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顧客事例

慶應義塾大学:わずか 3 か月で Canvas LMS を Google Cloud 上に構築し、最先端の e ラーニング環境を提供

2022年6月15日
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Google Cloud Japan Team

近年、世界中のあらゆる企業や自治体が力を入れている DX への取り組み。もちろん教育機関も例外ではなく、LMS(Learning Management System / 学修管理システム)の導入など、さまざまな取り組みが行われています。そうした中、慶應義塾大学は、それまで利用していた独自 LMS を世界的に高いシェアを誇る Canvas LMS に切り換え、Google Cloud 上で運用し始めました。その意志決定とその後の取り組みについて、本プロジェクトを牽引した慶應義塾大学とボウ・ネットシステムズ株式会社(以下、ボウ・ネットシステムズ)の皆さんに話を伺いました。

利用しているサービス:

Google Compute EngineGoogle Kubernetes EngineContainer RegistryGoogle Cloud ArmorCloud Load BalancingFilestoreMemorystoreCloud SQL for PostgreSQL

利用しているソリューション:

Application modernization

教育への理解、コスト面の優位性、技術サポートの充実で Google Cloud を選択

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「慶應義塾大学ではそれまでも独自開発の LMS をオンプレミス上で運用していたのですが、今後、LMS がますます重要になることはわかりきっていましたから、将来に向けて、より高性能でモダンなワールド スタンダードの LMS に切り替えて行くべきだと考えていました。ところがやっと検討を始めたというところで COVID-19 が蔓延し、急転直下、今すぐにでも導入せねばならないという状況に陥ってしまったんです。」

そう苦笑いしながら振り返るのは、慶應義塾インフォメーションテクノロジーセンター(ITC)本部主任の今堀 隆三郎氏。当時、国内大学の多くは LMS をオンプレミスで運用していましたが、オンライン授業への急激な移行によってシステムに過剰な負荷がかかったり、求められる機能が不足しているなど、環境の変化に対応できない状況が続いていました。また、独自 LMS では教職員や生徒に対するサポートを自分たちだけでやらねばならないことも大きな負担になっていたと言います。

「一般的に LMS の移行は 1 年以上かけて行うものですが、とてもそんなことを言っていられる状況ではなくなってしまいました。そこで、先んじて Canvas LMS の件でやり取りをしていたボウ・ネットシステムズ様に相談し、そのわずか 3 か月後、秋学期授業が始まる 2020 年 9 月の導入を目指してプロジェクトをスタートさせました。また、このタイミングでインフラもオンプレミスからクラウドへ移行することにしました。それまで独自開発の LMS が停止するというトラブルは特になかったものの、今後もそれを維持していくことは不可能に近いですし、季節に応じて変動する負荷にもクラウドの方が対応しやすいと考えたからです。」(今堀氏)

なお、Canvas LMS は本来、別のクラウド プラットフォームに最適化されており、そちらに構築するのが一般的とされています。その中であえて Google Cloud を選択した理由を、ITC本部 事務長を務める武内 孝治氏は次のように説明します。

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「実は Canvas LMS の導入とは別に、業務システムをオンプレミスからクラウドに移行するという計画があったのですが、そのやり取りの中で、Google が最も教育業界に理解があり、我々に寄り添ってくれるという感想を持っていました。また、教員にも Google や Google Cloud と関わりを持つ者が少なくなく、それが Google Cloud 導入を後押しした面はあると考えています。」

ここで言う関わりとは、2019 年から 2020 年にかけて慶應義塾大学と環太平洋大学協会(APRU)、Google との間で行われた国際共同研究プロジェクト『社会的善のための AI の活用』や、『COVID-19 感染予測(日本版)』*1(日本版モデルの開発にあたり、モデルの設計及び予測データの検証などを慶應義塾大学が監修)、COVID-19 の感染拡大をモデル化するための大規模調査の信頼性検証*2などのこと。そのほか慶應義塾大学は 2014 年に情報共有基盤として「Google  for Education」を採用するなど、多くの点で Google との協力関係を築いています。

*1:2020 年 11 月 Google Cloud Japan Blog 『COVID-19 感染予測 (日本版) の公開について』参照

*2:2020 年 9 月 Google Blog 『Google supports COVID-19 AI and data analytics projects』参照

「それに加え、コスト面での優位性やしっかりした技術サポート体制をご提案いただけたことも Google Cloud を選んだ理由の 1 つです。特に後者は 3 か月という短期間での導入を実現するために必須でしたね。Google のサポートは我々と一緒になって、より踏み込んで課題の解決に取り組んでくれるという印象があります。」(今堀氏)

なお、Google Cloud 上(ここでは Google Compute Engine 上の VM 上)に Canvas LMS を構築することについて、国内で多くの Canvas LMS の導入事例を手がけてきたボウ・ネットシステムズ 代表取締役 三矢 晴彦氏、システムエンジニア 石川 有紀氏は次のように語ってくれました。

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「Canvas LMS は特定のクラウド プラットフォームを想定した設計になってはいるものの、構成を工夫してあげることでオンプレミスや他のクラウド プラットフォームでも問題なく動作させられる柔軟性を備えています。とはいえ、実は我々も Canvas LMS を Google Cloud 上で動かしたことはなく、それまで Google Cloud を本格的に利用したこともありませんでした。それで今回、初めて Google Cloud に触ってみたのですが、思った以上に扱いやすく、高性能でとても感心しました。各種ドキュメントもしっかりしていて、これなら問題ないだろうと。何より大学のプラットフォームとして Google Cloud を選んでいるのであれば、そこと揃えた方が合理的で、長期的にも管理しやすいですから反対する理由はありませんでした。」(三矢氏)

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「なお、今回の取り組みでは、Web アプリケーションの自動スケール構成を容易に実現できる Load Balancing や、LMS のデータを管理する中核データベースとして Cloud SQL を採用しただけでなく、データ キャッシュ機構として Memorystore 、教材や提出物などのファイル管理のために Filestore、マイクロ サービス用アプリケーションのコンテナ統合管理では  Google Kubernetes Engine をと、 Google Cloud でシステムを稼働させる際に大きな優位点になる様々なマネージド サービスを採り入れ、クラウド ネイティブな設計がされている Canvas LMS の特性を引き出しています。」(石川氏)

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Google Cloud の迅速な対応もあって 3 か月での LMS 立ち上げに成功

そして、タイムリミットの 2020 年 9 月に向けて、Google Cloud への Canvas LMS 環境構築が始まりました。Canvas LMS の導入経験が豊富なボウ・ネットシステムズにとっても初めての挑戦ということもあり、いろいろな苦労はあったものの「なんとか短期間で Google Cloud の使い方を習得できて」(三矢氏)、無事、9 月からの稼働開始に成功。現在は 4 万人近い教職員と学生がこの新しい LMS を使って最先端の e ラーニングの恩恵を受けられるようになりました。

「わずかな遅延も許されない中、国内だけでなく、米国の Google Cloud 担当者にまでサポートをお願いしたのですが、クイックに対応していただけて本当に助かりました。ここで 1 週間待たされるというようなことになっていたら今回の移行は実現できなかったでしょう。迅速な対応に感謝しています。」(今堀氏)

現在はまだ旧 LMS と並行して運用するかたちとなっていますが、今堀氏いわく「9 月からの半年間で約半数の学生がログインしたことを確認」。GCE を中心としたシステムはオンプレミスで稼働している旧 LMS と比べてメンテナンスの手間がほとんどかからず、試験期間などに大きなアクセスがあっても安定運用できるなど、すでに多くのメリットを感じているそうです。また、教員の間にも徐々にその便利さが浸透してきていると言います。

「導入当初から積極的に利用していた先生から便利さが広がっていったことに加え、導入初期に 2 週間で約 50 回の講習会を行ったり、ボウ・ネットシステムズの石川さんと協力してたくさんの講習ビデオを作ったこともあり、今では多くの教員に Canvas LMS を利用いただいています。また、非常勤の先生方を通して慶應義塾大学以外の大学にも便利さが広まっていっているようですね。なお、旧 LMS は今後 1 年程度で稼働終了する見込みです。」(今堀氏)

「こうした環境が整ったことによって、学部によっては国家試験までの学修履歴をしっかり管理していきたいといったプラス α のニーズが出てきました。実は今まで私たちITC本部が教育に対して何か直接関与するということはなかったのですが、今回の取り組みを経て、私たちも教員もこれまでとは異なる新しいステージに入って行くのではないかという予感がありますね。Google Cloud にはそこに向けて、先進的なサービスをどんどん提案していって欲しいと思っています。」(武内氏)


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慶應義塾大学

1858 年、福澤諭吉が藩命により開学した蘭学塾を起源とする私立大学。創立から 160 年を超える現在は小学校から大学・大学院までを擁する日本で最も長い歴史を誇る総合学塾として多くの人材を輩出している。東京・三田キャンパスや、神奈川・日吉キャンパスなど 6 つのキャンバスのほか、タウンキャンパスを持ち、約 34,000人の学生が学び、約6,000人の教職員が教育・研究・医療、およびその関連業務に従事している(2022 年 4月1日時点)。

ボウ・ネットシステムズ株式会社

2000年設立。Canvas LMSなど最先端の学修システムで構成する教育ITプラットフォーム「Bownet Cloud LXAP」のSaas提供や、クラウド型教育ITアプリケーションの設計・開発に加え、学修ポートフォリオ管理や学修データ蓄積・分析システムの提供や、オンライン教育導入コンサルティングサービスを提供している。

インタビュイー

・慶應義塾大学

インフォメーションテクノロジーセンター(ITC)本部

事務長 武内 孝治 氏

・慶應義塾大学

インフォメーションテクノロジーセンター(ITC)本部

主任 今堀 隆三郎 氏

・ボウ・ネットシステムズ株式会社

代表取締役 三矢 晴彦 氏

・ボウ・ネットシステムズ株式会社

システムエンジニア 石川 有紀 氏


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