ユーフォリア: Gemini で AI マルチ エージェントを構築し、最先端のスポーツ科学の知見とデータを、すべての人々の健康づくりに活用

Google Cloud Japan Team
株式会社ユーフォリア(以下、ユーフォリア)は、スポーツテックのリーディング カンパニーとしてプロ・アマや競技種別を問わず、国内外の数多くのアスリートを支援してきました。そんな同社は Google Cloud と Gemini を活用し、長年蓄積してきたデータとスポーツ科学の知見を、一般社会の健康づくりに役立てるプロジェクトを推進しています。この意欲的な試みを主導するキーパーソン 3 名にお話を伺いました。
利用しているサービス:
Gemini, BigQuery, Looker Studio など
利用しているソリューション:
生成 AI
トップスポーツの分野で得られたノウハウを、いかに還元していくか
「すべての人の可能性が生きる未来へ」というビジョンの下、ユーフォリアは 2008 年に設立。創業 5 年目の 2012 年から、ラグビー日本代表の強化プロジェクトをデータ分析の分野で精力的にサポートするなど、スポーツテックの分野に本格的に進出しています。このノウハウを反映した「ONE TAP SPORTS」は、選手の身体能力やコンディション、トレーニング状況などを一元管理できるシステムとして、国内外のスポーツ界で高い評価を得てきました。しかし、共同創業者で代表取締役社長の橋口 寛氏は、より大きな目標を目指してきたと振り返ります。


「創業時、共同創業者の宮田(誠氏)と考えたのは『人やモノが本来持っているポテンシャルが発揮されていない現状を変えていきたい』ということでした。その一環としてスポーツの分野に関わるようになりましたが、トップスポーツは、宇宙開発などと同様に『イノベーションの苗床』としての側面も持っています。極限の環境で磨かれた最先端の技術やノウハウが、やがて汎用化されて広く普及し、社会全体を変えていくのです。私たちにとっても、トップスポーツの分野で獲得したノウハウを、いかに多くの人にスケーラブルに還元していくかが、究極のテーマになってきました。」
この目標を達成すべく、ユーフォリアは 2017 年に「ONE TAP SPORTS」の分析項目に「睡眠」を追加。スタンフォード大学で、睡眠・生体リズム研究所所長を務める西野 精治氏もアドバイザーに起用します。さらに 2023 年 8 月には、国立スポーツ科学センターの研究員として、生体リズムと睡眠を専門分野に、多くの五輪アスリートの国際競技力の向上に携わった安藤 加里菜氏を、リサーチャーとして迎えました。安藤氏は、睡眠の大切さとユーフォリアに参画した理由を次のように説明します。


「正しく睡眠を取るのは、誰でも無料でできる健康管理の手段です。また、生体リズムや睡眠の分野は、2017 年に『時計遺伝子』の研究がノーベル生理学・医学賞を受賞した頃から注目されてきました。しかし日本は、OECD が 2021 年に実施した調査では、調査対象となった 33 か国のなかで最も睡眠時間が短いとされるなど、睡眠不足による健康被害や経済損失が深刻な社会課題となってきました。トップスポーツの分野では、私たちのような専門家が個別にカウンセリングや指導を行ってきました。しかし、抱えられるクライアントの数には限界がありますので、テクノロジーの力を借りて、このような状況を変えたいと思っていました。」
BigQuery と Gemini の導入で実現した、ビジネスモデルの進化
安藤氏が入社した 2 か月後には、AI や量子コンピュータの開発に携わってきた田中 孝氏も入社し、R&Dセンター長に就任します。田中氏がまず取り組んだのは、Google Cloud と BigQuery を導入し「ONE TAP SPORTS」で蓄積されてきた膨大なデータを活用できる基盤を構築することでした。


「『ONE TAP SPORTS』は他社製のクラウドを使用していたのですが、データ構造がアプリケーション内で閉じていたため、多角的に活用するのが困難でした。しかし各種デバイスから得られる客観データや、アスリートの主観データなどを BigQuery で統合し、Looker Studio で可視化すれば、ユーザーにとっても 10 年近く蓄積したデータの活用度が一気に上がります。」
さらに翌年には Gemini が導入され、睡眠をアドバイスする AI エージェントの開発がスタートします。橋口氏と田中氏にとっては、これも必然的な決断でした。
「BigQuery の導入により、弊社のビジネスモデルは『ONE TAP SPORTS』の販売から、より付加価値の高いデータやダッシュボードの提供へと変化しました。Gemini の導入はその延長線上にあります。AI を活用すれば、物理的なキャパを超えてより多くの人に、より低価格に高品質なサービスを提供できるはずだという考えは、以前からずっとありました。」(橋口氏)
「Gemini は、Google Cloud 環境にあるデータ ウェアハウスとシームレスに連携でき、マルチクラウドにも対応しています。コスト、性能、将来的な拡張性や進化のスピードを考えても、ほぼ一択だったと言えます。特に初期段階では、Google Cloud のエンジニアと何度もディスカッションして、最適なアーキテクチャやツールの組み合わせを固めてから AI エージェントを開発しましたので、大きな問題や手戻りは発生しませんでした。」(田中氏)
ユーフォリアの AI システムは、先進的なアーキテクチャで構成されています。田中氏によれば、最大の特徴は睡眠を軸に、栄養エージェント、トレーニング エージェントなど、何人もの「専門家」が連携してユーザーを支援する「マルチ エージェント システム」を採用している点にあります。
「人間の体は複雑で、睡眠の悩みひとつをとっても、原因は食事、運動、メンタルなど多岐にわたります。そこで、単一の AI ですべてを処理するのではなく、各分野の専門知識を持つ複数の AI エージェントに、分析とフィードバックの役割を分けることにしました。それらを束ねるオーケストレーター(指揮者)役のエージェントも設け、総合的かつ具体的なアドバイスを導き出すようにしています。」
一方、負荷計算などを行う際には、従来型の数理最適化モデルや同社が長年蓄積してきたデータを用いた計算結果に基づき、Gemini が文章を生成するコンポジット構造を採用しています。これはハルシネーションを回避しつつ、回答の精度を最大限に高める工夫ですが、プロンプトのチューニングでは、安藤氏の知見もフルに活用されました。
「最初はアルバイトの方に指示をするような要領で入力していたのですが、出力される結果はイメージとどこか違っていました。それは私たち人間が無意識のうちに多くの判断をしており、指示書に落とし込めていないからなのです。生成 AI はユーザーに気を使い、データがない状況でも『良い結果ですね』と回答してしまいがちになりますので、この傾向を修正することも必要でした。さらには詳細な分析と読みやすさを両立させるために、文字数の最適なバランスを見つける、シフトワーカーの方に向けて、土日のない勤務体系や分眠(複数回に分けて眠ること)を踏まえたアドバイスができるようにするなど、様々な試行錯誤を重ねました。今後は、海外出張や海外旅行の『行き先と日程を考慮した』最適な過ごし方の提案などに応用することも考えています。」


AI エージェントの活用がもたらす、社会全体のエンパワーメント
AI エージェントは社内テストを完了。四国電力株式会社などの顧客企業との実証実験が始まっています。利用者からは「データに基づいた具体的な改善案が提示されるのでわかりやすい」「行動変容につながりやすい」「AI のアドバイスを実践したことで中途覚醒が減り、睡眠の質が明らかに向上した」などの声が寄せられているとのことです。安藤氏によれば、運用面での定量的な成果も得られ始めています。
「これまではクライアントにアポイントメントを取った後、データの見方など基本的な説明をするのに多くの時間を割いていました。その部分を AI が代行することで、かなり効率化が進んでいます。一人のカウンセラーがアドバイスできるキャパシティも、30 人から 100 人に増やす計画を進めていますし、生成 AI の活用が進めば、1,000 人のクライアントをサポートすることも夢ではありません。将来的には、1 万人規模の企業にも対応できるレベルを目指したいと思っています。」
ユーフォリアでは、企業向けのサービスとして「ONE TAP SPORTS for Biz」を開発し、昼夜を問わず働くシフトワーカーやドライバーなど「産業アスリート」と呼ばれる人々の支援も行ってきました。今後は睡眠だけでなく、食事、運動、メンタルヘルスなど、あらゆる領域で AI エージェントを開発し、互いに連動させることによって、より包括的なサービスを展開していく予定です。橋口氏は、この新たな AI システムを「QUARIA AI」(商標登録 / 特許出願中)と名付けています。そこには、クオリア=人間らしい感性を大切にしながら、社会的な使命を全うしていきたいという情熱が込められていました。
「QUARIA AI には弊社が培ってきたノウハウが反映されますので、部活動の指導者不足の解消や、地域コミュニティの健康増進、企業の生産性向上など、社会課題の解決に幅広く貢献できると思います。ただし我々が目指しているのは、各分野のエキスパートの方々を代替することではありません。むしろ『エンパワー(元気づける)』することです。新たなソリューションを多くの人に届け、社会全体を変えられるインパクトを持たせるには、最新のテクノロジーが不可欠。Google Cloud とともに、ビジョンの実現に邁進していきたいと考えています。」


株式会社ユーフォリア
2008 年設立。「人とスポーツの出合いを幸福にする。」をミッションに掲げるスポーツテック企業。スポーツ選手のコンディション管理・ケガ予防のためのデータ マネジメント システム「ONE TAP SPORTS」、スポーツ スクール・クラブ活動のための運営管理アプリ「Sgrum」(スグラム)、各種団体のためのグループ コミュニケーション サービス「らくらく連絡網+(プラス)」などを開発・提供している。現在はスポーツで培った知見を活かし、企業向けの「ONE TAP SPORTS for Biz」も展開。スポーツ科学と AI の融合により、社会課題の解決に取り組んでいる。
インタビュイー(写真左から)
・R&Dセンター長 田中 孝 氏
・代表取締役社長 橋口 寛 氏
・ウェルネスチーム 安藤 加里菜 氏
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