。強い伝染力と高い致死率が特徴で、三重県はかねてよりまん延防止のための対策を講じてきました。

今年度はそのほか、移住者獲得のためのデータ分析にもデータ活用基盤を利用。岡本氏は「従来は、市役所や町役場経由で移住した方からヒアリングを行っていましたが、それで得られるデータは限定的です。今回は、観光と移住の関係性に着目し、観光部が保有している CRM の観光客データと、担当課である移住促進課が保有しているポータルサイトへの訪問者データなどを活用することで、三重県に観光に来てくれるファンの方々の定着や移住につながる要素を分析し、今後のプロモーションや事業に活かしたいと考えています。また、もちろん Google 広告なども有効活用させていただきます」と、この取り組みの狙いを説明します。

なお、三重県庁では今後も毎年 3 本程度のテーマで実証実験を継続予定。事例を積み上げることでデータ活用の意識を庁内に根付かせていきたいと強い意欲を覗かせました。

「実のところ、庁内にはまだデータ活用そのものがどう役立つのか想像できていない職員が多数います。今回、実証実験を通じて具体的なイメージや成果が伝えやすくなったことで、さらに庁内でのデータ活用への認知度が高まり、活用促進につながっていくことを期待しています。実際、今回の実証実験に協力してくれた部署では、データを基にした議論が盛り上がりつつあり、一定の手応えを感じています。"データドリブンな組織" の実現に向けて一歩ずつ着実に歩みを先に進めていけているのではないでしょうか。」

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本プロジェクトに営業として携わる NSSOL ITサービス&エンジニアリング事業本部 ソリューション企画推進部 自治体DXグループ 永島大資氏も「Google Cloud の地方自治体の取り組みや、教育機関のデータベース構築事業など、近しいケースでデータ活用の知見と、私たちの持つ多くの知見をあわせながら、三重県全体での今後のデータ活用定着に向けた道のりをしっかりサポートしていきたい」と語ります。

「おかげさまで本プロジェクトは注目度も高く、さまざまな自治体からお問合せをいただくことも増えています。データ活用については、現在はまだ、県庁が保有するデータを使って、県の課題を解決しようとしている段階ですが、将来的には県内市町とこのデータ活用基盤を共有したり、民間企業や別の自治体と連携したりといったことも想定しています。将来の都市 OS になりうる存在、と言ったら言い過ぎでしょうか」と笑顔を見せる岡本氏。

今後も続く実証実験を見据え、岡本氏は次のように抱負を語ってくれました。「我々のデータ活用はまだ始まったばかり。データ活用の定着にはとても時間がかかります。いきなりホームランを狙うのではなく、凡打や失敗なども繰り返しつつ、この取り組みをしっかり組織に根付かせていきたいですね。」


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三重県庁
三重県津市に位置する同県の行政機関。現県知事は一見勝之氏(2021 年〜)。全国に先駆けて CDO(最高デジタル責任者)を設置するなど、地方自治体の中でも DX 推進に力を入れていることで知られる。総職員数は、正規・非正規あわせておよそ 7,000 名(2023 年 9 月時点)。

インタビュイー
三重県庁 総務部 デジタル推進局 デジタル改革推進課 副課長 岡本 悟 氏

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日鉄ソリューションズ株式会社
新日本製鐵(現 日本製鉄)の情報システム部門を前身とする SI 企業。高品質な製品を 24 時間 365 日ノンストップで生産する現場で培われた技術・ノウハウを武器に、現在はシステム開発・運用、コンサルティング サービスまで幅広く課題解決に貢献する。従業員数は 7,458 名(連結 / 2023 年 3 月期)

インタビュイー(写真 左から)
ITサービス&エンジニアリング事業本部
・ソリューション企画推進部 自治体DXグループ 永島 大資 氏
・ソリューション企画推進部 自治体DXグループ エキスパート 白井 朋彦 氏
・ソリューション企画推進部 自治体DXグループ エキスパート 杉田 文香 氏
・デジタルサービス&エンジニアリング事業部
 システムエンジニアリング第一部 第5グループリーダー 後藤 哲也 氏

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